君とともに生き、君とともに逝くのならば、僕は君の為に生きよう。

真城灯火の小説ブログです。
二次小説とオリジナル小説の置き場となっています。
同人に傾いているので入室注意★

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☆入室ありがとうございます☆ PN:真城灯火です。 『小説家になろう』で書いています。「なろう」で書いている小説も転載させていますが、ここはアニメ「地球へ…」の二次小説置き場です。本編の『君がいる幸せ』は終了しています。今は続編の『限りある永遠』を連載中です☆まずは、カテゴリーの「はじめに」と「目次」「年表」で(設定やR指定について等…)ご確認の上、お進み下さい。 ブログタイトルですが、これの「君」は自分自身、心の事で、「僕」は自分の身体の事です。 自分の心がそうであるなら、自分はそれに従う覚悟を意味しています。 だから、ジョミーや誰かが一方的に誰かに…って意味ではありません。(小説停滞中) 2021年に、他にあるブログを統合させたので、日常の駄文とゲームの話が混ざった状態になっています。

『君がいる幸せ』 四章「心のままに」二十一話 「Rebellion」(一話読切)

2011-12-30 23:58:36 | 『君がいる幸せ』本編四章「心のままに」
☆アニメ「地球へ…」の二次小説です。
 <用語>
惑星ノア 大戦時ミュウが陥落させた人類の首都星 今は人類に返還している
軍事基地ペセトラ 人類の軍事拠点 戦後十二人の代表で議会制になる 
惑星メサイア ミュウが移住した惑星
育英都市スメール フィシスとカナリア達が住む都市
ジュピター キース警護時のジョミーのコードネーム(シャトル所有)

   『君がいる幸せ』 四章「心のままに」(短編集)二十一話

   Epilogue Bridge「Rebellion」(一話読切)
  
 僕はそのままキースの元に居続けた。
 ノアでの事を追求されてからもう十日になる。
 大戦後の…四年前の事件の頃の僕は、皆には「ソルジャー・シン」として取り繕っていても、中身はまるで抜け殻のようだった。
 自分が生きている事すら罪悪な気がして…運命を探しながら、その運命に身を任せる事もせず、それでいて逃げ道のように「死に場所」を探していた。
 僕を恨む人々に殺されるならそれもいいと思っていた。
 そんな状態で僕は人々の中に居た。
 キースはそんな僕を見抜いて、捨てていってもいいような僕を自分の下に置く事で守ってくれた。
 なのに僕はいつまでも悩み続けていた…。
 あの時、力が使えなくなったのは僕の所為だったのかもしれない。
 コンピューター・テラを探り、その謎が埋まる度に、僕は自分の存在を否定した。
 その結果、僕は僕を封じてしまった。
 必要最小限の「自分を生かし動かす事だけ」にしてしまったんだ。
 それで、あんな事になって…。
「自分はあんな目に遭ってもまだ生きようとしているじゃないか」と思い知った。
 まだ生き足掻けと…?
 まだ生き続けろと…。
 自分がそれを望むのか?
 生きたいと?
 だから…僕は…。
 僕自身が忘れようとしていた過去を無かった物として流さずに、ちゃんと見て前に進めと。
 そして、僕達は二人で悩み苦しんだ。
 あの事は僕には必要で、僕らの繋がりを強くしてくれたと僕は思う。
 僕達はまた一つ障壁を越えたのだろうか?
 人と人の間にはいくつ壁があるのだろう。
 それはきっと崩したり創ったりしながら進んでゆけばいいのだろう…。

  数日前
「あの日、俺の心を読んでいただろう」
 とキースが聞いてきた。
 そう、あの日の僕はここに入った時から彼の心を読んでいた。
「ノアのあの事だと思いあたってからずっと…不安だった。君の前に行く事もしたくなくて、けれど、逃げる事も出来なくて、部屋に入ってキースを見たら…僕は勝手に君を読み始めた…」
「わかっていた」
「一度、そうなったら、もう止められなくて」
「弁解をしろ。と俺は言っていたんじゃないか?」
「そう。でも僕は謝らなかった。君に嫌われるのが嫌で不安で仕方なかったのに…どうしても言えなかった。それでも、断片ではなく…知っていて欲しくて…」
「俺がお前に自分で説明すると言わせてしまったんだな」
「説明すると言った事で、僕は君を落胆させてしまった」
「そうかもな。お前の口から事件のあらましなど聞きたいとは思っていなかった」
「心を読む事が止めれなくて…読む度に君が混乱していくのがわかって…。言ってしまったのに言えなくて。本当に殺してしまおうか?と思われて、でもそれを僕は嬉しかったんだ」
「……」
「君にしか僕を殺せないんだ。そう思っていたい」
「…強引だな…」
「手荒な事も嫌いじゃないよね」
「では、俺を殺すのもお前ただ一人だと思っていいか?」
「人間のくせに。僕に殺されようと言うの?」
 と少し微笑んだ。
「思ってていいんだな?」
「…傲慢だよ…」
「それでいいんだろ?」
「いいよ。君は僕にしか殺せない」
 その望みは、叶わない。
 そんな事は二人共承知の上だ。
 そう。
 これは、ただの言葉遊び。
「そんな傲慢なキースに質問」
「いまさら何を聞くんだ?」
「君は僕の過去ばかりを引き合いに出すから、僕も君の過去を聞きたくなった」
「俺の過去?」
「何人と付き合い、何人と寝た?」
「んー」
 と数えだすキース。
「あー、…人数はいいよ。もう数えなくて…」
「今、そう聞いただろ?」
「多いのはわかった。だから、質問を変える。僕みたいなミュウとは付き合った?」
「……」
 立場的にも、そこは無いと答えるべきでしょ?と思いつつジョミーはまた質問を変えた。
「…変えるね。初めての事してみたいと思わない?」
「何だ。それは」
「君はミュウは禁欲だと言ったけど、僕達はそういうのはあまり必要ないんだ。ミュウはね。精神的に一緒になれるから」
「どういう事だ」
「もうわかり始めてるくせに。教えて欲しい?」
「ああ」
「じゃ、同調させて…」
 と両手の手のひらを合わせた。
「初めてだとあわてちゃうから…優しくしてあげるよ。でも、先にイカないでね…」
 精神世界に引き込まれてゆくキース。
 ジョミーの父性とも母性とも取れるような暖かな世界が拡がっていた。
 それはマザーイライザの作る世界と似ているようで、それでいて、もっと安心できる世界だった。
 そうか、これは俺が望む世界。
 精神的にね。
 とジョミーの声。
 このまま君に圧力をかけるよ。心を開いて…。
 僕に全てをまかせて…。怖くないから…。
 不安はない。
 とキース。
 本当に君は素敵だな…。
 とジョミー。
 それは、俺がお前を愛していて、お前が俺を愛しているから…そうだろう?
 どこまでも…傲慢だね…。大好きだよ。
 二人の心が本心を語る。
 キースの心を引っ張ってリードするはずが、いつの間にかすぐ隣に居て一緒に行こうとする。
 ちょっと…待って。もう少し…僕が辛い…。
 とジョミーが根をあげた。
 急がないで、ゆっくりと。…そして、このまま…。
 このまま?
 このまま肉体的にもしたら…最高なんだよ。
 とジョミーが言った。

「居続け…か…」
 それって、遊女の所に客がずっと居るって意味だっけ?
 なら今は、客の所に遊女が長居してる感じだなと思いつつ彼を待つ。
 キースがここに居るように言った訳ではなく、僕がここに居たいと願った。
 会議が終わるまでの間だったけれど僕はミュウとして参加出来そうな議案に参加しながら日々を過ごした。
「関係を継続させるって難しい事じゃないんだね」
「お互いがここから出てここに戻る。それが毎日続いてゆけばいい」
「まるで家だね」
「お前は子供時代の記憶があるのにそれをわかってなかったのか?」
「子供だった僕は、ミュウになり、ソルジャーになった。そうだなぁ…。家そのものになった感じだったな。皆が僕の守る家から出て戻る。僕も皆の所へ戻る。それで精一杯だった」
「それでは俺の方がよっぽど普通に生きてきた事になるな」
「グランドマザーの申し子なのにね」
 とジョミーが笑った。

「人間らしく生きるってどういう事?」
 と、この何日かの間にジョミーが挑戦していた事があった。
 それはお互いの立場を意識しないで友人みたいに話す事だったが、それはちょっと変だった。
「年齢が近いシドと友人みたいに話したいのに微妙に敬語を使ってくるから、そんなに出来ないものなのかと思って…」
 とジョミーが言う。
「それで何を話すんだ?」
「うーん。キース、今日は何してたんだ?」
「ノアの防衛線の強化。と、ノアとペセトラの軍事バランスの…」
「違う違う」
 と途中で止める。
「じゃあ、昨夜は何をしてた?」
「お前と居たけど…」
「……」
「何を、してたかまで言おうか?」
「…だから、違うって…」
「ジョミー、友達みたいに話すのは、ガキみたいな事を話すのと違うだろ?」
 と言ったら「そうだな」と考え込んでしまった。
 それを見てキースが笑い出した。
「お前を好きになって良かったと俺は思う」
「な、何を急に…」
「面白いやつだと思って。益々嬉しくなっただけだ」
「あ…ありがとう」
「こんな風に話すだけでいいんじゃないのか?」
「シドとも気にしなくていいって事?」
「そう。あいつともっと話してみればいい。きっと面白いものが出てくるぞ」
 とキースがまた笑った。
「面白いもの?」
「ああ」
「何それ?」
「じっくり話してみればわかるさ」
 とキースが面白そうに言った。
 仏頂面の多いキースが最近は良く笑う。
 ジョミーはその意味を嬉しく思った。
 二人はこの限られた時間を楽しもうとしている。
 何をするでもなく、普通に過ぎる時間を愛おしく思っているのだった。
 このまま、その時間を楽しみたいと思った。
 けれど、僕にはこの時間を分けなければならない人達がいた。
 時間が足りない。
 ブルーもこんな風に焦っていたのかな?
 本当はもっと皆と居たかったのに、貴方が僕に分けてくれた時間。
 その大切さを僕は理解していなかった。
 僕にはもう時間が無いんだ。
 だから…。

「シドに聞いても教えてくれなかったら?知ってるなら、今、教えてよ」
 俺は、ちょっと考えた。
「あいつはな、俺を見る目が違うんだ」
「違うって何が?どう違うんだ?」
「俺に嫉妬してる。お前、あいつに何かしたか?」
 色目とか使ってないか?と面白そうに言った。
「ええ?い、色目?」
 なんで、シドにそんな事…。
「もしかしたら…」
 しばらく考えていたジョミーが言い出した。
「色目、使ったのか?」
「ち、違う。確かにそういう力はあるけど…」
「…そんな力が…あるのか?」
「そういうのじゃない。僕のは会話で相手を僕のペースに持っていくだけで…。恋愛で落とすとかそういうのでは使ってない」
 イグドラシルの対話で使われたやつか…とキースは思った。
 次はノアの事件の後、そんな能力を使われた。「どんな事でもする…どんな事をされてもいい…僕を抱いて…」と言われた時、拒絶するのに苦労した訳だと俺は思った。
「なら、何だ?」
「…メサイアで…君と…その初めて、関係した後、僕を迎えに来たのがシドだったんだ。それで、感情が昂ぶったままだったから…少し彼と話をしたんだ。あれでバレたのかな?」
「それだけ?」
 男として勘が良いやつにはわかるのかもしれないなとキースは思った。
「やっぱり、違うかな?それでキースに嫉妬ってないよね。それだとシドが僕にそういう感情があるって事になっちゃう」
「その落とす力ってのを使ってみればいいんじゃないか?ミュウなら拒絶も出来るだろう?」
 とキースは言った。
 俺とこういう関係になっているのに、相変わらず恋愛に疎いジョミー。
 キースは何故ジョミーは俺と居ると、こんな風に子供のようになってしまうのだろうと思っていた。
 俺に甘えているというだけでない、悪戯な子供みたいになる。
 そんな彼が、本当のジョミーの姿なんだろうな。
 ふと、ブルーの言葉が蘇る。
「僕はジョミーに安らぎを与えられなかった。何もかも奪い取ってきただけだった…」
 あの時、ブルーは俺にまだ何かを言った。
 消える瞬間に俺に言った言葉がある…。
 彼は何と言った?
 俺の肩に手を置いて、顔を寄せてささやくように、消える瞬間にブルーはー。

「その、心のままに、愛すればいい」

 そんな日々を過ごし十三日目の夜が訪れる。
 明日には議会は解散し、俺はノアからペセトラ基地へ行く事になっていた。
 運命の歯車が回り始める予感がしていた。
 その夜、僕はキースに僕の知り得た全てを話した。

「まだ謎は残っているけど、もうこれ以上は解けない…。僕に解っているのはここまで」
「それが、グランドマザーの計画だったのか?」
「僕には四百年という時間が計画より早いのか遅いのかはわからない」
「それがお前だったというだけだと言いたいのか?」
「そう。僕だったというだけ…。人として余りあるこの力の最初から用意された使いどころという事」
「解放したらどうなる?」
「いいとこ。僕は、霧散かな」
「それをお前は受け入れるというのか?」
「それが僕の使命ならば…」
「他に道はないのか?」
「わからない」
「ブルーはマザーの仕掛けた魔法だと言った。俺はマザーの言った通りならお前達を抹殺する計画なのだと思ったが…」
「マザーは人間が作りしもの。ミュウも人に作れられたもの。人間の為に使われるのは当然なのかもしれない」
「それなら、ブルーは俺に何をさせたかったんだ」
「……」
「俺はお前をここに閉じ込めても行かせたくない」
「僕も本音を言えば、行きたくない」
「俺の傍から離れるな」
「何をしても、僕が従わなくても、必ず僕は地球に呼ばれる」
「それまで俺と居ろ。俺の所に」
「僕にはまだしなくちゃいけない事があるんだ」
「…居てくれ…」
「泣かないで。キース」
 泣く気はなかった。それでも涙は滲んだ。
「お前も泣くな」
 ジョミーも泣いていた。
 キースは僕を抱き寄せた。 
「まだ泣く気はないのに、これが最後じゃないのに…」
「俺達人間がお前を追い詰めているのか?すべては人間が仕出かした事なのに…お前達を怖がり抹殺しようと追い詰めてきた。そんな人間達の…後始末を…なんでお前が…しないといけない」
「それは…僕が人間だから…。そして、オリジンのブルーの選んだ僕。タイプブルーのソルジャー・シンだから」
 キース。
 僕は、何をおいても傍に居たい。
 何も欲しくない。
 ただ君だけが居ればいい。
 そんな気持ちを恐ろしく思う。
 すべてを捨ててしまいそうで…危険すぎる。
 僕には使命がある。
 それすらも、捨てていける程の思い。
 そう、僕は君が好きだ。
 これは期限付きだからなのか?
 命が永遠ならそうは思わないのか?
 君の為に生きたい。
 君の為に死にたい。
 君と共に生きたい。
 君と共に死にたい。
 叶わぬ願いだとわかっている。
 だから傍に居られない。
 自分を制御する手立てが見つからない。
 君を殺してしまうかもしれない。
 僕の場所に連れてゆきたい。
 そして僕の中に君を閉じ込めてしまいたい。
 出来ぬ願いだから望むのか?

 会いたい。
 会えない。
 何もかもが憎くなる時がある…。
 僕はこんなに浅ましかったのか…。
 運命というものがあるのならば、それを超えて行きたい。
 その先に行きたい。
 今は出会えた喜びをただ抱いて。
 それだけをただ見つめていよう。
 だから、今は許して欲しい。
 今は泣けるだけ泣こう。

 そして、未来(さき)に進もう。
 そして、未来が辛く厳しくても何が起きても君は進め。
 いつか、再び会える日を信じて。



    Rebellion   終





『君がいる幸せ』 四章「心のままに」二十話 「jealousy」(追記)

2011-12-30 01:43:36 | 『君がいる幸せ』本編四章「心のままに」
☆アニメ「地球へ…」の二次小説です。
 <用語>
惑星ノア 大戦時ミュウが陥落させた人類の首都星 今は人類に返還している
軍事基地ペセトラ 人類の軍事拠点 戦後十二人の代表で議会制になる 
惑星メサイア ミュウが移住した惑星
育英都市スメール フィシスとカナリア達が住む都市
ジュピター キース警護時のジョミーのコードネーム(シャトル所有)

   『君がいる幸せ』 四章「心のままに」(短編集)二十話

   Epilogue Bridge「jealousy」(追記)  

 二人で暖炉の火を見ていると急にキースが言い出した。
「お前、前に好きになった人数と関係した回数が同じくらいだと言ったな」
「い…言ったけど…」
 ムードぶち壊しじゃん…と思いつつ答えるジョミー。
「…あの…彼らは回数に入ってない…よ」
 入っていたら回数が跳ね上がる…。
「あぁ、入ってないと思ったが、それを聞いたんじゃない」
「何?」
「俺とはメサイアとゼウスで二度だ」
「…そうだけど…」
「お前、いつも、この時だけと思っていただろう?」
「え?」
「他のとは一人で一度だけなら、俺ともこれっきりと思っていたんじゃないか?」
「そ、そこまで思っていないけど、そういう部分はあったかもしれない…」
「関係を継続させた事はないのか?」
「ん…しなかった。させれなかった」
「やはりな…。忙しくても会おうとしていたメティスにいた時の方が、こうなってからより会っていたな。…これからは継続させる関係を持たないか?」
「…どうやって?」
「ジュピターの仕事に戻るのはもう出来ないが、ペセトラかノアにお前の拠点を作ればいい。それで…」
「?」
「……」
 とキースは急に黙ってしまった。
「言いにくいな…」
「キース」
「………」
「そこは、傍に居て欲しい。一緒に暮らさないか?であってるかな?」
「ああ…どうだ?」
「僕の拠点を作るのはいいけど…」
「俺はお前の居る場所を作りたい」
「……キース」
「俺はお前を手を離す気はないと言っただろう」
「僕は僕でする事もしたい事もある。だから、君と居る時間は少ないかもしれない…それでもいいなら」
「それはお前の本心だな?」
「…うん」
「俺はブルーからお前を託された」
 ジョミーは思いがけないキースの言葉に驚いた。
「今、何て…」
 ジョミーの表情が変わる。
「ペセトラのマザーに会わせて動けなくなった事があっただろう。あの時、お前は昔、シロエになったみたいにブルーになったんだ」
「…信じられない…」
 イグドラシルでシロエは急に現れた。
 あれは僕でもマザーの力でもなかった。
 なら、あれは、ブルーが……?
 わからない…。
 まだ何かあるのか?
 でもあれは人の思いの塊だ。
 だったら、ブルーも何か伝えたくて来たはず…。
「…ブルーはなんて言ってた?」
「俺に殺された後はどうなったか?と聞いてきた」
「どう答えた?」
「お前がミュウを地球へ導いたと」
「……」
「喜んでいた」
「…そう…良かった…」
 そう言って黙ってしまったジョミーをしばらくキースは見つめた。
「ブルーは俺にこう言った。起源の謎が解けた時、お前をマザーに掠め取られると。起源の謎は見つかったか?その答えを教えて欲しい」
「今それを口に出すと、今にも時間が溶けて動き出しそうで…。まだ言えない。だけど、君には知っていて欲しいと思えるよ」
 キースはブルーも凍った時間が溶けると言ったなと思った。
「いつか、教えてくれるか?」
「ああ」
「お前の声で、言葉で聞かせてくれ」
 その時間はあるのか?とキース思った。
「必ず。君には、必ず…言う…約束する」
 あるよ。とジョミーは答えた。
「本当は…今言うべきなのかもしれない。だけど、僕は今はこう言いたい。僕にいつも居場所をくれてありがとう」
 僕は君がそうして繋ぎとめようとしてくれるからここに居られる。
 ここに居てもいいと思える。
 だから、僕は…。
 前を向いて歩こうと思えるんだ。
「俺はお前の傍にいていいのか?こんな俺でも、もう何も出来ない俺でも…」
「僕が何も出来ないと言うと、いつも君は出来る事はある。と言ってたね」

 運命というモノがあるならそれを壊すだけの力が欲しい。
 今すぐに。
 ブルーはそれを俺に託した。
 俺達にまだ時間はあるのか?
 だから、俺は…。
 暖炉の前で眠ってしまったジョミーを見つめ、
「俺は負けない」
 とキースはつぶやいた。



    jealousy 追記 終 




『君がいる幸せ』 四章「心のままに」十九話 「jealousy」3(全三話)

2011-12-28 02:00:48 | 『君がいる幸せ』本編四章「心のままに」
☆アニメ「地球へ…」の二次小説です。
 <用語>
惑星ノア 大戦時ミュウが陥落させた人類の首都星 今は人類に返還している
軍事基地ペセトラ 人類の軍事拠点 戦後十二人の代表で議会制になる 
惑星メサイア ミュウが移住した惑星
育英都市スメール フィシスとカナリア達が住む都市
ジュピター キース警護時のジョミーのコードネーム(シャトル所有)

   『君がいる幸せ』 四章「心のままに」(短編集)十九話

   Epilogue Bridge「jealousy」3(全三話)  
※時間軸が現在に戻ります。
 愛しすぎると感情は憎しみに変わるものなのか?
「でも、キース。殺そうと思っていても、きっと出来なかったと思うよ。あれが君の理性の表れ…」
 ジョミーは開け放たれたドアを指さした。
 キースはいくつもあったドアを、一つも閉めずにここまで来たのだ。
「君の心は誰か止めてくれと。何度も言っていた」
 そう、だから…。
「…だから僕は黙って着いて来た」
「……」
「ここで君に殺されるなら、それもかまわないと思ったから…」
「ジョミー」
 ドアの方を向いていたジョミーが目隠しをしたまま、ゆっくりとキースを見た。
「僕の志。僕の使命。僕がしなくてはならないそんな物の全てを…捨てさせるだけの力が君にはある」
 キースはジョミーの目を塞いでいるネクタイを外した。
 キースは愛だの恋だのに留まらず、もっと上を見るジョミーを眩しく感じた。
 俺も同じ位置に居たはずだ。
 同じように隣に立っていたはずなのに…。
 今はとても離れてしまった気がしていた。
「キース、それは違う。離れてなどいない。君は僕が好きでも、自分の使命を捨てたりはしない。僕に何があっても進んでいける人だ。たとえここで、僕を殺しても、先に進める。だから、君になら殺されてもいいと思ったんだ。前に僕は全てをかけると言ったよね?あれは君になら全てをかけれると言う意味なんだ。だから…僕は…四年前のあの事件が君をこんな風にさせたのなら…それは僕が悪いのだから…仕方が無い…だから話すべきだと…」
「それは、お前の使命が彼らを殺す事も、自分が死ぬことも許さなかったと言うのか?」
「いや。ごめん。僕は、また詭弁で逃げようとしている…。卑怯だよね」
「……」
「キース、僕は本当はとても怖いんだ。あるがままを話してしまうのが。全てを君に話したら、きっと君は、僕が力を使えるようになった時にどうして捕らえるなり、殺すなりしなかったんだ。と言うと思う。あの時、彼らの未来を感じて見逃した。彼らに同情した。でも、それだけじゃない。僕は大きな矛盾を抱えているんだ」
「矛盾?」
「僕は、僕を陵辱したあの者に助けられた。だから見逃したんだと思う」
 実際命を助けられてるけど、そう言う意味じゃないと加えて言葉を続けた。
「…大戦後、僕はずっと誰かに罰を与えて欲しかった。そして、謝りたかった。彼らはとても暴力的にわかりやすくそれを僕に与えた」
「ジョミー、それは…」
「うん。とても、自分勝手な解釈だとわかっている。それと僕は、人類は何故マザーを簡単に受け入れ、反発しなかったのだろうとずっと考えていた。その答えがそこにあったんだ。絶対的支配の前で人はそれに従ってでも生き抜こうとするんだ。それが人類の種を守ってきた強さなんだね。きっとそれは人類もミュウも同じなんだ…」
「……」
「それが身に沁みてわかった…いつ死んでもいいなんて思うのは、とても醜くて卑怯な事なんだ。どんな時でも生き足掻いて生き抜くのが人間の姿なんだと」
「……」
「それから、ミュウの力が使えないとあんなに怖いって事もわかった…。僕は弱い。人類は強いね…」
「強くはない。俺がしようとした事はただの嫉妬だ。浅はかな行動に出ただけの事だ」
「キース…」
「俺はヴィーからこの話を聞いた時に、最初に思ったのは、何故殺しておかなかったのか?そして何故逃がしたのか?もちろん理由はあるだろうが、お前が消した記憶が戻った事で俺は聞きたくない話を子供のような部下から聞く事となった。あいつは俺達の関係は知らないし、直属の上司だった俺にお前の事を告げ口しただけなのかもしれないが」
「…僕の体調が万全じゃなかったから、暗示がかけきれてなかったんだと思う…。キース。ヴィーは純粋に君に相談したんだと思うよ。そこまで悪い子じゃない」
「告げ口されたも同然なのに庇うのか?」
「庇っているとは思わない。けど、彼は仲間だからね」
 とジョミーは小さく笑った。
「俺はそこまで寛大にはなれんな。今回の事で俺の怒りの矛先は被害者である筈のお前だった。俺は器の小さいヤツなんだと思っ…」
 キースの言葉をジョミーが遮る。
「そんな事はない。僕に怒りが向いて当然だ。僕には彼らを退けるだけの力があるのにそれをしなかった。当然、何かを疑われてもしょうがない」
「ジョミー」
「彼らとの事がいつだったとかは関係ない。僕が信じてもらえないような事をして、それで、彼らの記憶を消して…それで終わったと、軽く考えていたんだ。僕はこの事で僕以外の誰かが傷つくなんて…思いもしなかった…」
 ジョミーは顔の前で手を組みちょっと俯きがちで話した。
「ジョミー。逃がした意味はほぼ理解した。結局は俺達はお互いを信じきれていなかったのか?俺は何度もお前を信じると言っていたのに、いざとなると、こんな無様な事をしてしまった」
 キースはため息をついた。
「キースは無様じゃない。僕がいけないんだ」
「お前は悪くない…」
「僕はきっと、ううん。絶対、間違えた。僕は彼らではなくて…君に謝るべきだったんだ。君の前で泣くべきだったんだ。例え、君に浅ましいと思われても、泣けばよかったんだ。君はそんな僕を受け止められる。意味を成さないプライドなんて捨てればよかったんだ…」
「だが、それは出来なかった」
「…出来なかった。素直になれなかった。償いたいと言いながら僕は君も仲間を殺しているじゃないか。とどこかで弱みなんか見せるものかと、思っていた。キース、君も沢山、失ってきているのにね」
「もう意地を張るな…。強がらなくていい。お互いの傷を舐めあうみたいな事はしたくないが、俺達には俺達でないとわからない物がある。俺も間違えていた。お前の償いたいと言う言葉を俺は、偽善だと感じていた。償っても戻る事のない物に何をしたって所詮、同じだと思っていた。お前にはそれが必要だったんだな」
「キース。僕も間違えてばかりだ。君に強さばかりを望んで、弱さに気が付けなかった。どこまでも冷徹な考え方が出来ると思い込んでた。そういう人間らしさも君なんだね」
「俺達はもっとお互い知らないといけない」
「揺るがない関係なんて出来ないかもしれないけれど、せめて、お互いを信じていけるように…」
「ああ」
「いつか…君の前で泣けるといいな」

 キースが知る中で明らかにジョミーの様子が変だったのが二度ある。
 一つは「月」の時、あの時は、ジョミー自身がした事だ。
 もう一つ、サイオンに酔ったようになった時、本人も覚えていなかった事。
 思えばあれは、ノアで彼らに暴行されたすぐ後、あの時、ジョミーは俺に抱いて欲しいと言った。
 俺はなだめて寝かせたが…。
 傷ついていないと言っているだけで、自己をなくす程に傷ついているのは明白だった。
「あの時、俺はお前を抱けば良かったのか?」
「…え?…あの時って…」
「…四年前、メティスでお前がピンクのサイオンで酔ったのを覚えているか?」
「治癒の練習をしていて…くらいなら…」
「具合が悪くなったお前を部屋に運んで寝かせたら、お前は俺に抱いてくれと言ったんだ。時期的にノアでのすぐ後になる…」
「…そう…か。そんな事が…でも、君は僕を抱かなかったんだな…」
 と、ジョミーはホッとしたような表情を浮かべた。
「キースのその選択は間違っていない。最初から最後まで間違ったのは僕の方だ」
「お前は辛くなかったと言ったが、俺にそんな事を頼む程、辛かったんだろ?自分で記憶が無くなる程に治療したかったのは、お前の心か…?」
「あの後、身体から傷が治って痛みが取れても、力が完全に戻っても、恐怖だけが残った…。それに怒りや憎しみも、逃がした事も後悔した。だけど、戻って殺そうとは思わなかった。暴力で屈服させられるのは人としても、男としても悔しい…。ソルジャーのプライドも無かった。理性と感情と行動がバラバラになっていたのかもしれない。僕がそう願った時に、君に抱かれていたなら…どうだったのだろう?わからないな。君に溺れていたのかもしれないね」
「だったら…そうすれば良かったと思えてきた」
 とキース小さく笑った。
「しなくて良かったんだよ…」
 とジョミーがキースの言葉に合わせてくだけた言い方をした。
「キース、君がいつも僕がもっと前から君を好きだと言うのはそういう事があったからなのか?」
「いや、もう、どちらかが先に好きだと思うようになったか?なんて言うのは関係ないのかもしれない。これから築き直そう。それと、これだけは言っておく。俺はお前が俺から離れたいと言っても手を離す気はない」
「……」
「だから忘れろ。俺で、俺だけを見ろ。俺でいっぱいにしてやる」
「今は…溺れたい…君で満たしてくれる?」
 背後からキースは僕を抱き寄せた。


 昔の宮殿を思わせる内装や丁度品がとても豪華だった。
 貴賓室には暖炉があり、僕が寝室から出てくるとキースが火を点けていた。
 そのゆらゆらと揺れるオレンジの火は僕らをとても落ち着かせた。
「僕は君に謝らないといけないよね。僕達が、その…こういう関係なら…。たとえこうなる前だったとしても…それでも…」
「俺はお前がそんな酷い目に遭っていた事に気が付かなかった…同罪だ。すまなかった」
「ごめん…」
「四年も前の事を無理に思い出させて、もう終わっているものに怒った俺を許してくれるか?」
「許すよ。僕の不可解な行動も許してくれるなら」
「許そう」
「ありがとう」



    jealousy 終

      



『君がいる幸せ』 四章「心のままに」十八話 「jealousy」2(全四話)

2011-12-26 01:35:47 | 『君がいる幸せ』本編四章「心のままに」
☆アニメ「地球へ…」の二次小説です。
 <用語>
惑星ノア 大戦時ミュウが陥落させた人類の首都星 今は人類に返還している
軍事基地ペセトラ 人類の軍事拠点 戦後十二人の代表で議会制になる 
惑星メサイア ミュウが移住した惑星
育英都市スメール フィシスとカナリア達が住む都市
ジュピター キース警護時のジョミーのコードネーム(シャトル所有)

   『君がいる幸せ』 四章「心のままに」(短編集)十八話

   Epilogue Bridge「jealousy」2(全三話)  
※時間軸が現在に戻ります。
   現在・首都星ノア
 官邸のビルに入りエレベーターで最上階まで上がる。
 ここまで来るとドーム都市の天井が近くに見えた。
「前より緑が増えた気がする…」
 二年程前までは、このビルは僕の勤務地の一つだった。
 あの頃、キースは再び人類の代表になる活動をしていた。
 僕は、ジュピターとして彼に付いて世界を周りながら、共生都市計画を進めつつ、人類とミュウの謎を追っていた。
 それは「ジュピター」だった頃の事。
 今は「ミュウの前ソルジャー」の政治活動の方が多かった。
「……」
 静かに緊張が上がってくる。
 この気持ちは何だろう?
 …わかっている。
 僕は我がままだ。
 彼を失いたくないと思っている…。
 僕は「ジュピター」なのか?
「ジョミー」なのか?
 悩む事はない…どちらも僕だ。
 だけど、今、僕は引き裂かれる程、胸が痛かった。
 エレベーターを降りると正面に大きなドアがある。
 その前でキースが待っていた。
「その服で来たのか…」
 とキースは言った。
「ジュピターと呼んでいいですよ」
 僕はまっすぐにキースを見て答えた。
 部屋に招かれた僕は応接セット横にある長いすに座った。
 ジョミーの座った長いすの横に立ったまま、外を眺めるキース。
 二人の間に沈黙が流れた。
「らしくないな…」
「俺もお前も…」
 とキースが言った。
「僕を断罪しますか?」
「何故呼んだのかは、気付いてるようだな」
「はい…」
「断罪か…それはしない。彼らはもう処刑されている。それに、引鉄はノアで起きた兵らの暴走行為が原因。各地での虐殺事件は我々政府の問題でもある。行方不明の人々はミュウの因子の実験の被害者だったのだったと今はわかったが、それを調べもせずに即、ミュウとして処分としたのは明らかに政府の落ち度だったんだ。あの頃、実験施設を探る為に重要な事は全て政府が握っていて、ノアの行政には明かしていなかった。その所為だ。彼らはその被害者だったと聞いた。住んでいた地区を兵士に焼かれて運び屋になったと聞いたが…」
「その通りです。僕は直接彼らから聞きました。でも、彼らは犯罪者。僕は彼らの罪を知っていながら逃がした」
「それは、事情があったのだろう?」
「いえ…単なる同情です…」
「お前は裁いて欲しいのか?お前は、俺の元で働いていても部下ではなかった。ましてや、軍人でもない。軍規で裁くことは出来ない」
「それでは、キース。君が…裁いて」
「……」
「僕がした事を君が裁いてくれればいい」
 何も言わないでいるキースにジョミーは催促するように言った。
 キースはジョミーの真意が図れなかった。
「俺はそんなに詳しく知ってはいない」
「そう?…なら、僕が話そうか?」
「…覚えているのか?」
「ミュウの記憶は忘れているような事でも、自分を辿れば見えると言ったよね?」
「…ああ、そうだったな…」
 ちょっと待っててと言うとジョミーは目を閉じた。
 ジョミーは記憶を手繰りだした。
 キースはジョミーを見ていたが、何かに気付いて目を逸らす。
 そして、
「やめろ」と言った。
 ジョミーが静かに目を開ける。
「もう…思い出さなくていい」
「どうして?」
「辛い事など思い出さなくてもいい」
「…辛かったかどうかなんてわからないじゃないか…」
「辛くない訳が無いだろう?」
「……」
「お前は今、自分がどんな顔をしていたかを、わかっているのか?」
「……!」
 ジョミーは今までキースを見ていたのをやめて目を部屋の奥の方を向けて、考え込んだ。
 四年前の事なんかより、今が辛い。
 でも、僕達はこれを越えなくてはいけない。
 何かをさらけ出し何かを掴むんだ。
 それは、無傷では得られない。
 流してはいけない。
 だけど…何故そう思うのだろう?
「辛くなかったと言ったらどう思う?」
「何に意地をはっている?到底、信じられない事だろう?」
 ジョミーは戦闘中にするようなため息とも深呼吸とも取れるような息をついた。
「…では、キース。君は何故、直接会って話したいと言って僕をここに呼んだ?」
「…それは」
「何が…知りたかったんだ?」
「ジョミー」
「知りたいのは真実。起きたすべて。でしょう?」
「……」
「…だから僕が話す…それで決めて」
 どうして話さないといけない?
 そんな事はしたくない。
 彼らから僕が消した記憶が引き出された。
 ヴィーがキースに伝えた。
 そんな誰かから聞かされた事ではなく。
 キースには僕から本当の事を話すべきだと思った。
 それで、どういう結果になるのかはわからない。
 それでも、僕から真実を伝えなくては……。
 けれど、言いたくはなかった。
 静かにジョミーが話し始める。
「君の知っている通り僕は、コンピューター・テラの欠片をノアで探していた。調べた結果、ある岩山にあるとわかったので、僕はそこに向かって砂漠をシャトルで横断していた。その途中で砂嵐に遭った。それがおさまった時に僕は外に出たんだ。長い時間そこにいた訳でもなかったが、僕は砂漠の熱砂にやられてしまった。ここまでは事後だったが報告はされていると思う。熱砂が過ぎた後、僕は意識を失った。そこに通りかかったのが彼等だった。僕は彼らに助けられた」
 ここまで一気に話すと、ジョミーはまた一つ大きく息をついた。
「…ここからは、僕は酷い発熱と頭痛でちゃんと物事が考えられない状態だったから、曖昧な部分があるかもしれない…」
 ジョミーは長いすの上に両足を上げ膝を抱えた。
 そして一つ一つ思い出すようにゆっくりと話した。
「助けられて気が付いた時には、頭痛だけが残っている状態だった。だが、その頭痛の所為で、意識が集中出来なくて力も使えなかった。力が使えなかったのは頭痛だけじゃなくて、僕が気を失っている間に打たれた注射の所為もあった…。シャトルが上にいるのはわかっていたが、そこに跳ぶ事も出来なかった…。シャトルからの攻撃も対戦艦しか想定してなかったから無理だった…。僕の首には首輪がつけられていて、力を使わない普通の腕力ではそれをどうする事も出来なかった。僕が気が付いてすぐに男が二人部屋に来て…。僕は殴られて…動けなくなった」
 記憶を手繰った時と同じように眉間にしわがよる。
「…彼らに僕に注射を打った。それは、その注射は催淫剤だったんだ。力も使えず、シャトルにも跳べなくて、頭痛で動けないだけじゃなくて満足に話せもしないから、いつもみたいに言葉で黙らせるのは…到底無理だった…」
 ここから先は…と言葉に詰まる。
「…その後は、彼らに暴力的に…弄ばれたとしか…言えない」
「ジョミー」
 と、ずっと黙っていたキースが声をかける
「その上着を脱げ」
「……」
 無言でジョミーは上着を脱ぐ。
 キースはジョミーの腕を掴み立たせ歩き出した。
 ジョミーを半分引きずるようにしてどんどん奥に歩いて行った。
 いくつもある会議室を過ぎた先に、要人用の部屋があった。
 応接間を通りその二つ先に寝室がある。
 ドアを開け中に入る。
 そのドアを閉めずにキースは、そこまで強引に引っ張ってきたジョミーをベッドに投げた。
 そしてその静かな瞳のまま、
「何故そうなったのか言えないのなら、ここで再現をしてみろ」
 と言った。
「…!…」
 その言葉をジョミーは信じられなかった。
 さっきの説明だけで自分には精一杯なのはキースもわかっている。
 なら、何故?
 何をどう知りたいんだ?
 記憶を再現して見せろと言うのか?
 ベッドの上で、投げられた状態のまま睨み続けた。
 キースもただ見下ろしてくるだけだった。
 自分で説明すると言ったのに、途中で言えなくなったのは僕だ。
「女のように泣き喚いて犯されたのか?」という言葉が浮かんだ。
 これはヴィーがシャングリラに来た時、
「泣いて謝ったんだろ?」と同時に彼の心に浮かんだ言葉だった。
 あの時、ヴィーの中には僕に対する蔑むような感情と興味本位の部分が見えた。
 もちろん、ヴィーとキースは同じではないが、今はそれに近いような気がしていた。

 怒りと屈辱で手が震えた。
 それをグッ握り締めて打ち消し、ジョミーはゆっくりとネクタイを外した。
「人は…弱い…。人の世界が上下関係で成り立っているのならば、弱いものは…」
 靴と靴下を脱いで床へ落とす。
「絶対的な支配の前には何も出来ない…」
 シャツのボタンを一つ一つ外してゆく、
「…僕はそれを知った…」
 すべて外し終えた。
「人は生きる為なら自分すら捨てられる」
 そう言うと外したネクタイを手に取りキースをまっすぐ見つめ、
「これで、僕の目を、見えないように縛って…」
 と言った。
 キースは無言でベッドに上がり、細身の柔らかく光沢のある黒いネクタイを受け取り言われたままジョミーの目を隠した。
「なぜ目を?」
「…君に僕の記憶を見せる方が僕には簡単なんだけど…、今はそれすら…したくない。だけど、言葉も出てこない…。それでも、再現なんて無理だ。ならもう、諦めて話すしかない。目隠しをしたのは、僕が君を見ないようにしたんだ。これから話す…僕の話を聞く君の顔を見たくない…」
 僕が彼を必要だと思うならなおさら、目の前にキースは居ないと思わないと、話せない。
 それは、多分、僕の話を顔色一つ変えず、眉一つ動かさずに聞く事などキースには簡単に出来るだろう。
 僕がそんな彼を見たくないだけだった。
「ジョミー。もう、何も言うな…。どこまで意地をはれば気が済むんだ」
 キースは右手でジョミーの肩を掴んだ。
「意地じゃない…」
「俺は、今回の事は、二人が会えばそれだけで簡単に済むと思っていた。お前に会う決心がついた自分だけに満足していた」
「……」
「お前はきっと弁解してくるだろうと思っていた。まさか自分で説明をするなんて言うとは、思ってもいなかった。俺は事件の断片しか知らない。ヴィーも全部は知っていない。俺は、本当に会えば済むと思っていたんだ…。薬や暴力で言う事を聞かざる負えなかったお前の気持ちなど微塵も考えていなかった。ただ俺を納得させる為に弁解してくるだろうと思っていた。俺達の関係なら当然そうだろうとしか考えてなかった…」
「……」
 キースは掴んでいた手を離し言葉を続ける。
「さっき、俺はお前が説明すると言った時に、下卑た男に成り下がった。お前がそいつらの前でどんな顔をしたのか、どんな事をして、どんな声を上げたのかが、知りたくなったんだ…」
「……」
 ジョミーはただ下を向いて黙ったままだった。
「その時、俺がお前に会えなくなった理由がそこにあったと、わかった。俺は最低だ」
「……」
 まだジョミーは何も言わなかった。
「再現しろなんて言うつもりはなかった」
「…再現したら、殺してた?」
「君は僕を殺すつもりでここに呼んだだろ?」
「……」
 キースはまだ言葉でこの場を収めてしまおうとする自分を感じた。
 そう、俺はジョミーを殺そうと思ったのだ。

 愛しすぎると感情は憎しみに変わるものなのか?


   続く


※ノアでの事件は隠部屋にあります。
 カテゴリー・パスワード入力で入れます。「Kill me tight」(暴力ありの18禁)



『君がいる幸せ』 四章「心のままに」十七話 「jealousy」1(全三話)

2011-12-25 04:16:17 | 『君がいる幸せ』本編四章「心のままに」
☆アニメ「地球へ…」の二次小説です。
 <用語>
惑星ノア 大戦時ミュウが陥落させた人類の首都星 今は人類に返還している
軍事基地ペセトラ 人類の軍事拠点 戦後十二人の代表で議会制になる 
惑星メサイア ミュウが移住した惑星
育英都市スメール フィシスとカナリア達が住む都市
ジュピター キース警護時のジョミーのコードネーム(シャトル所有)

   『君がいる幸せ』 四章「心のままに」(短編集)十七話

   Epilogue Bridge「jealousy」1(全三話)  
※時間軸が現在に戻ります。
  現在・メサイア襲撃とノアの政変後 
 誰かを好きになればなる程、人は堕ちてゆくのだろうか?
 ヴィーがキース付きとなって、やはり僕は少し複雑な気持ちになった。
 でもそれはメサイアで感じたあの時のように僕をぐらつかせる事はなかった。
 あの頃の僕は…。、
 クローンの彼らと戦う日が来る事を恐れていた。
 だから、キースの中に逃げてしまいたいと、思っていたのだろう…。
 その恐れが悪夢を呼び、僕を彼に落ちるようにと惑わせた。
  あの状況から逃げたくて、連れ出して欲しかった。
 嫉妬という感情は、その対象になりたいと思うから…と言うが、キースの傍にいられる者たちに僕は嫉妬した。
 いつから僕はこんなに弱くなったのだろう。
 いや、僕は強くなどはなかったな。
 あの時、ブルーも言ったっけ…「僕も弱いよ」と。
 僕はキースへの気持ちを自覚した。
 だが、ここ3ヶ月。
 僕達は忙しくて会えなかった。
 でも、それは忙しいからだけではなかった…。

 キースは考えていた。
 「嫉妬」という感情は何だろうと…。
 それは、成り代わりたいと思うものではなくて、ただ、許せない自分がいるのが不思議でならなかった。
 得体のしれないその感情の始まりは、ヴィーから聞いた四年前のジョミーの事、惑星ノアを中心とした誘拐、人身売買事件だった。
 四年前の戦後の混乱期から続く人身売買事件は人間にミュウ因子を植える実験をする為に集めらた。
 誘拐された子供たちだったのだが、ノアの辺境を捜査中だったジョミーがそれに巻き込まれていたとの報告だった。
 護衛官兼捜査官の「ジュピター」として接触したのであれば、犯人を捕まえなくてはならない。
 それを見逃した事は問題だった。
 だがそれより、ヴィーがミュウの力を使って機械的に自白させた部分、捜査中に彼らに助けられたジョミーが拘束され暴行を受けていたという事実。
 ジョミーからはその報告は上がっていない。
「それは彼が彼らの記憶を消しているらしい」との事だった。
 記憶を消す事。
 ジョミーはそれを良しとしていない。
 むしろ、その行為を憎んでさえいるはずだ。
 ヴィーの部隊に見つかった時の報告は受けている。
 報告がされなかった事、記憶を消さなくてはならなかった程の事。 
 彼がそれをしたなら、これは多分…触れてはいけない。
 触れてはいけない…と思うが、その事実を問い詰めたいと思う気持ちが首をもたげる。
 直属の上司だった時代だ、聞く権利はある。
 その頃ジョミーが集めていたものについての事も報告はされているし、その運び屋は捕まり処刑されている。
 ヴィーが独断でジョミーの事だけを何年も隠していたのは、その事実を知っている人間が自分一人だという事と、ジョミーを敵視している彼にしたら、その事件はショッキングだったかららしい。
 誰にも言うに言えずに居たという事だった。
 それを、やっと言えた対象が俺だった。
 それだけの事だ。
 こんな事は気にしなければ何ともない。
 そう思っていたのに、それを知ってからジョミーと会うどころか通信も減っていた。
 今は、ミュウとはトォニィとセルジュが連絡を取っている。
 ノアの政変も収まり、平和だった。
 そんな心の余裕がそう思わせるのだろうか?
 人を好きになればなる程、堕ちてゆくのか?
 俺はジョミーへの気持ちを自覚した。
 今、それが揺らいでいる。
 俺はこんなに弱かったか?
 だが、ここ3ヶ月程。
 俺たちは忙しくて会えなかった。
 でも、それは忙しいからだけではなかった…。

 ヴィーはずっと言えなかった事を言えた事が嬉しかった。
 言ってはいけないと、封印しようとしたのに、自分の中でジョミーの存在が大きくなる度に言ってすっきりしてしまいたかった。
 直接会った時につい話してしまった事を、後から後悔する事となった。
 ジョミーは怒っていた。
 あれはそれを知ってる僕への怒り。
 彼が怖い部分もあったが、僕がその秘密を知っていると、彼とそれを共有してしまったのが怖かった。
 誰にも言わずに、秘密にしていた方がよかったと思った。
 けれど時は戻らない。
 尊敬するキースの部下として移動が決まった事で、四年前にジョミーの上司だったキースに会えた時に思い切って相談をしたら、会えるように時間を取ってくれて、話を聞いてくれた。
 そのことをキースは記録に残す事はせずに自分だけの胸にしまうと約束をしてくれた。
 運び屋がした暴力行為は重罪だ。
 もう処刑されているのでそれ以上罪には問えない。
 だが、僕は今、酷い扱いを受けたのに見逃したジョミーの心理が知りたかった。

 キースがヴィーから話を聞いてから四ヶ月が過ぎた頃、人員が増えた事でジョミーがシャトルを新しくした。
 その報告と礼を兼ねてジョミーがノアへ会いに来た。
 シャトルにはジョミーとソルジャーズのブルーとジョミー、パイロットのシドが乗って来ていた。
 官邸で4人と会い報告を受け、彼らが出てゆくのを普通に見送った。
 ジョミーも公式行事のようにそのまま出ていった。

 俺は何にこだわっているんだ。
 暴行された事を報告されなかったからか?
 それとも、その事実が許せないのか?
 俺がいるのにそんな事になっていた事か?
 だが、俺達がこういう関係になる前の事だ。
 そいつらをジョミーが見逃した事か?
 俺は何にこだわっているんだ。

  ジョミーのシャトル内
「ジョミー。いい?」
 とソルジャーズのブルーが部屋を訪れた。
 部屋にはシドが居てスメール行きの話をしていた。
「ジョミーに話がある」
 と言うと、シドは出ていった。
「あのヴィーってヤツ、殺してこようか?」
 とブルーが言った。
 何故?と聞くと、ジョミーを悩ませてるじゃないか。
 と言う。
「ダメだからね。そういう事をしちゃ、いけないよ」
「でも、邪魔だと思ってるでしょ?」
「邪魔ではないな。彼が関係なくは無いが、でも、これは僕とキースの問題だから。君たちは何もしなくていい」
「キースも変だったよね?」
「……それを言うなら僕もだから、同じなんだ。彼だけではないんだ」
 ソルジャーズたちは何故か僕の心によく反応してくる。
 でもそれは本当に何が起きているのかがわかっているのではなくて、ただそう反応しているだけ。
 …僕の心の深い部分に反応しているだけだ…。
 そう、飼い主とペットのように…。
 卵から孵った雛鳥のインプリティングのように僕に懐いていた。
「ジョミー」
 と操縦室からシドが通信してきた。
「キース・アニアン議長からです。そちらに繋ぎます」
 と僕の部屋に繋いた。
「ジョミー。話しておきたい事がある。時間をくれないか?」
「話の内容をここで聞いて決めるってのは、出来ないよね?」
「直接会って話したい」
「…了解。今から?どこに行けばいい?」
「ここへ」
「わかった。すぐに向かう」
 と通信を切った。
 キースの様子がおかしくなったのは、ヴィーをシャングリラへ連れてきてすぐ、彼がキース付きになってから…。
 僕に言ったあの一言。
「なんで、あいつらには謝ったのに?」
 あれはヴィーが一人で悩み抱えてきたものだったから…きっと、伝わってしまったのだろう。
 あの事に関しては、僕に非がある事ばかりだ。
 病気になってしまった事、捕らえられてしまった事、何も出来ず暴行された事、それなのに僕は彼らを逃がした。
 彼らの境遇に同情したとしても、そうしてはいけなかった。
 僕はミュウの幹部服を脱ぐと、「ジュピター」の黒いスーツに着替えた。
 そして、そのまま、ジュピターとしては禁止されている事をした。
 僕は空港から官邸まで跳んだ。



   続く