つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

ア行に戻ってきました(笑)

2012-04-22 19:12:17 | ファンタジー(異世界)
さて、図書館の書棚もぐるりと1回回りましたの第1010回は、

タイトル:花守の竜の叙情詩リリカ
著者:淡路帆希
出版社:富士見書房 ファンタジア文庫(初版:'09)

であります。

ラノベだと電撃以外あまり食指が伸びないのですが、図書館の本棚に置いてあったので手を取ってみた。
ファンタジア文庫と言うと、ラノベの黎明期にはいろいろといい作品があったんだけど、最近はとんと目立つ作品が見当たらないので、ほんとうにいつ以来だろうって感じだけど……。

さて、ストーリーは、

『カロルという島の小国オクトス――エパティークは家族やその側近、神官たちとともに地下の霊廟にいた。
オクトスの父王エルンストの葬儀のためだった。慣例に則って行われる葬儀は、しかし粗野な物音に中断させられる。
対立していた隣国エッセウーナの兵士に襲われたのだ。王の死は国民にすら知らされていなかったはずなのに、エッセウーナはこのときを狙って襲ってきたのだった。
恐怖に駆られる中、何故かエパティークだけは命を取られず、連れ去られてしまう。

一方、オクトスを陥落させたエッセウーナでは、オクトスを陥落させた祝宴の中、テオバルトは祝宴を抜け出して中庭にいた。
そこへテオバルトを慕うかわいい妹姫のロザリーが現れ、無邪気に話しかけてくる。
それに応対していると、オクトス陥落の立役者である第一王子のラダーが現れ、テオバルトにオクトスに伝わる銀竜の伝説の話を持ち出してくる。

千年の昔、オクトスが敵の島国に襲撃されたとき、少年王だったオクトスの姉姫がオクトスを守るために聖峰スブリマレから身を投げ、銀竜となってオクトスを救ったと言う伝説を。
捕らえられたと言うオクトスのエパティーク、銀竜の伝説――ラダーの真意に気付いたテオバルトだったが、身分の低い母親から産まれ、その母も今は亡く、何の後ろ盾もないテオバルトに、第一王子で嗣子であるラダーに逆らう術はなかった。

かくしてテオバルトは奴隷商に身をやつし、エパティークとともに銀竜を呼び出すという夢物語のような旅へと旅立つことになった。』

うわー……、すごいふつうでまともなファンタジーだ(笑)

ストーリーは、銀竜を呼び出すために旅をするテオバルトとエパティークが当初は反目し合いながらも、途中買われてきたエレンという少女との触れ合いも通じて、エパティークがオクトスでの実情を知り、変わっていく過程を中心に、テオバルトと和解し、互いに心惹かれ合っていく、と言うありがちなファンタジー。
ストーリー自体に目を瞠るようなネタや展開はなく、エパティークの心の変化がさほど長くない旅では早すぎるきらいがあるものの、気になるところはそれくらいだろうか。
同じことがテオバルトにも言えるのだが……。
他にも、カロルという島がどの程度の大きさの島なのか、と言った基本情報がすっぽり抜けていて、世界観が掴みにくいと言う難点がある。
いいところとしては、伝承されている詩を効果的に使って、エパティークとテオバルトが惹かれ合う姿や、銀竜の伝説を語っていると言うところだろうか。

文章も基本はエパティークとテオバルトの視点から交互に描かれており、文章の作法も問題なく、ラノベとしてはかなりまっとうな部類に入る。
たまに主人公ふたりとは違う視点で描かれる場面があるので、きちんとふたりの視点だけで書いてほしかったと言う面はあるものの、そこまでひどいわけではないのでここはまだ許容範囲内だろう。

あとはキャラだが、上記のようにエパティーク、テオバルトともに心の変化が性急なのがキャラをブレさせる一因となっている。
テオバルトも実際は妹姫のロザリーをかなり可愛がっているのだが、当初はそんなところがしっかりと描かれていないので、銀竜召喚が成功した暁にラダーに望んだ条件なども唐突に見えてくる。
エパティークにも王女としての矜持や、それを見直し、変わっていく過程が表現不足の感があって、やはりキャラのブレが見え隠れする。
ありがちとは言え、ストーリー全体としては悪くないだけに、キャラがこれなのは残念ではある。

と言うわけで総評だけど、キャラのことに目をつむれば、ファンタジーの王道のひとつなので割合安心して読める作品とは言えるだろう。
いまのところ3巻まで出ているとは言っても、この1冊でとりあえずの完結を見ているので、2巻以降を読むかどうかの判断もしやすい。
いいところ、悪いところ、双方ともにあってやはり及第と言ったところになるだろうか。
ファンタジア文庫であまり期待していなかったぶんだけ、好印象ではあるのだけど、さすがに良品とは言い難いので、こういう結果に落ち着くのが妥当なところだろう。
ネタバレになるので言えないのだけど、個人的には2巻以降、エパティークとテオバルトふたりの関係をどう展開してくれるのか、興味はあるので読むとは思うけど……。

それにしてもAmazonでの評価は高いものの、新品がすでに2巻以外手に入らないってのも何だかなぁって感じだね。
まぁ、ストーリーもキャラも王道で、ツンデレとかキャラに萌えるような作品でもなく、アクションが充実しているわけでもないので、悪くない話ながらもあんまり人気は出なかったんだろうなぁ、とは思うけど。


――【つれづれナビ!】――
 ◆ 『ライトノベル一覧表(その1)』へ
 ◇ 『つれづれ総合案内所』へ