さて、珍しい文庫を手に取ってみた第729回は、
タイトル:帝国の娘 (前編) 流血女神伝
著者:須賀しのぶ
出版社:集英社 コバルト文庫(初版:H11)
であります。
須賀しのぶの長編ファンタジー。
ルトヴィア帝国皇帝候補・アルゼウス皇子の影武者となった少女カリエの戦いを描きます。
私はコバルトにはあまり手を出さない方なのですが、評判良いので読んでみることにしました。
*
寒空の下、カリエは猟銃を手にして獲物を探していた。
いつもは反対する父が、何故か今日に限って狩りを命じたからだ。
出かける時、母が商品にする予定の外套をかけてくれたのも妙だった。
寒さに耐えかねて道を引き返す途中、カリエは一人の美しい青年に出会った。
彼の名はエディアルド。カリエを迎えに来たのだと言う。
状況を飲み込めないカリエに、エディアルドは冷たく言い放った――お前はもう、両親のもとへは帰れない。
意識を取り戻した時、カリエは自分が四大公爵一つ・ゼカロ家に売られたことを知った。
現れたルドヴィア帝国皇妃フリアナは、熱病に犯された自分の息子アルゼウスの身代わりにカリエを選んだことを告げる。
ルドヴィア帝国には特殊な皇位継承制度があり、皇帝候補者たる者は十四歳になる前にカデーレ宮に入らねばならない……が、今のアルゼウスは歩くこともままならぬため、顔姿の似たカリエを代役として連れて来たのだ。
エディアルドの厳しい訓練に耐え抜いたカリエは、春の訪れとともに皇都を目指すのだが――。
*
で、とりあえず読んでみたのですが――。
この作者、思いっきり『樹なつみ』属性じゃねぇかっ!
かなり面白かったです、はい。
キャラもストーリーもど真ん中ストレートに王道なのですが、とにかく作りがしっかりしている。
カリエ個人の物語に、現在の情勢や帝国の歴史等を無理なく織り込んでおり、ミクロなドラマとマクロなドラマを綺麗に同時進行させています……上手い。
で、その主人公カリエですが――かなりハイスペックだったりします。
たかだか三ヶ月の訓練で礼儀作法を身に付け、皇帝と居並ぶ貴族の前できっちりアルゼウス皇子を演じきるって……どういう度胸と知能指数してるんだか。
しょっちゅう他人の裏を読むし、学習能力は高いし、根性座ってるしと、とんでもなく強力なヒロインです。完全なる王道キャラですが、格好いいので問題なし。
もっとも、そこは若干十四歳の少女、完璧超人というわけにはいきません。
エディアルドの前では素に戻ってしまうし、精神的打撃を受けるたびにどん底まで落ちるし、気に入った人物の前では仮面があっさり剥がれるしと、とにかく感情の起伏が激しい。
あと、物凄く惚れっぽいという弱点があり、これが出るとお馬鹿指数が増大してトラブルを引き起こします。つーか、『運命の相手』が今まで三人いて、今回現れた美形剣士で四人目って――をい!(笑)
そんな、カリエを押さえるのが従者にして相棒のエディアルド。
いわゆる外見堅物、中身御子様な彼氏役の典型で、冷血顔と怒り顔をいったりきたりしつつ、たまにささやかな優しさを見せて株を上げるという常套手段を使ってきます――基本ですね。
皇子に心酔しており、こんな小娘に『私の皇子』の身代わりができるものかぁ~! とばかりに冷たい態度でカリエをしごきますが、怒りが頂点に達すると美形らしからぬ口調にチェンジするのは結構笑えます。
ストーリーですが、男装した女の子が美形の男に囲まれてアン×ェリークごっこを――。
じゃなくて(それもないとは言えんが)、皇帝候補として奮闘するカリエの成長物語です。
いくら頑張ったところでエドは褒めてくれないし、かといって手ぇ抜くのはプライドが許さないし、弟属性バリバリの皇子様は守ってあげたいし、自分と皇子が似てるのはもしかして……といった彼女の葛藤を上手く描いています。
カリエが現在の位置に立つことになった背景、サブキャラ達の立場、他国との関係にもかなりのページを裂き、大河物としても読めるように仕上げているのは見事。
文句なし、三重丸のオススメ。
『惚れっぽい猪(作者談)』の活躍を御堪能下さい。(笑)
下巻は、出番のなかった他の皇子達が登場してさらに盛り上がるようですが、それについてはまた来週。
――【つれづれナビ!】――
◆ 『流血女神伝』のまとめページへ
◇ 『ライトノベル一覧表(その2)』へ
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タイトル:帝国の娘 (前編) 流血女神伝
著者:須賀しのぶ
出版社:集英社 コバルト文庫(初版:H11)
であります。
須賀しのぶの長編ファンタジー。
ルトヴィア帝国皇帝候補・アルゼウス皇子の影武者となった少女カリエの戦いを描きます。
私はコバルトにはあまり手を出さない方なのですが、評判良いので読んでみることにしました。
*
寒空の下、カリエは猟銃を手にして獲物を探していた。
いつもは反対する父が、何故か今日に限って狩りを命じたからだ。
出かける時、母が商品にする予定の外套をかけてくれたのも妙だった。
寒さに耐えかねて道を引き返す途中、カリエは一人の美しい青年に出会った。
彼の名はエディアルド。カリエを迎えに来たのだと言う。
状況を飲み込めないカリエに、エディアルドは冷たく言い放った――お前はもう、両親のもとへは帰れない。
意識を取り戻した時、カリエは自分が四大公爵一つ・ゼカロ家に売られたことを知った。
現れたルドヴィア帝国皇妃フリアナは、熱病に犯された自分の息子アルゼウスの身代わりにカリエを選んだことを告げる。
ルドヴィア帝国には特殊な皇位継承制度があり、皇帝候補者たる者は十四歳になる前にカデーレ宮に入らねばならない……が、今のアルゼウスは歩くこともままならぬため、顔姿の似たカリエを代役として連れて来たのだ。
エディアルドの厳しい訓練に耐え抜いたカリエは、春の訪れとともに皇都を目指すのだが――。
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で、とりあえず読んでみたのですが――。
この作者、思いっきり『樹なつみ』属性じゃねぇかっ!
かなり面白かったです、はい。
キャラもストーリーもど真ん中ストレートに王道なのですが、とにかく作りがしっかりしている。
カリエ個人の物語に、現在の情勢や帝国の歴史等を無理なく織り込んでおり、ミクロなドラマとマクロなドラマを綺麗に同時進行させています……上手い。
で、その主人公カリエですが――かなりハイスペックだったりします。
たかだか三ヶ月の訓練で礼儀作法を身に付け、皇帝と居並ぶ貴族の前できっちりアルゼウス皇子を演じきるって……どういう度胸と知能指数してるんだか。
しょっちゅう他人の裏を読むし、学習能力は高いし、根性座ってるしと、とんでもなく強力なヒロインです。完全なる王道キャラですが、格好いいので問題なし。
もっとも、そこは若干十四歳の少女、完璧超人というわけにはいきません。
エディアルドの前では素に戻ってしまうし、精神的打撃を受けるたびにどん底まで落ちるし、気に入った人物の前では仮面があっさり剥がれるしと、とにかく感情の起伏が激しい。
あと、物凄く惚れっぽいという弱点があり、これが出るとお馬鹿指数が増大してトラブルを引き起こします。つーか、『運命の相手』が今まで三人いて、今回現れた美形剣士で四人目って――をい!(笑)
そんな、カリエを押さえるのが従者にして相棒のエディアルド。
いわゆる外見堅物、中身御子様な彼氏役の典型で、冷血顔と怒り顔をいったりきたりしつつ、たまにささやかな優しさを見せて株を上げるという常套手段を使ってきます――基本ですね。
皇子に心酔しており、こんな小娘に『私の皇子』の身代わりができるものかぁ~! とばかりに冷たい態度でカリエをしごきますが、怒りが頂点に達すると美形らしからぬ口調にチェンジするのは結構笑えます。
ストーリーですが、男装した女の子が美形の男に囲まれてアン×ェリークごっこを――。
じゃなくて(それもないとは言えんが)、皇帝候補として奮闘するカリエの成長物語です。
いくら頑張ったところでエドは褒めてくれないし、かといって手ぇ抜くのはプライドが許さないし、弟属性バリバリの皇子様は守ってあげたいし、自分と皇子が似てるのはもしかして……といった彼女の葛藤を上手く描いています。
カリエが現在の位置に立つことになった背景、サブキャラ達の立場、他国との関係にもかなりのページを裂き、大河物としても読めるように仕上げているのは見事。
文句なし、三重丸のオススメ。
『惚れっぽい猪(作者談)』の活躍を御堪能下さい。(笑)
下巻は、出番のなかった他の皇子達が登場してさらに盛り上がるようですが、それについてはまた来週。
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