君とともに生き、君とともに逝くのならば、僕は君の為に生きよう。

真城灯火の小説ブログです。
二次小説とオリジナル小説の置き場となっています。
同人に傾いているので入室注意★

☆ご案内☆

☆入室ありがとうございます☆ PN:真城灯火です。 『小説家になろう』で書いています。「なろう」で書いている小説も転載させていますが、ここはアニメ「地球へ…」の二次小説置き場です。本編の『君がいる幸せ』は終了しています。今は続編の『限りある永遠』を連載中です☆まずは、カテゴリーの「はじめに」と「目次」「年表」で(設定やR指定について等…)ご確認の上、お進み下さい。 ブログタイトルですが、これの「君」は自分自身、心の事で、「僕」は自分の身体の事です。 自分の心がそうであるなら、自分はそれに従う覚悟を意味しています。 だから、ジョミーや誰かが一方的に誰かに…って意味ではありません。(小説停滞中) 2021年に、他にあるブログを統合させたので、日常の駄文とゲームの話が混ざった状態になっています。

『君がいる幸せ』 限りある永遠(limitato etemita)編 二章五話

2015-04-28 01:30:15 | 『君がいる幸せ』 limitato etemita編二章
☆アニメ「地球へ…」の二次小説です。
 <用語>
惑星ノア 人類の首都星
惑星メサイア ミュウの星 ノアに近い位置にある
軍事基地ペセトラ 人類の軍事拠点 戦後十二人の代表で議会制になる
<人物>
ジョミー ノア前副首相 ジュピターという宇宙の軍を動かせる権限を持っていた
キース・アニアン ノアの首相 人類の評議会議長を兼任していたが…
セルジュ 軍事惑星ペセトラの評議会議長代理(現在、軍部で最高位)

   『君がいる幸せ』 限りある永遠(limitato etemita)編 二章五話

  物質転移直後 惑星ノアの辺境・砂漠の遺跡

「ハアッ…何度やっても辛いな…」
「そうですね…なかなか慣れませんね」
 それでも、ヴィーはジョミーに肩を貸したまま、滴る汗を拭いつつ言った。
「ジョミー。やはり彼らは…気絶してしまいましたね…」
 そう言って視線を落とす、床にはベリアルとセドルが倒れていた。
「しかたがない。何も準備をしていなかったのだから…どうしようもない」
 ジョミーはヴィーの肩から手を降ろすと、ベリアルとセドルの手首をとり脈を診た。
「シールドを作ってやったのに。所詮、彼らは人間ですからね。医務室に運んで」
 と、ヴィーが待機していた部下に命じた。
 自動で運ぶストレッチャーが二人を乗せて動き始めた。
「あ、待って。処置が済んだらベリアルに潜りたい、用意をしておいてくれないか」
 ジョミーはベリアルを運ぶミュウに言った。
「わかりました。今、力が安定していない事を忘れないで下さいね」
「ああ、わかった」
 ヴィーの部下はベリアルたちを運んで行った。
「ジョミー。どうして深層に?ここにはあなたの補佐が出来るようなミュウはいませんよ」
「君なら出来るよね。でもいいよ。一人で大丈夫。機械の助けを借りる。それにさっきまで会話していたから、表層にまだある」
「なら、引き出すのは簡単ですね。それにしても、何故彼らは薬なんか使ってきたのでしょうか…あなたの記憶を知りたいなら方法は他にもある」
「どうあっても、僕を籠絡しておきたかったのだろう…」
「籠絡?どうして?」
「僕はトォニィはもちろん、セルジュにも関係しているからね」
「それで、薬を盛るのですか?そんな人間。彼らは、執着するに値しませんよ」
「執着…。そうか、そう見える?」
「ジョミー。エンジェル・クラウンって知っていますか?」
「天使の冠?いや、知らない」
「多分、あなたに使われたのはそれです」
「新薬?」
「はい」
「そうか…」
「ジョミー。セドルの深層には潜らなくていいのですか?」
「彼には直接聞くよ」
 ヴィーは、セドルはジョミーの味方ではなくて、ベリアルに薬を渡したのは彼に違いないと言っているのだった。
「……」
 ジョミーは、一度信用したら曲げない。
 それが執着だと言うのですよ。とヴィーは思った。
「あなたが、信じる人間は一人でいい」
 医務室に向かうジョミーの後ろ姿にヴィーは一人呟いた。

  医務室

 機械に繋がれたベリアルがベッドに寝かされている。
 電気がベリアルの脳を刺激していた。
「アガレス・ベリアル・ジュニア…どこだ…」
 ベリアルの深層に潜るジョミー。
「ここです」
 彼はすぐに見つかった。だが、世界が微妙に揺らいでいた。
「ジョミー・マーキス・シン」
「まさか、あなたの方から声をかけてくるとは思いませんでした」
 ベリアルの上空に浮かんでいたジョミーが彼の横に静かに降りる。
「僕が怖くないのですか?」
「怖くはないな」
「それでは、どうして薬を使ったのです?」
「自白剤か…。あれはセドルが使うようにと言ってきたのものだ。自分では人質の価値は無いだろうと言っていた」
「そうですか…」
「それより、何故ここなんだ」
「ここ?」
 ザーッと言う音がして景色が変わる。
 そこは、三十年前のあの部屋だった。
「…こ…ここは」
 ここは、二人の記憶が交差した場所。
「ジョミー。真実がここにあるのか?」
 彼らがいるのは廊下だった。目の前のドアを開けるとそこにはあの時があるのは明白だった。
「ベリアル。この先に…」
 ジョミーがベリアルの肩を掴む。
 いつのまにか彼は小さな子供になっていた。
「!」
「あなたは誰?ジョミー?」
「そうか、世界が揺らいでいるのは…二人分の記憶で安定していない所為か…」
「ジョミーって誰?あなたがそうなの?」
「ああ、そうだ。ベリアル。君は何故ここに居るんだ?」
「ベリアルお父様?お父様が僕をここへ連れて来たんだ」
「…お父様?」
「お父様は僕に優しくしてくれるんだ」
「…そんな…」
「どうしたの?」
「ああ、大丈夫だよ。君は成人検査はまだなんだろう?」
「成人検査?」
「知らないのか?」
「君はどこの生れなんだ?」
「ニュクス」
「やはりそうか…」
「ジョミー?」
「ベリアル。そのドアを開けて真実を見ておいで。僕は止めないよ。その先には、あの時と同じように君のお父様と僕が居る」
「うん。行ってくる」
 ベリアルはドアを開けた。
「お父様。お呼びですか?」
「私の可愛いベリアル。こっちにおいで」
「この子は誰?」
 ベリアルの父、アガレス・ベリアルはペセトラの将校だった。
 あの頃の僕は、必死になって地球の情報を集めていた。髪を変え、瞳を変え、身体も完全な女になり、僕は夜の街にいた。人類の裏側で生きる。十四歳の少女娼婦。それがその時の僕だった。
 アガレスとの出会いは単なる偶然だった。
 彼の趣味は男でも女でもどっちでも良かった。幼ければ幼い程いい。その彼が法を犯して手に入れたのがアガレス・ベリアル・ジュニア。
 僕はそう気が付いた時にすぐにそこから立ち去れば問題は無かったのかもしれない。
 だが、なかなか捕まえられない軍の将校と接触出来たチャンスを逃したくなかった。
 僕との行為を済ませたばかりのその体で幼いベリアルを弄び始める。
「……」
 ジョミーは「こいつをここで殺していい」と思いながら見つめた。その視線でさえ彼には快感なんだと気付き、吐きそうになった。
「お前のその眼、気持ちいいな」
「アガレス・ベリアル。遊びはもうお仕舞だ。堪能しただろう?今度はもっと深い所で愛し合わないか?」
 魅惑で夢を見させて、情報を得る。僕にとってそう難しい事じゃない。
 簡単な事だったが、目の前で苦しみ始めたアガレスを見てベリアルが僕にしがみついてきた。
「やめてー」
「ベリアル?」
「ジョミー!」
 その瞬間、部屋のドアが開き、僕はベッドから引きずり降ろされた。
「ハーレイ?どうして?」
「兵士が取り囲んでいます。逃げましょう」
 バラバラと沢山の足音が近づいて来る。僕らは別の部屋へと隠れた。窓ガラスを破って何かが投げ込まれる。僕はその煙にむせた。やがて体の動きが鈍くなった。その所為か僕はテレポートが出来なかった。
「あの子を、彼を助けなきゃ」
「ダメです。人類にまかせましょう」
「こっちだ」
 という合図に僕らは窓を割り、ギリギリをすり抜けるフレッチァに飛び乗って逃げた。
 僕にはその後の事はわからなかった。
 僕ら、ミュウはペセトラ空域を後にした。

「ジョミー・マーキス・シン。いや、ソルジャー・シン」
「…ベリアル」
 そこには大人のベリアルがいた。




  続く




※ちょっと短いですね。
後で、追加修正を入れるかもしれません><;


『君がいる幸せ』 限りある永遠(limitato etemita)編 二章四話

2015-04-19 03:03:05 | 『君がいる幸せ』 limitato etemita編二章
☆アニメ「地球へ…」の二次小説です。
 <用語>
惑星ノア 人類の首都星
惑星メサイア ミュウの星 ノアに近い位置にある
軍事基地ペセトラ 人類の軍事拠点 戦後十二人の代表で議会制になる
<人物>
ジョミー ノア前副首相 ジュピターという宇宙の軍を動かせる権限を持っていた
キース・アニアン ノアの首相 人類の評議会議長を兼任していたが…
セルジュ 軍事惑星ペセトラの評議会議長代理(現在、軍部で最高位)

   『君がいる幸せ』 限りある永遠(limitato etemita)編 二章四話

「これがお前の部屋って言えるのか?何も無いじゃないか」
 そこはただ広いだけの空間だった。
「止まって」
 ジョミーはパネルを出し入力してゆく。
 部屋が一本の通路を残し開く、下は空洞になっていた。やがて部屋が色を変え、球体が浮かび上がり天球図の真ん中に自分たちが立って居た。
「ここはこの船の中心にあたる。ここから艦橋へ指示が出せるんだ。艦橋。ヴィーはいるかい?」
「はい。ジョミー。天球の間ですか?」
 と、画像が浮かび、ヴィーが返事をした。
「ああ」
「この砂嵐は後4時間ほどでおさまります。基地の船の手配も済みました」
「ありがとう。しばらくこのままにしておくから、後の調整を頼みます」
「わかりました」
 ヴィーが画面から消える。
「これは人類の宇宙全体図なのか?凄いな」
 自分達の目の前に浮かぶのが惑星ノア。
 手に映り透けるノア。一般の航路とは違った。軍事関係の星は公開されていない。だから、普段使う航海図より精密で正確だった。
「こんなに知らない星があるなんて…」
「セルジュが、情報を教えてくれた。それと、ここはミュウも人類も関係なく扱える。ノアを拡大してここを出してみて」
「え、ああ、こうか?」
 セドルは手を広げノアを大きくした。そこに色々な表示が出ている。小さく点滅しているのが今の位置だろう。
「触れてみて」とジョミーが合図をする。
 指先で触れると衛星からの画像が浮かび上がった。
 大きな砂嵐の中。遺跡のような建物がかすかに見える。
「ここか?」
「そう。ここが船がいる場所」
「え、一体どうやってここに?ああ、だから、物質転移か…」
「あの時、サーチされ攻撃目標にされていた。だからヴィーが来てくれた。追跡されないようミュウの力を使わず、船ごと居場所を隠すにはあれしかなかった」
「じゃあ。お前たちを狙っているのはミュウ…。例のあの、タイプブルーのクローン…ソルジャーズのブルーだな」
「うん。残念ながら、身内の争いに巻き込んでしまったという事なんだ」
「俺たちが、人類とクローンの争いにお前たちの力を借りたのが先だからな…」
「後4時間で軍から迎えが来るから、二人は首都に戻ってもらう」
「さっき、ヴィーから聞いたが、ジョミー。ベリアルはお前にどうして薬なんか…俺はそんな事になると知らなくて…。まったく、あいつはどうして、一体何をしたんだ?」
「セドル…君が僕の口を割らせる人質だったのはヴィーから聞いたよね。だから、君は部屋に飛び込んで来た訳だ。薬は多分、最初から君を人質にしても僕が口を割らないとふんだのだろう」
「あいつは、お前から何を聞き出そうとしたんだ?」
「それは、言えない。彼が知りたい答えは僕じゃなくて、セルジュが知っている筈だから…」
「そうか…」
「何か、つまらなそうだね?」
「あいつの弱点なら知っておきたいと思っただけさ。お前、あんな目にあったのに秘密を守ってやるのか?」
「君たち二人が建物ごと吹き飛ばされてたかもしれないって方が酷いでしょ?」
「ん…まぁ、確かに転移は酷く気分が悪かったが…」
 つまらなそうに目の前の天球図を見上げていたセドルが惑星ニュクスを見つけ、懐かしそうな顔になった。
 ジョミーはそんなセドルをじっと見つめた。
「セドル。君も成人検査をパスして星を出た?」
「ああ」
「子供の頃の記憶は?」
「無いな」
「無いのに懐かしいのか?」
「今と違って記憶の無いのが普通だったし、お前が俺を他と違うと言うが、気持ちが他の人間とどこまで違うかはわからない。でも、ニュクスは忘れていない。ただ、あの星を知られてはいけないという気持ちもあったが、俺はそこまで深刻には思っていなかった」
「君はクローンでもミュウに近いようだね」
「俺が?ミュウに?」
「うん」
「それならなおさら、つれなくするなよ。俺たちは大切な物を分け合い共有した仲だろ?」
「ああ、まぁそうだけどね。あふっ…」
 と、またジョミーが欠伸をした。
「んー、まだ眠いや。薬が残っているのかなぁ…」
「あいつがお前に使ったのは、アンフェタミンと…ラボナール…?」
「多分ね。あんな少量で効くとは…何かまた違う物かもしれない」
「……」
「何か聞きたい事がありそうだね。今の僕なら…答えるよ。きっと何でも」
「ジョミー。質問と言うか、気付いたんだが、お前、今、力が使えないのか?」
「へぇ、よく分かったね」
「ま、ニュクスであれだけバンバン使って、俺ごと軽々と何度も跳んでたのに、お前なら何でも出来ると思ってたからな。それが、薬を盛られたからといって、ベリアルに床に倒されてて、最初に跳ぶのもヴィーたちだった。お前の力ってどうなっているんだ?」
「…んー」
「何でも答えるんじゃなかった?」
「酷いなぁ。それは僕個人で最もデリケートな問題なんだけどな…シドも聞いてこなかったのに。まさかそんな事を最初に聞いてくると思わなかったな。全く無神経だな」
「俺はミュウじゃないからな。お前たちの事情なんて知らない。いいから、答えろよ。気になっている事はまだ他にあるんだ」
「4時間ずっと。質問攻めにするつもり?」
「さあな。お前次第だ」
「タフだねぇ…」
「俺は、ニュクスでの強行軍を耐えたんだぞ」
「そうだったね」 
 と、ジョミーは笑った。
「じゃあ、奥に行こう。お茶いれるよ」
 二人は通路を歩き、球体の奥へと進んだ。
 エレベーターで上へと向かった先にもう一つ部屋があった。

 白い布が天井から降りている。入ると同時に布が左右に開き中が見えた。
「今は何もないけど、宇宙(そら)が見えるんだ」
 上を指差しジョミーが言う。
 二つ目の布が開く。その先に白い天蓋付きのベッドがあった。
 ジョミーはその脇にあるカウンターへと招いた。
「いい部屋だが、白いカーテンだけって…」
「あの天球の間に時間がかかって、真上のここまで手が周らなかったんだ。観葉植物とか並べたかったけどね、ああ、壁にスクリーンは入れてるよ。だけど、これだけじゃ寂しいよね」
 ジョミーは壁をノアの夜景に変えた。どうやらライブ映像のようだった。
「セドル。嫌いな物ある?」
 ジョミーがカウンターの裏へまわり聞いた。
「ん、別に無いな」
 ジョミーは紅茶とガレットを出した。
「紅茶だけど、将来、葉っぱもここで採れるようにする予定なんだ」
「この船で?宇宙食や保管食ではなく、作るのか?」
「シャングリラを小さくしただけだからね。色々出来るんだ。ガレット、食べてみて」
「これはクッキーじゃないのか?」
「クッキーの方がいい?」
「あ、いや、これでいい。どうせ俺にはどっちかなんてわからない」
 と、セドルが一つつまんで口に放りこんだ。
「お?サクサクしてて美味しいな」
 その言葉に嬉しそうにジョミーが笑った。
「良かった」
「まさか、お前が作ったのか?」
「うん。そのまさかだよ。だけど、こねて形を作ってオーブンで焼いただけだよ」
「いまどき、作れるやつがいたとはな。ミュウはそんな生活しているのか?」
「自給自足の生活もしていたからね。でもそのガレットはずっと前に人間のある人から教えてもらったんた」
「もしかして、それ、女だろ?」
「え?」
「お前から女の話が出るとはなぁ」
「そう女性」
「好きな人とかか?やっぱりメサイアにいるのか?」
「好きだった。今はどこにいるのかはわからない」
「そうか、もしかして大戦中の事なのか?…人間だもんな。すまない」
「いいよ。彼女にはとても感謝している。下手だったガレットもクッキーもキッシュもなんとか上手く焼けるようになって、出来れば彼女にも食べてもらいたいなと思っているよ」
 そう言ってジョミーもガレットを一つ口に放りこんだ。
 大戦中の人間の女とミュウの長のジョミー。その二人がどんな出会いをしたのだろう。ベリアルの父親の事もあるし、過去は終わった事にならない。過去と今を切り離すことは出来ないとセドルは思った。
「…じゃあさ、さっきの話をしようか…」
「…ああ」
「僕はミュウだ。だけど今、僕はタイプブルーの力は使えない」
「それは、ミュウじゃなくなったのと違うのか?」
「ううん。全く何も出来なった訳じゃないんだ。見てて」
 そう言ってジョミーは目の前に広がる白いカーテンをまるで風が通ったように揺らせた。






  つづく






『君がいる幸せ』 限りある永遠(limitato etemita)編 二章三話

2015-04-10 01:29:22 | 『君がいる幸せ』 limitato etemita編二章
☆アニメ「地球へ…」の二次小説です。
 <用語>
惑星ノア 人類の首都星
惑星メサイア ミュウの星 ノアに近い位置にある
軍事基地ペセトラ 人類の軍事拠点 戦後十二人の代表で議会制になる
<人物>
ジョミー ノア前副首相 ジュピターという宇宙の軍を動かせる権限を持っていた
キース・アニアン ノアの首相 人類の評議会議長を兼任していたが…
セルジュ 軍事惑星ペセトラの評議会議長代理(現在、軍部で最高位)

   『君がいる幸せ』 限りある永遠(limitato etemita)編 二章三話

 身体のだるさと軽い眩暈、そして眠気。
「…さっきのあれは」
 ベリアルに肩を掴まれた時に感じた微かな痛み。
「…アンフェタミン…麻酔薬か」
 ベリアルの部下が手錠をジョミーの後ろ手にはめると部屋から出て行った。
 戦時中に開発された対ミュウ用の手錠は能力を使おうとする脳波を察知して電流が流れる仕様で、その電圧によっては死亡させる事が出来る物だった。
 ジョミーは朦朧とする意識に顔をゆがませながら半身を起こした。
「ベリアル…セドルに…危害を加えてはいないだろうな」
「彼はこの会合が終わるのをただ待っているだけです」
「良かった…」
 そう言うと、ほっとしたような顔をしたジョミーを見てベリアルは表情一つ変えずに聞いた。
「同じ穴のムジナか?」
「そうだ…と言えるのかもしれませんね…」
「セドルを利用している点は同じ。私は利益なら、あなたは何だと言うのかな?」
「友情…」
「友情?違うでしょ?」
「…そう…違う」
「どう思っている?」
「セドルはキースに成りそこねた…」
「キース・アニアンに?」
「はい」
 それは…あなたも…。とジョミーは聞こえないように続けた。
「クローンの中に生まれた亜種が人間らしい人間だと判断したマザー。あれは間違いだ」
「ベリアル…?」
「そう、間違いだ」
「…人間が変わる時が来ていたと言う事でしょう?」
「ふん。失脚した政治家などどうでもいい。それより質問に答えろ」
「僕をこうまで怖がって聞きたい事…とは…」
「何があったのか、事実が知りたい」
「僕が…それを知っていると?」
「あの場に居たのを見た」
「僕が素直に教えると思っているのか?」
「ああ。思っている」
 ベリアルは自分の右手の指輪の先の針を見せた。
「…麻酔じゃなく…自白剤?…」
「お前が殺したのか?」
「その将校は…あなたの何なのですか?」
「父親だ」
「…それがおかしいと疑問を感じた事はないのか?」
「疑問?」
 ベリアルは自分が見下ろしているジョミーに会話の主導権を取られている事に気が付いた。
「質問する側になっていない?」
「あなたは慣れていないのですよ…」
「ジョミー?」
「拘束し、投薬し、質問をし続けなければ暗示は解かれてしまう…。そこに自分の感情を入れてはならないのです」
「なら、今すぐに答えろ!」
 自分が感情的になったのは、キースの名が出た時。キースに対する嫉妬心を見透かされカッとなったベリアルはジョミーの胸ぐらを掴みあげる。もう一度針を使おうとベリアルはジョミーの首に針を近づけた。
「…でもそれは、人間同士での事。ミュウには深層での心理攻撃でないとソルジャークラスは自白をしません。僕らは心に自然にロックがかかるようになっています…ただ、身体は恐ろしく眠い…」
「そうか、ならば!」
 針を使う事を諦めたベリアルは、ジョミーを床に引き倒し殴りかかろうとした。
「ベリアルやめろ!」
 部屋のドアが乱暴に開き、入ってきたのはセドルだった。
「セドル。何故ここに」
 ベリアルのその問いには答えず、セドルはジョミーからベリアルを引き離した。
「どう…したんだ?」
 ジョミーが言う。
「どうしたんじゃない。あのヴィーってのがおまえを助けろって俺の所に来たんだ。ここに来るのだってあいつがいなきゃ来れなかったのに、助けるのだって自分でやればいいのに」
 言いながらセドルはベリアルに手錠の解除をさせた。そしてそのままジョミーに肩を貸していた。
「ヴィーには動かないように言ってあった。彼が来たって事は…」
「…ああ、何かがあるって言っていた」
「ジョミー。あいつがここを見つけました」
 ヴィーが何人かの部隊の仲間を引き連れて入った来た。もちろん彼らは今は軍人では無いのでジョミーが着ていたようなグレーの服だった。
「空港を攻撃してはこないだろうが…ここから離れよう」
「わかりました」
「ベリアル卿。こちらへ。僕につかまって下さい」
 自由の利かないジョミーをセドルと支えながら、ヴィーは自分の部下に命じた。
「転移同調」
「クリア」
「跳びます」
 ヴィーの声を合図にして、空港の「セイクリッド」へと跳び、再びそこから何処かへ跳んだ。

「うわぁー」
「今は動かない方がいいですよ」
 ヴィーの声にどこかへ行こうとしていた自分にセドルは気が付いた。ヴィーが体を支えてくれていた。
「わかりますか?」
「ああ、わかる。わかるが…気分が悪い」
 そう言いながら、ヴィーの助けを断った。
「大丈夫ですか?」
 ヴィーの問に、首を縦に振って答えた。
 ミュウの使うテレポートとは違う跳び方をしたのはわかったが、こんな無理矢理なのは初めてだった。
「意外と強いですね」
「ここは?」
「船の中です」
「ベリアルは?」
「気絶をしてしまったので医務室です」
「ジョミーは?」
「ここに」
 と、後からジョミーの声がした。
 振り返ると、毛布に包まったジョミーが座っていた。
「では、艦橋に行きます」
「ああ、頼む」
 廊下を歩いてゆくヴィーを見送り、ジョミーは立ち上がった。
「セドル。僕の部屋に行こう」
 二人はジョミーの部屋へと向かった。 
「…あふっ…」
 と、眠そうにジョミーがあくびをした。
「薬の所為か?」
「うん。そう…アンフェタミンを自白剤として使ったみたい…」
「お前、薬に弱いのに」
「大丈夫。もう大部分は抜けてるようだ。三回も跳んだから…酔ってる感じの方が強くてね…」
「三回?」
「ああ、一回はヴィーたちのテレポートで跳び、その後は、船ごと空間の物質転移で一度宇宙へ、そしてここへ跳んだんだ」
「物資…転移?人間も移動出来るのか?」
「ミュウなら耐えられると言われている。今回でミュウと一緒なら耐えられると実証出来たね」
「そんなもん。実証出来ない方がいい」
「そうだね」
「しかし、こんな事をしてまでここへ来たのはどうしてだ?ここは何処なんだ」
「答えるよ」
 とジョミーは大きなドアの前で立ち止まった。
「ようこそ。ここが僕の部屋だ」





  つづく







※遅くなった上に短くてすみません><;