つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

本当に久々だと思う

2006-05-23 20:21:23 | 伝奇小説
さて、たまには、ということで第539回は、

タイトル:ブルー・マン〈神を食った男〉
著者:菊地秀行
文庫名:講談社文庫

であります。

菊地秀行の伝奇ホラーです。
超絶美形の殺人鬼・八千草飛鳥が悪を……斬らない、つーか、こいつ自体がかなりの悪。(笑)

18歳で57人を惨殺した殺人鬼・八千草飛鳥。
類い希なる美貌を持ちながら、肉欲と殺戮欲に支配されたこの男に、一柱の神が降臨した。
かつて日本を闇の側から支配し、渡来の神によって駆逐された――国津神と呼ばれる存在である……。

再び現世に害を為さんとする災神を打ち破るため、日米の猛者が奈良に集結した。
だが、神は用意された依代には降りず、大仏の指の示す先にいる青年を選んだ。
法力、呪力、超能力を駆使して、彼らは飛鳥を追った!

何というか……菊地ですね。

普通の人間に神が宿り、スーパーパワーを発揮する、ここまでは至って普通。
問題は、宿った相手がサドでヘタレで外道だと言うこと――しかも、改心したりしない。
神の力を使ってやりたい放題やります、おおよそヒーローらしいところは一つもありません。

気に入った相手は全部食う!(色んな意味で)
権力者に近づいて身の保身を計る!(死体の始末もそっち持ち)
強いヤツにボコられたらひたすら逃げる!(泣いて命乞いをする場合もあり)

素晴らしくセコイですね。(笑)

このセコさがキャラを立てているんだから、世の中面白い。
力を手に入れた途端に聖人君子になったり、軟弱ながらも努力する主人公ってのはよく見かけますが、ここまで情けない主人公って初めて見ました。
これが単に情けないだけなら愛嬌があるんですが、やること為すことすべてが自分の欲望の発散のためだけという外道なので同情の余地なし。

それでも、その美貌だけで人がふらふら~っとなってしまうのはさすが菊地と言うべきでしょうか。
敵も餌食も一般人も、飛鳥の顔だけは褒めてます……それ以外は相手にしてもらえないのだけど。
ちなみに一つだけやった善行『某少女の敵討ち』も、顔絡みでした、ある意味不幸な人物かも知れない。

ストーリーは……まぁ、あってないようなものです。
国津神と天津神の因縁とか、法力がどーしたとか、ESPがどーたらとか、日本の支配者は古来より~云々とか、それっぽいネタは転がってるけど大した特徴なし。
よーするに、強力な力を持った存在が出現したんで、それを巡って怪しい方々が暗躍する、それだけです。(伝奇物って大体そうか?)

菊地ファンならオススメ、なのかなぁ?
例によって御子様にはオススメできません。

最大のサプライズは――これ、一冊で完結していないこと。
かなり中途半端な終わり方の後に、「この物語はさらにつづく」と言われた日にゃ、目が点になりました。
続き読むか? と聞かれたら、別にいーやと答えますが。(笑)