つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

ナンセンスの極地

2006-05-24 23:31:47 | 伝奇小説
さて、伝奇か? 時代劇か? な第540回は、

タイトル:剣鬼喇嘛仏
著者:山田風太郎
文庫名:徳間文庫

であります。

風太郎忍法帖、最後の作品集。
例によって、一つずつ感想を書いていきます。

『女郎屋戦争』……田沼意知がお庭番として使っていた男が不祥事を起こした。こともあろうに、吉原に行く金が欲しさに辻斬りをしたのである。報告を受けた意知は、呆れながらも、そこから一つの金儲けを思いついた――。
侍専門の公営遊郭を造ってしまおうというアイディアが面白い。突如現れたライバルにあたふたする吉原、最初は調子が良かったもののサービスの悪さから次第に落ち目になっていく新遊郭の姿が皮肉っぽく描かれている。身に付けた技を発揮することも出来ず、ひたすら落ちぶれていく服部億蔵に哀愁を感じるのは私だけではあるまい。

『伊賀の散歩道』……伊勢の老公・藤堂高次が新しい妾を連れて帰国した。名はおらん。彼女自身は申し分のない聡明な人物だったが、一緒に連れてきた弟・歩左衛門に問題があった。大目付は配下の風忍斉に命じ、歩左衛門の調査をさせるが――。
師匠である江戸川乱歩をネタにしたパロディ小説。『江戸川乱歩傑作選』を先に読んでおくとかなり笑えると思う。個人的に、こういう遊びは好きではないが、最終行で「そうきたか」と思わせてくれたので黙認。

『伊賀の聴恋器』……忍の術を否定し、軍学をもって身を立てようとする男・服部大陣。柳生但馬の娘・お万様に一目惚れした彼は、自ら発明した『聴恋器』を使って恋を成就させようと企むが。
ことごとくこちらの予想を裏切ってくれるドタバタ話。口八丁手八丁で売り込んだ怪しげな機械・聴恋器に振り回されていく大陣も笑えるが、いかにも雑魚っぽい登場をしておきながら最後まで出張る××もなかなか楽しい。にしても、サドマゾって単語を堂々と時代劇で出しても違和感ないのは山田風太郎ぐらいのものだと思う。

『羅妖の秀康』……家康の子ながら、その容貌故に遠ざけられた男・秀康。梅毒のために鼻を失い、さらに荒れていた時、彼は興味深いものを目にする。部下の忍が、失った耳を取り戻していたのだ――。
ネタが下品……って、風太郎忍法帖では当たり前と言えば当たり前だけど。主人公より、彼に敗れた忍者の方が憐れな気がするのは私だけだろうか?

『剣鬼喇嘛仏』……小次郎との死闘を制し、素早く船に乗って巌流島を後にする宮本武蔵。だが、彼の前に新たな挑戦者が現れ――。
表題作、ちなみに主人公は武蔵ではない。これまたネタが下品。書くとネタバレになるので伏せておくが、あの姿で挑戦されたら、武蔵じゃなくても絶対引くと思う。ただ、主人公の姿は武蔵の末路の一つかも知れない、と考えて読むと意外と深い話……かも。でもやっぱりナンセンスな部分の方が目立つんだよなぁ。

『春夢兵』……大探検家から忍びへと転身した男・間宮林蔵。彼は八戸藩の異変を探るため、次々と忍びを送り込む――。
ネタがバラバラで、まとまっていない感じのする短編。間宮林蔵が出る必要はあまりないし、半ば独立国のようになっている八戸藩の設定も生かされているとは言い難い。要は三匹の子豚ならぬ三人の忍者の忍法を描いて終わりといった感じ。しかも、事件を解決する最後の忍法が……もの凄く汚い。(卑怯という意味ではなくて)

『甲賀南蛮寺領』……甲賀は追いつめられていた。信長より、南蛮寺の寺領になれという命が下ったのである。甲賀五十三家は甲賀宗家の家老格が出した策に命運を賭けるが――。
甲賀忍者軍団! 対 伴天連の妖術! という妖怪大戦争みたいな話……ではない。何だかんだ言って数の暴力には歯が立たず、起死回生の風太郎流忍法(色仕掛けとも言う)も役に立たずに、甲賀衆は追いつめられていく。派手さはないが、最後の最後に使った策は面白かった。

微妙です……下品なとこをさっぴいても。
小粒な作品が多く、これは当たり! とオススメできるものがない。
戦闘シーンは盛り上がりに欠けるし、『甲賀忍法帖』のようなカタルシスもない、と来ては……ハズレかなぁ。


最新の画像もっと見る

4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
はじめまして (ますい)
2006-05-25 15:51:27
私は山風を読んでいてかけらも下品と思った事は無いですよ。

下ネタ=下品だと思いませんし。
返信する
ますいさん、いらっしゃいませ~ (SEN)
2006-05-25 19:26:19
脳内で画像に変換するとかなり下品だと思う

のですが……もしかして、そう考える私の感覚

が下品なのかっ……?

ちなみに、私も剣鬼嘛喇仏って読んじゃった

クチです。(爆)

返信する
Unknown (ますい)
2006-05-26 22:21:24
確かに画像変換するととんでもないんですが(笑)、

山風って下ネタオンパレードのくせに、なぜか

下品と感じないから読めちゃうんですよね。

飄々とした医学的な語り口のせいで、

ユーモアとして読めてしまいます。
返信する
確かに (SEN)
2006-05-28 00:05:12
わざとイヤらしい書き方する人ではないですね。

いつもはノリで読めてしまうんですが、今回はドラマ

部分よりも下ネタの方が印象強くて、引っかかって

しまいました。

山風自体は好きな作家なんですけどねぇ……。
返信する