君とともに生き、君とともに逝くのならば、僕は君の為に生きよう。

真城灯火の小説ブログです。
二次小説とオリジナル小説の置き場となっています。
同人に傾いているので入室注意★

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☆入室ありがとうございます☆ PN:真城灯火です。 『小説家になろう』で書いています。「なろう」で書いている小説も転載させていますが、ここはアニメ「地球へ…」の二次小説置き場です。本編の『君がいる幸せ』は終了しています。今は続編の『限りある永遠』を連載中です☆まずは、カテゴリーの「はじめに」と「目次」「年表」で(設定やR指定について等…)ご確認の上、お進み下さい。 ブログタイトルですが、これの「君」は自分自身、心の事で、「僕」は自分の身体の事です。 自分の心がそうであるなら、自分はそれに従う覚悟を意味しています。 だから、ジョミーや誰かが一方的に誰かに…って意味ではありません。(小説停滞中) 2021年に、他にあるブログを統合させたので、日常の駄文とゲームの話が混ざった状態になっています。

『君がいる幸せ』 五章「時の在り処」 十五話「銀の祈り 金の願い」   

2012-03-31 01:26:32 | 『君がいる幸せ』本編五章「時の在り処」
☆アニメ「地球へ…」の二次小説です。
 <用語>
惑星ノア 大戦時ミュウが陥落させた人類の首都星 今は人類に返還している
軍事基地ペセトラ 人類の軍事拠点 戦後十二人の代表で議会制になる 
惑星メサイア ミュウが移住した惑星

   『君がいる幸せ』 五章「時の在り処」十五話「銀の願い 金の祈り」

 貴方を…僕が許す?
「何をです?」と聞いてみようと思ったけれど、何を指しているのかはもうわかっている気がした。
「僕の償いも許してもらえるなら…」
 そう答えるとブルーはにっこりと笑った。
 そして、君のどこに過ちがあるというんだ?と言った。
「けれど、ブルー。僕がもし、生まれて来なければ良かった。これ以上生きていても良い事なんて一つも無い。と言ったら貴方は僕になんと言いますか?」
「それは、とても残酷な言葉だね」
 ブルーは言う。
 そう…。
 彼にとって最も無慈悲な質問なのだ。
「さっきの僕の許しはいつまでも有り得ない事になってしまうね」
「それは…僕が貴方を許さないなら、貴方も僕を許せなくて。僕が貴方を責めるなら、貴方も僕を責め続けるのですか?」
「君が自分を価値の無いものだと辱め続けるなら、僕はいつまでも自分を責めていなければならなくなる」
「……それでは、僕は貴方を救えない。救う資格さえ無くなってしまう。僕がここに居る理由も無くなってしまう」
「そうだよ」
「それは…酷過ぎます」
「ああ」
「僕は…自分を否定する事も出来ないんですか?」
「否定ばかりでは何も生まれない。前に進めないから、君は過ちなど犯していない。全ての物事は、行程と結果でしかない。君はその時その時、最善だと思って選んできたのだろう?後悔すらも結果だ。ならば、もう自分を責めないで、そろそろ許してあげてもいいんじゃないか?そうすれば、僕も許される」
「僕が僕を許したとしても、そこには何があるのですか?」
「僕にはわからない。それは君自身が見つけないと。言っただろう。全てはやってみないとわからないと」
「…貴方はどこまでも酷い人ですね」
「それは、君も同じだろう?」
 と微笑んだ。

 最善を選ぶ事など出来はしない。
 その時、その時で選んで来た道の全てを最良と思って生きていける人間などいない。
 これしか出来ない。
 ここまでしか来れない。
 そんな道を選び取って人はそれでも進むのだ。
 そして、それがわかっていて最善だと言い切るしか僕らには出来なかった。
 それはとても酷い事だ。
 後悔する事も成した事の結果でしかない。
 それはとても冷たい。
 貴方は先はわからないと言った。
 僕はまだ終わる事を許されていないのだ。
 最後の瞬間が訪れた時に良いも悪いもその全てを自分の物として受け止めていくしかないのだ。
 ブルーはまだ進めと、僕に言っている。
 ここが終わりではないなら、貴方は何を言いたくて現れているのですか?
 死者の想いの塊よ。
 貴方は何を語るのですか?
 そんな僕の心を見透かすようにブルーは言った。
「そうだね。懺悔でもしてみる?」
「懺悔?」
 またそんな大変な事を簡単に言う。
「終わりではないと言うのに?」
「終わりではないが、ここが始まりでもあるから」
「僕が生きて居ないと言う事ですね」
「君がここでの全てなんだ」
「……」
「時間はまだあるだろう?ここで全てを見せていけばいい。僕はそれを君に望む」
「僕は…」
「最初に戻ろう。君は何が知りたい?僕はそれに答えをあげるよ」
 そう言ってブルーはまた笑った。
「本当に…酷な人だ。貴方は…。何でも自分の思い通りに行くと思ってるんでしょ?」
 変な方向にすねない。と軽くあしらわれてしまったが、ブルーは手を伸ばし僕の頭を軽くなでた。
「…そんな事をしたら泣いちゃいますよ」
 と言うと、
「それは困るな。泣かないで話して欲しいからね」
 とブルーは言う。
「…だから、何を聞けばいいのか…」
 彼は小さなため息をついた。
「なら、こうして引き出さないといけない…」
 とブルーがそう言って手を上げると、僕の胸からカードが滑る音と共に出てきて宙を舞った。
「あっ…」
 痛みは無かったが、気力が抜かれた感じがして、僕は床に手をついた。
 二人を囲むように放射線状に散らばる七十七枚のタロットカード。
「君の心を並べて、返ってないカードを一枚、一枚、返していけば…見えてくる。君の全てが」
 ブルーが裏を向いている一枚を拾おうとする。
 僕にはそのカードが何かわかった。
「待って、ブルー!」
 僕は遠くにある一枚を飛ばして彼の前に出した。
「問いだ。さっきと同じ答えはしないで下さい」
 ブルーがそのカードを表に返した。
「ここはどこか?か…。ここは君の心が作った君の自我を守る最終の場所だ」
「…僕の自我…」
 この厚い雲、底が見えない場所で、こんなガラスに守られたのが、僕の心?自我?
 そうだ…気がついていた。
 誰にも心を許しているようで、許してはいなくて、強いようでいてとても、もろい。
 それが僕だ。
「君はマザーから逃れてこれを作った」
「それはどうして?」
「それは次のカードで答えよう」
 ブルーは二枚目を選んだ。
 それは
「貴方は何故ここに?」だった。
 合計七十八枚。
 最初に裏返しのままのカードは全部で五枚あった。
 残りは三枚。
「ジョミー。僕がここに来たのは、君を助けたいから…。君は地球再生の為ならマザーの言いなりになってもそれは人としてミュウとして当然の行為だと思っていたね。でも君の本心はそうは思っていなかった。悩み迷っていた。それで…」
「僕は人としても、ミュウとしても異端だった。だから、この力が人類の未来の為になるならと思っている」
「マザーにとってはそれは好都合だったんだ。君が絶望すればする程、落ちれば堕ちる程、君を取り込みやすくなるのだから。だから、僕はそれを阻止する為にここに来た。君が君の全部が取り込まれてしまったら、もう僕にはどうにも出来ない。だから、僕の姿を見せ、力を解放させてここを作らせた」
 ブルーがそう言った時、もう一枚が飛んだ。
 カードがかえる度に遠い昔に封印されていた記憶が僕の中に蘇ってきていた。
 それが、床に座り込んだままの僕を苦しませていた。
「…僕は貴方に…助けてもらう資格はない…」
 僕は…貴方に…。
 もう耐えられない。
「僕も死ぬ。助けないで。僕は何度僕を殺せばいいんだ」
「耐えるんだジョミー。僕は助けに来た。僕はこの手を絶対離さない。だから…」

 時間が動きを止めた。
 ブルーが手に取ろうとしたカードが空中で止まる。
 カードにはジョミーの細い青い剣が刺さっていた。
「ジョミー…」
「その…カードを返す前に聞きたい事があります…」
「……」
「ここは時間も何もない場所だと言いながら、何故貴方は急ぐのですか?こんな…方法を取ってまで…どうして…」
「…ここが何もかも超越した場所にあるのは、もう君にもわかるね?…だけど…僕は君の本心を知りたいんだ」
 ジョミーはその答えに違和感を感じた。
 明快にはぐらかす感じが彼のやり方だ。
 僕のは小さな部分を曲げていって自分のペースにする。
 今は彼のやる事に乗っていった方が良いのだろうと思いつつ、僕は言葉を続けた。
「それを知った時…、貴方はどうするのですか?」
 本当はどうなるのですか?と聞きたかった。
「君を守る。僕はそれしか考えていない」
「では、僕は貴方を…」
 青い剣を引き抜き、ブルーはカードを返した。
 そこには
「人を憎んでいいですか?」
 とあった。
 ブルーは少し寂しげに笑うと、
「でも、これには対でもう一枚ある」と遠くのカードを飛ばした。
 もう一枚は
「人を愛してもいいですか?」
 だった。
「ジョミー。僕は人を憎んでいたよ。生まれてくる同胞を何人も目の前で殺されて、何も出来ずにただ見ているだけだったから、残虐な人間をすべて殺してしまおうと何度も思った。だけど、ある日、マザーが僕に言ったんだ」
「…僕を探し出せですよね?」
 ブルーは静かにうなずいた。
「貴方はミュウのオリジン。貴方は人に作られた実験体だった。特殊な力を植え付ける実験で…、ただ一人成功した。最初のミュウ…そこから、ミュウの歴史は始まった…」
 ジョミーはブルーを見上げる。
「そう…、僕も人であり、ミュウなんだ。僕は人を捨てて生きる道を選んだ。それでも生きるには地球が必要だった。心の拠り所だ。ミュウの指針だ。それを目標にして皆を導いてきた。僕にはそれしか出来なかったからね…。そして、君を探し出した」
「…僕は…僕のした事は…」
「ジョミー」
「だから…僕は…貴方に何もしてもらう資格は無い…」
 涙が床に落ちる。
 僕は泣いていた。
 これじゃ、本当に懺悔じゃないか…。
 そう思っても涙は止まってくれない。
 僕は下を向いたまま、泣き続けるしかなかった。
 ブルーは僕の前に座り、床に散らばる僕のカードを集めた。
 カードは宙を舞い彼の手に収まった。
 一枚だけ裏のまま残るカード。
「すべてを思い出したんだね…君には辛いだろうが…それが事実なら受け止めて欲しい」
「ブルー…」
 僕は泣き続けた。
 一枚を残してカードが僕の前に置かれる。
 僕はそれに手を伸ばした。カードがまた滑る音と共に僕の胸に戻った。
「君に資格が無いと言うのなら…きっと、それは君と同じように僕にも無い」
「いいえ。いいえ」
「ミュウのDNAは君を守っていた。それを君は自分の罪だと言うのなら、それはミュウ全体の罪になる。君は僕らの希望だったんだ」
「いいえ…」
 僕は首を振った。
「ジョミー、僕に同じ事をして。僕の心を出してごらん」
「……」
 僕は無言で首を振った。
「ジョミー。罪があるのは僕の方だ。心を見せたら、きっと、僕は君のよりもっとずっと沢山表にならないカードがあるだろう。君の心は憎むと愛するが対になっていたけれど、僕の憎むには対が無い」
「ブルー。貴方には人をミュウを信じる心があった。それが愛するのと同じくらいに…」
「僕には人は愛せない」
「…言わないで下さい…」
「ジョミー」
「もう何も言わないで、下さい」
 もう聞きたくない。
 僕が懺悔をしなければならないなら、いくらでもする。
 貴方を苦しめるのはしたくない。
「何も…」
 聞きたくない…。
 貴方は何も悪くない…。
 それはさっきまでの状況と逆転していた。
 僕は自分を責めて貴方を傷つけていた。
 今は、貴方が…。
「君が僕を好きだと言ってくれた時は嬉しかった。本当に嬉しかったんだ」
「わかっています…それは…だから」
 だから、もう。
 話さなくていいんです。
 ジョミーは俯いていた顔を上げて、ブルーを抱きしめた。
「もう、何も…」
 わかっていますから…。
 全ては僕が…。

「ジョミー」
 ブルーは自分の胸から一枚カードを取り出して、宙に飛ばした。
 それは二人の上でくるくると回った。
「本当に嬉しかったんだよ」
 ブルーのカードはジョミーと同じ
「人を愛してもいいですか?」
 だった。

 そのカードに誘われるように僕の意識は落ちていった。
 ジョミーの体をブルーは優しく抱き止めた。




  続く









『君がいる幸せ』 五章「時の在り処」 十四話「銀の祈り 金の願い」 

2012-03-26 02:23:52 | 『君がいる幸せ』本編五章「時の在り処」
☆アニメ「地球へ…」の二次小説です。
 <用語>
惑星ノア 大戦時ミュウが陥落させた人類の首都星 今は人類に返還している
軍事基地ペセトラ 人類の軍事拠点 戦後十二人の代表で議会制になる 
惑星メサイア ミュウが移住した惑星

   『君がいる幸せ』 五章「時の在り処」十四話「銀の祈り 金の願い」

 どこまでも、白い世界
 ガラスの床、ガラスのドーム
 外は白い光と白い雲が流れてゆく
 そんな白い空が映るガラスの床
 音も何もない 人も何もない世界
 僕は死んだのだろうか?
 ここが天国なのだろうか?
 あれから何日、いや、何ヶ月経ったのだろう。
 ずっと歩いてやっとドームの端に辿り着いた。
 下を覗いてみたが、やはりそこには何も無かった。
 他と同じように、ただ雲が流れているだけだった。
 僕は外に向かって声を出してみた。
「誰か居ませんか?」
 もちろん返事はない。
 ドームに沿って、一周しようと僕は歩き出した。
 ここは何処だろう。
 そして、僕はここで何をすればいいのだろう?
 そう、ミュウの力はまだ僕の中にある。
 けれど、それでここを壊す事は出来なかった。
 力を使っていないのに、目は霞む事無く見えるし、耳も聴こえる。
 五感は損なわれていないようだった。
 そして僕は昔のソルジャー服を着ていた。

 僕はスメールで倒れて意識を無くしたはず…。
 やはり、僕は死んだのだろうか?
 死んだならどうしてマザーは僕に何もしないのか?
「早く死んでおしまい」と、いつも彼女は側にいた。
 何年もすぐにでも発動しそうだったあの感覚は今は無かった。
 それとも、僕はもう彼女に吸収されていて、このままここで朽ち果てるのだろうか?
 暖かいベッドで死を迎えられるとは思ってはいない。
 ここが最後でも構わない。
 このままでも僕は構わない。
 沢山の人を殺し、沢山の人から憎み恨まれ、大切な仲間を騙し裏切り続けて、最愛の人を見殺しにした。
 そんな僕が今更何をどう償えと。
 どう生きろと…言うのだろう。
 この命の起源すら作り物だったと言うのに、僕の本当はどこにも無い。
 それでも僕に何かが出来ると言うのなら、身体も命も心も何もいらない。
 何一つ残さなくていい。
 この思いを、力に変えて未来に繋げる事が出来るなら…。
 もう思い残す事はない…。
 そう、僕は何も思い残すことは無い…。
 僕は、人の想いの塊の魂のような存在(もの)になる事もない…。
 思いはどこにも残していない。あの人にもあの子にも、どこにも。

 この白いドームから伸びる一本の銀の鎖。
 これは…?
 これを切ったら…。
 …る…も……無くなる…?
 僕は無意識で青い細い剣を作っていた。
 それはいつものよりずっと小さく細かった。
 そして
 鎖へと手を延ばした時…
「待って、ジョミー」
 僕の背後で懐かしい優しい声がした。
 静かに青い剣が消える。
 その声に振り返るとそこには白い淡い光があった。
 それは段々と変化して…彼になった。
 そこにはソルジャー・ブルーがいた。
「ジョミー、やっと会えたね」
「……」
 彼は本物だ。
 本物の想いの塊。
 僕が作り出した幻影ではない。
 それだけで、そう確信しただけで言葉が出なかった。
 ゆっくりと思い出が蘇ってくる。
 死なせてしまった後悔や「月」での再会が浮かんだ。
 またいつかどこかで出会えるとしたら、きっと僕は子供のように泣くのだろうなと思っていた。
 けれど、実際は、涙は一すじ流れただけだった。
 ただ会えた事がとても嬉しかった。
 心がとても穏やかで静かなのは、きっと彼から感じられる空気がそうだったからだろう。
 貴方はすごく自然にそこにいた。
 柔らかに微笑んでいた。
 僕も彼につられるように笑った。
「信じられない…逢えると思っていなかった」
「ジョミー」
「じゃあ…やっぱり僕は死んだんだ」
「正確に言うとそうだ。だが、厳密に言うと死んではいない」
「死んでない?」
「そう」
「そう…なんだ…」
 しばらくジョミーは黙っていた。
「…ジョミー。どうして君は何も聞いてこない?」
「何も浮かばないんだ。何もかも真っ白になってる。ブルー。貴方が知っているなら、僕に話してくれればいい」
「…そうか、わかった」
 そう言うとブルーは昔のようにマントを翻して歩き出した。
 ジョミーは自分の身長が彼より高くなっているのを感じつつ後に続いた。
 そして、ドームの中心と思われる所まで戻ると彼はゆっくりと話し始めた。
「まずここは何処で何かを話そう。ここは宇宙の一部だ。現実世界でもあり、非現実でもある。そしてここは、君が作ったんだ」
「僕が?」
「そう。ほら見てごらん」
 ブルーは手を上に上げる。
 そう言われて見上げた先にはさっきまで全く見えなかった星が見えた。
「雲が切れて、星が見える!」
「ジョミー。今の僕の言葉で君がここを宇宙だと認識したからだよ」

 暗い宇宙、星の瞬きしかない無音の世界
 その寂しい世界を懐かしく思った。
 僕らはそんな宇宙を何年も彷徨っていたんだ。
 だからこそ僕らは大地を地球を求めた。
「でも、ここは何処?」
 上を見上げたままジョミーが聞いた。
「座標を感じないからかい?」
 そう僕は少しずつ見えてくる星を確認しつつ座標を探していた。
「ここはね、あえて言うなら未来なんだ。だから君は知らないんだ」
「知った星がない程の…未来…」
「そう。でも現実でもあり、現実でもない」
「どういう事?」
「ここは時間を必要としていない。宇宙の一部。君が作った、君の最後の砦。覚えてないのか?」
「僕の砦?」
 僕が作った砦って?と考えていると、急に記憶が戻ってきた。
 僕はスメールで倒れてすぐにマザーと会ったんだ。
 マザーの後ろには「赤い地球」があって…僕は…。
 僕の意識は太陽系まで行っていた事になるのか…。
 それが、何故…こんな所に…いる。
「ソルジャー・ブルー」
 ジョミーは彼を見た。
「思い出したかい?」
「僕が………」
「ん?」
「いや、よく覚えてない…のだけど…貴方が助けてくれたの…ですか?」
 なんとも歯切れの悪い言い方になってしまったが、あの時僕は一度死んでいると思えるけど、と付け足した。
「助けたのは僕じゃない。僕の思念は月と地球の中間にあった。グランドマザーが君を連れて行くのがあまりに急だったから、僕は間に合わなかった。倒れた時に君の側に誰か…。クローンの僕か…、彼がとっさに君の時間を止めた」
「ソルジャーズのブルー。彼が…?」
「仮死状態になった君の思念は、マザーの許に引き寄せられ、地球へと向かった。仮死だった影響で、そこにわずかな時間(隙)が生まれた。僕は君にやっと追いつき、そして君は「地球」と「僕」を見た」
「…僕は地球の前にいる貴方を見た」
「そう、そして君は自分の力でマザーの許から逃げここに来て、これを作った。僕はまた君を追えず君を探すのに時間がかかってしまった…」
「…貴方が僕の前に来たのは僕の力を解放する為?」
「君が、その眼で僕を見ると、君が作った君の制限(リミッター)が解除されるようにしたのは僕だからね」
 だから、僕は月で制御が出来なかったんだ。
 あの狂いそうな想いは力の奔流…。
 僕は想いのすべてをぶつけてあの氷を作った。
 「月」が終わりで始まりの場所だった。
 僕は月へ貴方への想いを封印して、また再び地球へ向かう事を決めたんだ。

 ふいにブルーが僕の手を取り、覗き込むように見上げた。
「ジョミー、君は僕を許してくれるかい?」


  続く







『君がいる幸せ』 五章「時の在り処」 十三話「追憶の破片」 

2012-03-25 02:23:36 | 『君がいる幸せ』本編五章「時の在り処」
☆アニメ「地球へ…」の二次小説です。
 <用語>
惑星ノア 大戦時ミュウが陥落させた人類の首都星 今は人類に返還している
軍事基地ペセトラ 人類の軍事拠点 戦後十二人の代表で議会制になる 
惑星メサイア ミュウが移住した惑星
育英都市スメール フィシスとカナリア達が住む都市
ジュピター キース警護時のジョミーのコードネーム(シャトル所有)

   『君がいる幸せ』 五章「時の在り処」 十三話「追憶の破片」

  Messiah・Shangri-La
 太陽系、第3惑星地球の衛星「月」で、ジョミーが消えてから約半年が過ぎた。
 ソルジャーズのジョミーが代役を務めつつ、休養する為、その公務の数を減らしていった。
 ブルーはフィシスと共にスメールへ戻り、カナリア達と暮らしていた。
 この間、ジョミーのシャトル「ベルーガ」にジョミー宛てで定期的にスウェナから通信が入るので、気になったシドがトォニィに連絡をする。
 惑星ノアに来ていたスウェナとトォニィが会う事となった。
 彼は、ジョミーの今の行方不明の状態を話、彼女からはある事実が知らされた。

  Noah・現在
 それからまた数ヶ月後
 ジョミーがスメールで倒れてから約一年。
 惑星ノアにある育成都市からキースへ連絡が入る。
「今朝、町中で保護された子供がいるのですが、その子はどこにも登録のされていなくて、記憶が無く、キース総裁の名前しか覚えていないのですが…」とその対応に困っているとの事だった。
 キースはその子供の映像を見ると午後からの予定を全てキャンセルしてその都市へと向かった。
 子供が収容されている保護施設へと着くとすぐにその子に会わせるようにと言った。
 施設での検査中だったその子を遠くから見るガラス越しの対面となったキース。
 次の検査を待つ姿を見て「この子ですが、ご存知ですか?」と職員に聞かれた。
「知っている。何故ここに来ているのかはわからない。が、彼の事は私が保証しよう。保護する為に必要な書類はすぐに揃えさせる。残りの検査も政府でしよう。すぐにでも引き渡してくれ」と言った。
 大体の検査は終えていたので、その子とはすぐに会えるようになった。
 施設の医師と共にキースの待つ院長室に現れた子供。
 立ち上がる事が出来ないので車イスで移動する十歳~十二歳くらいのその子は、キースを見ると、笑って言った。
「キース」
 その声を聞いて、安心したようにキースも答えた。
「おかえり…」

 首都ノアへと向かう政府専用機の中でキースは聞きたい事は山程あるが、と前置きして、
「トォニィに知らせたから官邸に着いたら忙しくなる。今は、ゆっくり休め」と言った。
「どうして僕は、君だとこんなに甘えてしまうのだろう…」
「……」
「眠るまで傍にいて…」少年は眠った。



  時の在り処 「銀の祈り 金の願い」に続く




『君がいる幸せ』 五章「時の在り処」 十二話「追憶の破片」

2012-03-21 02:56:08 | 『君がいる幸せ』本編五章「時の在り処」
☆アニメ「地球へ…」の二次小説です。
 <用語>
惑星ノア 大戦時ミュウが陥落させた人類の首都星 今は人類に返還している
軍事基地ペセトラ 人類の軍事拠点 戦後十二人の代表で議会制になる 
惑星メサイア ミュウが移住した惑星
育英都市スメール フィシスとカナリア達が住む都市
ジュピター キース警護時のジョミーのコードネーム(シャトル所有)

   『君がいる幸せ』 五章「時の在り処」 十二話「追憶の破片」
 
  Shangri-La
 やがて、シャングリラは三度目にワープをした。
 太陽系へと到達する。
 通常航行で後二日で「月」だ。
「キース。僕は「月」が嫌いになりそうだ」とトォニィが言う。
「だから…なのか?お前やフィシスや、僕達ミュウが地球を恋してやまないのは。いつでも、地球の為に犠牲になれるようにと、そういう事なのか?」
「そうではない。人類が人であるなら「地球」は、還るべき故郷。侵さざるべき最後の故郷だ」
「なら…人類とミュウと皆で再生するのが当然なんだろう?」
「そうだ」
「なんで、お前はそんなに平気なんだよ!」
「事は四百年前ブルーが生まれてからが始まりだ」
「だから?」
「俺はジョミーもブルーも信じる」
「もう。何もわからないよ。ブルーもジョミーも、お前もわからない」
「あいつは、俺に何も残して行かなかった」
「……」
「トォニィ、最後にあいつが行きたくない。と言った時、俺はあいつを殴った。行きたくないは本心だったと思う。だが…そう言っても、それに抗えないのなら、そこで俺なんかに弱い心を残して行ってはいけないと思った。だから…殴ってでも…」
「……」
「それが良かったのかはわからない。ジョミーが出てゆく時に振り返り「ありがとう」と言った顔は「ソルジャー・シン」だった」
「キース」
「信じてみないか?もう一度」
「信じる…か、キース。思い出した。ジョミーは…信じたら信じきる。決めたらどこまでも進む。愛がどこまでも大きいグランパ…。戦うしかなかった状況で第三の道を探し続けていた僕達のソルジャー。再び訪れた勝ち目の無い戦いに、あんたは、しっかり前を向いて進めと送り出したんだ。グランパが自分の命を懸けてでも守っただけの本当に価値のある男だったんだな、あんたは」
「それには…礼を言うべきなんだろうな…」
 キースは苦い思いを?みしめて静かに言った。
「ジョミーはずっと、自分の命を意識して生きていたんだね。僕はカリナが生まれた時、戦うのが怖くなった。今までそんな事は全然感じなかったのに守りたいものが出来て強くなるって言うけど…僕は弱くなったよ。あの子を失うのが怖くなった。それに自分があの子の前からいなくなる事も怖くなった」
「自分の命が自分だけの物では無いと気が付いたのなら、失うのが怖いと思うのは、人として当たり前の事じゃないのか?」
「お前たち軍人は守る為に戦うんだろ?それは怖くないのか?」
「守るべきモノを守る。その為に死んでゆくのは、尊い事だと思わないと戦えない。それに、軍人は死ぬ覚悟はしているが、死ぬつもりで戦ってはいない」
「僕は違ってた。ただ強いから戦ってた。自分が死ぬなんて全然…感じた事がなかった。だから、皆を守れと言われれば守るけど、ジョミーみたいに何年もずっと皆を守り続けて、今度は人類まで守ろうとして、遠い先の未来の為に自分を命を投げ出すなんてそんな…事は到底出来ない…」
「ジョミーと同じになる事はない」
「でも、それはそうだけど…」
「……」
「僕はメサイアでカリナが生まれた時にジョミーが贈ってくれた言葉の、最後の「ありがとう」を聞いて、ジョミーが遠くなっていくのを感じた。居ても立っても居られずに、セルジュと追って、そこでセルジュもありがとうと言われて…、それが僕達には「さようなら」と聞こえた。スメールでジョミーが倒れた時、ブルーも言われたって、彼は遠くなっていくジョミーを直に感じてたから、まだ立ち直れていない…」
「ジョミーの言葉だが、俺は「さよなら」とは聞こえなかった」
「何て思った?」
「行ってくる。と」
「……そう聞こえたの?」
「メサイアでの感謝の言葉に、あいつの覚悟を感じた。犠牲になりにいくつもりなど無い。自分の出来る事を果たしにゆくだけなのだと…」

 僕らが目指す未来はこうしてゆっくりとしかし確実に大きく育ってゆくだろう。
 僕らはそれを大切に育てて未来に繋げよう。
 それは、僕一人では出来ない。
 今までもこれからも皆の力が全てを築いてゆく。
 僕はこの世のすべてに感謝している。
 本当に、ありがとう…。

  月・黄昏の海
 月で眠るブルー。
 シャングリラで眠るジョミー。
 磁気嵐の中シールドを作って停泊するシャングリラ。
 三年前にキースとジョミーが来た頃より氷が大きく建物全体を包み込む青い塊になっていた。
 突き出た何本もの青い水晶、それはまるで墓標のような氷棺。
 溶けない氷がどこまでも青く青く透き通り…淡く浮かんでいた。
 シャングリラからその青い氷を見ているミュウ達が皆泣いていた。
 彼らは、その氷はジョミーの悲しみの塊なのだと言う。
 見ているのがとても辛いのだと言う。

「こんなとこに悲しみを置いてきたりするから、泣けなくなるんだよ」とトォニィが言う。
 月面に降りたトォニィが氷の中に跳ぼうとするが、強力な反発がくる。
 壊れないし、入れもしなかった。
 拒絶されるトォニィ。
 僕を拒絶するのはブルー?ジョミー?
 それとも二人共?
 ソルジャーズが協力を申し出るがトォニィはそれを断った。
「これは、苦しいのに苦しいと言えず、悲しいのに悲しいと言えなかった。ジョミーの心だ。ここは、何者も侵す事は出来ない。この僕に出来なかった事を、君達にさせるつもりは無い!」

 キースにはわからないが、能力的には多分ソルジャーズの方がトォニィより強いのだろう。
 ジョミーがクローンの二人を自分の側から離そうとしなかったのは、トォニィを守る意味もあったのかと、苦悩するトォニィを見つめた。
 そして、眼下の青い氷を見てキースは思った。
「ここで決心したのか?ジョミー」
 メサイアへミュウが旅立ち、月でブルーに再会した。
 お前はここで進むと決めたのか?
 もうあの日に答えは出ていたのか?
 なら俺のやってきた事は意味がないものだったのか?
 ブルーが俺に言った言葉。
「だが、お前なら、彼が…ジョミーが、道に迷わないようにする事は出来るだろう」
 俺はあいつを迷わないように導いて来てなどいない。
 信じると共に歩むと誓っただけだ…。
「その心のままに、愛すればいい」
 あれを、俺はどうとれば良かったのだろう…。
 人を誰かを愛するなんてした事の無い俺に、彼は何をさせたかったのか?
 結局俺はこうして何も出来ないまま、またお前を見る事になった。
 お前は俺を情けないヤツだと見ているのだろうな。
 この青い氷は…。
 キースは自分が泣いているのに気が付いた。
「泣くなんて久しぶりだな…」
 この涙は悲しみではなく後悔の涙だ。
 本当に彼を一人で行かせて良かったのだろうか?
 何をしてでも行かせるべきでは無かったのではないか?
 大切な人を死地に送り込み平気でいるやつなんて…。
 信じると言って本心をごまかしても駄目だ。
 俺はあいつを引き戻したい。
 取り戻したい。
 あの時、
「そうだね。僕は間違えていた…。ありがとう」
 そう言ってあいつは出て行った。
 俺達はこの道しか選べないのか?
 あの時、キースは閉まりかけたドアをこじ開けた。が、そこにはもうジョミーの姿は無かった。
 この俺が、先を見て進む事が出来るからと、あいつは俺を選んだのに、俺は何も出来ていない。
「最低で…最悪だ…」
 ジョミーが向かった先にブルーが居るのなら、ブルーは俺にジョミーを託すと言ったが、今度は、俺がお前に託す。
「あいつはまだ何も…何も掴んでいないんだ」


「トォニィ!大変です」
 月面にいるトォニィにシドが叫ぶ。
「ジョミーが消えました」
 その時、「青の間」には誰も居なかった。
 直前にフィシスの消え入りそうな悲鳴が皆に届き、青の間に向かったが、もうすでにジョミーの姿は無かった。


 
 続く







『君がいる幸せ』 五章「時の在り処」 (閑話)「ホワイトディ」2※BL風味

2012-03-16 22:51:54 | 『君がいる幸せ』本編五章「時の在り処」
 五章「時の在り処 」 (閑話)※BL風味

「ホワイトディ」くじ引きの続き。「小説家になろう」での「海をみたかい」の主人公、秋月海の名前を入れてみた所、見事に(?)彼を引いてしまいました…。
自分自身どうなるのかわからない展開です…(オイ…)
では、ここでしか書かないCPをほんの少しでも楽しんで頂ければ幸いです。
☆カイは普通?の高校生ですので、自分と置き換える(ドリーム)として読めるかもしれない。かも。

「ホワイトディ」2
※時間軸なし 場所設定なし、関連性も全くなし。
CP-ジョミーと秋月 海(カイ)

「はじめまして」
名前は秋月海、16歳、高校1年。
カイでいいです。と、俺は自己紹介をした。
目の前の金髪の青年は、ちょっと考えてから、
「ジョミーです」と言って右手を差し出した。
このわけのわからない、未来(?)な世界でも、こういう握手する習慣はあるのかと俺は緊張しながら
彼の手を握った。
彼はにっこり笑った。
笑うとちょっと幼くなったが、二十歳歳くらいのふわっと優しい印象だった。
簡単な挨拶が終わると彼は俺を見て
「お互い、困った事になったね」と言った。
どうやら僕らは同じ心境のようだ。
いきなりくじで決まったから、と、○○してきて。と言われたのだ。
拒否は許されなく、俺は仕方なくここまで来た。
だから、もしかしたら、これは無しってなるのかもしれない。
そんな事を考えていると「君って、初めてなんでしょ?」と彼が聞いてきた。
こんな状況で見栄を張る事は一つも得は無いと思いつつ、それでも「あなたは?」と聞いてみた。
落ち着いてる感じからしても、それなりに経験があるのはわかるが…。
「あるけど…。くじだと僕が攻めなんだよねぇ。君、初めてじゃ嫌だよね?」
 と、彼が「困った」と言っていたのは、ソコか?
 にわかにこれは、ヤバイかも?と思えてきた。
「あの。見栄も意地も張りません。すみません。俺には出来ません。あ、あの、男がだからとかじゃ無くて、たとえあなたが女性でも。こういう事って、俺は、愛が…。あの…愛する人でないと…その…出来ません」と俺は頭を下げた。
「そっか、じゃ。一方的になるけど筆下ろしでもする?」
「な、なんで…そうなるんです」
 俺のさっきの恥ずかしい発言はスルーなのか?って、筆下ろしって。恋愛未経験の俺でもわかるぞ。
 このSFっぽいこの男は…。
 そんな事を考えている間に、ジョミーはこっちに向かって歩いてくる。
 もう、頭で考える暇なんてない。
 逃げよう。と身を翻すと、俺は腕を掴まれてベッドに投げられた。
「???」
 投げられた?投げられてない。
 手を掴まれて抱きかかえられて運ばれたんだ。
 それは瞬間だった。
 俺はベッドの上で、彼は俺の上に跨っていた。
 今のは何だ?と思ったが、そんな場合じゃない。
 ともかく彼の下のこの状態を何とかしないと!
 俺は彼の下から逃げつつ、こう言った。
「あの、あの。シャワーにいってきます!」

 で、俺は今、シャワー室の中だ。
「こんな所に逃げたって…何にもならない…」
 ここにはベッドルームとシャワー室しか無い。
 出て行けるようなドアも窓も無かった。
 うなだれていると、コンコンとノックされた。
「は、はい」
「あのさ、君はシャワーの使い方がわからないよね?」
 と入ってくる。
「ここに服を入れると洗濯してくれるから、それで、ここのボタンを押すとシャワーが出る。温度とかは調節されてるけど、強弱はここで。そのままで五分たつとシャワーが温風に変わって、乾かしてくれる。シャワーを延長したければ、もう1回押すと五分、また押すと五分伸びるんだ。体が乾いたら、さっきのここを開けたらガウンが入っているからね」と彼は丁寧に説明して出て行った。
 やっぱり悪い人ではないようなんだけど…。
 説明をされる間、俺は彼を観察していたが、他には何も得られるものは無かった。
 服を言われた所に放り込み。
 シャワーを浴びた。

 カイがシャワーを使い出して十分、十五分、二十分…三十分がたった。
 ジョミーは立ち上がりシャワー室をノックする。
「はい」と返事が返ってきた。
「どうしたの?」
「シャワーが止まらなくて…」とカイは言ったが、彼が自分で延長を押し続けているのは明らかだった。
「入るよ」とシャワー室のドアを開けた。
「止めるのはここに」と彼はマントの付いたコスプレみたいな服が濡れるのも構わずに、少しかがんでシャワーを止めた。
 止まってすぐに温風が四方から出てくる。
「タオルも入ってるからね」
 身体を起こした彼は、そんなに濡れていなかったのかすぐに乾いた彼の髪が、温風に煽られていた。
 明るい金髪が目の前でサラサラと揺れる様はとてもきれいだった。
「?」
 と僕の不躾な視線に気が付いたジョミーは、
「温風も五分、延長したかったら同じだから」と言って出ていった。
 俺が出るに出られずいたのは見透かされていたのだ。
 だから、三分程で乾いた体にガウンを着込むと出て行く事にした。

 シャワー室から出ると、部屋がさっきより薄暗くなっていた。
 彼はどこに?
 と見るとベッドの反対側の壁の前にガウンに着て立っていた。
 濡れたので着替えたのだろう。だけど、脱いだ彼の服はどこにも見あたらなかった。
 彼は壁を見たまま「ここに来てごらん」と言った。
「?」
 俺が壁の前まで来ると、急に壁が明るくなった。
 暗闇に慣れかけた目にはとても眩しかった。
「この壁はね。ちょうど君がいる頃の地球を見せてくれるんだ」
「……」
「僕はこれが好き」
 そう言って出したのは、海だった。
 コバルトブルーの海、悠々と泳ぐイルカの群れ。
 ゆらゆらと部屋中が海の中のようになった。
「カイ。君にもっと時間があったなら僕の船に案内してあげられるのに。僕の船はイルカの名前が付
 いているんだ」
 そう言ってジョミーが壁に触ると白イルカの群れに変わった。
「ベルーガ」と俺が呟くと、とても嬉しそうに微笑んだ。
「僕らは実物を知らないけどね」とジョミーが言った。
「……」
「君は何が見たい?」
「え、これでいいです」と答えたが
「草原とかが似合いそうだね」
 ジョミーは映像をどこまでも続く緑の草原に変えた。
 その時、俺の頭には故郷の山と川と広い水田が浮かんで居たので、彼の感じた緑の海原は俺の思いその
ままだった。
 俺はしばらくその映像を見ていた。

 そんな俺を見ていたジョミーが「君は?君の後ろに何か…見える」と言った。
 俺は思わず振り返った。
 その拍子に俺の手が壁に触れて、壁が白い雪の舞う雪原になった。
「あぁ、そんなに構えないで、はっきり見えている訳じゃないから」
「だけど…」
「君は、人じゃないモノが見えるの?」
「いえ…」
「見えるのでしょう?大丈夫だから」
「……」
 俺は何が大丈夫なんだ。何が言いたいんだ。と思ったが言い返しはしなかった。
 俺は彼を見た。
 彼は俺を見つめてこう言った。
「いい?見たいなら見てもいい。だけど、ゆっくりと僕を視てごらん。いいかい?しっかりと視てはいけないよ。そして、すぐに戻ってくるんだ」
「?」
 そう言われて、俺はジョミーの背後を探るように見つめた。
「……」
「戻って!カイ」
 俺は腕を引っ張られた。
 目の前にはジョミーがいた。
「本当にちゃんと視えるんだね。君は」とジョミーは言った。
「い…今のは何?」
「何が見えた?」
「死者の魂。沢山の…気が遠くなる程の人が…」
「そっか…」
 俺はこれ程の人を背負った人間を見た事が無かった。
 こいつは何をして生きてきて、これから何をしてゆくのだろう。
「僕が怖い?」
「いや、だけど…歯の根が合わない」
 俺は霊気に当てられて震えた。
「ごめんね。見せた僕がいけないんだ。どうか怖がらないで、こうすればもう怖くなくなるからね」
 と言って俺の手を取った。
 そして、ジョミーが目を閉じた瞬間、彼を中心に明るいオレンジ色の光が何重にも輪になって広がって
いった。
 部屋の色が、明るくなったような気がした。
 壁の映像は一面のひまわり畑になっていた。
 俺はもう震えていなかった。
 俺の後ろにいたモノも消えていた。
「…祓った…のか…?」
「ううん」
 ちょっと次元をずらしただけ。と、とんでもない事を言った。
「………」
 何だかよくはわからないが会った時から俺は彼を人ではないと思っていた。
 だけど、人じゃないモノのスケールが違い過ぎるようだ。
 俺は笑えてきてしまった。
 それで思わす俺は「ジョミーって、人ではないよね?」と聞いていた。
「んー、人だけど、ミュウと呼ばれる能力者なんだ」
 とジョミーが答えた。
「能力者…、それって怖がられてません?」
「畏れられて嫌われて排除されてたよ」
「そうですか…俺が視えるのは幽霊とか人じゃないモノで、他の皆は見えないから、ずっと気味悪がられてるんです…」
「それなのに君はその者たちを嫌ってはいないんだね」
「嫌ってましたよ。こんな力なんていらないし、見えたっていい事なんて無いって思ってた」
「何かあったの?」
「この力で友人を救う事が出来たんです。この力が無かったら、あの時、皆どうなっていたかわからない」
「救えた事が嬉しいんだ」
「後で叱られたり、前よりもっと酷い噂がたったりしたけど、ただ救えたのが嬉しいんです」
「君は優しくて、いい子だね」
 ジョミーは優しく微笑んだ。

 僕は忘れていたのかもしれないな。
 カイのような純粋な心を…。

「優しい君にご褒美をあげよう」とジョミーが俺を抱きしめた。
「ちょっ…」
「くじの事忘れてあげようかと思ったけど、君があまりにいい子だったから構いたくなっちゃった」
「くじ!忘れててください。かまわなくていい」
「でもさ、カイ、君は僕でも良いと思い始めているよね?」
「…え?」
「さっき、君の後ろに居たモノに君は僕への攻撃をしないように言ったよね?」
「!」
「僕が人じゃないとわかっているのにね」と笑う。
 ジョミーの笑顔は俺を慌てさせた。
「じゃ、あ、くじが問題で、何にかしないといけないならキスだけってどうです?…ダメですか…」
「キスしていいの?」
 そう言って笑ったジョミーから妖しい感じがしてきた。
 こ、これは、もしかしたらヤバイ事を提案してしまったのだろうかと思った。
「…キスだけなら。…ですけど」
 俺が返事をした瞬間にまた前のように俺はベッドに飛ばされていた。
 それで、彼も同じように俺に跨っていた。
「何?何で、ベッドに寝…」
「キスしていいんでしょ?」
「だから、ベッドじゃなくて…」
「ここでしか出来ないキスもあるし」

 ない。ない。そんなの、あっても…。
 俺は知らない……。
 ジョミーの声が聞こえてくる。
(キスだけじゃ…物足らなくない?)
(足りなくないですーーー)



「ねえ。カイ。ホワイトディって、バレンタインのお礼をする日なんでしょ?」
「そうですが…あ」
「気が付いた?僕達は今日初めて会ったんだから、お礼をする事なんて無い。僕達が何かをしなければいけないって理由は最初っから無いんだ」
 と、ジョミーは微笑んだ。


 ひまわりを見るときっと彼を思い出すのだろうな…。
 そう思いつつ優しい空気に包まれ二人は眠った。




  終
  



☆普通の少年のカイの性格がジョミーの手に掛かるとこうなってしまうのか…。と面白おかしく書くことが出来ました。ですが、知らないのが相手ですみませんでした。
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