つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

ホタルとマユの三分間書評『葉桜が来た夏』

2008-06-16 00:05:40 | ホタルとマユ関連
さて、ラノベ紹介するのも久々な第974回は、

タイトル:葉桜が来た夏
著者:夏海公司
出版社:アスキー・メディアワークス 電撃文庫(初版:'08)

であります。


「授業って……おまえ、学校に行く気か!?」
 愕然とする学に、葉桜は当然のような表情でうなずいてみせた。
「当たり前よ。共棲体は、可能な限りたくさんの時間を一緒に過ごすべきなんだから。あなたが一日の大部分を過ごすのは学校なんでしょ? だったら、私もついてくのは当然じゃない」
「どこが当然だよ! だいたいその格好で行く気か?」
 葉桜の服装は、薄手の半袖ジャケットにセミタイトスカートだった。とても学校へ行く格好には見えない。葉桜はきょとんとした表情で目を瞬いた。
「何か変?」
「変とかじゃなくて、私服で行く気かって聞いてるんだ。おまえ、制服なんて持ってないだろ」
「せいふく……?」
   ――本文71頁より。



―更新遅くて申し訳ありません―


 「御報告、御報告~♪」
 「一ヶ月ぶりに、『ホタルとマユの楽屋裏』を更新したぜ。今回は『テガミバチ』に関して、とりとめもない会話をしてる」
 「オマケページに現実逃避する暇があるなら、さっさと書評書けって噂もあったりしますが……」
 「だから自虐ネタはやめろっつーの」


―どんなお話ですか~?―


 「さて、本日の紹介はライトノベルの大店・電撃文庫から『葉桜が来た夏』です!」
 「第14回電撃小説大賞〈選考委員奨励賞〉受賞作。
 内容的には、二〇二×年の滋賀県彦根市を舞台にした近未来SFボーイ・ミーツ・ガール物、といったところだ」
 「ちょっと補足して……異星人アポストリに母親と妹を殺された少年・南方学君が、政治的な理由から、アポストリ評議会議長の姪・葉桜ちゃんと共棲することになるというお話です。
 アポストリなんかと同居できるかっ! と怒り狂う学君ですが、命をかけて自分を守ろうとする葉桜ちゃんの真面目さに、ちょっとずつ態度を軟化させていき、さらに彼女の過去を知ってしまって――と、この手の異種間恋愛物としては王道中の王道ですね」
 「共棲ってシステムは、まーいわゆるルームメイト的な意味もあるんだが……アポストリの特殊な生態が絡んでるせいで、ぶっちゃけた話、見合いと大して変わらない制度になってる。ネタバレになるんで詳しくは話せないけどな」
 「では、そのアポストリについて簡単に説明しておきましょう。
 アポストリとは女性だけで構成される異星人です。赤い目を持つ以外、外見は人類とまったく同じ。十代半ばで成長を止めてしまうため、年齢に関わらず皆、若い姿をしています。その身体能力と科学技術は人類を遥かに上回っていますが、唯一、銀に弱いという弱点を持ちます」
 「ついでに世界観について説明しておこう。
 200×年、巨大な十字架状の構造物が宇宙より飛来した。落下予測地点は東京。日本政府は米軍に核使用を要請し、ただちに攻撃が行われた。しかし、落下地点こそずれたものの、十字架は破壊されることなく琵琶湖に着水。中から出てきた異星人アポストリと人類は交戦状態に入る。
 血みどろの戦争の末に、日本人は一億二千万の内の二百万、アポストリは十万の内の三万人を失い、ようやく講和が成立。旧彦根市は、人とアポストリが共存する彦根居留区となり、共棲というシステムが導入されて十九年が過ぎた……」
 「ちなみに、学君は高校一年生・十五歳で、戦時中はまだ生まれてません。悲劇が起きたのは十歳の時、謎の隻腕のアポストリによる自宅襲撃でした」
 「最後にもう一つだけ補足しとくと、主人公の親父・南方恵吾はアポストリに対する日本の親善大使だ。このため、南方家襲撃事件は公表されず、なかったことになっている。まー……そりゃ、息子も荒むわな」
 「作品概要はそんなところですね。感想としてはどうですか?」
 「読了直後の印象は、絵も内容も電撃っつーよりソノラマっぽい作品、ってとこか」
 「それは抽象的過ぎませんか……? 出来ればもうちょっと具体的に」
 「いやこれが、『淫靡な姿で迫る仇敵アポストリを前に、学は復讐心を維持出来るのか! 以下次号!』ってんなら、まだ電撃らしいんだが、特に燃える展開とか萌える展開とか吠える展開があるわけでもなく、最初から最後まで至って普通のSF物だったからな」
 「それじゃ場末の18禁ゲームになっちゃいますよ……後、以下次号って、続きませんから。
 ただ、マンガ的要素にあまり力を入れてないという意見については同感ですね。一部の読者層を狙った女の子キャラとか、強力な戦闘力を誇る異星人とのバトルとか、入れてあるにはあるんですが、ちょっと薄味でインパクトに欠けてます」
 「見た目は和服ロリ、中身は葉桜の叔母で評議会議長の茉莉花とか、狙いまくってるよなァ。セーラー服着て恵吾と会ってるシーンなんかは笑えた。
 葉桜も白いネグリジェ姿で学に迫ったりして、結構頑張ってはいるんだが……イマイチ突き抜けてない」
 「多分、と言うか、ほぼ確実に、この方ラブコメ苦手なんだと思います。ツンデレ気味の学君が、生真面目な葉桜ちゃんに惹かれていく過程も、正直上手いとは言い難かったですし」
 「一応、さらっと全体的な流れについても言っとくか。
 章立ては、プロローグ+一~五話+エピローグの七分割。各章の中身を一言で言うと、(0)人類とアポストリのファーストコンタクト→(1)学と葉桜の出会い→(2)共棲開始→(3)葉桜の秘密判明→(4)テロリスト暗躍→(5)事件勃発→(6)これからもよろしく、ってとこだ。枚数の関係もあるんだろうが、必要なことだけ書いて終わってるという印象が強い」
 「ライトノベル的には、学校生活がメインの二、三章に力を入れるべきなんでしょうけど……薄かったですねぇ。大分長くなったので、そろそろ総評に移りましょうか」


―結局、駄目ですか?―


 「ずばっと言っちゃうと、中途半端な作品ですね。
 主人公二人のミクロな話は、起伏に乏しく、描写も不足してます。アポストリが憎い~と、言ってる割に、学君は三章であっさり堕ちますし、その理由も至ってありきたりで特に面白みはありませんでした。
 マクロな話も、かつて殺し合った種族同士が一つの都市を焦点に絡み合う、といった深みのあるものではなく、『不穏分子が事件起こしたのでそれを潰してもみ消しました、はい終わり! 今回の危機はとりあえず去りました、めでたしめでたし』ってだけで、大仰な設定だけが一人歩きしている感じです」
 「い……いつになく毒舌だな。何か特別気に入らないとこでもあったのか?」
 「問題は三章ですよ、三章! 愛のない共棲なんて嫌だと泣き崩れる金髪少女、ネグリジェ越しに触れる肢体、明かされる残酷な真実! ここまで来たらもう押し倒すしかないでしょ? どーしてそこで欲望の電車に駆け込み乗車しないかな、学君っ! コノ根性ナシガァァァァァッ!
 「場末の18禁ゲームそのものじゃねぇかっ! つーか、昼メロか?」
 「せめてキスの一つもして下さい。でないと、私が欲求不満で死にます」
 「なんつー身勝手な理由を……。
 ま、あたしもこの作品はあんまり褒める気がしないけどな」
 「そうなんですか? マユさん好みのSF話だし、ストーリーも特に破綻してはいないので、及第点ぐらいは出ると思ってましたが」
 「作り込みがとにかく甘い。
 作品のキモであるアポストリの設定がまるでなっちゃいねぇ。種族的特徴が××鬼そのまんまってのは大目に見るとしても、何で地球に来たのか、それまでどういう歴史を刻んで来たのか、そもそも、地球に来るまでどうやって種を維持して来たのか、不明のままってのはどういう了見だ?」
 「そう言えば、共棲を行ったのは学君のお父さんが最初でしたね」
 「つまり、アポストリは宇宙を旅しながら、自分達以外の生命体を捕食して種族保存を続けてきた、と想像出来るんだが、葉桜の台詞からするとそんなのは偏見らしい。正しい歴史を教えてないのか、単に事実を隠蔽してるのか。どちらにせよ、ロマンチストの恵吾が考える程、アポストリは綺麗な種族じゃねぇのは確実だ。
 後、葉桜が『母親』という単語を使ってたのも引っかかったな。自分の父親にあたる存在を、『母親の共棲者』と呼んでる時点で、『両親』って概念はアポストリにはない筈だ。『親』なら解るが、『母親』という単語が出てくるのはおかしい。
 こういう細かいアラは山程あるので、探してみるのも楽しいかもな」
 「そちらも毒舌全開ですねぇ。
 となると、総評としては落第ってことになるんでしょうか?」
 「趣味で『若い女ばっかりの種族』を出すのが悪いとは言わねぇが、それを作品内で生かすための努力を怠ってる時点で、SFとしては間違いなく落第だ」
 「恋愛物としても落第ですよ。主人公二人の心理的葛藤が殆ど描かれてなくて、ただ単に似た境遇だったというだけで、後は流れにまかせてくっついちゃうなんて安直にも程があります」
 「おいおい……ボロクソじゃねぇか。何かフォローしてやれよ」
 「イラストはさっぱりしてて好みですね♪ ちなみに、表紙の絵が一番失敗してます。中のカラーページの絵はもうちょっと綺麗です」
 「それは作品に対するフォローじゃねぇだろ……」



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6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
なんで、彦根? (てくり)
2008-06-16 16:50:55
あ、琵琶湖だからか・・・
核兵器使って、放射能とかの危険は
なかったのかなあ。
あ、まだ宇宙空間だったのかも・・・

う~ん、個人的には、アポストリが
ひこにゃんだったら嬉しい。
あ、でも、生殖行為は無理・・・

っていうか、この宇宙人って人型なんですね。
ふ~ん・・・
10代の女性の姿だからって、メスとは限らない。
っていうか、オスメスあるのかな・・・

とりあえず、ひこにゃんに1票!
返信する
その通り、琵琶湖なのです (ホタル&マユ……+SEN)
2008-06-18 05:36:38
ホ「ひこにゃん可愛いですよね~」
マ「デザインは安直だけどな」
ホ「いいえ! 安直に見えて、非情に優れたデザインですっ!
 二次元でも三次元でも一目でひこにゃんだと認識できる――マスコットキャラとはああでなくては駄目だと思います」
マ「しかし、十字架乗ってあれが降りてくるってのはちとシュール過ぎるぜ……」

 * * *

(以下SEN)
高度八万フィートって言ってたので、成層圏ですね。
対流圏じゃないだけマシ……なのかなぁ?

ひこにゃんは御当地キャラらしからぬ人気ですな。
いや、私も可愛いと思いますけど。(爆)
でも、ひこにゃん相手に戦争って……ブラックジョークみたいだ。

一応、アポストリはメスってことらしいです。
ネタバレになりますが、多種族のオスから遺伝情報を採取して子を産みます。
これが、元からオスがいなかったのか、それとも、何らかの事情でオスがいなくなったのか、説明は一切ありませんでした。(本当に作り込みが甘い)

私は石割さくらに1票!(笑)
返信する
共棲相手は女子も可 (ねむい子老いた子無気力な子)
2008-10-01 03:13:29
アポさんは雌種といっているけど共棲のパートナーは男子も女子も適齢期になれば義務付けられている
ということはアポさんたちはヒトの男女どっちの遺伝情報でも食べちゃって身籠ることができるからという設定なんじゃないかなあ。
作家さんがそこんとこを筆の勢いで描写していないからかあるいは
リミッタはずす予定がないからお母さんとお母さんのパートナーのヒトメスという語られていない裏設定で舞い上がったわたしは変な子です。
返信する
でしたっけ……?(既に記憶が怪しい) (ホタル&マユ……+SEN)
2008-10-12 20:40:40
ホ「というツッコミを頂いたのですがっ」
マ「共棲相手が男性限定だとすると、彦根市には男子校しか存在しないことになってしまうので、男女どちらの遺伝子も取り込めるというのは確かだろうなァ……」
ホ「ということはつまり――」
マ「だからそっちの方面に話を持っていくなっ!」

 * * *

(以下、SEN)
ねむい子老いた子無気力な子さん、いらっしゃいませ♪
コメントありがとうございます。

共棲相手は女子も可、については完全に見落としです。(爆)
ただ、そうなると……なぜ彼女達は自分達のことを雌(地球人だけじゃなくて、アポストリ自身が言ってた、と思うのですが……記憶が怪しい)と見なしているのかという疑問が――やっぱり、母体としての機能を有しているからかなぁ。
でもそれなら、無性か両性体と呼ぶべきで……謎は深まるばかりです。二巻未読ですが、ここらへんを解消してくれることを切に希望。

お母さんとの呼び方は『お母さん』でいいとして、お母さんのパートナーのヒトメス(!)は何て呼ばれるんだろう? とか考えて、妙な妄想をし始める私は奇妙な子かも知れません。(爆)
返信する
Unknown (ねむい子老いた子無気力な子)
2008-10-18 18:06:01
二巻では学を「おにいちゃん(はぁと)」と呼んで助けを求める腹違いの妹が登場。
アポさんの生殖とかセックスの嗜好についてのさらなる描写は皆無でした。
思うに、不純and/or純粋同性交遊を小説に盛らない昔気質のライターさん
という心意気が大テーマだからわたしの疑問は解明しないままなのかなと。
子を産む雌単性種というのもレアですがそれは無性でも両性体とも一線を隔てる
別物だということで割り切るしかなさそうです。
それにつけてもヒトメスパートナーの遺伝情報を受け継いだアポさんが気になる。
返信する
再度、御来訪ありがとうございます♪ (ホタル&マユ……+SEN)
2008-10-21 21:39:54
ホ「来ましたね、妹キャラ!」
マ「露骨なテコ入れだな」
ホ「そーゆー身も蓋もない言い方をしないっ!」
マ「つーか、普通に考えりゃ姉だろ? クソオヤジが
アポストリとエンゲージしたのは戦中なんだからよ。
 それを敢えて、戦後、しかも学より後に生まれたと
するあたりがあざとい」
ホ「単純に、アポストリの妊娠期間が人類より長いと
考えれば良いのでは?」
マ「そこまでこの作者が考えてるかねぇ……」

 * * *

二巻の情報ありがとうございます。
あと、返信遅れてすいません……完全にサボリモードです。

生殖関連の新情報はなしですか……。
相手の性別無視して、遺伝情報さえ採取出来れば妊娠
可能(しかも、生まれてくるのは100%アポストリ
っぽい)とすると、そもそも生殖器そのものが存在し
ない、あるいは退化してる可能性もありそうですね。
強引に解釈するなら――何らかの理由で雄が死滅し、
生き残った雌が雌単性種として生き延びるために、
今のシステムを確立した――ってとこでしょうか。
そう言えば、人類の雄もいずれ死滅するって話があった
ようななかったような……。
私も雌同士の遺伝情報を受け継いだアポストリは気に
なりますね~。もしかして、三巻で出るかも。
返信する