つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

う~ん、こんなもんか……

2012-04-15 14:45:42 | 恋愛小説
さて、第1008回は、

タイトル:雨恋
著者:松尾由美
出版社:新潮社 新潮文庫(初版:'07)

であります。

相方が読んでいましたね、この人(笑)
読み返してみると、なかなかミステリとしてはそれなりの評価をしているようですが、本書はミステリではなく恋愛小説。
紹介文には「驚愕の事実」とか、「名手が描く、奇跡のラブ・ストーリー」とか、煽りまくってくれているけれど、どうなることやら……。

ストーリーは、

『沼田渉は、些細なことでアパートの隣人との関係が険悪になったことで、引っ越したいと考えていた。
そこへ降って沸いたのが叔母の寿美子がロサンゼルスへ異動になったために、住んでいたマンションと管理と2匹の子猫の世話を兼ねて住んでみないかという話だった。
結局、その話を承諾し、叔母のマンションに引っ越してきた渉だったが、そこにいたのは2匹の子猫だけではなかった。

ある日、マンションに帰ってきて家事をしていると、リビングのほうから話し声が聞こえた。自分以外は誰もいないはずの部屋で聞こえる声に薄気味悪さを抑えながら入っていくと、はっきりと声が聞こえる。
声の主は小田切千波。このマンションで自殺したとされるOLだったのだが、千波の話では自殺ではなく、誰かに殺されたと言うのだ。
実際、自殺しようとして遺書も書き、青酸化合物も手に入れた千波だったが、青酸化合物を飲むために開けたシャンパンのコルクが天井につり下げられた扇風機に引っかかったことがきっかけで自殺を取りやめたのだが、どうやらそこに居合わせた誰か――犯人に――扇風機に引っかかったコルクを取ろうとして椅子から転げ落ち、気絶した千波に青酸化合物の入ったシャンパンを飲ませて殺害した、らしい。

犯人が誰なのか知りたいのか、未練があるのか、死んでから千波は幽霊としてマンションに現れるようになっていた。
渉としてはこんな幽霊がいては精神衛生上よろしくない。単なるオーディオメーカーの営業に過ぎない渉に何ができるかはわからないものの、千波からの情報を得て、渉は犯人捜しに協力することになるのだが……』

ミステリ風味の恋愛小説もどき――。
第一の感想はそんなところでしょうか。

ストーリーは、犯人捜しに協力することになった渉が、いろいろと情報を得て犯人である可能性のある人物に会ったり、話をしたりして、千波の他殺を証明しようとする中、千波はと言うとひとつひとつ可能性をつぶして納得していく過程で、声だけだった姿が足だけ見えるようになり、ひとつ納得していくと今度は下半身、上半身と姿を取り戻し、それに渉は不気味さと居心地の悪さを感じつつも千波に惹かれていく、というもの。
犯人捜しの手法は、ミステリっぽいものですが、あくまで「っぽい」だけで「驚愕の事実」というほどのトリックがあるわけではない。
恋愛小説部分も、どこが「奇跡のラブ・ストーリー」なのか教えてもらいたいくらい、淡々と進んでいく。
文体が渉の一人称なので、その心の動きはしっかり描かれてはいるものの、さして感慨を覚えるような展開はない。
まぁ、相手が幽霊なので、恋愛小説としてのオチは定番なので、そこに切なさを感じるかもしれないけれど、私にはまったくそういった感慨は感じられなかった。
ミステリとしても恋愛小説としてもなんか中途半端で、消化不良を起こしてしまいそうな感じかなぁ。

ストーリー展開としては無理はない。
「驚愕の事実」はないにしても、犯人捜しから解決に至るまでの流れはスムーズで破綻はないし、納得できる内容にはなっている。
文章も渉の一人称の範囲を逸脱することなく、視点がぶれることもないので読みやすいほうでしょう。
雨の日にしか現れることができない千波を、最初は薄気味悪く、また姿が見えるようになってからの不気味さから、千波に惹かれていく展開も、うまく描いているほうでしょう。
共感できるかどうかは別として。

ただし、作品としてはよくまとまったものだとは言えるけど、恋愛小説と言うほど甘さや人間関係のドロドロした部分もなければ、雰囲気も感じられない。
解説ではいろいろといい点を挙げてはいるものの、はっきり言ってそこまで褒めるような内容になっているのか疑問……。
唯一、あぁ、そうね、って思えるのは「雨恋」が「雨乞い」でもある、と言うところくらいだろうか。
千波は雨の日にしか出てくることができないのだから。

なので、総評としてはかなり微妙なライン……。
客観的に見て、ストーリー展開とかには難がないものの、個人的には雰囲気も余韻もなく、おもしろみに欠ける作品と言ったところだから、及第にするべきか、落第にするべきかが悩ましいところ。
まぁ、あえて判断するとすれば、紹介文のまずさから、落第と言ったところかな。
ホント、いったい何をもって「驚愕の事実」だとか「奇跡のラブ・ストーリー」なのか、書いた人間の顔が見てみたいくらいの内容なので、紹介文にだまされて読むとバカを見る、と言うところでマイナスをつけておきましょう。


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