米国製のPAC-3パトリオット・ミサイル
アメリカ合衆国は世界最強の軍事大国であり国際社会の指導国を自認している。では、米国の外交政策において「北朝鮮の核脅威」をはじめとする朝鮮半島問題は、どれほどの重要度を占めるのだろうか。
今回、朴槿恵大統領の訪米を見守るなかで、朝鮮半島問題の優先順位が決して高くないことを実感した。首脳会談後の記者会見では四人の記者が質問した。二人は米国メディアの記者だ。その質問はシリアの内戦とアメリカ軍内部の性的暴行事件に関する内容で、朝鮮半島問題や米韓関係とはほぼ無縁な話題だった。米国民の関心がどこにあるのかを端的に示す質問だが、韓国大統領との共同記者会見だったのでかなりの違和感を覚えた。
米国の外交政策において、常に最優先の順位を占めるのは中東問題と言われている。現状ではシリア事態であろう。シリア政府が化学兵器を使用した疑惑が浮上し、イスラエル軍はシリアを攻撃した。そしてイランが中東のイスラム諸国に向け、イスラエルに対抗する共同戦線を主張している。緊迫するシリア事態を前にしては、米韓首脳会談の比重も低下せざるを得ないところだ。
米政府において国務長官の占める位置は際立っている。その存在感は副大統領をも超えると言えよう。当然ながら、韓国大統領を迎える会談の場に参加しているはずだ。しかし、ジョン・ケリー国務長官は一度も顔を見せなかった。彼は一体、どこで何をしていたのか...。
朴槿恵大統領がワシントンに到着した数時間後、彼はロシアに向け出発している。プーチン大統領とシリア事態の対策を講じるためだ。周知の通り、内部にチェチェン問題を抱えるロシアはアサド政権を擁護し、イスラエルの安全保障には政権交代が不可欠とする米政府は反政府軍を支援してきた。三時間に及んだ会談の末に米露はシリア事態への打開案に合意した。5月下旬に、アサド政権と反政府軍の間で平和交渉を開始するという内容だ。
米韓首脳会談で、朝鮮半島の平和体制に向けた具体的な提案は一切なかった。両首脳は、国連安保理の対北制裁決議が唯一の解決策と見ているようだ。中国の積極的な協調をくり返し主張するのは、北朝鮮との困難な交渉を推進する意思も代案もないからだろう。
今回の米韓首脳会談は国務長官が不在であり、実務責任者であるアジア・太平洋地域担当次官補も任命されていない状況で開かれた。これが、米国外交における朝鮮半島問題の位置づけであり、「北朝鮮の脅威」に対する危機認識のレベルと言えよう。米政府は“北朝鮮による先制攻撃”を想定していない。よって、朝鮮半島問題を緊急な解決課題とは見ていないのだ。
その一方で、米政府は米韓首脳会談でも抜け目なく国益を確保している。朴槿恵大統領は歴代の韓国大統領に劣らない歓待を受けた。だが、請求書は高額だった。オバマ大統領は共同記者会見で、韓国政府の「シリア反政府軍に対する支援」を要請した。また、北朝鮮のミサイル脅威への対処として「ミサイル防衛網(MD)への共同投資」を強調している。
米韓同盟60周年が声高に謳われているが、MD計画への無分別な参与は米国製武器の購入拡大と膨大な軍事費負担につながるだろう。また、南北関係だけでなく、中国との関係も緊張することは明らかだ。金大中政権期にも米政府はMDへの参与と迎撃ミサイルの購入を強要したが、当時の千容宅(チョン・ヨンテク)国防長官は次のように説得したという。
「われわれは南北関係を改善して、北が核兵器やミサイルで南を攻撃しないように良好な関係を築くつもりだ。だからミサイル防衛の話はやめよう。」
朴槿恵大統領は米議会の演説で、非武装地帯(DMZ)に世界平和公園を作る構想を発表した。三千里鐵道としても歓迎すべき話だが、素朴な疑問が頭をよぎる。朝鮮半島の平和体制を念頭に置かず、そして北との和解・協力なしに、「DMZの世界平和公園」が果たして可能だろうか? 2013.5.12 JHK