君とともに生き、君とともに逝くのならば、僕は君の為に生きよう。

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『君がいる幸せ』 Artemisia編 二章「心の中は」 三話「遺伝子の記憶」

2012-10-16 00:32:09 | 『君がいる幸せ』Artemisia編二章 心の中は
☆アニメ「地球へ…」の二次小説です。
<人物>
ジョミー キースの警護をしていたが今は教育ステーションに在学中 ジュピターは宇宙の軍を動かせる権限を持っている
キース・アニアン ノアの首相 人類の評議会議長を兼任
ソルジャーズ 人類が作ったブルージョミーのクローン(タイプブルー)
シド ミュウの優秀なパイロット シャングリラのキャプテン 今はジョミーの専属

   『君がいる幸せ』 Artemisia編 二章「心の中は」 三話「遺伝子の記憶」

  メサイア上空 シャングリラ 
 僕はソルジャーズの二人を迎えた。
「単位ギリギリのブルーを連れてくるのは大変だったんじゃない?」
「移動中もレポートやってたよ」
 ジョミー達がブルーとネタにして笑った。
「まだ残ってる…」
 ウンザリしたような顔でブルーが言った。
 そんな二人だったが、この急な旅立ちを楽しんでいた。
「ジョミー。出航準備整いました。艦橋に来て下さい」
 シドに呼ばれた僕らは艦橋に向かった。
「目的地、ソル太陽系第三惑星地球」
 シドの声と共にシャングリラはメサイアの空港からゆっくりと離れていった。
 見送っているのはトォニィと彼の親衛隊の者達だけだった。

 惑星メサイアを離れ通常航行に入ったので僕達は後をシド達クルーに任せて艦橋下の庭園に降りた。
「前に太陽系に行った時はワープの連続で本当に大変だったから、今度はゆっくり行けそう」
 とソルジャーズのジョミーが言った。
 僕の後ろを歩いていたブルーが道をそれて大きな木の下に上って行った。
 それを見て僕も上がろうとしたがちょっと道と芝生との段差が大きかった。
「……」
 僕のその姿を見たジョミーがサッと芝生へ上がり僕に無言で手を差し出した。
「ジョミー」
 僕は彼の手を掴んで芝生へ上がった。
 僕ら三人は教育ステーションのグレーの制服を着ていたから、芝生に座るとまるで学校の校庭にいるようだった。
 上の艦橋からシド達が手を振っていた。
 僕達はそれに手を振って答えた。
「彼らにとってもここは家なんだろうな…」
 この庭園には大戦時に仲間の遺体が並んだ事もあった。
 それでもここは皆の憩いの場だった。
「ジョミー。何故、僕達を連れて行こうと思ったの?」
「…それはね。きっかけはトォニィの提案だけど、前に行った時に君たちはブルーをちゃんと見れていないから会わせたいと思ったんだ。それに地球にも行けるかもしれない」
「それだけ?」
「んー…」
 僕は芝生の上に寝転んで寝息をたて始めたブルーをチラッと見た。
「…ここまでずっとレポートやってたから…寝ちゃったね」
 ジョミーが言った。
「みたいだね。君たちに聞きたい事があったんだけど…ジョミー、君は僕をどう見てる?」
「どうって…最強のミュウとかかな?」
「君は僕のクローンだから、僕の記憶を埋め込まれているんだよね?それと、自分の本当の記憶とどう折り合いを付けているんだ?」
「ジョミーの、ソルジャー・シンの記憶は記録のような感じで、本を見てるようになってる。すーっと読める時もあれば感情移入するような時もある。でも結局は自分の記憶の方が鮮明で、培養ポッドから見る世界ばかりだけど、あれが僕の世界の全部だったから…」
「そうか…ブルーもそんな感じでいいのかな?」
「みたいだよ」
「そっか…」
「どうしたの?」
「あのさ、僕も君たちと同じジョミーのクローンのような物だよね?だけど、ちょっと違うな…と思ったんだ」
「ジョミーはジョミーのクローンなんかじゃないよ。本人だ」
「ん、でも…最近、前の僕の記憶や気持ちが嘘だったような気がするんだ」
「それは、きっと時間をワープし過ぎたからだよ…」
「かもしれない…でも、前に僕がしてきた事が偽善や欺瞞。ただの計算高いだけに思えて…どうしようもないんだ」
「偽善でも欺瞞でも計算でも。それでも、僕らはジョミーに助けられた」
「それも、君たちを敵にしたくなかっただけかもしれないんだ」
「それでもいい。僕達にも計算はあった。人類とミュウのどっちが僕達にとって一番良いのかを僕らは選んだんだ。その選ぶチャンスを僕達にくれたのはジョミーじゃないか!」
「……」
「だから。記憶がどうのって…それって、過去の自分が許せないとか、認められないとかじゃないの?」
「…そう。僕は間違ったんじゃないかと思っているんだ」
「何一つ間違えない人間っているの?」
「ジョミー…君は…」
「ブルーは僕を選んで僕を残し、生かした。でも、それは…僕じゃない僕の方がもっと上手くやっていけてるんじゃないかって思う時があるよ……」
 そう言ってジョミーは向こうを向いてしまった。
「ごめんね。ジョミー」
「……」
「僕はミュウの力と僕自身と共に何かを何処かに置いてきてしまったようだね…。今回はそれを探す旅なんだ。それで、「月」へ…、ブルーに会いに行く。そして、君たちをブルーにちゃんと会わせようと思っただけなんだ。ごめんね、ジョミー。自分が死んでゆくのを見させられるのは辛いよね…君に嫌な思いをさせる気はなかった…僕は先に部屋へ戻っているからね」
 ジョミーは僕が自分をクローンだという発言を良く思っていないのは知っていた。
 彼を泣かせるつもりも、辛い事を思い出させる気も無かったのに…、ただ、彼らを月に連れて行くのは、二人には僕とブルーの想いを知っていて欲しかっただけだ。
 僕はどうしてしまったのだろう。
 本当に何かを何処かに置いてきてしまったかのようだった。
 それは、月にはあるのだろうか?

 何を求め…何を望む…。
 その先にそれはあるのか?

  シャングリラ 庭園
「泣いてる…?」
 寝ていたはずのブルーがジョミーの手を優しく掴んで言った。
 ブルーは目は開けずに上を向いたままだった。
「起きていたの…」
「ジョミー。君と僕は二人が二人共、お互いを選んだんだ。そこを何も悩む事はない。自分の為に自分で選んだのだから…それが悲しいなら僕も一緒に泣く。僕は君の傍にいる。誰でもない君のすぐ横にいる。こうして手を伸ばせば届く距離にずっといる。僕も不安になる時はある。でも、君がいたからこうして生きている。だから、未来に何があるかわからないけれど…僕達は二人で前に進もう」
「ブルー」
「ジョミーが居てくれて…良かったと僕は本当に思うんだ。居なかったら…きっと…今の僕はいない」
「今の言葉…全部、ジョミーに言ってあげてよ」
「僕が?」
「君の事を彼は好きだと気がついているのに黙っているから…君の言う事なら素直になれるんじゃないかな?」
「それは違うよ。ジョミーはソルジャー・ブルーが好きなんだ。クローンの僕に彼の面影だけを見てる。でもそれは、その想いは僕を怖いと思っているんだ」
「ジョミーが君に惹かれているから怖いんでしょ?」
「そうだね。でもそれはただの恋じゃない…僕達がミュウと暮らし始めた頃、スメールで僕とキスしたって事があったろ?カナリアにも迷惑をかけたあの…」
「うん。覚えてる」
「あのキスは…恋とか愛とかじゃなかったんだ。僕が彼の恐れを知って、それで…利用しようと思って落とそうとしたのが事実で、でも、ジョミーが僕を欲したのも事実なんだけど…でも…」
「……」
「あの時のジョミーは、今と違って世界を滅ぼせる力があった。そんな彼の前に想い続けている者が現れた。ジョミーは僕が望んだら悪魔にもなれたんだ。僕が人とミュウを憎んでいて、それで、僕が彼を僕の意のままにして、人類を滅ぼしてしまおうと言ったら彼はそれを難なく実行できたんだ」
「だから…偽善や欺瞞なのか…」
「そこまでブルーを愛していたって事だな…。また再び戦争を起こすなんて生易しいものじゃない…滅ぼしても余りある力だったんだ。だから、彼は僕にキスをした。あの時ならそれ以上の事も許したかもしれない。あれは「別れの儀式」だった。あのキスは、ブルーに対する想いへの別れと、僕への恐れへの歯止めの為の…」
「世界を滅ぼさない為の…キス…」
「なんで…そんな愛し方しか出来ないんだろうな…」
「ジョミーがそんな愛され方をしたから…かな…」
「それなら…切ないな…」

「ねぇ、ブルー。僕が君を好きだと思うのは、僕に組み込まれた遺伝子の記憶の所為なんだろうか?」
「…それは、違うと思う」
「違うの?」
「記憶の所為だったら、僕はジョミー本人を好きになっているはずだ。僕は君が好きなんだ」
「……」
 ジョミーはブルーの手を組みなおし、そっとキスをした。









「僕が成長出来ないのは…何も知らなかったあの頃に…戻りたいからなのか…」
 ジョミーはそっと庭園を出て行った。
「僕が今、明日を望まない…なんて言ったら…貴方はどんな顔をして何を言うのかな?」
 ジョミーの頬に一筋の涙がつたった。




   続く








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