Rainy or Shiny 横濱ラジオ亭日乗

モダンジャズ、ボーカルを流しています。営業日水木金土祝の13時〜19時
横浜市中区麦田町1-5

沼津のあずみ野

2011-09-16 12:15:36 | その他
珍しく国道1号をきちんとしたドライブの昂揚を楽しまんと山坂道の曲折を辿って三島・沼津内浦界隈への少旅行を企てる。友人カップルの誘いに乗って前から予約されていたものだが、宿泊地の豪奢もさることながら、途中の若年期風粒立ちのよい名所巡りが挿入されていて楽しかった。箱根湯本の手前にあるパン屋「足柄麦師」にも寄れた。この店は若くして逝去された高橋さんという透徹したパン作りで名を馳せた方がてがけた伊勢原「ブノアトン」の姉妹店である。「ブノアトン」は名前が替わって働いていたお弟子さんのカップルで再開されている。箱根路を上るのに途中の食堂には寄らないで馥郁たる簡素なパンを運転しながらほお張るのも珍しい。箱根神社付近の松並木、芦ノ湖の湖畔を訪れるのも十数年ぶりだ。

箱根の長い峠を下っているとき、美味いコーヒーが呑みたくなって沼津にある「あずみ野」の名称を思いだす。このお店にはこちらなりの縁がある。沼津在のSさんという方が、四谷にあった「音の隠れ家」在庫のタンノイコーナー型ヨークを買ったことがあった。Sさんはもっと後期のゴージャスで大きなタンノイスピーカーを持っていたが、これを下取りにだして15インチゴールドの入った古めのタンノイを所望したのだ。そのSさんへの音楽的啓示を常日頃発信していたお店が「あずみ野」ということで、一度はその音に接してみたかった。Sさんをして敬服せしめた音の片鱗を味わいたい!急な思いつきは日ごろの癖みたいなもの。清水に実家のあるDさんに電話して所在を教わる。当日の宿泊場所へ近いお店ということで一行の快諾も得て寄り道する。「あずみ野」の店主さんの挙措を観察する。誰かに似ていると思って記憶のチップを弄っていて合点がいく。
吉祥寺のMさんである。Mさんはジャズの人、そこから形而下的胡散臭さを除去すると、清廉なアスケーゼ(禁欲)という語感を思い起こす「あずみ野」の店主さんの風貌に重なるようだ。タンノイゴールドの音をシルバーに近づけるという難題に挑み続けて30年!
当日聴いた音よりも翌日の午前に聴く音の直截性を中心とした変化に驚いて質問する。
カートリッジを差し替えたらしい。デッカのマーク1ステレオカートリッジをソースを不憫に思ってモノラルに替えたとのこと。前日の曖昧感は拭われてEMI盤だろうか?ブッシュカルテットのベートーベン、キャサリーン・フェリーのバッハ・ヘンデルアリア集などタンノイユニット、845真空管大型アンプの底力を知らしめる絶好の音源である。古典音楽を鳴らすと称したお店でこれまでまともな音に出会うことは皆無だった。しかし「あずみ野」はさりげなくも本格を地でいったコーヒー専門店である。沼津の西に映える 夕陽はいつみても気持を和らげる効用に満ちている。