つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

や、ややこしい……

2012-03-31 21:11:34 | ミステリ
さて、いろんなジャンルを書くねぇの第1002回は、

タイトル:鬼女の都
著者:菅浩江
出版社:祥伝社 NON・NOVELS(初版:'01)

であります。

SFでデビューした菅さんだけど、SFだけじゃなくてファンタジーも書くし、ミステリも書く。
よくまぁいろいろと書くもんだと感心するけど、本書は「長編本格推理」と銘打たれていて、ミステリらしい。
菅さんのミステリと言えば「歌の翼に ~ピアノ教室は謎だらけ」を読んだけど、これはミステリの体裁を取った人間ドラマだったからなぁ……。

で、本書であるけれど、ちゃんとミステリになっているのかどうか……。
ストーリーは、

『優希は、同人誌仲間のちなつと櫻とともに京都にいた。それは優希が憧れていた同人の小説家藤原花奈女の葬式に参列するためだった。
大学で京都に下宿中のいとこの忠雄に車を出させ、花奈女の葬式へ向かう優希たち。
葬儀が終わり、出棺されると優希たちは花奈女の友人で、花奈女の自殺を防ぐことができなかったことを悔やむ梶久美子と出会う。
自殺に至るまでの様子を久美子と語る優希たち――しかし、優希には花奈女の死がただの自殺ではないと思っていた。

ミヤコ――それが花奈女を自殺に追い込んだ者だと言うのだ。
その根拠は花奈女が自殺する数日前、優希に送られてきた商業デビューとなるはずのあらすじと、そのことに関しての電話からだった。
ミヤコは花奈女の中に存在する自己批判の存在――そういうちなつや櫻に、久美子は優希の説を補強するかのようにミヤコから届いたという手紙を差し出す。
古文を引用したその手紙はまるで呪詛のような内容だった。

それを読んでミヤコへの怒りを強めた優希は、必ず正体を突き止めてやると意気込むが……』

読んでいて、めちゃくちゃややこしい話だなぁ、と思いました。
舞台は京都。京女を体現したかのような小説と姿で優希を魅了した花奈女の自殺の真相を探るべく、優希が、遺したあらすじなどから京都を巡り、様々なものを見たり、不可思議な体験をしたりする。
そんな中、第二、第三とミヤコからの手紙が届いたりして、物語はどんどん混沌としていく。
混沌の原因は、京都の歴史や地名との齟齬や、ミヤコからの手紙、手紙に引用された能の「葵上」と京都らしい婉曲表現など。
これらが重層的に絡み合って、作品の雰囲気を濃密にしている。
章段も、能の序破急などを使って区切られていて、雰囲気作りに一役買っている。

推理ものとしては、能の「葵上」、京都らしい婉曲表現が重なり合って謎解きにはかなり苦労するのではないかと思う。
まぁ、ここが読んでいてややこしいと感じた最たる部分なんだけど、謎解きが好きな人には手応えのあるものに映るのではないかと思う。
ミステリとしては、忠雄の友人の杳臣と言う青年が、優希が京都を巡ったりして得た情報をもとに、自前の京都の知識などを加えてミヤコの正体を突き止めると言うもので、いわゆる安楽椅子型のミステリと言えるだろう。

ただ、「本格推理」とか「本格ミステリ」とかから一般的に受けるミステリの印象とはかなり違っている。
どちらかと言うと、これも推理もの、ミステリの体裁を取った人間ドラマと言う印象で、能の「葵上」を引いた手紙の真意や優希たちが体験する不可思議な現象など、謎は散りばめられているが、ミステリと言うにはやっぱり弱い。
花奈女の自殺という要素はあるものの、この後誰かが死ぬわけでもなく、目を瞠るようなトリックがあるわけでもないので、余計に「本格推理」という言葉から受けるイメージからは遠くなっている。
まぁ、謎はかなり複雑で謎解きのおもしろさはあるのかもしれないので、そういう意味では「本格推理」なのかもしれないけど、感性派で謎解きとは無縁な私から見ると、推理ものって感じじゃないんだよねぇ。

とは言え、ストーリー自体の破綻はなく、謎解きも納得できるもの。
前半はもっぱら優希たちが情報を集め、後半にいくに従って探偵役の杳臣が出張ってきて謎を解いていく、と言う体裁。
キャラも竹を割ったような少年っぽい優希に、かわいらしい姿ながら女性らしい計算高さを見せるちなつなど、細やかに描かれている。
ただ、女性陣に比べて忠雄や杳臣と言った男性陣に、女性陣に見られるような細やかさがないので、キャラについてはそこが気になると言えば気になるところか。

能などを引用して作られた濃密な雰囲気、複雑に絡み合う謎、ストーリーは悪くないし、納得できる展開と結末、キャラも気になるところはあるものの立っている。
悪いところはほとんど見られないんだけど、総評として下す結論は、及第、ってところなんだよねぇ。
納得はできるんだけど、謎があまりにも複雑でややこしすぎるのが難点なんだよね。
謎解きを楽しめない人にはこのややこしさは、途中で投げ出しかねない気がするので、オススメしづらいんだよね。
なので、特に悪いところはないけれど、良品とは言えないので、総評が及第になってしまう、と言うことに……。


――【つれづれナビ!】――
 ◆ 『菅浩江』のまとめページへ
 ◇ 『つれづれ総合案内所』へ


最新の画像もっと見る