つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

始めよければ……?

2006-02-25 17:17:01 | ファンタジー(異世界)
さて、終わりのほうもあるけどどっち? の第452回は、

タイトル:狼と香辛料
著者:支倉凍砂
出版社:電撃文庫

であります。

行商人になって7年、25歳になったロレンスは、過去に行商の関係で親しくなった村で毎年のように行われている祭りに立ち会う。
その祭りは麦の豊作を祝うもので、豊穣の狼神を祝うものだったが、いまではまったく形骸化していた。

祭りは村人だけで行われるもの。
そのため、ロレンスは相棒の馬とともに荷馬車でその村を立ち去ることにする。
塩と交換に手に入れたテンの毛皮と、僅かばかりの麦とともに。

そうして日が落ち、野宿だと思いつつ荷馬車のテンの毛皮にもぐり込もうとしたロレンスは、なぜか毛皮の山の中に先客がいることに気付く。
なんだと思って見ると、10の半ばを過ぎたくらいの少女……ただし、茶色の耳と尻尾つき。
悪魔憑きとも思える姿をした少女は、賢狼ホロと名乗った。

彼女は、ロレンスが立ち寄った、祭りをしていた村で、祭られていたはずの狼神だった。
麦に宿るホロは、たまたま立ち寄ったロレンスが持っていた麦に宿り、村を抜け出してきたのだ。
ひょんなことから数百年は生きている狼神を拾ったロレンスは、ホロとともに旅をするようになる。

……最初の最初の掴みはかなりOKだった。
「この村では、見事に実った麦穂が風に揺られることを狼が走るという。」
まぁ、どこかに元ネタでもあるのかもしれないが、あいにくと私は知らないので、なかなかよい出だしだと思った。

だが、序盤を読むに連れて、ロレンスがホロと出会うところや、老獪な、けれど幼い子供を思わせる相反したキャラクターとして描かれるホロとロレンスのやりとりなど、まったくキャラクターと作品の雰囲気が合っていない。

自分のことを「わっち」、ロレンスを「ぬし」、語尾が「ありんす」など特徴的な言葉遣いをするホロと、若手の商人らしいロレンスのキャラクターはいいのだが、序盤はかなりキャラが浮いている状態。

中盤以降に入り、ストーリーが展開するに連れて、テンポはよくなり、読み応えは増してくるものの、出だしの掴みに較べて序盤がへぼへぼなので、悪くするとこの時点でやめたくなってくる。

ストーリーも、主人公が商人だけあって、帯の「剣と魔法の活躍しない」という言葉に嘘はない。
ただし、どうもこの作者、自分がわかって想像できていることをわかりやすく文章にする、と言うことが下手。
展開に破綻はないが、かなりの頻度で文章を読んで情景や場面がまったく想像できないことがある。

ときどき、と言うレベルならまだしも、かなりあるのでこれは致命的。
文章量はラノベにしてはけっこう充実していて、読み応えは保証できそうなのだが、流れと言う面ではかなり低い評価しか出来ない。

また、タイトルの「狼と香辛料」だが、ストーリーの終盤のほうで、「ほらよっ」という感じで投げ込まれたようにタイトルに絡むネタが登場し、これもいただけない。
なかなか興味をそそられるいいタイトルなのだが、ストーリー上での扱いのおかげで、別にこのタイトルでなくともかまわないのではないかと言う気になってくる。

中盤以降の読み応えはなかなかよいし、クライマックスやラストもなかなかのものなので、ぎりぎり及第点と言ったところだろうか。
とは言うものの、今後の精進次第では、かなりよい雰囲気を持った作品を期待できるのではないか、とは思う。



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