つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

チャンバラと素敵ミステリー

2005-06-01 23:56:15 | 時代劇・歴史物
さて、暴れん坊将軍のサントラを聴きつつ送る第183回は、

タイトル:大江戸犯科帖
編者:細谷正充
文庫名:双葉文庫

であります。

十一名の作家の時代劇短編を収録したアンソロジーです。
大江戸犯科帖となっていますが、別に江戸が舞台の中心というわけではありません。
例によって一つずつ作品を紹介していきます。

四人の勇者(多岐川恭)……古代を舞台にした犯人当てミステリー。一族の長に命じられた蛭目暗殺を果たしたのは誰か? おとぎ話のような展開と、女性の業を見せる水無瀬のキャラが独特の雰囲気を生んでいる。某神話を思い出させるラストも良い。

怖妻の棺(松本清張)……恐妻家の男が、愛妾の家に行ったきり帰ってこない。友人の兵馬は事情を探りに行くが――。これぞ清長といった感じのキレのいい短編。どんでん返しが二度あるが、短い話の中で無理なくまとめているのはさすが。

足音が聞えてきた(白石一郎)……ぬいは夫と義理の弟との三人暮らし。子種に恵まれぬことを気に病んでいたが、ある日、夫が惨殺され――。ミステリとしては単純。しかし、ジワジワと不気味な推理が展開されていく所と、ラストがとにかく秀逸。

殺された天一坊(浜尾四郎)……某超有名奉行(笑)の苦悩を描いた作品。間違えることを許されぬ者の心理が鮮やかに描かれている。裁かれた者の苦悩、裁く者の苦悩、それを傍目で見る者達の残酷さ、とにかくリアリティ溢れる力作。

萩城下贋札殺人事件(古川薫)……海上で発見された女の水死体。それには少し奇妙な点が――。実はあまり印象に残っていない。捕物帖ということで、本書の題名からいけばいちばん妥当な作品なのだが、これといって惹かれるところがなかった。

真説・赤城山(天藤真)……国定忠治一家の赤城山籠城を題材にした犯人当てミステリ。非常に短い作品だが、最後まで犯人が誰なのか、と疑わせる部分はある。最後の長ゼリだけで一気に回答を示しているのも上手いと思う。

卯三次のウ(永井路子)……駆け出しの目明かし、卯三次は幻の怪盗『空っ風一味』を追う。最後の引きが非常に綺麗で、推理物というよりは恋物語に近いところがある。へっぽこに見えて意外と侮れない卯三次のキャラも魅力的である。

上総楼の兎(戸板康二)……ラスの一行がとにかく秀逸! 思わず、なるほど、と唸らされること請け合い。これ以上語るのは野暮の極みなので、粗筋も書かないでおく。

河童火事(新田次郎)……火事を予言する白痴、河童の伝説、毒キノコ、閉鎖的な村を舞台に展開される奇怪な事件を手代の久四郎が解き明かしていく。非常に完成度の高い時代ミステリ。構成が巧みで、異常なものの背後にある現実が明らかになるくだりは圧巻。一押し。

森の石松が殺された夜(結城昌治)……清水の次郎長話の中でも、特に美談として知られる石松殺しの話を別解釈で描いた中編。非情なるラストはなかなかの見物。

菊の塵(連城三紀彦)……明治四十二年、ある軍人が喉をサーベルで突いて自害した。だが、主人公は彼の自殺に疑問を抱く――。タイトルに非常に意味がある。動機ではなく、方法を考えてもらいたいミステリ。

なかなか味わい深い作品が揃っているのでオススメです。
ミステリを期待するのではなく、ミステリテイストを楽しんで下さい。

わっ、もう時間がないのでこれにてっ。


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