君とともに生き、君とともに逝くのならば、僕は君の為に生きよう。

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『君がいる幸せ』 Artemisia編 二章「心の中は」 二話「トォニィ」

2012-10-10 01:21:49 | 『君がいる幸せ』Artemisia編二章 心の中は
☆アニメ「地球へ…」の二次小説です。
<人物>
ジョミー キースの警護をしていたが今は教育ステーションに在学中 ジュピターは宇宙の軍を動かせる権限を持っている
キース・アニアン ノアの首相 人類の評議会議長を兼任
ソルジャーズ 人類が作ったブルージョミーのクローン(タイプブルー)
シド ミュウの優秀なパイロット シャングリラのキャプテン。今はジョミーの専属。

   『君がいる幸せ』 Artemisia編 二章「心の中は」 二話「トォニィ」

 ペセトラで戦艦ゼルにベルーガを積み込みメサイアへと向かった。
 僕がメサイアへ戻って来る事は皆には知らせていなかったので、メサイアでの検査の後は、何をする訳もなく、軌道上の空港でシャングリラへと乗り換えるだけだった。
 僕はここでトォニィと会う時間を持った。

  メサイア上空の空港 
「カリナは元気?」
「最近は風邪もひかなくなったよ」
 そんな会話で始まった。
「ここでの検査はどうだったの?」
「ん、異常無しだったよ」
「だったら、成長を止めているのは、やっぱりジョミー自身になるね」
「そうなる…ね」
「体調を普通の状態にするのに一年以上かかったから、成長はその後でいいと思ってるんじゃない?」
「かもしれないね。体力的な事を考えても、成長させるのに問題が出そうなくらいの体力しかないし…」
「前は成長を止めて、今は成長させようと思っても…成長しない…」
「そう…」
 心と身体がちぐはぐなんだね、とトォニィが言った。
 それは昔、身体を無理やり成長させたトォニィが経験してきた事だった。
 身体の成長に心が付いて来れなくて、彼は苦労していた。
 生まれてから戦う事しかしてこなかった彼が自分も「心」があるんだと自覚したのも戦いの中だった。
「ナスカで僕が自分を成長させて、その後、心も変わってきたと思ったのはアルテラの死だった…それと、ジョナ・マツカを殺した時も心が動いた…」
「……」
「…こんな…体験じゃ助言にならないね…」
「ううん。トォニィ。僕らは何かを代償にした状態でソルジャーの力を持ったのかもしれない。それを君は取り戻したんだ。辛いけど、そのきっかけが悲しみだっただけ、僕はそんな形ではなくてもっと素敵な物を君に見せてあげられたら良かったのにと思う」
「ジョミーにはいっぱいもらったから…僕をソルジャーにしてくれたのも僕を成長させた」
「そうか…」
「でも、ジョミーは成長する事が怖いの?」
「わからない」
「十四歳になるのが怖いんじゃない?」
「……」
「成人検査が怖い?」
「SD体制はもう無いよ」
「じゃ、大人になるのが怖いの?」
「それもわからない…。子供のままで居たいと思ってはいないはずなのに…もしかした、そう思っているのかもしれないね」
「やっぱりさ。戻ってからキースの所に居たのが良くなかったんだよ。だから何度もメサイアに来るように言ったのに」
 トォニィがちょっと怒ったような顔をした。
 今の言葉は冗談が半分と本気が半分なのだろう。
「トォニィ…。僕が今から言う事は君を傷つけるかもしれない…」
 僕がそう切り出すとトォニィも真面目にそれに答えた。
「…いいよ。キースの事?もう大丈夫だから言って。ジョミー」
「二年前、僕はマザーの策略で戻れない場所まで行った。そこから戻るのはブルーが残した、たった一つの想いだけだった。それは生きたいと願う事。死の先へ行ってしまった僕がそう思うのはとても困難だったんだ。生きたいと思っても生きられないのなら、そんな思いなんか無いほうがいい。無様に行き足掻きたくはないと思っていたんだ。でも、何も知らないのに、僕にずっと「自分を生きろ」と言ってくれていたのがキースだった。あまりにも僕が不安定だったから、彼は俺と生きろと、俺を好きになれ。僕にそう言ったんだ」
「……」
「それで、一人では出来ない事も二人でなら、彼となら出来るかもしれないと僕は思い始めていった。僕の願いはミュウと人が共に生きる事。その願いが叶い始めてきて、それを最後まで見ないで何処へ行くんだ?とそう言った。だから、僕は彼の許に戻った。だから、戻れて幸せだった…」
「それで何かあったの?」
「ううん。何も…。キースはとても優しかったし、本当にとても…。でもね、僕は、僕の心は段々と僕が戻ったのは打算だったんじゃないかと思ってしまったんだ。彼の許ならば生きられる…そう思ったら、僕の何もかもが汚く思えてきて…でも、そう思う事も生きているって事なんだろうけど…それでも…」
「計算や打算なんて誰でもしてるじゃない?」
「それでも、そう思ってしまったんだ」
「それで、キースの側に居られなくなったんだね…前にシドに訳を聞いてって言われていたけど」
「キースと話し合えってよく言われる」
「会えば会うだけ気後れしちゃうのでしょ?」
「…そう…。ミュウじゃないソルジャーじゃない僕がそのままで居られるようにと色々してくれるけど…それが…辛いんだ。身体が全然動かない頃はそれだけで一生懸命で、そんな事は考えなかった。でも、動けるようになって、本当に僕はここに居ていいのだろうか?と、彼の重荷にしかなっていないんじゃないか?ってね…そう思えてきたら…余計に自分が嫌になってしまったんだ」
「ジョミー。それは考えすぎだよ」
「自分に全然自信が持てないってどんな感じだと思う?」
「ジョミー。あなたらしくない事を言わないで欲しい」
「僕らしい?僕は、もう居ないんだ」
「居ない?」
「僕は…百以上に分けられて、僕は僕から弾き出された一人でしかないんだ」
「それは…」
「強がりを言えば、何個に分けられても同じって言える。だけど、実際は怖くて仕方が無い…力と共に何もかもが僕から消えていったんだ」
「だったら…力が戻れば、ジョミーは自信を取り戻せるの?」
「多分、それはない。ああ、物理的な部分では戦う自信は戻るだろうな…でも、僕はそれを望まない。力だけが戻っても仕方が無い」
「前にクローンの彼らと心が成長するには何が足りないのか?と話した事があったけど、今度はそれより難しいね。ねぇ、ジョミー。今度の「月」行きに彼らも同行させたらどうだろう?」
「今度は彼らと話せと?」
「うん。あの子達も心配しているだろうし、教育ステーションでもこういう話をしていないんでしょ?」
「そうだね。月に行くのは良い機会かもしれないね」
「ところで、あのさ、ジョミー。えっと、シドが言うにはなんだけど…その…キースと…」
「トォニィ。シドが言いたい事はわかってるよ。僕が彼と身体の関係を持てばいいと言ってるんだろ?」
「うん。そう…」
「それは…さ…。僕も考えたよ。子供が大人になるって、その言葉通りの事をしたら簡単にいくんじゃないかってね…」
「……」
「実際、そうしようとした事もあった、でも、出来なかった。そう、してしまえば、楽なのかもしれないと…身体だけがそうしたいと疼く時もあった。でも…どこか頑固で意地っ張りな僕はダメだったんだ…。そんな方法では僕は彼の隣に立てない。もしそうしたら、どんどん心が卑屈になってしまう。僕はどんな顔をしていればいいんだ?」
「ジョミー…」
「ただ側で笑っていればいいのか?ずっと甘えていればいいのか?そんなんじゃ僕は…彼の隣には立てない…」
「答えは誰にも出せないね…」
「うん。わかっているのは答えは僕が出さないといけない。簡単に答えは出ないかもしれないけど、きっかけを探しに僕は月へ行く。それと、もう何も無いけど木星にも行くつもり…」
「地球は?」
「降りられそうなら…行きたいと思っている」
「了解。ジョミー。気を付けて」

 調整が終わり乗船許可が出たシャングリラへと僕らは移った。
「ねぇ。ジョミー。シャングリラがあったかいんだよ」
 唐突にトォニィが言い出した。
 それは昔、僕が彼に言った言葉だった。
「ああ、暖かいな。さっき、おかえりって言われた気がしたよ」
「それじゃ、言ってあげないと…」
 トォニィは子供みたいに笑った。
「うん。そうだね…シャングリラ。僕はやっと戻りました。僕はここから逃げたけど、ここは僕の家だ…。でも、僕はまた初めて来た時と…同じように今また力(ミュウ)を受け入れきれていない。こんなに中途半端な僕なのに…シャングリラは…迎え入れてくれるんだね。本当にここが僕の家だと思えるよ。本当に心から…ありがとう。ただいま帰りました」
「ジョミー。キスしていい?」
「え?」
「おかえりのキスかな?」
「いいよ。トォニィ」
 僕の横に立つトォニィが少しかがんでキスをした。
「ねぇ、ジョミー」
「ん、何?」
「何で僕に許したの?」
「…今の…キス?」
「ううん。前に木星からメサイアに旅立つ時に、何で僕に抱かれたの?」
「え、ああ、あれは…」
「……」
「もう、会えないかと思っていた…それに…」
「それに、僕をちゃんと大人扱いしたかっただけでしょ?」
「…そう…」
 ジョミーはここでため息をつき、言葉を続けた。
「…でも、あれは間違いだったのかもしれないと思っている」
「僕との事が間違い?」
「トォニィ。君とそうなった事、その事を、その時の気持ちを間違いだとは思っていない。でも、その行為を選んだ僕が。僕の考えが間違っていたかもしれないと思って…」
「その言い方は変だよ」
「うん。わかっているよ…。後悔はしていないが、僕の独りよがりになってはいなかったか?」
「独りよがり?」
「うん」
「一人でイッてないよね?あの時」
「ち、違う。そういう意味っ…じゃ…」
「わかってる。冗談だって」
 トォニィが笑う。
「…トォニィ…」
「自分が居なくなる未来を感じて…離れてゆく僕に残せるものが自分との愛し合う行為だと思ってそうしたのなら…それは、全然、独りよがりじゃないと思うよ。ジョミー」
「そうか…良かった。そうした事で君が思い悩むような事になってしまったんじゃないかと、ずっと…あれは自分勝手な思いだけだったんじゃ無いかと…気になっていたんだ」
「ジョミー。それじゃあ、今度は僕があなたを抱けば、おあいこになるね」
「…それは…ならないよ」
「えー。そう?」
「前に僕が君を抱いていたなら、そうかもしれないけどね」
「そっか、じゃ、僕を抱く?」
「いや…抱かない。だって…トォニィ、無理でしょ?」
「んー、わからない」
「…この話は止めよう」
「ジョミー。やってみないとわからないって」
「やらないから…」
「やってみてよ」
「やらないよ」
「何で?」
「何でって言われても出来ないっ…」
「どうして?僕だってそれくらいの覚悟はある」
「覚悟の問題じゃないって…」
「でも、何でジョミーは…」
「?僕は何?」
「受けも攻めも出来るの?」
「そ…それは……」
 僕らは、しばらくこの押し問答を続けた。

 僕とトォニィはシャングリラの中のトォニィの部屋に居た。
 彼の部屋は大きな窓があり、眼下にはメサイアの夜景が拡がっていた。




  続く







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