つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

マジで怖っ!

2006-07-01 16:51:13 | ホラー
さて、こういうのも書けるのねの第578回は、

タイトル:刺繍する少女
著者:小川洋子
出版社:角川文庫

であります。

200ページあまりのページ数に10もの短編が収録された短編集。
ではいつものように各話から。

「刺繍する少女」
僕は母がこれから毎日を過ごすことになるホスピスで、20年以上も前……子供のころ、高原の別荘で一夏だけ一緒に過ごしたことがある女性に出会う。
彼女は喘息を患っているため、仕事もせず、ホスピスでボランティアをしていた。ホスピスで会ったときも、高原で出会ったときも、彼女は刺繍をしていた……。

ラストのシーンから窺えることをあれこれ考えると、どれも怖い想像になってしまってイヤになる(笑)

「森の奥で燃えるもの」
収容所へやってきた僕は、最初に登録係の女性に「ぜんまい腺」を耳から取られる。それがすんで収容所の住人となった僕は、そこでの生活を過ごしながら登録係の女性と関係を持つようになり、取ったぜんまい腺のことについて、いくつかのことを知る。
ある日、働いている美術館に来た少年から森の奥で炎が立ち上っていることを知り、それを見に行くと、それは収容所の住人になるために取ったぜんまい腺を燃やしているところだった。

これは単純に、ラストが怖い。
ぜんまい腺を取って収容所の住人となった僕と、そうではない彼女とを隔てるものを愛おしむように取ろうとする僕の姿がえぐいので。

「美少女コンテスト」
母と祖母と、女3人の家庭で育ったわたしは、母が応募した美少女コンテストに出ることになった。そのコンテストでは、少女がペアで舞台に出ることになっていて、そこでペアになった少女に飼い犬が窒息死した話を聞かされる。

最初に出てくる母の宝物のひとつの話題とペアになった少女から聞かされる犬の死など、コンテストというタイトルながらも死の匂いが濃厚なストーリーの中で、ラストに主人公の少女が語るセリフが印象的。

「ケーキのかけら」
春休み、大学で美術史を教えている助教授の家で、王女の精神と入れ替わってしまった叔母の持ち物を処分するアルバイトをすることになった。チャリティに出すなどと言って大量の持ち物を処分する仕事の合間に語られる叔母とわたしの会話が主体。

「図鑑」
彼と逢い引きをする前に図書館で寄生虫図鑑を読むことが習慣になったわたしと、作家をしている彼との不倫の話。
……これを書くために読み返すのがきついくらい、怖い(笑)
寄生虫、と言うイメージからして不気味なものを扱っているだけでも雰囲気が怪しくなっているのに、ラストがまた怖すぎ……。

「アリア」
オペラ歌手だった叔母の誕生日である2月12日に、毎年僕は叔母の家を訪問する。雪深い叔母の家で行われるふたりだけのパーティの中で、僕はオペラ歌手だったころの叔母のことを思い出しながら、叔母との会話を続ける。

「キリンの解剖」
堕胎手術を受けてからジョギングを始めることにしたわたしが、ジョギングコースとなっている産業道路に軒を連ねる工場の門の前で倒れたことから、何をしているのかわからなかった工場で建造されているクレーンを見ると言う話。
解剖は、彼が基礎医学の研究者で、キリンの解剖を始めたことを語るシーンがあることから。

「ハウス・クリーニングの世界」
クリーニングのアルバイトで訪れた家で出会った女性と、クリーニングをし綺麗になることに独自の感性と執着を持つ僕との話で、仕事ぶりを眺める女性にいつの間にか取り込まれ、操られていく僕と、次第にサディスティックな匂いを醸し出す女性の姿が印象的。
これもある意味、けっこう怖かったりして……。

「トランジット」
フランスへ旅行に行った帰り、成田行きの飛行機を待つ空港のロビーで出会った、木馬博物館の男との会話を主体とした話。
これもアリアのようにある人、ここでは主人公のわたしの祖父の話とわたしの話が交錯する。

「第三火曜日の発作」
喘息を患っていて月に一回、第三火曜日に病院へ通っているわたしは、通院の特急列車の中で缶コーヒーを誤って飛び散らせてしまった宝石商の男と知り合い、第三火曜日の逢瀬を続けていた。
けれど、ある第三火曜日にホテルで発作を起こしたことをきっかけに、わたしは男の姿をもう二度と見ることはなかった。

……あー、さすがに10編全部は長いなぁ。
それにしても、各話ともに明確に怖いものもあれば、どことなく哀愁漂うようなものもあり、以前読んだ2作とはまた違った趣の短編集だね。
でも、どれも悪くはないのだが、いまいち乗り切れない作品や雰囲気がいまいちの作品もあり、オススメできるかどうかは微妙。

まぁ短編集だから、気に入るのもあればそうでないのもあることだし、その辺は仕方がないか。
ただ描写は丁寧で読みやすいし、それが逆に怖いものをわざとらしく見せないところはいいね。


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