阪堺電車は大阪に残る唯一の路面電車で、阪堺線と上町線の2路線でもって大阪市内と堺市内を結んでいます。阪堺線は通天閣の足元の恵美須町駅と、堺の海浜公園である浜寺公園に直結する浜寺駅前駅間を。上町線は大阪市内南部のターミナルである天王寺駅前駅と、住吉大社の直前、住吉公園駅間となっているが、電車は利用実態に合わせて、現在は上町線の天王寺駅前から阪堺線の浜寺駅前までを直通とし、阪堺線の恵比須町側は区間運転となっています。
今回はこの路面電車で堺までのミニトリップを楽しむことにします。始発の天王寺駅前は、今は再開発の真っ盛り、薄暗い、廃墟のようなアーケードは今は無く、完成すると日本一の高さのビルとなる阿部野橋ターミナルビルや、「渋谷109」や「イトーヨーカドー」を核とする大規模SCが建設中。これらが完成すると、この辺りの人の流れも一変するんではないかな。
天王寺駅前を出発してしばらくは阿倍野筋を進み、松虫駅の手前で阿倍野筋から分かれて少しだけの専用軌道。再び路面区間と専用軌道を繰り返しながら、大阪屈指の高級住宅街の帝塚山、大阪の古刹の住吉大社を過ぎると我孫子道駅です。ここに阪堺電車本社と車庫があるんですね。
大和川を渡ると、そこからは堺市。静かなビジネス街のような宿院で電車を降りました。このあたりは昔は映画館があったりしてかなり賑わっていたらしいが、今はそれほどの人通りはありません。道が広くなって自動車の交通量が増えると、誰もが通過してしまう街になってしまったのでしょうか。それでも、ここには旨いもんがいっぱいあるんですね。
宿院からフェニックス通りを西に歩いて旧堺港のほうへ。歩くのは結構な距離だが、電車はおろかバスもろくに走っていません。堺市内は南北の交通は充実しているが、東西の交通が希薄であることを実感します。
港まで来たのはワタシの旅でのお約束、灯台を見るためです。これは明治10年に完成し、昭和43年まで使用されていた木製の六角形の灯台で、国の史跡。当初の光源は石油ランプで、約18キロメートル先まで灯台の光が届いたそうです。しかし、堺泉北臨海工業地帯の埋め立てによって海岸線が移動し、陸側に取り残された灯台は昭和43年に廃止され、90年の歴史に幕を閉じたとのこと。
灯台のすぐ近くに大浜公園があります。ここは明治の末期に陸軍の砲台跡(御臺場)を大阪府が公園にして開園したもので、水族館や、海水を利用した浴場「大浜潮湯」があったそうです。大浜潮湯は戦前、美章園温泉、源ヶ橋温泉とともに「大阪3大温泉」と称されたそうだが、いまや源ヶ橋温泉しか残っていませんね。
この公園の中に蘇鉄山という標高6.84mの築山があります。この山頂には一等三角点があり、一等三角点のある山としては日本一低いのだそうで、低さを争っている天保山と同様、ここでも山岳会が結成されていて登山認定書を発行しています。
旧堺港の脇の遊歩道をぶらぶら歩いて南海堺駅へ。ここから南海電車では一駅だが、そこを敢えて南海バスで湊へ向かいます。湊には「大浜潮湯」の名残、海水のお風呂があります。
この湊からは少し前まで大阪市バスが出ていたんです。堺市内なのに大阪市バスが走っているは不思議なのだが、戦前に走っていた阪堺電鉄という路面電車が戦時中のドサクサで大阪市営の阪堺線となり、大阪市電全廃によって市バスに引き継がれた、その名残なのです。さすがに今は区間が短縮されたが、それでも南海電車の堺駅から大和川を渡って大阪市内と結んでいます。
この堺市では、最新の路面電車(LRT)の新路線を大小路に通して東西交通を活性化させようとの思いがあったようです。ところが、市長が変わってこの計画も頓挫、LRTは夢と消えるとともに、その余波で阪堺電車の堺市内区間の廃止という危機が訪れました。さすがに阪堺電車の廃止は影響が大きいので、堺市の補助により存続することにはなったものの、堺市内区間の乗客数を増やすことが喫緊の課題です。上町線への直通化もその施策のひとつ。最近少しばかり乗客が増えてるように感じるのは嬉しい限りです。
- 訪問日:2011年2月3日