つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

なんとか踏みとどまった感じ

2005-06-10 19:57:21 | 小説全般
さて,とりあえず二度と読むことはない,とは思わなくてすんだの第192回は,

タイトル:海のふた
著者:よしもとばなな
出版社:ロッキング・オン

であります。

借りてきた2冊のうちのもうひとつ。
前のデッドエンドの思い出がかなりダメだったので,これもダメだったら,おそらくもうこのひとの作品を手に取ることはないだろう,と思っていた。

でもまぁ,まだデッドエンド~よりはマシだったかな。

話は,主人公である「まりちゃん」と,母親の友人の娘である「はじめちゃん」とのひと夏の物語。

南の島でふるさとの大切さに気づいて,地元で大好きなかき氷屋を営むまりちゃんと,祖母が死と遺産問題からひと時離れるためにまりちゃんの家にやってきたはじめちゃん。

かき氷屋を手伝ったり,海で泳いだり,おしゃべりをしたり……ただ,ひと夏の日常の中で,お互いを大好きになったり,大切なものやことに気づいたり,自分の道を見つけたり……。

日常の中の行動や会話の中に,ふっと何かに気づいたり,思ったりできるような物語だと思う。
作品の雰囲気も透明感があって,こういうのをすごくいい,と思うひとも,きっとたくさんいるのではないかと思う。

ただし,作品の透明感とともに,おなじようにまりちゃんとはじめちゃんのふたりにも,そういった雰囲気があって,人間くささというものがほとんど感じられない。
透明の膜を間に挟んで見ているようで,現実味に乏しい。

このふたりだけではなくて,まりちゃんの母親や幼馴染み,その弟などなど,出てくるキャラクターすべてがそうだから,いまいち作品に入っていけない。
膜,というのも,そこで阻まれてしまっている感じがするからだし。

まぁでも,そういう雰囲気を醸し出す作品を壊さないような表現や文章はうまい。
基本的にはまりちゃんの一人称だけど,まりちゃんの視点を通して,きちんと無理のない表現をしているから,読みやすいほうだと思う。

でも,どうもここが失敗しているとしか思えないところがある。
この本は挿絵が版画になっている。
いや,別に版画がよくない,のではなくて,挿絵を入れる場所が悪いと思う。

版画そのものはきちんと話に合っていて悪くないのだけど,途中で5ページも6ページも版画だけになっていたりする。
読み進めているうちに,そんなにページ数があいてしまうと話の流れが途切れてしまって,結局それを取り戻すのに,文章が再開されたところで前のページに戻るか,挿絵を飛ばすかをする。

結局,私は飛ばした。
きりのいいところまで読んで,版画に戻るといい感じではあるので,もっと分散して,話の流れを途切れさせずに,絵と文章が一体になるように配置してくれればよかったのに,と思う。
もちろん,出版する側としては狙いがあったのだろうけど,私にとっては大失敗以外の何物でもない。

ここは残念な部分だけど,話自体は個人的には及第。でも,あくまで及第といった程度か。
あとは好みの問題としか言いようがないね。
個人的には「サンクチュアリ」のよさにはまだまだ,ってところだろうなぁ。

ある意味一世を風靡した?

2005-06-09 13:38:22 | 木曜漫画劇場(紅組)
さて、そろそろ大御所にご登場願おうの第191回は、

タイトル:パタリロ!(78巻:以下続刊)
著者:魔夜峰央
出版社:白泉社花とゆめコミックス

であります。

鈴:別に踊りはしないけど、フレーズだけは憶えてるLINNでーす。

扇:誰が殺したって、それはキリアンだと突っ込むSENでーす。

鈴:なんかどっかの話のどっかの国のようだ。
さて、今日は少女マンガ界のゴルゴ13、両津勘吉と呼ばれる(?)パタリロであります。

扇:少女漫画界のゴルゴ13はディーン・リーガルだ。
それは置いといて、顔面スピロヘータの話ですな。

鈴:どっかの長髪諜報部員のようだな。
で、どういう話だっけ?(爆)

扇:鉄のクラウスにそっくりな某長髪諜報部員が美少年を×××して×××しまくる話だ。
恋人のマライヒからして美少年だしな。

鈴:あぁ、そういや少年だったな。絵柄からは少年と言うにはかなり無理があるような気はしないでもないが……。
さておき、常春の国マリネラの王であるパタリロが(かなり無理があるが)活躍するマンガで、基本的には1話、もしくは数話の短編から成り立っているマンガ。

扇:なんか妙に真面目な解説だな。
基本的になんでもありで、ミステリ、SF、スパイ物、BL、スラップスティック、ホラー……などなど、色んなジャンルの色んな話がごたまぜになってます。個人的には、昔の絵の方が好みかな。

鈴:何でもありは何でもありだが、ジャンルにかかわらず、うまい具合に作ってくれているし、やはり笑えるので、やはり話を作るのがやはりうまい人ではある。
にしても、いちおう人間の形をしているクセにタイムワープを使えるってのはどうよ!?

扇:多彩なジャンルを同じキャラ使ってやる人は数多くいるが、この人は特に上手い部類に入るな。かなり勉強してるし。
つーか、人間の形をしてない時の方が多いんじゃないのか、あの潰れ大福は。

鈴:潰れ大福が本来の形ではないのか?(笑)
しかし、ホントにうまいよなぁ。いつもの書評的に言うと、こう、無理がないと言うか、けっこうひどそうな話があったりするけど、きちんとまとめてるとか、人情話でいい感じになりつつも金蔓を無くしたと言うところとか、作り方もオチもいい感じに作るよなぁ。
しかし、主人公は、こういうのも何だが、1巻が出たころの当時を考えると、かなり破格におかしいキャラだったように思えるのだがな。

扇:ある意味、巷にこういうキャラが増えたからな。もっとも、本家パタリロを越えるキャラには未だお目にかかってないけど。何だかんだ言って、ちょっと人情家だったり、かなり守銭奴だったり、超絶に人外だったりするのに、それで作品が崩壊してないからなぁ。

鈴:してないなぁ。
美形顔になっても大福だったり、タマネギなのに美形をはべらしたり、部下をいじめてみたり、諜報部員をおちょくってみたりするわりには、作品が崩壊してないよなぁ。

扇:草履の裏とか、潰れアンマンとか、ゴキブリ美少年とか言いつつも、どのキャラクターも困った時はパタリロの人知を越えた力に頼るからなんだろうなぁ。基本的に性格悪いけど、人命かかってる時だけは優しいからな。

鈴:頼るっつっても、だいたい人智を越えないかぎりは、長髪諜報部員は自分で何とかするんじゃなかったっけか?
でも、人命かかってないと優しくないってのはどうかと思うが、なぜかそれが当然で、いいキャラなんだよなぁ、主人公。ふつうならとっとと読者が離れておしまいなんだろうが。

扇:ギャグが多いからそれで許される部分もあるが、シリアスな時はシリアスなんだよなぁ。このバランス感覚は多いに学びたいところだが、文字ベースじゃ無理だな。その点で言うと、漫画ならではと言える作品だ。

鈴:うーむ、確かに。スポーツとか戦闘ものだとなかなか文字ベースにしづらいけど、こういうのはけっこうしやすい。
でも、なかなかこのキャラクターとか、ギャグを文字ベースにするのはきつい。
てか、絵であることを生かせるマンガ家ってぇのも、意外と少ないのかもしれんな。

扇:絵の力は、景色とかキャラの顔とかの説明を簡略化できるってだけじゃないっていういい見本だな。セリフだけでも絵だけでもない、コマ全体使ってギャグかましてくれるしね。

鈴:まぁ、他には島○和○なんて稀有なマンガ家もいるがね(笑)
……って、そういやぜんぜんキャラの紹介してないなぁ。
少しはしとかんとあかんか。……ってわけで主人公パタリロ。
えー……、話の中でさんざん言ってるから言いようがないな。

扇:○本○彦は、コマじゃなくてページ全体だっ!
マリネラの国王。十歳(だったか?)の時に前王が崩御して国王になったが、それ以後も殿下と呼ばれる。全員タマネギ頭に眼鏡といういでたちの親衛隊――タマネギ部隊を連れ、八面六臂縦横無尽支離滅裂な大活躍をする。ちなみに、マリネラの輸出品はほぼ100%ダイヤモンドなので、それがらみの陰謀に巻き込まれる(巻き込む?)ことが多い。

鈴:では、次は長髪諜報部員のバンコラン。黒髪、長髪、美形、そして諜報部員で銃の腕は一流。
ただし、ときどきクックロビン音頭につられるあたり、やはりマンガの体質であるギャグ体質はこのひとにも受け継がれているらしい。
つか、八頭身とギャグ体型のギャップがまた笑えるのでよし(笑)

扇:なぜかアイシャドウ入ってるMI6の少佐。KGBから最も恐れられる凄腕の諜報員だが、パタリロの悪知恵に対抗できるほどではない。母親に売られたトラウマから美少年しか愛せない身体だったりもする。

鈴:そういう長髪諜報部員にたらし込まれて恋人になったのがマライヒ。
金髪巻き毛の美少年だが、けっこうギャグ体質。パタリロにおちょくられメデューサのごとく追いかけ回すところがまたよい(笑)

扇:物凄~く嫉妬深い人。バンコランが万年浮気性なので、殆どネタ状態でキレまくっている。敬語に変わると滅殺モード発動、三白眼になり、爪が伸びてバンコランをギタギタのメトメトのズタボロにするまでおさまらない。もと、暗殺者なのでそれなりに強い。

鈴:だが、ぼろぼろにしながらも結局ほだされるあたり、妙なかわいさがあるキャラクターではある。
しかし、こう、見直してみると、デカ文字もなしでまともに書いてるのは珍しいな。
……いや、普段はまじめに書評してるんだからこれがふつうでございます。疑ってもらっては困りまする(爆)

扇:君はともかく私はね。

鈴:え? なに言ってんだい。
ファンに喧嘩売ってる人間に言われたくはないぞ。

扇:私はファンに喧嘩を売った覚えはないぞ。(素)
青年の主張をしているだけだ。

鈴:青年と言う年齢ではないと思うぞ(爆)
……あぁ、いかん、どっかでお互い同い年だと言った憶えがあるからこっちの年齢が怪しくなるのは困る。

扇:おい、こっちのとはどういう意味だ。
まるで私が君より遥かに歳みたいではないか。
つーか、また書評から脱線してるぞ。

鈴:はうぁっ! きちんとまじめに書評していたのにっ!
……と冗談はさておき、パタリロの話に戻ると、何巻から読んでも、あんまり背後関係を知らなくてもおもしろい作品であります。
文庫版も出てるし、いまならまだ買えない巻数ではありませぬ。

扇:まとめて買わなくても、一冊ずつちょろちょろと揃えていくのも悪くないかと思われます、三冊ぐらい買ってみて、合うと思ったら継続してはどうかと。

鈴:うむ。ギャグは体質に合うか合わないかがあるので、試しに、ってのがいいかも。
でも、そういうひとは少ないのではないかと思うくらいのものだし、有名なのでいまさら、と言うひともいるかもしれませんが、逆にそういうひとも読み返してみればいいのではとは思ったり(^^
……と、デカ文字も炸裂したことだし、今週はこの辺で~

扇:既に恒例と化してますが、ただの冗談なので(多分)気にしないで下さい。私は奴につきあってやっているだけです。では、今宵はこれにて。

(鈴:そういうことにしておいてやらう(爆))
(扇:私は賢明なる読者様の観察眼を信じているよ)



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世紀末後救世主伝説

2005-06-08 20:47:02 | マンガ(少年漫画)
さて、かなり懐かしい気分になった第190回は、

タイトル:リュウ(全七巻)
原作:矢島正雄  漫画:尾瀬あきら
文庫名:少年サンデーコミックス

であります。

18年前、少年サンデーで連載されていたSF漫画。
凄く好きな作品なんだけど、なぜか文庫化されません。
持ってるからいいけど(笑)



光学園高校二年B組・赤坂竜二。
日々、喧嘩に明けくれる彼はこのところ奇妙な幻覚に悩まされていた。
おびただしい数の死体、廃墟の上を飛ぶ鳥、髑髏の山と突き刺さった矢。
彼は友人の湯川正のいさめも聞かず不良相手に焦燥をぶつけていたが、番長グループの襲撃に合い、屋上からプールに突き落とされてしまう。

水から上がった時、そこは別世界だった。
槍を手にし、古代人のような兜を被った騎士の群れ。
竜二をリュウと呼ぶ謎の少女――風。
否応なく戦いに巻き込まれ、竜二は騎士の一人を槍で殺してしまう。

重傷を負い、元の世界に戻った竜二。
背中の傷と手にしていた槍が忌まわしい記憶を蘇らせる。
悪夢にうなされ寝返りをうった時、風の声が聞こえた。
リュウ! 彼は再び時を越える!



ファンタジーではありません、SFです。
舞台は三百年後の未来、核戦争後の世界。
多数の奴隷を従えるドーマ帝国と救世主リュウの戦いを描いた物語です。

奴隷達から救世主と呼ばれる竜二ですが、ノッケから最悪の状況です。
風の父親レダが奴隷反乱を起こし、敗北したとろに出現、捕獲されてしまう。
彼を伝説の救世主リュウと信じるのは風のみ。
訳もわからないまま、彼はレダと戦わされるハメになってしまいます。

救世主として戦う竜二の頼みは文明社会の知識と伝説の言葉のみ。
前者は非常に解りやすく、過去の遺物(銃とか)を掘り起こして武器とする。
そして語り継がれてきた伝説の言葉――『時を越えてリュウ、世を支配する』
二つの武器と意志の強さで、リュウは戦い続けます。

過去の世界を知るドーマ王とは何者か?
最終戦争の後、なぜ文明は後退したのか?
帝国の軍城に眠る巨大な機械ドーマIVとは?

リュウの成長物語としても未来戦記物としても一級品。
運良く発見できたら読んでみて下さい、かなりオススメ。

久々に読んだけど、やっぱり好きだなー、これ。
救世主リュウ、レダの娘である風、エノスの剛力ザバ、反乱軍の長レダ、ドーマ王、密偵サル、好きなキャラ沢山いるし。最終回も凄く上手くまとめていた。

妄想世界の二人

2005-06-07 21:10:12 | 小説全般
さて、200がそろそろ見えてきた第189回は、

タイトル:ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ
著者:滝本竜彦
文庫名:角川文庫

であります。

チェーンソーはマジで怖い

何年前か忘れたのですが、中島らも作『こどもの一生』の舞台に行った時、実際回転するチェーンソーを間近で見たのです。いや、あれは冗談抜きで怖いです。近くにいた子供泣き出すし……つーか、ホラー劇に子供連れてくるのはいかがなものかと。
すいません、本題に戻ります。

冬のある日、山本陽介は一人の少女に声をかけた。
氷点下の中、セーラー服姿で体育座りしているのが気になったのだ。
彼女は鬱陶しそうに陽介を睨むと言った――敵を待っていると。

雪崎絵理は夜な夜なチェーンソーを持った謎の男と戦っている。
なぜか? そうしなければならないからだ。
ナイフを手に、彼女は今日も敵を待つ――不死身の男を。

夜、チェーンソーを持った男と戦うということを除けば二人の生活は平凡だ。
高校に行き、教師に小言を言われ、夜までの時間を過ごし、出かける。
二人は何度となく共に戦うが、致命傷を与える前に敵は退散してしまう。
異常な筈の戦いが日常の中に組み込まれていくが……その状態が永遠に続くわけもなく、決着の時はそろりそろりと忍び寄って来る。

第一印象は、なんじゃこりゃ? でした。
私の苦手な一人称で主人公の陽介がしゃべりまくる。
しかもその感覚が物凄く鬱陶しくて好きになれない。
こいつ、嫌いだ――出発点はそこ。

陽介と絵理の会話も噛み合いません。
下心をちらつかせつつ妄想を膨らませる陽介。
邪険にしているようでいて構って欲しそうな絵理。
なんだかな~こいつら、と思いつつ先を読んでいきます。

で、しばらくすると何となく陽介がどんな奴かが解ってきました。
そして、なぜ絵理と一緒にチェーンソー男と戦うかも。
間違いなく嫌いなタイプなんだけど、何となくそう思うのも解るかなぁ、とか。

で、最終決戦。
陽介の引っかかりと、絵理の引っかかりが明確に明かされます。
チェーンソー男ともキッチリ決着つけます、上手い形で。

主観的読み方をする人の場合、陽介の感覚にうんうんと頷いてしまうか、そういえばそんなことを考えたこともあったなぁと感じるかがポイントだと思います。かな~り人を選ぶと思われるのでオススメは付けません。

しかし、主人公がこれだけ嫌いなのに最後まで読んでしまうとは不思議。
もしかして、ひょっとして、まさか……同族嫌悪、なのか?

何曜日がお好き?

2005-06-06 20:10:44 | ミステリ
さて、おおっ半年過ぎてるっ、な第188回は、

タイトル:木曜組曲
著者:恩田陸
文庫名:徳間文庫

であります。

貴方は一週間の中で何曜日が好きですか?
好きなTV番組の日でもいいし、何かの集まりがある日でもいいし、特別な曜日ってありませんか? 私はないです。(笑)

というわけで、奥田陸の木曜組曲です。
映画の方は見ていないのですが、カバー折り返しの写真を見て、あ、上手いなと思ってしまいました。なので、そちらも機会があったら見てみたいと思います。

耽美派小説の巨匠、重松時子が自殺して四年。
時子と旧交のあった四人の女性が今年も、うぐいす館にやってくる。
絵里子、尚美、つかさ、静子、それぞれ別の形で出版界に関わる女性達。
時子の編集者だった綾部えい子は食事を作りつつ彼女たちを待つ。
だが、彼女の心の中には何かが引っかかっていた、四年前の何かが――。

超常現象なしのミステリです。
五人の女性はそれぞれ時子に関することで何かを抱えています。
序盤に起こる事件によってくすぶっていた心に火がつき、故人を偲ぶ和やかな宴は、いつしか各人の想いをぶちまける場へと変化していきます。

時子は本当に自殺したのか?
殺したのだとしたら誰が、何の目的で?
それぞれが隠していることとは一体何か?

ミステリの定石である、謎の解明→新たな謎の提示、を踏まえていますが、厳密に言うとこの作品のメインは謎解きではなく、六人の女性の姿を描くことにあります。
文芸に関するスタンス、過去話、食事の趣味など、会話と心理描写を上手いこと絡めて、キャラクターを描いていると思います。個人的にはつかさのキャラがちょっと薄かった気がするのですが、他のメンツが濃いのである意味仕方のないことかも知れません。

ちなみに、皆の回想で登場する時子さん、物凄い俗物です。
なべて、芸術の敵とは日常だと申しますが、それを地でいってるような人。
しかし愛情と憎悪が表裏一体であるように、登場人物達もそんな彼女を愛し、憎んだのです。その意味では非常に美しいキャラと言えるでしょう。

ちょっと日常を忘れて、気心知れた友達とお食事、って気分で読むと楽しいと思います。特に女性は、あるあるこういう話、と頷くシーンに出会えるかも知れません。

女性五人の暴露大会にミステリを絡めた五人舞台。
恩田劇場に通い慣れた人は展開が読めちゃうかも知れませんがそれはそれ。
女達の華麗な戦いをご堪能下さい。(火サスじゃないってば)



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解説ってのはいらないな

2005-06-05 16:43:30 | 小説全般
さて、気付いたら昨日で開設してから半年だったの第187回は、

タイトル:エンジェル エンジェル エンジェル
著者:梨木香歩
出版社:新潮文庫

であります。

なぜか「家守奇譚」でも「裏庭」でもなく、「エンジェル エンジェル エンジェル」が次になってしまった(^^;
いや、「裏庭」も一緒に買ってあるので、次はこれにしようと思ってるけど。

さて、この本は150ページあまりの短い作品で、ふたりが主人公。
現代ではコウコと言う少女が中心で、認知症の祖母とのやりとりが主体。

もうひとりは、祖母……ばあちゃんだけど、その少女時代の「さわちゃん」

現代のコウコの話と、昔のさわちゃんの話が、1章ごとに切り替わって、文章も現代の文字と、旧字体とを使い分けている。
文章的にはこの使い分けが気になるかならないか、ってとこはあるかもしれないけど、私は気にならなかった。

もちろん、引っかかるところがないわけではないけれど、「西の魔女が死んだ」のときのような欠点とまでは言えない。

で、雰囲気は、ひたひたと、這い上がってくるような不気味さ、と言うか、怖さ、と言うようなものがあった。

コウコの側では熱帯魚のエンジェルフィッシュ、さわちゃんの側では聖書の中の天使。
また、コウコの側の悪魔と、さわちゃんの側の悪魔。

さわちゃんが友達になりたかった公子、コウコをコウちゃんと呼ぶ祖母。
ばあちゃんなのに、さわちゃんとまるで友達のように熱帯魚を飼っている水槽での出来事を中心に会話を交わすコウコ。

現代のコウコと過去のさわちゃん。
過去の公子と現代のさわちゃん。
天使と、悪魔と、神様と、愛情と、憎悪と……。

作品世界が現在と過去が交互に語られる、と言うだけでなく、複合的に絡み合って、離れた時間が重なり合っているような、そんな不思議な空気がある。

「西の魔女が死んだ」のほうはとても優しい物語だったけど、これを読んだあとだとすごいギャップがある。

けれど、なんだろう。
雰囲気はかなり違うんだけど、結局のところ、梨木さんの書いた話だ、と言う気がする。

怖い、と言うのもホラーとかミステリーとか、どぎつい感じとか、どろどろした感じじゃなくて、けれど日本的な怪談話のような冷たさがあるような感じじゃない。
……てか、このひとの作品の雰囲気はとても表現しにくい……。

で、読み終わったあとにどっかの精神科医の解説があったんだけど、なんか、こういう他人の解説ってのは、はっきり言って、いらない。
分析してくれたり、褒めるのはいいけど、自分の感覚と違ったりすることがほとんどなので、その読後感と言うか、味わっていた雰囲気ってのを壊された感じがする。

どっか別のところであーだこーだ言ってくれるにはかまわないけど、本の最後に載せてほしくはないね。
そのままの流れで読んでしまって、後悔するから(笑)

ある意味、大河ドラマ

2005-06-04 23:34:14 | マンガ(少女漫画)
さて、久々に木曜劇場以外でマンガを思っての第186回は、

タイトル:天は赤い河のほとり(全28巻)
著者:篠原千絵
出版社:小学館フラワーコミックス

であります。

ちょうどいま書いている作品のひとつ前の話で、古代の中東を舞台にした話。

主人公のユーリ(夕梨)はごくごくふつうの中学生。恋人もできて、俄な幸せを享受しているところへ、ある呪術によって古代中東のヒッタイトにタイムスリップしてしまう。

そこで次期皇帝と目される皇子カイルと出会い、側室として、そして美と戦いの女神イシュタルとして活躍する、と言う話。

なんかこう書くとそれだけのような感じがするかもしれないけど、この篠原さん、フラワーコミックスの中では古参で、いわゆる大御所と言っていいくらいのマンガ家さん。

だからと言うわけではないのかもしれないけど、話の作り方がうまい。

うまいと思う、そして大御所のマンガ家さんの中には鳥山明がいるけど、このひとと同列と言ってもいいかもしれない。

何がうまいって、読者を飽きさせないこと。

全28巻で、マンガとしてはかなり長いほう。
でも、その中できちんと話の流れの浮き沈みと言うのをよくわかっている。

ユーリが連れてこられた理由は敵であるナキア皇太后が数ある皇子たちを呪い殺す生け贄にするため。
だから、ナキア皇太后はいかにしてユーリを手に入れ、殺すかを算段する。もちろん、他にもいろいろとあるんだけど、ひとつの企みが失敗して、中だるみ……ってところで、またタイミングよく、事件や戦争とか、そういうことが起きる。

それがまた不自然でないところがやっぱりうまく話を作っている。
ドラゴンボールも中だるみしそうなところで、おもしろいネタを持ってきて、飽きさせないから、そういうところが似ているのかもしれない。

もっとも、中にはユーリのその行動はどう考えても無理があるだろう、ってのはある。
(無血開城するために、妖艶な踊り子になって指揮官をたぶらかすシーンとか)

まぁ、こういうところを気にしなければ、おもしろい作品。
マンガだけではないけれど、長すぎるとどうしてもだれてしまうところがあるんだけど、これはそういうふうにさせないところがある。

キャラクターもしっかりしているしね。

ただし、ユーリとカイルのらぶらぶっぷりがちと何なので、そういうのが苦手なひとには向かないかもしれない。

そういうのがOKなひとにはどうぞ、と言える作品だと思う。
敵もただ勧善懲悪なだけの敵役じゃないところも垣間見えて、人間もきちんと描かれているので損はしないと思うよ。

ただし、そうは言ってもやっぱり長いのは集めるのにきついかなぁ、ってとこはあるけど。



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借りてきた本だからいいけどさ

2005-06-03 22:40:24 | 恋愛小説
さて、なんか引かれてる気がしないでもない先日の第185回は、

タイトル:デッドエンドの思い出
著者:よしもとばなな
出版社:文藝春秋

であります。

4月10日の「うたかた/サンクチュアリ」で、サンクチュアリのほうがよかったので次を手に取ってみた。

短編集で、

幽霊の家
「おかあさーん」
あったかくなんかない
ともちゃんの幸せ
デッドエンドの思い出

の5編が収録されている。

読み終わってみてふと、サンクチュアリはたまたま肌に合ったのかもしれない、と思った。

それと「おかあさーん」あたりから私小説の匂いがしだしてきて、うーむ……。
と思っていたらあとがきで「一番私小説的な小説」と書いてあって納得。

的な、と言うところがあるので完全な私小説ではないけれど、私小説が嫌いな私としてはこれでかなり引いてしまった。

また、ともちゃんの幸せでは、ともちゃんの話のあとに、小説書きが現れ、そして神様に書かされたみたいな文章があり、ここでかなーり引いた。

それから全体的に雰囲気にも乏しかった。

サンクチュアリのほうは、全体的に穏やかで優しい、けれどどことなく切ない空気のようなものがこう、しっかりと感じられるけど、強くなく、押しつけがましくない感じで、作品全体を包み込んでいて、とてもよかった。

けれど、この作品にはそれがない。
あとがき曰く「つらく切ないラブストーリー」らしく、まぁ、確かにそういう雰囲気がないわけではないけれど、読んでいてもさほどそうは感じない。

なので、各話をそれぞれ書いていく気にもならないので書かない。

強いて言えば、最初の「幽霊の家」が悪くないかとは思うけど、最後に主人公とフランスからパティシエとして戻ってきた彼とあっさり結婚してしまうところがご都合主義的な感じがする。もちろん、話の流れからは不自然ではないがね。

どうもこれがいまいちだったので、もう1冊借りてきているけれど、なんか期待薄……と言った不安が出てきてしまった。

まぁでも、これも、もう1冊も買ったわけではないので、まだ気は楽だけど(笑)

刑事ではなく慶次

2005-06-02 19:01:00 | 木曜漫画劇場(白組)
さて、ついに半年突破間近な第184回は、

タイトル:花の慶次
原作:隆 慶一郎  漫画:原 哲夫
文庫名:ジャンプ・コミックス

であります。

扇:花なんて買ったことも食べたことも紅茶に落としたこともないSENでーす。

鈴:花は買ったことくらいはあるし、桜茶もけっこう好きなLINNで~す。

扇:いや、桜茶は美味しいだろ。

鈴:いや、おいしいんだけどさ。でも常飲するにはちと向かない気はするがな。で、今日は「フラワー・デカ」だったな。

扇:知る人ぞ知る、ちょっと異色の時代劇漫画。
少年漫画でマジに時代劇やったらコケるというジンクスを覆した名作です。

鈴:マジで時代劇っつっても、やはりそこは少年マンガらしいところは満載。でも確かに、時代ものでここまで読める作品は少ないだろうなぁ。

扇:この後に描かれた『影武者徳川家康』は、無茶な連中が出てこなかったためか打ち切りになっちゃいましたが、こっちはちゃんと完結してます。結構オススメ。

鈴:そうだなぁ。無茶と言ってもどのキャラも個性的だし。少年マンガは笑えるのがおもしろいのではありますが、笑える以外にもおもしろいと言えるほうなので確かにオススメだね。それでは、いつものセリフとともにこの辺で。


扇:終わるなっ!

鈴:終わりのセリフが入ったから「てっきり」な。

扇:では、お約束のキャラ紹介と行きますか。
主役の前田慶次(まえだけいじ)、実在の人物。秀吉治世下の日本で、傾奇者として暴れ回る剛毅なお人。異常なぐらい強くて、侠気に溢れたナイスガイ。

鈴:ナイスガイは確かにそうだな。次に、捨丸。捨て子だったからと言うことでつけられた忍者。慶次に惚れて家来になる。つか、家来になるときがすごい。一緒にいた仲間の忍者7人を斬り捨ててまで家来になった。ただし、爆発物をこよなく愛し、嘘をつくときに眼が外側に寄ってしまう憎めない(?)一面がある。

扇:松。『利家とまつ』で有名になった人。慶次の義理の叔母にして、最初に惚れた女性。この人のために、慶次は秀吉殺しに行く。漢って……。

鈴:どっかの暗殺拳の使い手も惚れた女のために強敵(とも)に行ったなぁ。さておき、次に松風。慶次の友達の。べらぼうにでかく、そしてそんじゃそこらの武人なんか目じゃないくらい強い。義侠心に溢れ、これまたそんじゃそこらの武人なんか目じゃないくらい漢気のある

扇:つーか、の紹介が一番派手なキャラ解説ってどうよ?

鈴:じゃぁ、この話にはも出てくるからそれの紹介も厚くするか?

扇:天下人に向かって日光猿軍団などとっ……いや、言うけどさ。(笑)
なんかもー、ただの雑談と化してきたのでこのへんで終わっておきましょうか。
なんせ私は真面目な書評がウリのSENですから。

鈴:けじめ
慶次はしっかりつけてったけど、相棒がどういうふうにつけるのかが楽しみだねぇ。

扇:いい加減やめよう、一見さんが逃げるから。
というわけで……時代劇なんだけど凄い奴等が跳梁跋扈する痛快娯楽漫画です。少年漫画にしては珍しく、かなり劇画イズム(なにそれ?)入ってますが、北斗の拳に拒否反応示さない人なら楽しめる筈。

鈴:逃げられまくってる気がしないでもないが……(爆)
さておき、絵柄は時代劇としてはけっこうはまってるとは思うけどね。
ただ、最近の絵柄に慣れているとちょっと……ってのがつらいところだね、ホントに。

扇:いいんだっ! 読者に媚び売ってるような淑女・少女・小娘・幼女・妖女が表紙じゃなくたっていいんだっ! ってこれ以上言うとさらに敵増やしそうだからやめよう。
いわゆる無敵主人公が好きな人にオススメです。ま、そんな慶次でもどうにもならない事態が起こったりするのが味があるのだけど。

鈴:だーやね。
……ってか、見直すとどこが書評だ!? と突っ込まれそうだが、これだけネタになるのはおもしろいから、と言う言い方もできるのであります。……きっと(笑)

扇:てなわけで、いつもに増して無茶苦茶ハチャメチャな木曜漫画劇場でしたが、これ以上恥をさらす前にここで終わりに致します。
また来週をお楽しみ……に?

鈴:木曜劇場を続ける限り、恥を積み重ねているような気はしないでもありませんが、この辺で。
さいならっ、さいならっ、……っさいならっ

チャンバラと素敵ミステリー

2005-06-01 23:56:15 | 時代劇・歴史物
さて、暴れん坊将軍のサントラを聴きつつ送る第183回は、

タイトル:大江戸犯科帖
編者:細谷正充
文庫名:双葉文庫

であります。

十一名の作家の時代劇短編を収録したアンソロジーです。
大江戸犯科帖となっていますが、別に江戸が舞台の中心というわけではありません。
例によって一つずつ作品を紹介していきます。

四人の勇者(多岐川恭)……古代を舞台にした犯人当てミステリー。一族の長に命じられた蛭目暗殺を果たしたのは誰か? おとぎ話のような展開と、女性の業を見せる水無瀬のキャラが独特の雰囲気を生んでいる。某神話を思い出させるラストも良い。

怖妻の棺(松本清張)……恐妻家の男が、愛妾の家に行ったきり帰ってこない。友人の兵馬は事情を探りに行くが――。これぞ清長といった感じのキレのいい短編。どんでん返しが二度あるが、短い話の中で無理なくまとめているのはさすが。

足音が聞えてきた(白石一郎)……ぬいは夫と義理の弟との三人暮らし。子種に恵まれぬことを気に病んでいたが、ある日、夫が惨殺され――。ミステリとしては単純。しかし、ジワジワと不気味な推理が展開されていく所と、ラストがとにかく秀逸。

殺された天一坊(浜尾四郎)……某超有名奉行(笑)の苦悩を描いた作品。間違えることを許されぬ者の心理が鮮やかに描かれている。裁かれた者の苦悩、裁く者の苦悩、それを傍目で見る者達の残酷さ、とにかくリアリティ溢れる力作。

萩城下贋札殺人事件(古川薫)……海上で発見された女の水死体。それには少し奇妙な点が――。実はあまり印象に残っていない。捕物帖ということで、本書の題名からいけばいちばん妥当な作品なのだが、これといって惹かれるところがなかった。

真説・赤城山(天藤真)……国定忠治一家の赤城山籠城を題材にした犯人当てミステリ。非常に短い作品だが、最後まで犯人が誰なのか、と疑わせる部分はある。最後の長ゼリだけで一気に回答を示しているのも上手いと思う。

卯三次のウ(永井路子)……駆け出しの目明かし、卯三次は幻の怪盗『空っ風一味』を追う。最後の引きが非常に綺麗で、推理物というよりは恋物語に近いところがある。へっぽこに見えて意外と侮れない卯三次のキャラも魅力的である。

上総楼の兎(戸板康二)……ラスの一行がとにかく秀逸! 思わず、なるほど、と唸らされること請け合い。これ以上語るのは野暮の極みなので、粗筋も書かないでおく。

河童火事(新田次郎)……火事を予言する白痴、河童の伝説、毒キノコ、閉鎖的な村を舞台に展開される奇怪な事件を手代の久四郎が解き明かしていく。非常に完成度の高い時代ミステリ。構成が巧みで、異常なものの背後にある現実が明らかになるくだりは圧巻。一押し。

森の石松が殺された夜(結城昌治)……清水の次郎長話の中でも、特に美談として知られる石松殺しの話を別解釈で描いた中編。非情なるラストはなかなかの見物。

菊の塵(連城三紀彦)……明治四十二年、ある軍人が喉をサーベルで突いて自害した。だが、主人公は彼の自殺に疑問を抱く――。タイトルに非常に意味がある。動機ではなく、方法を考えてもらいたいミステリ。

なかなか味わい深い作品が揃っているのでオススメです。
ミステリを期待するのではなく、ミステリテイストを楽しんで下さい。

わっ、もう時間がないのでこれにてっ。