君とともに生き、君とともに逝くのならば、僕は君の為に生きよう。

真城灯火の小説ブログです。
二次小説とオリジナル小説の置き場となっています。
同人に傾いているので入室注意★

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☆入室ありがとうございます☆ PN:真城灯火です。 『小説家になろう』で書いています。「なろう」で書いている小説も転載させていますが、ここはアニメ「地球へ…」の二次小説置き場です。本編の『君がいる幸せ』は終了しています。今は続編の『限りある永遠』を連載中です☆まずは、カテゴリーの「はじめに」と「目次」「年表」で(設定やR指定について等…)ご確認の上、お進み下さい。 ブログタイトルですが、これの「君」は自分自身、心の事で、「僕」は自分の身体の事です。 自分の心がそうであるなら、自分はそれに従う覚悟を意味しています。 だから、ジョミーや誰かが一方的に誰かに…って意味ではありません。(小説停滞中) 2021年に、他にあるブログを統合させたので、日常の駄文とゲームの話が混ざった状態になっています。

『君がいる幸せ』 五章「時の在り処」 八話「追憶の破片」

2012-02-22 01:58:44 | 『君がいる幸せ』本編五章「時の在り処」
☆アニメ「地球へ…」の二次小説です。
 <用語>
惑星ノア 大戦時ミュウが陥落させた人類の首都星 今は人類に返還している
軍事基地ペセトラ 人類の軍事拠点 戦後十二人の代表で議会制になる 
惑星メサイア ミュウが移住した惑星
育英都市スメール フィシスとカナリア達が住む都市
ジュピター キース警護時のジョミーのコードネーム(シャトル所有)

   『君がいる幸せ』 五章「時の在り処」 八話「追憶の破片」

  現在 Sumeru
「そろそろ行こう」
 公園を出て二人はカナリアの施設への道を歩いていた。
「…ブルー。力を使う責任の話はジョミーには少しだけど話してあるんだ。セルジュの軍と戦う指示を出したのが彼だと知って…君が目を覚まさない内に話した。君たちが戦う為だけに生まれた思っているのなら、話しておかないといけないと、思って…」
 そこまで言うとジョミーは急に黙ってしまった。
 不審に思い前を行くブルーが振り返ると、頭を押さえたジョミーがうずくまっていた。
「…しまった…まだだ…」
 世界が歪む…何かが僕を呼んでいた…。
「ジョミー!」
 側に駆け寄るブルー。
 下を向いたままのジョミーの手が宙を泳ぎ彼を探す、その手を掴むブルー。
「シド…を…呼んで…僕をメサイアに…トォニィに伝えなければ…」と言った。
 そしてこれをジョミーに、とジョミーは腕のブレスを外しブルーに渡した。
 ブレスでシドが呼べる。
 ベルーガもここに来れる。
「シド!今すぐ、ここに来て!」
 ブルーは叫んだ。
 ジョミーの体が力を無くして、ブルーの腕の中に崩れ落ちる。
「ジョミー!」
 彼の悲痛な叫びがスメールに拡がった。
 ブルーに抱き止められたジョミーは、その手を掴んだまま彼に言った。
「…ソルジャー・ブルーも、彼も、人間を恨んでいた…だけど、それ以上に人を信じていた…いつか…共に生きる時が来ると信じ、それを願っていた…その象徴が地球で…たどり着けば…幸せになれると信じて…闘っていた。だから…だから…僕たちはそれを実現させないといけないんだ」
 ブルーは手に伝わるジョミーの力が失われてゆくのを、遠くに行ってしまうのを感じながら、彼が自分に伝えようとする言葉を聞き逃さないようにするのに必死だった。

 生きて。
 そう、あれが貴方の覚悟…ジョミーは目の前のブルーを愛おしく思った。
「ブルー。僕は…もう貴方を一人では…いかせない…一人にはさせない…」
 僕は…。
 空港からまっすぐに飛んでくるベルーガにジョミーを抱えたブルーが飛ぶ、二人はシャトルへと滑り込んだ。
「ジョミー」
 ソルジャーズのジョミーが駆け寄る。

 シドからの連絡を受けて惑星メサイアではシャングリラが緊急発進をしていた。
 スメールの宇宙港から飛び立ったベルーガはワープアウトしてくるシャングリラとコンタクトを取る事になっていたが、それを待てない勢いでトォニィが跳んで来る。
「ジョミーは!?」
 ジョミーはトォニィの声を聞いた。
「伝えた…い…本当の事を…トォニィ…ごめん…僕は…謝らないと…いけない」
 ソルジャーズに支えられてトォニィを探すジョミー。
 が、それが最後だった。
「待って…まだ…行けない…」
 そう言うと意識を失った。
 トォニィがジョミーを抱きかかえシャングリラに跳ぶ。ソルジャーズもそれに従った。
 シド一人になったベルーガはフィシスを迎えにゆく為にスメールへと引き返した。
 シャングリラに戻ったトォニィはソルジャーズの力を借りて強引に船をメサイアへと跳ばした。

  Shangri-La
 メサイアに戻ったトォニィはミュウの医療チームを作りジョミーの意識回復をさせたが、彼は眠ったままだった。
 やがて、スメールからフィシスが到着する。
 トォニィは彼女の力を借りてジョミーの深層心理へダイブをするが、深層でも掴む事が出来なかった。
 ミュウの医療班はかつてのソルジャーブルーの眠りと同じなのではないかとの判断をした。
 ジョミーは医務室からブルーの「青の間」へと移動をした。
 同じなら心配は無いが、トォニィにはそうは見えなかった。
 ブルーのような眠りならいつまでも待てる。
 だが、このまま目覚めないかもしれなかった。
「ここまでのタイプブルーはまだ二人しか居ないのに…どうして同じ眠りだと言えるんだ!」
 トォニィが唸った。
 自分が焦ってもどうしようも無い。
 だが、また何も出来ないような悔しい思いはしたくなかった。
 ジョミーが言った「後悔する事しか出来ない自分」を感じるトォニィだった。
「ソルジャーズのブルー」
 トォニィは最後に一緒だったブルーを呼び出した。
「こうなる前は何をしてた?ジョミーは何て言った?」
 ブルーは言いにそうに、
「トォニィに伝えれなくてごめんって…」
「そこじゃない。君と二人で居た時だ」
「…僕に人が殺せるかって。僕達の力は人を殺す為じゃなくて、守る為に使って欲しいと言ってた」
「そうか。それは確かにジョミーが悩んでいた事だけど、それがきっかけじゃないな。君が傍に居たのは、たまたまだろうな…」
「…でも…」

  Messiah 衛星ステーション
 トォニィはセルジュに起きた事を話した。
「もう少し分かるまでこの事はまだ公表しないで欲しい。キース・アニアン総督に来てもらえるように、お願いしたい」
 いつものミュウの長らしくない口調が消えている。
 トォニィにはこの一日が何日にも感じられたに違いないと思うセルジュだった。
「了解した。彼が行く時に僕もそちらに行けるようにしよう」

  Shangri-La
 何日か後にキースとセルジュがメサイアに到着する。
 ジョミーの眠る「青の間」へと向かうキース。
「清浄なる青の間か…、確かにその通りだな…」
 とつぶやいただけでキースは階段を上がる事はしなかった。
 トォニィに案内されて二人はトレーニングルームへ向かった。
「ジョミーが僕に、誰かから聞かされるのではなくて、彼自身で伝えたかった事とはなんだ。キース、お前なら知っているんじゃないのか?」
「直接伝えたかった事か…」
「思い当たるふしがあるようだね」
「あるが…彼が言えなかったのなら俺にも言えない」
「…キース・アニアン。僕は君に危害を加える事に何の躊躇いもないよ。だけど、残念な事に全くその気が無い。だから、僕に力を使わせないで欲しい。お前はジョミーから話を聞いているんだろう?」
「…ああ、聞いた」
「僕たちは協力した方が…」
 とそこまで言った所でセルジュがソルジャーズの二人を連れて入って来た。
「……」
 彼ら二人は、ブルーは薄紫のマントでジョミーは赤だった。二人は昔のソルジャー服を着ていた。
 彼らは普段は一般のミュウの服を着ていたから、改めて見ると本当にそっくりだった。
「少し若いがそっくりだな」
 キースが言った。
「ブルーを僕はあまり覚えていないけど、こんなに似てるなら、ジョミーの前でも着せればよかったな…」
 トォニィがつぶやいた。
「セルジュ。しばらく彼をジョミーの代役にするから、いろいろと教えてほしい。彼も了承している。わからない事があったらシドと相談して進めてくれ」
「了解。トォニィ」
 トォニィは、その服の感想は?とブルーに聞いた。
「何も…。ジョミーはわかるけど、僕に何をさせる気なんだ。何が聞きたい?僕の中にジョミーが居るとでも言うのか?」
 とブルーが吼える。
「いいや、それは無い。彼は誰にも行けないような所まで行ってしまっている。君とジョミーが話した事に僕なりに補足をしようと思ってさ」
「人を殺すな。と言われただけだ…」
「君はそれで人を恨まないようになるかもしれない。だけど、今はミュウを憎んでいるだろう?」
「……」
「ジョミーの事は自分の所為だって思ってんだろ?」
「……」
「なら戦ってみよう。本気で」
「…トォニィ…」
「本気でか?」
 とキースが言う。
「ああ、僕達はこうでしか…きっとわかりあえない」
 トォニィはキースとセルジュを守るようにとジョミーに言った。
 心配そうにブルーを見るジョミーがうなずくと戦いは開始された。
 瞬殺とはいかなかったが勝負はトォニィが勝った。
 二人とも息が上がっていたが互角にわたり合える相手との勝負は気分が良かった。
「どうだ?少しは吹っ切れたか?」
 トォニィが笑う。
「え?」
「気にしていただろ?ジョミーがああなったのにはお前は関係が無い。だから、自分の所為だと思わなくていい」
「そのために…?こんな事を?」
「それを着てもらったのはこの為さ」
 特別性のソルジャー服のおかげで怪我もしていない体を見てブルーはその性能に驚いていた。
「ブルー。僕もさすっきりしたかったから、戦えて良かったよ。ありがとう。ソルジャーズの君たちはクローンだ。勝手に作られミュウにされた。しかも唯のミュウじゃないタイプブルーとしてだ。ジョミーはタイプブルーは自分達で最後になると思っていたから…んー、違うな。タイプブルーと言う悲劇は自分達で終わりにしたかったから…」
「…タイプブルーの悲劇…」
「君たちはミュウに縛られる事なく自由に生きていけるようにしていたんだ。だから色々と連れて回っているよね?何者でもない君達が何にでもなれるように…。僕達の所でもキースの所でも、もっと違う場所にも。何処にでも行けるようにって言ってたんだ」
「人の中でも暮らせるように?そんな事、想像出来ない」
「だから、僕に人を憎む気持ちを捨てれないか。と」
 口々に言うソルジャーズの二人。
「僕達、ミュウは人を憎み、うらやんで生きてきた。それを、ジョミーが変えてきたんだ。憎しみで戦うのは僕達タイプブルーだけでいいって、他の仲間はその先で人類と共に生きれるようにとしてきたんだ。それなのにブルーやジョミーそっくりのお前達が人を憎んでいては逆戻りだろ?」
「ジョミーに言われて人を憎むのは止めようと思い始めた。けど…でも…」
「何?」
 とトォニィ。
 言いにくそうにブルーが答えた。
「でも、ジョミーも…人を…銃で殺したって言ってた…」
「大戦中だろ?」
「…最近みたいだった…」
「キース」
 手がかりは一つ一つ潰してゆくしかなかった。


   続く






『君がいる幸せ』 五章「時の在り処」 七話「追憶の破片」

2012-02-17 00:38:46 | 『君がいる幸せ』本編五章「時の在り処」
☆アニメ「地球へ…」の二次小説です。
 <用語>
惑星ノア 大戦時ミュウが陥落させた人類の首都星 今は人類に返還している
軍事基地ペセトラ 人類の軍事拠点 戦後十二人の代表で議会制になる 
惑星メサイア ミュウが移住した惑星
育英都市スメール フィシスとカナリア達が住む都市
ジュピター キース警護時のジョミーのコードネーム(シャトル所有)

   『君がいる幸せ』 五章「時の在り処」 七話「追憶の破片」

  現在・Sumeru
「ブルー…さっき僕は君を力で誘導した。だけど、誘導しなくても、そこにいる人間たちが本当にジョミーを捕らえていたら、君はたとえ子供でも撃っていたよね?」
「…僕達は物みたいに扱われていたんだ。人を恨んでどうして…いけない!」
 誘導していないと言うジョミー。確かに今は力は感じない。
 けれど…。ジョミーの質問にブルーは答えをごまかさなかった。
「…君たちの生まれを思うと、人間を恨んで当然だ。けれど、君はもうミュウなんだ。僕らの仲間なんだ」
「仲間だって僕たちを怖がっているじゃないか。それに、お前たちに僕達の何がわかると言うんだ。こんな力。ミュウにだってなりたかった訳じゃない!お前は、ジョミーは僕達と違うんだ。何がわかる。それに、自分だってその銃で人を殺しているなら、同じじゃないか…どうして…僕だけが殺しちゃいけないなんて、そんな事を…言われなきゃいけない」
 そう言ってブルーは顔を上げてジョミーの方を向いた。
 まっすぐ自分に向けられた銃口の先にジョミーの顔があった。
 その目が悲しみに沈んだままブルーを見ていた。
「………」
 立ち入ってはいけない何かを…感じるブルーだった。
「………」
 ジョミーは彼を見たまま、一度瞬きをした。
「そうだね。そんな僕が、君に言える事は一つも無いのかもしれない…それでも、僕は君に教えなくてはならない。そして君は…それを知らなくてはいけないんだ…」
「…何を…。カナリアに酷い事をした責任?人を憎むなって事?」
「それよりも、もっと君には重要な事だ。手を前に出して」
 言葉に従いブルーが出した左手にジョミーは銃口を返し乗せた。
「銃をどう思う?どう感じる?」
 とジョミーは聞いた。
「銃は重くて…」
「他には?」
「怖い」
「そう。重くて、怖い」
「じゃあ、これは?」
 今度はブルーの右手に自分の左手をのせて力を加える。
 微かな青い光が現れて消える。
「重くも怖くも無い」
「うん。これは自分を守る力…重くも怖くもない。だけど、この二つは同じ重さだよ」
「……」
「銃は人が自分を守る為に作った武器だ。力と同じ。ならどうして怖い?」
「わからない」
「僕も銃の練習を始めた時はとても怖かった。これは武器だから…とても簡単に人が殺せてしまえると思った」
 ジョミーはブルーの手の銃を取りベンチに置いた。
「銃の重さはね。命の重さなんだ。さっき、君は銃では殺せない。と言ったね。なら、力では殺せると言う事になるよね?」
 ジョミーは左手で銃の形を作り、さっきと同じようにブルー向けた。
「僕達の能力は攻撃戦闘特化だから、瞬時に発動するようにあまりガードが付いていない。他のミュウ達は発動させるのにある程度念じなければならない。それでも、みんな同じ。銃と力が同じ重さだと言ったのは、力は銃と同じであまりにも簡単に、僕たちは人が殺せてしまうと言う事なんだ」
「…でも、僕はミュウだから…」
「ミュウだから?…能力で人を殺してもいいと言うんだね…」
「いいと思う」
「攻撃能力の低い者たちはミュウの武器を持って戦っているけど、彼らは最初は能力が上がったと喜ぶ。だけど、実際の戦闘で最初は怖くて戦えなくなる者が多い。銃は人を殺す武器そのものだからね。怖いんだ。でも、力は形がないから…」
 そう言ってジョミーはブルーに向けていた手に青く光る剣を作りだした。
 細くて長い青く刀身が光る剣。それは最初に戦った時に見たあの剣だった。
「こうなると、怖いでしょ?」
 ジョミーは剣を小さく振りブルーの首筋に当てて止めた。
「……」
 自分の顔のすぐ下、首許で青く光る剣。
 さすがにそれは怖いと思うブルーだった。
「銃もコレも同じとわかって欲しい…。僕達には安易に使えてしまうこの力。僕は君に力を揮う事の責任を負って欲しい。力で奪う命の重さを知って欲しいんだ。たとえ正義を振りかざしても力で押さえつけるなら、それは暴力なんだ。君が銃であの子を殺せないなら、力でも殺さないで欲しい。君たちの力は罪の無い命を守るのに使って欲しい。それを君たちが生まれた意味にしていって欲しい」
「でも、何故…それを僕だけに言う?」
「…ジョミーはね。わかっていると思うけど、違うよね?ヒーラーになろうとしている。命の重さは徐々にわかっていくだろう。あの子は人として僕が成れなかった事をしようと努力している」
「…僕は…攻撃的だと?」
「ううん。違う。君は優しいから…僕の出来なかった事をしようとしている。今日は、力の事だけじゃなくて他に君に話しておきたい事があったんだ…」
 ジョミーの青い剣が不安定にゆらぎ…消える。
「ジョミー?」
「聞いて…ブルー。銃は確かに武器で…戦争中でもないのに…人を殺している。銃が勝手に動いて人を殺す訳じゃない。それは銃を持つ人間次第だから…君が人をただ憎いだけなら…銃と同じになってしまう。ただの武器になってしまう。だけど、命の重さは教えられてわかるものじゃない。自分で理解してゆくしかない…。僕が人を裁く時に銃を使うのは、その事を忘れない為…君には足りないものがある。力を使うには、心を成長させないとね」
 と言ってジョミーはまたベンチに座った。
 その隣にブルーも座ろうとするが、ジョミーの銃があった。
「君が持ってて、僕はもう使わない」
 ジョミーが言う。
「……」
 自分も銃はいらないと思うブルーだったが、銃を手に取り服のポケットにしまい、隣に座った。
「僕はね。弱いんだ…」
 ジョミーがぼそりと言った。
 弱い?弱いはずがない。と思うブルー。
「僕は…君たちの生まれに関与している」
「え…」
「僕は、大戦後のメギドが盗まれた頃、人間の科学者達が人間にミュウ因子を植え付ける実験をしていて、その後、クローンのミュウを作ろうとしている事を知っていた。人類軍はその資金源を探る為に見逃すよう指示を出したんだ。僕はそれに従った。ミュウの長としては見逃していい事ではなかった…」
「…知っていて見逃した…」
「そう。知っていた…彼らの研究所が移動をするので見つけられなかったのは嘘だ。特定は出来なかったが、大体の場所は掴めていたんだ。僕なら力で探し出し乗り込み壊す事は不可能ではなかったが、僕はそれをしなかった」
「…でも、それはメギドを見つける為に…」
「本当に…それだけだと思う?」
「それは…」どういう意味?とブルーは思った。
「疑問だったけど、メサイアで君達はわざと負けたんじゃないのか?」
「僕たちはわざと負ける余裕は無かったけど…あそこから逃げたかったんだ。だから、ミュウの方に行こうと思ったんだ」
「君たちが素直に来てくれて嬉しかったよ。僕は…二年間…君に逢えるのを待っていた」
「二年。カナリア事件から?」
「君は統合で僕の弱点を探った。僕の中には君の本体、ソルジャー・ブルーがいるはずだ。そして、君の声を聞いた僕の心が喜んでいるのを知ったはず、僕の弱点は、君(ブルー)だったろう?僕は…それを…知られたくなくて、心を折った。君から逃れる術がわからなくて…怖くて…。そして、君が僕の前に再び現れるのを待った。君達を探し出す事も可能だったはずなのに…それをしないで君たちを待った。再び会う事に恐怖を感じながらね…」
「…二年前に、もし、ジョミーが僕達の前に現れてたら、僕たちはジョミーに付いていく事はしなかったと思う。あの頃は力に振り回されていて…ただ遊んでいただけだったから…戦って殺されてたかも…」
「僕は待って正解だったのか…」
 そう言ってジョミーは小さく笑った。
 ブルーたちが自分達が生き残る為、僕について来る事を選んだ。
 そこに計算や打算がある事に何の罪もない。
 彼らに罪があるなら、僕が生きている事の方が罪なのだ。
「ブルー。僕が生きるのは貴方の為だった…」
「ジョミー?」
「僕は、彼に成りたくて彼を追い続けてた。彼の夢を叶える為にだけ生きてきた」
「……」
 クローンのブルーにはジョミーが言う事がわからなかったが、ジョミーの切なさが伝わっていた。
「出会ってすぐ…落ちてゆく貴方を見て僕は「生きて」と願った。その言葉を受けて生きたと、貴方は言った。最後の時に貴方は僕に「生きて」と言った。それだけで僕は生きた…貴方を失っても生きてきた」
 ブルーは隣にいるジョミーが泣いているのではないかと思い、見る事が出来なかった。けれどジョミーは泣いていなかった。
「もう…言ってもいいのかな?」
「…ジョミー」
「ソルジャーズのブルー。君を彼の代わりだと思っていないけど…でも、今だけはそう思っていいよね?」
「…いいよ」
 その答えはブルーらしいのか、らしくないのか、わからずにジョミーは少し笑った。
「僕は貴方が好きでした」
「……」
「やっと言えた…貴方を失ってから、口に出して言う事が出来なかった。月で叫びだしそうだったけど…どうしてもそれが出来なくて…」
 すっきりした。と言いながらジョミーはブルーの肩にそっと額を乗せて「ありがとう」と言った。

 子供たちの歓声が聞こえる午後の公園に優しい風が通り過ぎた。



   続く







『君がいる幸せ』 五章「時の在り処」 六話「追憶の破片」

2012-02-14 23:24:52 | 『君がいる幸せ』本編五章「時の在り処」
☆アニメ「地球へ…」の二次小説です。
 <用語>
惑星ノア 大戦時ミュウが陥落させた人類の首都星 今は人類に返還している
軍事基地ペセトラ 人類の軍事拠点 戦後十二人の代表で議会制になる 
惑星メサイア ミュウが移住した惑星
育英都市スメール フィシスとカナリア達が住む都市
ジュピター キース警護時のジョミーのコードネーム(シャトル所有)

   『君がいる幸せ』 五章「時の在り処」 六話「追憶の破片」

  現在・Shangri-La
 敵船ギリギリのワープアウトと同時に主砲を撃つという離れ技をしたシャングリラ。
 アルビオンを停船させるつもりだったシドは「やはり気付かれたか」とつぶやいていた。
 シドはアルビオンのワープ先を算出しつつ、飛び出して行ってしまったブルーをジョミーとトォニィが救出する映像を見ていた。
「トォニィがやっぱりいたね」ソルジャーズのジョミーが言う。
「ジョミーのいた部屋の前のミュウ部隊に知った顔がって言うか、知ったオーラを感じたからね…。彼はトォニィの直属なんだ」
「これからどうするの?」
「いくら精鋭でも、どうせ人間。さっきの転送と今の攻撃で限界がきている者がいるはず、ここからはミュウとして追わせてもらう。ジョミー。一人になったけど出来るよね?」
「僕を何だと思っているの?」 とジョミーは前を見据えた。
 やがて、シャングリラがワープ出来るようになり、跳んだ目の前に、待ち構えるようにアルビオンがいた。
 正面に全砲門を開いた状態の戦艦アルビオン。
「大きな敵を倒すには一点集中で穴を開けて…突破口を開く…か」と思いつつシドは方向を変える事なく突っ込んでゆく。
 二隻とも速度を落とす事無く進んだ。
 射程ぎりぎりでアルビオンの主砲が撃たれる。
 シャングリラの防御バリアがそれをはじく。
 やがて双方のバリアが接触し悲鳴をあげる。
 バリアが先に解けたのはアルビオンの方だった。
 シャングリラの右上空へと回避したアルビオンは急速反転をしてシャングリラを狙う。
 シャングリラも転回しアルビオンを狙っていた。
「降参です。ジョミーそしてトォニィ。彼を放してあげてください」
 シャングリラの船内モニターには、トォニィに捕まったソルジャーズのジョミーの姿があった。
 さっきの接触の時にトォニィが乗り込んで来たのを、どのセンサーも捉える事が出来なかったのだ。
「これは僕の船だもの。気付かれずに出入りする事ぐらい出来るさ。シド、遊びは終わりだよ」
 とトォニィが言った。
「ソルジャー。遊びなんかじゃない!僕はジョミーが船を降りるのを、また黙って見送る事が出来なかっただけだ。今、追わないと、僕はもう二度と彼の前に立てなくなる」
「シド…」

「これで演習は終わりですね」
 と両艦にジョミーの声が静かに伝わる。
「若い兵士は対ミュウ戦を知らないからといって、ミュウ同士の戦いを演習に組み込むのは、無茶な提案ですよ。セルジュ。我々は仲間同士で海戦などした事がないのですから」
「ジョミー…あの…」
 セルジュが言い出すのをジョミーはそっと笑顔で制した。
「知らされていなかったのは僕とシドだけですか…。しかし、知らなかったとはいえ…。先程、僕はコードジュピターを発動させてしまった。本当に申し訳ない。けれど、アルビオンクルーの素早い対応に驚いた。良い船だ」
 ジョミーは戦艦アルビオンのクルーに軍式の礼をした。
「ブルーは僕が連れて行きます。後はお願いします」
 そう言って艦橋から出る時、ジョミーはセルジュにそっと話しかけた。
「君の心遣い。嬉しかった。ありがとう」

 シャングリラに乗っていたセルジュの部下とアルビオンのミュウ達の移動が済んだ二隻はお互いのクルーが見送る中、星に消えていった。

  Shangri-La
 シャングリラ内部でも今回は演習だったと伝えられた。
 有志だけでここまで来たシャングリラは人員が少なく、ガランとしていた。
「やはり、君にはそこが似合っているね」
 艦橋に来たジョミーがトォニィと一緒にいるシドに声をかける。
「短時間で集めた人員で、あれだけの戦闘をやってみせたんだ。凄いと思うよ」
「僕をベルーガから降ろすつもりですか?」
「そうした方が良いと思うけど…」
「まだ何も出来ていません。まだ傍に置いて下さい」
「ジョミー。…ベルーガでいいんじゃない。あれは彼が操縦するのを考慮して作られたのでしょう?」
 トォニィが提案する。
「…了解した…」
 ベルーガの修理がスメールでも出来そうなら、このままスメールへ向かうよ。とトォニィがシドに聞いた。シャングリラはスメールへ向かいワープした。
 スメールでトォニィはもう一度ジョミーを問い詰めようとしたがはぐらかされ、彼は渋々メサイアへ戻って行った。


  Sumeru
 スメールに戻ったジョミーはソルジャーズのブルーを誘いスメールの市街地の公園に来ていた。
「ジョミー…今日は眠くない?」
 自分一人が誘われた事に不安を感じつつ、ベンチに座りさっきから何も言ってこないジョミーにブルーが声をかけた。
 声をかけられたジョミーはチラッとブルーを見たが、育英都市らしいスメールの子供たちが遊ぶ風景を眩しそうに眺めながら答えた。
「ああ、今日は大丈夫」
 ブルーはベンチには座らず立ったままジョミーと同じように子供達を眺めていた。
「話ってなに?」
 ブルーが聞いた。
「ノアの事件から七ヶ月…いや、八ヶ月になるね。カナリア達と暮らして君は何を思った?」
「えっと…仲良くなれてよかったな。くらいかな」
「そうか…」
 ジョミーは目を伏せた。
「普通の答えだな」
「それでいいんじゃないの?」
「…カナリア事件からは二年だね。あの時、カナリアを脅して強制的に意思統一をしたのは君だろう。それには責任は感じていないのかい?」
「……」
 カナリア事件の時の事はソルジャーズがした事だとわかっていたが、皆がその話題を避けていたので、今まで責められる事は無かった。
「あれは…」
「カナリア達が不完全な統一で大変な思いをしているのは知っているね」
「普通に見えるカナリア達が夜中に泣いたりしてるのは…知ってる。でも…でもあれは」
「自分の所為ではない。と?」
「やらされただけだから…」
「君たちが生き残るのに必死だったのはわかる。だけど…自分のした事には責任を持たないといけないよ。彼らは命の危機でもないのに、赤子に還る所だったんだ…ちゃんと話をして普通でいられるようになるのに一年かかった」
「でも、僕だって好きでしたんじゃない!」
 とブルーが大きな声をあげたので、近くにいた子供が驚いて逃げて行った。
「…もし、今、僕がカナリア達に同じ攻撃をするように命令したら、君は出来る?」
「ジョミーはそんな命令をしない…」
「…そうかな…」
 ジョミーは前を見ていたが、顔をゆっくりとブルーに向ける。
 その目は光を帯びていた。
「じゃあ、命令を変えよう…」
 そう言ったジョミーの手に黒い銃が握られていた。
「安全装置は外してある。サイレンサー付きだ…。誰も自分が死んだ事さえ気が付かないまま死ぬ。一発で殺せる。これで、あの子供を撃ってみて」
 さっきまで傍にいた子を指さし、銃をブルーに渡した。
「…な、なぜ撃たないといけない……」
「君の声で逃げたから…あの子は…きっと君が嫌いなんだよ。さぁ、殺してごらん…」
 ジョミーの声に導かれるように銃を持ったブルーの右手が上がり子供に狙いをつけた。
「…嫌だ…」
「撃って」
 静かにジョミーが言った。
「嫌だ。出来ない」
 ジョミーがブルーの後にまわり、照準が落ちそうになっている右手に自分の手を添える。
 そしてこう言った。
「じゃあさ、何故今日は君だけだと思う?」
「え…な、何…」
「ソルジャーズのブルーの弱点は同じクローンのジョミー。そうでしょ?さぁ、あの子を撃って…。でないと…」
「…嫌だ…銃じゃ…嫌だ…」
 その言葉を聞いてジョミーはブルーの手から銃を取った。
 暗示が溶けたブルーは肩で息をしていた。
「この銃は、僕がジュピターの時に使っていた物だ。大きさも重さも僕が扱い易いようにしてある。つまり、狙いは外さないと言う事だ…」
「ジョミーが使っていた?人を…殺したの…」
「ああ、殺している」
 そう言ってジョミーは真横からブルーに銃口を向けた。
「この距離じゃ防げないでしょ?」
「ジョミー…」
「正直に答えて欲しい。ブルー。君は人間を恨んでいるね」
「……」
 ブルーは答えられなかった。


  続く




『君がいる幸せ』 五章「時の在り処」 (閑話)「バレンタイン」SP

2012-02-14 02:46:58 | 『君がいる幸せ』本編五章「時の在り処」
☆バレンタインなので即興で考えてみました。
来年はもう書いてないだろうし、Xmasも何かすれば良かったな。と思ったりしています。

 五章「時の在り処」閑話「バレンタイン」 
※時間軸フリーです
☆CPトォニィとセルジュ

 暇を見つけてジョミーがクッキーを作っているので、日頃の礼もかねて、トォニィがクッキーを焼いてセルジュに届けることになった。
 作ったのは普通のバタークッキーとチョコの二種。
 ペセトラ軍基地での行事に参加する為にやってきたトォニィは早速セルジュの宿舎を訪ねた。
 自分の部屋にトォニィが訪ねてくる事など考えてもいなかったセルジュは何事かと構えていた。
 そして現れたトォニィを見てセルジュは驚いた。
「え…」
「…何黙ってるんだよ…。どこか変?」とトォニィ
 彼はいつものソルジャー服ではなく、ジョミーがジュピターの時に着るようなスーツを着ていた。
 しかも、色は黒ではなく、白だった。
「え…あ…変じゃない…ですが…」
「が、何?」
「白いスーツにオレンジの髪…やっぱり君は派手だなぁ。今日は結婚式に出るって訳じゃないんだろう?」
「結婚式なんかじゃないよ。ここに来るのにこっちの方が目立たないと言われたんだけど…目立つの?」
「あぁ、(何を着ても君自身が目立つからね…)でも、ここに来るにもソルジャー服でいいんじゃないの?」
「だって、正式じゃないんだし、その、友人の所に訪ねるならちゃんとしないとってジョミーが…」
「……」
 そうか。
 彼はこんな風に友人の家に遊びに行くという事をしたことがなかったんだとセルジュは思った。
「では、どうぞ」とトォニィを招き入れた。
 ジョミーに教えてもらってクッキーを作ってきたと言うので紅茶を用意しつつ、ジョミーがラッピングもしてくれたクッキーを受け取ったセルジュはそこに添えられたカードを見つけた。
 カードにはこう書いてあった。
「2.14に君の所に「チョコ」クッキーを作って行くと言うので、ドレスアップさせてみたが、いかがなものかな? Jomy」
 以前、二人で焚き付けたお返しをのし付きでされた気がするセルジュだった。
「人類ナイズされ過ぎですよ。ジョミー」


☆CPジョミーとキース
「バレンタインなんて…」と思いながらジョミーはトォニィを見送った。
 それでも、その日は以前から知っていたけれどチョコはママからもらっただけだったと少し凹んでいた。
 どうせ、キースの所には山ほどのチョコが届いているのだろうし…今日はキースはペセトラには来ていなかった。
 それでも…。
「会いたいな…」

 何日かしてからキースからお礼の文が届いた。
 彼のデスクにクッキーが置いてあったと言うのだ。
「誰にも知られずに置いていくなんてお前しか出来ないだろう」とキースは言った。

 たかが、菓子を届ける為に何光年も跳んで行く程僕は暇じゃない。
 そうさ、そんな事…してない。
 そうさ、したなんて言ってやらない。



 五章「星の在り処」(閑話)「バレンタインディ・キス」(甘くないデス)

☆CP ジョミー×2
 (半年ほど前/Sumeru)
 カナリアのマリアとブルーがキスしたと噂になった。
 僕はそれが面白くなかった。
「ジョミーちょっといい?」
 と僕はジョミーの部屋を訪ねた。
 僕は彼、ジョミーのクローンで彼の心の動きに敏感で、でも、それを別に気にする事もなく暮らしていた。
 けれど、最近はちょっと彼の心が見えなくなっていた。
 だから、彼が何故、ブルーにキスを教えるなんて事をしたのかが不明だった。
「ブルーに呑まれたんだよ」とジョミーが答える。
「それじゃ、納得がいかない」
「だよね」と笑う。
 彼は僕なのに、僕は彼がわからない。
 なんで…ううん。多分、僕は僕がわからないんだ。
「ジョミー、僕とキスしてみようか?」
「…ええ?」
「自分にキスするなんて、滅多に出来ないチャンスだ」
 ジョミーは僕の肩をつかんだ。
 そしてそのまま唇が重ねられる。
 彼と自分は同じだと言っても、僕はまだ十四歳で彼は二十歳前後まで成長しているので、背の低い僕が彼を見上げる形になる。
 唇が触れただけのキスの後で、ジョミーが言った。
「…いい?キスより先も教えてあげようか…?君は僕じゃないんだ」とジョミーが言ってもう一度唇を重ねてきた。
 二度目も優しいキスだったけれど、唇が離れた後、彼の唇が頬から耳元へ耳から首筋へ移動する。 肩をつかまれたままな僕は身をすくめるしか出来なかった。
「…う……」
「同じじゃないと言っても感じる所は同じなんだね…」
 とジョミーが言う。
 その言葉に僕は真っ赤になった。
「嫌だ」と慌てて彼を手で跳ね除けた。
 それでもまだ肩を掴まれたままだった。
 ジョミーは僕を見て抱きしめた。
「ブルーはね。早く大人になりたいと思っているんだ。だから色々と焦っている。君達は癒しのキスをした事があるね…」
「……あの時はブルーが…」
「誤って人を殺した…。君は彼を救おうとした」
「はい…」
「その時から、ブルーの中で君は守るべき対象になった。君はそこから出て自分で生きようとしている。その事に今、彼は苦しんでいる。彼はまだ何をすれば良いのかが見えてないんだ」
「僕はどうすれば…」
「君たちは特別な存在だ。今までは一緒だった。けれど、これからは自分を見つめて生きて。そして、ゆっくり二人のこれからを築き上げていけばいいんだ」
「…はい」
「さっきのキスは僕からの餞別。ブルーからされても嫌なら嫌だって言えよ。ジョミー」
と笑った。
「…されてもって…」
「僕はね嫌じゃなかった。だから…僕は流されたんだ。彼は、僕の人生を変えた人だから…僕は彼が好きで、そして怖いんだ。彼は僕を壊せるんだ…」
「…ジョミー」
「君は流されないで」
 と僕を抱きしめた。
 僕も彼を抱きしめた。



  閑話  終

  星の在り処 7へ続く(本編に戻ります)


☆皆様、良いバレンタインをお迎え下さい☆




『君がいる幸せ』 五章「時の在り処」 五話「追憶の破片」

2012-02-08 02:16:17 | 『君がいる幸せ』本編五章「時の在り処」
☆アニメ「地球へ…」の二次小説です。
 <用語>
惑星ノア 大戦時ミュウが陥落させた人類の首都星 今は人類に返還している
軍事基地ペセトラ 人類の軍事拠点 戦後十二人の代表で議会制になる 
惑星メサイア ミュウが移住した惑星
育英都市スメール フィシスとカナリア達が住む都市
ジュピター キース警護時のジョミーのコードネーム(シャトル所有)

   『君がいる幸せ』 五章「時の在り処」 五話「追憶の破片」

「けれど」
 セルジュが言う。
「それがジョミーの幸せだと?」
 セルジュがまた話を戻してくる。
 君は…とちょっと呆れるジョミー。
「無理に話を逸らそうとしてたじゃないか…」
「僕の幸せねぇ…。ミュウが人を繋ぐ絆になるのは僕の希望であって、僕の幸せではない。とセルジュは言いたいのだろう?」
「それは、そうなる事で君は幸せを感じるとは思うけれど、君個人の幸せは?」
「僕の幸せは…。もうどこにも無いな…」
「あるはずです」
 とセルジュ。
「がむしゃらに生きてきて、大きすぎる望みが叶った時、全てが弾け飛んでしまった。気がついたら僕には何も残っていなかった。そこからずっと探す日々だった」
「幸せを?」
 トォニィが聞く。
「いや、生きる意味を」
「……」
「…君たちが言うように僕はまだ何かを成そうとしている。それは僕の使命みたいな物で、生きる意味になるの物では無かった。でも、僕はそれを選んだ。だから…命の始まりを探り、死の意味を探り、生き残ってしまった自分を恥じながら、それでもまだ死ねないと生き足掻いてきた」
 ジョミーは淡々と語った。
「生き残ってしまった自分…」
 と思うトォニィ。
「僕は地球であなたの声を聞いて、助けに…」
 セルジュが言う。
「僕は僕を助けてとは言わなかっただろう…」
「……」
 セルジュは何も言えなくなってしまった。
 ジョミーはそんなセルジュを見て優しく言葉を続けた。
「セルジュ…助けてくれなくてもよかったなんて…言わないから安心して。そうじゃないんだ…。あの時、僕は、長い間のミュウの望みを叶えられた事が、とても、満足だった。その後なんか…何も考えてなかったと言ってもいいぐらいに…。やり遂げた満足感だけで何も無かった。だから…前に言ったとおりに、キースだけでも助けたかった。本当にそれだけだったんだ」
「……」
「それで答えは見つかった?」
「難しいね。自分の為に生きればいいとキースは言うけれど、僕にはそれすらままならない。でも、最近、少しずつ解ってきた。こうしたいこうなったらいいと思いながら日々を過ごすだけでも少しは望む未来に近づいているのだという事が…。思う事すらしないで最初から諦めていたら、何も起きはしないのだと、そして、その願いは一人では成しえないものなのだという事に気がついたんだ」
 と、にっこりと笑った。
「それは何?何を望むの?」とトォニィは聞きたかったが、今は聞きたくても聞けなかった事をジョミーが言った事が大事だった。
 そのチャンスを逃す手はなかった。
「ジョミーの使命とは何?」
「それは僕にもよくわかっていない…わかったら君には伝えたいと思っている」
「だけど、ジョミー。僕は、それを聞いていてもジョミーを止める。止めないと後悔するから」
「……後悔か…」
「わからないけど、ジョミーがどこかに行ってしまうのはわかる。メサイアで言ったあの言葉で確信して…僕は、こうして出てきた」
「…きっと誰にも止められない…。それを後悔してくれるなら…自分勝手だけど、きっと、僕は嬉しい…」
 と、ネジが切れてしまったかのように。だんだんと眠そうになるジョミー。
「ごめん。眠くなってきた…」
 セルジュがジョミーを連れて奥の部屋へと消える。

 横になったのを見て部屋から出ようしたセルジュは引き止められる。
「セルジュ。さっきの…幸せの定義。あれを僕はキースの傍で見つけた。彼と居ると、何故こんなに安心して居られるのだろうと思っていた。不思議だったけど、僕はそれを見つけられて、それがわかっただけで人として幸せなんだね…」
 ジョミーは微笑んだ。
 それを聞いてセルジュは
「人の幸せはそれだけでは無いです…」
 と言った。
 その幸福がずっと続くと保障されてこそなのだ。
 あなたとキースのような…。
「お二人は心で繋がっているのですね…」
 彼が人類の為に何かをしようとしているのなら、俺がこんな事を思っちゃいけないのだろうな…と思いつつもセルジュは、ジョミーが眠ったのを確認してから、こう言った。

「そう思うなら、この先に何があったとしても、あなたは彼を置いて行ってはいけないのです。使命ってそんな物は捨ててしまって下さい。あなたが幸せになろうとしてないじゃないですか。僕は…そこが気に入らない」
 そんな二人の様子を隣の部屋からトォニィが見つめる。
「トォニィ…」
 セルジュが泣きそうな目で寝室から出て来る。
 トォニィはこの優しい友人の存在に何度助けられただろうと思った。
「止められない事と…どこかに行ってしまうのは認めたね」
 とトォニィが言う。
「マザーが仕掛けた罠とブルーが残した謎か…僕たちには見ている事しか出来ないのか?」
 とセルジュが言った。
「諦めたくない。ギリギリまで探す。諦めたらそこで終わる。後悔なんかしてやるもんか。そうなった時はもう遅いんだ」


 戦艦アルビオンは警戒態勢のまま進んでいた。
 ジョミーが眠って1時間程が過ぎた頃
「セルジュ。艦橋に!」
 ジョミーの声が艦内に聞こえると同時にジョミーが艦橋に跳んでくる。
「コード・ジュピター!」
 ジョミーの声にアルビオンのコンピューターが反応し、ジョミーのブレスが白く光る。
 モニターにコード認証クリアの文字が流れる。
「ジュピターだ。僕の指示に従ってくれ。急速右旋回40度。船体傾度同じく。ミュウ部隊左舷に衝撃防御を!」
 アルビオンクルーたちは急な事に驚いていたが、コードネームジュピターは絶対命令に近い事を知っていた。
 すぐに船が傾度を作り動き出す。
 近くにワープアウトしてくる物体ありとのオペレーターの声がする中、艦橋に「ジョミー」とセルジュと一緒にトォニィが跳んでくる
「ワープは?」
 とトォニィ。
「出現距離が近い。やり過ごしてから跳ぶしかない」
「総員、衝撃に備え!」
 セルジュが叫ぶと同時に左舷にワープアウトをしてきたのは
「シャングリラ!」
 出現と同時のシャングリラの主砲での攻撃がアルビオンの傾けた船体の上をかすめる。 防御壁のおかげで船体の破損も無かった。
「船の水平を。出来次第ワープ!」
 セルジュの指示が飛ぶ
「質量の大きいシャングリラなのに…こちらに気付かれないぎりぎりでのアウトといい、いきなりの主砲といい、シドの腕はやはり凄いな」
 トォニィがうなる。
 旋回し全速で逃げるアルビオンの上を衝突しかねない速度で大型のシャングリラがかすめてゆく
「トォニィ、彼が来る!」
 ジョミーの声と同時に二人の姿が消える。
 ワープ準備に入っている船に跳ぶなどという無茶をしたのはブルーだった。
 ジョミーとトォニィが外に飛び出し、二人でバリアを貼り彼を捕獲にかかる。
 そうしないと彼の身が危ないのだ。
 捕まえたブルーを船内に収容するとアルビオンはワープをした。
「これでしばらくは安心だ」
 セルジュが言う。
 ワープを終えたばかりの大型船のシャングリラには次のワープはすぐには出来ない。
 ワープに巻き込まれかけたブルーは気絶していた。
「全く…無茶な事を」
「ジョミーが心配だったんだよ。でも、力で何でも出来ると思っている証拠だね」
 トォニィが言った。
「この力で出来ない事は山ほどあるのに…」
 さっきまでジョミーがいたセルジュの部屋に運ばれるブルー。
 念のためにブルーには対ミュウ用の手錠がはめられていた。
「ジョミー、ソルジャーズはどうするの?」
 ブルーを見ながらトォニィが聞く。
「まだ手放すには早いな。今回の事が聞くいいきっかけになりそうだよ」
「彼らに何を?」
「あの子達が人や僕らをどう思っているのか知りたいんだ」


  続く