つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

ホタルとマユの三分間書評『魔法鍵師カルナの冒険(ロックスミス・カルナの冒険)』

2008-07-02 23:03:25 | ホタルとマユ関連
さて、最近はライトノベルと漫画しか紹介してない気がする第976回は、

タイトル:魔法鍵師カルナの冒険(ロックスミス・カルナの冒険)
著者:月見草平
出版社:メディアファクトリー MF文庫J(初版:'05)

であります。


「ありがとうございました」
「私は金庫の鍵を開けただけ。そんなに感謝されるようなことはやってないわ」
 マリはかぶりを振った。
「いいえ、あなたは十年前の私に会うための扉の鍵を開けてくれたんです」
 そう言うとマリはクロネッカーを引き連れて大通りの方に消えて行ってしまった。
 私は右手に握られた銀貨を見た。
 初めて、自分で仕事を請けて仕事をして報酬をもらった。魔法も使わない、簡単ですぐ開く鍵だったし、まだ全然実感が湧いていないけど、私は鍵師として本当の意味でデビューを果たした。
 タイムカプセルが開いた時に女の子が見せた顔を頭に浮かべながら、私は自分がどうして鍵師になりたいと考えるようになったのかを思い出した。鍵を開けた時、お客がお祖父ちゃんに見せる嬉しそうな顔。それに憧れて私は鍵師になろうと思ったんだ。
   ――本文172頁より。カルナと、とある依頼人の会話。



―毎度遅れております―


 「こんにちは~、二週間ぶりのホタルでーす♪」
 「マユだ。
 漫画の新刊をひたすら漁ってたら、いつのまにか十日以上過ぎちまったなァ……」
 「というわけで、悪いのはぜーんぶマユさんです」
 「おい、自分はちゃっかり安全圏か、コラ!
 「御存知の通り、私はちゃんと仕事してましたよ~。ほら、言って言って」
 「あ~、以前から企画だけはあった漫画専用目録がようやく完成した。かなり地味な作業なんで時間はかかったがな」
 「でも、苦労に見合うだけの価値はあるのですよ♪
 例によって、最新の投降覧の【☆『目録へのショートカット』兼『総合案内板』】から行けます」
 「とりあえず、紹介済コミックを男性向け、女性向けの二つに分類し、『コミックス一覧表(白組)』『コミックス一覧表(紅組)』にまとめてある。今後、変更する可能性もあるが、その場合はまた告知する予定だ。
 あと、微妙に一覧表の配置を変更した。作家で検索する場合は『作家別一覧表一括表示』、作品タイトルで探すなら『タイトル別一覧表一括表示』で、すべての目録を一度に見られるようにしてある」
 「作品タイトル別の目録はまだ、ライトノベルと漫画、一部のシリーズ作品しか用意してませんけど、順次追加していく予定――ですよね?」
 「そこは気力と体力次第だな。
 仮に作るとしたら、ジャンル別に作成するつもりではいる」


―鍵師と言っても、某俳優さんのあれではありません―


 「さて、今回御紹介するのは――創刊からはや六年、ようやく業界内での地位も安定したか? なMF文庫Jから『魔法鍵師カルナの冒険(ロックスミス・カルナの冒険)』です!」
 「第1回MF文庫Jライトノベル新人賞『審査員特別賞』受賞作。
 内容的には、古典的な剣と魔法の世界を舞台にした、ファンタジー職業物、といったところだ」
 「その台詞、そのままそっくり『葉桜が来た夏』の時の焼き直しですね……」
 「人のことが言えんのか? お前だって、思いっきり定型文じゃねぇか」
 「それはそれ! これはこれ!(By 島本和彦
 ざっとストーリーを紹介すると――見習い魔法鍵師(ロックスミス)のカルナちゃんが、魔物宝箱(モンスターボックス)に追いかけられたり、銀髪碧眼の美形魔術師に熱を上げたり、日常業務のついでに魔王を封印したりするお話です」
 「ついでかよ!(何か、今日はツッコミ所がやたら多いな)
 序盤はカルナとその師匠のミラによる魔法鍵師の解説、次いで実際の仕事の描写、さらに、舞い込んでくる大仕事の依頼、と、ストーリーの流れは職人物の王道を忠実に踏襲している。
 主役のカルナが15歳の割にはやたらと優秀で、ミラはミラで大陸一の魔法鍵師だったりするので、見せ場となる鍵開けのシーンがスムーズに進みすぎるのがイマイチ引っかかると言えば引っかかるか」
 「そこはテンポを重視した結果と見るべきでしょうね。こういう特殊な設定を利用した作品って、解説が長くなる傾向が激しいですから」
 「まぁ、その通りなんだが……初手でいきなり『伝説の鍵師エドガード=ランキンが施錠した鍵!(作中ではランキンズワークと呼ばれる)』が出てきて、ミラのフォローがあったとは言え、それをカルナが無難に開けちまうってのはどうかな~と思うぞ」
 「ん~、確かに……ランキンズワークの鍵は作中に三度登場しますけど、『解錠に失敗したら死んだり廃人になったりする恐ろしい鍵!』という大仰な設定の割には、どれも肩すかしでしたね……」
 「これで、名前が売れてるだけの山師の作品ってんならまだ解るんだが、それだと下手なコメディで終わっちまうからなァ」
 「師弟漫才してる日常はともかく、仕事に関してはカルナもミラも大真面目なのでそれはちょっとマズイでしょう。
 ちょっと視点を変えて、職人物ではなく、キャラ物としてはどうですか? キャラ数少ないですけど」
 「そりゃ、カルナが可愛いの一言に尽きるだろ」
 「とうとう百合に目覚めましたかっ!」
 「違うわっ!
 師匠を信頼し、ひたむきに魔法鍵師を目指すところが純粋に可愛いと言ってるんだ。
 挑戦心に溢れてはいるものの増長はしないし、豪快な師匠に振り回されているようで、実はミラの抱えている問題を薄々察していたりもする。少々天ボケ気味だったり、惚れっぽいところはあるが、基本的に毒のない真面目な娘だ」
 「素直な成長物語向きの主人公と言えるでしょうね。
 一応、少年向けラノベなので、ミラの趣味でフリフリの服を着せられる――といった萌え要素も持ってたりします♪」
 「胸は洗濯板だけどな!」
 「そういうこと言ってるとオヤヂ疑惑発生しますよ」


―総評といきませう―


 「非常ーに素直な作品です♪
 鍵師見習いとして一生懸命頑張るカルナちゃんの姿を描きつつ、ミラさんの過去と鍵絡みの陰謀を絡めて、最後の魔王サバテとの対決まで持っていく展開はまさにファンタジーの王道!
 これ! といった濃さはないので、尖った作品を求める方には不向きかも知れませんが、変に奇をてらった作品と違って安心して読めます」
 「素直すぎて、中盤からラストまでの展開があっさり読めてしまうのは難ありだ。
 世界最高峰の鍵であるランキンズワークを安売りした結果、肝心の鍵開けのカタルシスが削がれてしまっているのもどうかと思う」
 「でも、二回目と三回目の鍵は省くわけにはいきませんよ。一回目はオマケに近いですが、あそこでランキンズワークの説明をしておかないと、後のシーンが説明過多で冗長になる可能性が高いです」
 つまり、一回目、もしくは二回目の鍵開けは失敗するべきだったんだよな。そうすれば、三回目の鍵開けがかなりシリアスなものになった筈だ」
 「デビュー作なのでページ数的に余裕がなかったのもあるのでしょうが、確かに成長物語としては安易に成功し過ぎてる感じはしますね……。
 個人的には、カルナちゃんが一人で店番をする第三章『胸騒ぎのお留守番』にもうちょっと力を入れて欲しかった気がします」
 「(あたしは安易とまでは言ってないんだがな……)
 それについては同意見だ。冒頭でも紹介した、『他人から見ればささやかだけどカルナにとっては重要な仕事』を丹念に書けば、成長物語としてかなり面白いものになったと思う」
 「他の章は60~70頁取ってあるのに、三章だけは30頁ちょっとで終わってるんですよね……。カルナちゃんのキャラを立たせる上でも重要な章だと思うので、もっと色々書いて欲しかったです」
 「ラストに魔王復活という大仕掛けを持ってきたかった作者の願望も解らないではないが、事が事だけに師匠のミラの方が目立って、カルナがそれに引きずられる形になっちまったのは明らかにマイナスだな。
 つーかキツイこと言えば、『誰かが魔王復活を目論んでいる! これを阻止するには、腕のいい鍵師が必要だ!』ってネタそのものが極めてチープだ」
 「ですね。
 魔王討伐やるぐらいなら、麗しき師弟愛を前面に押し出して――」
 「だからいい加減百合話から離れろっ!」



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