つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

読んだことがないと思ったのに

2007-11-18 17:02:31 | ホラー
さて、毛色が違うからいっかの第921回は、

タイトル:幻少女
著者:高橋克彦
出版社:角川書店 角川文庫(初版:'02)

であります。

このひと読んだことなかったよなぁ、と思って手にしたものの、目録を見てみたら伝奇小説を読んでました(^_^;
まぁでも、前のは長編の伝奇小説。
今回のは裏表紙の解説文に「幻想ホラー掌編集」とあるように、短編集。
しかも200ページあまりのページ数に27もの作品が収録されているので、短編と言うよりショートショート集と言った感じ。

とは言え、27編もあるのを全部書いていくのも何なので、いくつかをば。

○祈り作戦
『きっかけはクラスの女の子だった。
入学したときに植えた桜の木。風が強くて花びらが飛ばないように祈っていた女の子の祈りが届いて、その桜だけがまだ花びらをたたえていた。
信じ切れていなかったぼくだったが、入院中の先生の無事を祈ったとき、先生が奇跡的に助かったことで考えを変えた。
そして、それはぼくたち、子供だけに与えられた力だと知ったクラスメイトたちは、もっと大きなことを願おうと、祈りを続けた。』

単純ないい話、と言うものだが子供の無邪気さや幻想的な雰囲気、余韻に満ちた佳品。
とは言え、今時の小学5年生はこんな無邪気じゃないとは思うけど。

○電話
『あるとき、昔使っていた時計が出てきた。それを見て、私は少し落ち込んでいた。
過去の私、貧乏だったら妻と幸せだった時期と、その崩壊。成功と新しい妻との生活。様々な思いが巡っていた。
そんなとき、電話が鳴った。
「幸福なの?」
だったそれだけの電話の声は、死んだ妻の道代だった。』

パラレルワールドで、別の歴史を歩んだ世界が電話でつながる、と言うものでネタ的にはありふれたもの。
ただ、これも主人公である「私」の哀愁と余韻が感じられる作品。

○明日の夢
『教頭である私には、予知夢を見ると言う特技があり、それを夢日記として憶えている限り記録していることにしていた。
そのことはおなじ学校に、何年かいる教師たちの間では有名だったが、予言と言えるほどのものではなく、他愛ない日常を夢に見ていると言う程度のものだった。
研修で一緒になった若い女教師がイカスミのパスタを頼むところやそのときの服装、その程度だった。
だが、気付くと予知夢で見る光景がどんどん短い期間に集中し始めていた。
それを確かめるべく、夢日記を詳細に見ていた私はあることに気付いた。』

予知夢というネタを扱ってはいるが、妙に現実味があって、その現実味がラストのオチの怖さを際立たせている。
と言うか、けっこうこのラスト、シャレにならねぇ……。

○不思議な卵
『ぼくは入院中の弟に、工作で作った卵を不思議な卵だと言って渡した。卵がかえれば何でも夢が叶う、そんなふうに言って。
最初は他愛ない思いつきみたいなものだった。それまでに弟の願い事を聞いて、退院できる日に、こっそり弟が欲しいものと交換しておく。両親の許可ももらって願い事の「犬が欲しい」というもの聞いておいた。
だが、弟の病気は退院できなくなってしまった。
それでも弟は、夢が叶うと言う卵を大切に暖めていた。』

これはたった4ページの小品で、系統としては「祈り作戦」とおなじいい話の部類。
子供らしい思いつきがかわいらしく、心温まる作品。

……と、いくつか、って4つだけかい……(爆)
と言うか、「幻想ホラー」と銘打ってあるが、実はホラー作品のほうがほとんどおもしろくないのよねぇ。
中には少しくらい怖さのある作品がないわけではないけど、「これは怖い!」って思えるものはほとんどない。

むしろ、「怖さ」よりも「幻想」に重点があるほうが、雰囲気もありいい話が多い。
さらに作品によってページ数がだいぶ多い短編と呼べるくらいのものもあるのだが、短編ではなく、10ページにも満たないショートショートのほうが想像力が掻き立てられるし、雰囲気、余韻ともに感じられるものが多い。

まぁでも、こういう短編集だとどうしてもおもしろいものもあれば、いまいちなのもあるのは仕方がない。
私はいまいちだと思ったけど、読むひとによってはおもしろいと思えるものもあるだろうしね。
それに、以前読んだ伝奇小説なんかよりはよっぽどかマシ。

なので、総評としては及第。
でもやっぱり、この手の人間の内面をホラーとして描くのは女性のほうがうまいと思うね。
刺繍する少女」なんてその最たるものって感じだし。


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