君とともに生き、君とともに逝くのならば、僕は君の為に生きよう。

真城灯火の小説ブログです。
二次小説とオリジナル小説の置き場となっています。
同人に傾いているので入室注意★

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☆入室ありがとうございます☆ PN:真城灯火です。 『小説家になろう』で書いています。「なろう」で書いている小説も転載させていますが、ここはアニメ「地球へ…」の二次小説置き場です。本編の『君がいる幸せ』は終了しています。今は続編の『限りある永遠』を連載中です☆まずは、カテゴリーの「はじめに」と「目次」「年表」で(設定やR指定について等…)ご確認の上、お進み下さい。 ブログタイトルですが、これの「君」は自分自身、心の事で、「僕」は自分の身体の事です。 自分の心がそうであるなら、自分はそれに従う覚悟を意味しています。 だから、ジョミーや誰かが一方的に誰かに…って意味ではありません。(小説停滞中) 2021年に、他にあるブログを統合させたので、日常の駄文とゲームの話が混ざった状態になっています。

『君がいる幸せ』 三章「星の祈り」二十話・閑話

2011-11-12 02:11:01 | 『君がいる幸せ』(本編)三章「星の祈り」
☆アニメ「地球へ…」の二次小説です。
 <用語>
惑星ノア 大戦時ミュウが陥落させた人類の首都星 今は人類に返還している
惑星メサイア ミュウが移住した惑星
育英都市スメール フィシスとカナリア達が住む都市
木星軌道上の衛星都市メティス 二人がいた建物
ジュピター キース警護時のジョミーのコードネーム(シャトル所有)

   『君がいる幸せ』 三章「星の祈り」

  二十話 現在 
 後日談  
 子供だったのが無理やりに大人になったような…とは、当たっているのかもしれない。
 誰にでも子供時代はある。
 けれど、今の大人達に子供時代の記憶はない。
 子供時代が無いような人間達を相手していれば、僕はかなり不安定なモノに見えると思う。
 SD体制は記憶を消し、都合のいいようにして何百年もやってきた。
 それを人間は不満を持たずに受け入れてきた。
 それを壊したのが僕ら。
 人の記憶は大切だが問題はある。
 それがあると動けないようになってしまう場合もある。
 だけど、たとえどんな事がその人に起きたとしても、人にはそれを乗り越えられる力があると僕は信じている。  思っているより人は強い。

 記憶を見せる以外に出来る事は多い。
 その人の記憶から映像を取り出し見せる事も出来る。
 それが人物であるならある程度の情報があればその人を思考の中で映像を再現し、会話をさせることもできる。

 キースに今、会いたい人は?と聞いたら、
「ジョナ・マツカ」
 と答えたので、僕は情報を集めキース自身からの記憶も聞いて彼を再現してみる事にした。
 トォニィが殺した彼を再現させるのは僕にも辛いものだったが、キースの方も、心理的な波形があまりに微妙だったので、僕自身は再現させるだけで見ないようにして、彼に会わせた。
 マツカとキースがどんな会話をしていたかは僕は知らない。
 何が聞きたくて会ったのか。
 何が言いたくてそうしたのか、僕にはわからなかった。
 興味があると言えば、ある。
 自分がやった事なので、自分をたどれば見えると思うが、それをする気はなかった。

 何日かしてからキースが聞いてきた。
「お前が今、会いたい人は誰だ?」
「ブルーと答えると思っているよね?」と聞いてみると、
「ああ。そうだろう?」と返ってきた。
「別にいないよ」
「いないのか?」不思議そうに言うキースが言った。
「んー、今、会いたい人には、会ってるから。他はいないんだ」 
 にっこりと笑いながらジョミーが答えた。
 一瞬驚くキース。
 僕はその顔が見れたから蟠っていたものが流されていく気がした。
「言うようになったな…」
「自覚したからね」
「何をだ」
「それ、言わせるんだ…」
「お前が言うのを聞きたい」
 我がままだねと思いつつ。
「君を愛している。僕には君が必要だと自覚したんだ」

「今すぐ会いたくなった」
 キースは笑った。
「来れば?僕が行ったみたいに」
 と笑うジョミー。
「今度いつ会えるか?なんて思う日が来るとは思ってもみなかった」
「僕も」
 これが交信でなければ僕はキースに抱きついていたのでは?と思う程だ。
 自分でも感情が浮ついているのがわかる。
 こんな日が来るとは思っていなかった。

 消えたモニターの前に、ゆっくりと彼の幻影が現れる。
 僕に手を延ばして、僕の襟を掴んで引き寄せる。
 唇が触れる程に近づく…。
「お前は、もう離れていたくないと思う事は無いのか?」
 ごめん。
 キース…。
「僕にはそれは望んじゃいけない事なんだ」
「……」
 今だけ…、
 今、愛している。
 それじゃいけない?
 だけど、 
 先の事はそうなってみないとわからない。
 その時その時を生きた先が未来なんだ。
 僕は…望み願う。
 この先がある事を。
 ああ…。
 今は前だけを見て進もう。



   「星の祈り」 終


 閑話 キース
 それは、メティスで暮らしていた頃に、精神感応をしたいと、ジョミーが言ってきた。
 また地球が見たいのか?と聞くとそれとは違うと言う。
 僕の記憶を君に見せたい。と言うのだ。

 僕が持ってる十四歳までの記憶を君にあげたいんだ。
 パパやママ そしてサムのきっと君にもこれは必要だと思う。
 記憶がないのは寂しいことだから、
 せめて…僕には君にしてあげられる事が何もないから…。

 何も無いと思うのか?あるだろう?

 そうかな?
 でもね。今は記憶を見せたい。
 十四年分のすべてを渡すわけじゃないからすぐだし、怖くないよ。
 持ってて欲しいんだ。君に。
 人間らしく生きると決めたのなら持ってた方がいいと思うんだ。
 SD体制で皆が幼い記憶を無くしているけれど、無くしてしまったのと、無かったのとは全然違うと思うから…。
 記憶を無くしていない僕には、本当の辛さはわからないけれど…、
 でも、この記憶が無かったら…と思うと…。
 僕は僕でいられたかどうかわからない。

 だから、
 コレはきっととても大切なモノなんだと思う。
 持っていて欲しいんだ。
 君にも。

 キース
 あげるよ。君に僕のこの暖かい記憶を…。

「ねぇ、暖かい?」



 閑話 トォニィ
 ねぇ、知ってた?暖かいんだ。

 何が暖かい?

 グランパがいるとシャングリラは暖かいんだよ。知ってた?

 それはね、きっと。
 君が安心していられる場所だから、家に誰もいないと寂しいよね?
 自分の家なのに、そう思うだろ?
 そこに誰か居ると安心するよね?
 それが「暖かい」んだよ
 親がいるだけで子供は安心して眠れるんだ。
 子供が安心して眠れる場所を与えてあげるのが親の仕事。
 それが僕達ソルジャーの役目。
 仲間たちが安心して暮らせるように。
 外で親鳥が戦い傷つき帰って来ても、そこに子供が笑顔で待っていてくれたら…。
 どこでも何度でも立ち向かえるんだ。
 僕達はそうならなきゃいけない。
 君は大人になってゆく。
 僕が君にしてあげられる事はもう少ないだろう。
 だから、
 今は、ここで…、眠っていいからね。
 僕の隣で眠って。

「ねぇ、暖かい?」



 閑話 ジョミー
 やってきた事の全てが正義だったなんて思わない。
 いい事だけを選んで生きていける訳じゃない事も知っている。
 したくない事もしたし、しなきゃならない事から逃げもした。
 理不尽さに泣いた日も、ただ力だけを揮った日も、諦めてしまった日も、
 でも僕たちは、それでも進まないといけないんだ。
 キースに十四歳までの記憶を渡した時、思い出した。
 僕はブルーにも記憶を渡している事を…。

 貴方は眠っていて、受け取ってくれたかもわからなかったけれど…。
 記憶がないままで、ずっといるのが辛い事だろうと思ったから…、
 だけど、あの頃の僕はまだ未熟で、不慣れで。
 十四歳までの記憶をちゃんと選んで送れていたかがよくわからなかった。
 ありとあらゆる事まで見せてしまっていたんじゃないだろうかと…。
 後で顔から火が出そうな程になったっけ。
 あれもきっと貴方は笑って許してくれるだろう…。

「うん、そうだね暖かいね」って笑ってくれる…。




  終


『君がいる幸せ』 三章「星の祈り」十九話 ※BL風味(会話が過激?)

2011-11-12 02:06:48 | 『君がいる幸せ』(本編)三章「星の祈り」
☆アニメ「地球へ…」の二次小説です。
 <用語>
惑星ノア 大戦時ミュウが陥落させた人類の首都星 今は人類に返還している
惑星メサイア ミュウが移住した惑星
育英都市スメール フィシスとカナリア達が住む都市
木星軌道上の衛星都市メティス 二人がいた建物
ジュピター キース警護時のジョミーのコードネーム(シャトル所有)

   『君がいる幸せ』 三章「星の祈り」

  十九話 現在  ※BLあり…会話が過激?

   戦艦ゼウス キースの部屋
「人を好きになる意味がわかったと言ったが本当に解ったのか?」
「どうしてこだわるの?」
「気になったからだ」
「言いたくないと言ったらどうする?」
「無理にでも答えてもらう」
「…性格が違ってるって言うんじゃなくて、元々からそういう性格だったね…。疑問があると突き進む…」
 分かっているなら早く答えろ。と言う顔で見てくる。
 仕方なく素直に答える事にした。
「好きになるって言い方をしたけど、本当は愛する意味は?と聞いていたんだ。愛は難しいから言いにくかった。愛する事は知っているけど…。親から子への愛なら親への愛も愛。友情も愛だし、僕がミュウたちを守ってきたのも愛があったから、地球や人類への愛もあった」
 何も言わずに聞いていたキースが少し厳しい顔をした。
「…それでは何故わからなくなった?」
 それは、多分…。
「僕自身が真剣に愛した事がなかったからだと思う」
「相変わらず、お前のは…許容量が広すぎる…。それなのに、愛した事がなかったのか?」
「すり抜けて行くものばかり追ってた気がする」
 僕は手を見た。
「わからなくなったのは、誰も僕を見てくれてないから…」
 戦後になってやっと自分は生きているんだと自覚が出来たキースには、ジョミーの言う意味が痛いほどわかる気がした。
 彼はミュウである以上、どこまでも「ソルジャー・シン」の名は付いてまわる。
 どこまでも人間ぽいこの男を、その強大な力は人間で無くさせてしまうのだろう…。
 そんな気持ちが自分はわかると思った。
「だから、僕は、ミュウの女達のように自分の命をかけても後悔しないような、愛し方がしてみたいと思ったんだ」

「じゃあ、俺を好きになれは、あながち間違ってはいなかったな」
「それは、僕に命をかけさせる程に、君を好きになれという事?」
「そうしたいんだろう?」
「ん、わからないな。僕に子供でも産めればすごくはっきりした形で理解できるんだけどね」と答えると、キースは黙ってしまった。
「……」
「ん?なに?」
「お前、俺の子を産みたいって思ってるのか?」
「!!」
「ち、違うーーー。そうじゃない」
 そうか、ソルジャーズみたいなクローンでなく、もし、僕が女だったとしたら、受精するその相手ってのが必要になるんだ。僕と僕ってわけにはいかないんだ…。でも、だからって…。
 キースは考え込んでしまったジョミーを面白そうに見ていた。
 彼はジョミーが他と考え方や感じ方が少し違うのを楽しんでいた。
 そして、助け舟を出すようにキースは「俺も愛はわからない」と言った。
 それに対してジョミーは事もなげに言った。
「キースは人を愛していればいいよ。僕はそんな君を愛するから」
 今こいつは俺に対して、最上の殺し文句を言ったのを全然、わかっていないなと思った。
 言われたのは嬉しかったのだが、ジョミーのそれは人類愛だ。
 キースは、人類愛=愛 の図式を恋愛に替えてやろうと思った。

「命を掛けても惜しくない愛か。それは重くないか?」
「重い?」
「お前が言う愛は、人類愛や親が子に思う愛だ。その辺りはお前は十分に実践してきている。お前が人類も愛していて、その行く末も心配していなければ、でなければ、イグドラシルに降りたりしない」
「…そうかもしれない」
「そんな重い愛じゃなく。もっと違うのがあるだろう?」
「?」
「お前、いままで何人と経験した?」
「!」
「何人好きになったか?だ」
「…」
「ちゃんとした恋愛で…何人とだ」
「4人、5人かな?」
「それで何回経験してる?」
「か、回数?」
「そう、肉体関係が何回あったか?だ」
「それは、こ…答える必要があるの?」
「必要無かったら聞きはしない」
「…人数と同じくらいだと思う…」
「ミュウってそんなに禁欲主義なのか?」
「き、禁欲って……。他の人は知らないけど…」
「それが、もう一種の愛だ。お前はそこを飛び越えて重い方のばかりを追っているから、わからなくなるんだ。人を好きになって愛してからじゃないのか、命を掛けれる程の愛ってのは?」
 これでは、恋愛=愛ではなく、肉体関係=愛になってしまう。
 かなり強引な言い方だとキースにも思えたが、これくらい言わないと、きっとジョミーには、わからない。
「そうか…」
 命を作り出す過程で僕に足りなかったのは愛だったんだ。
 カリナもユウイを愛しているから、何があっても怖くなかったんだ。
「僕の中で、いつしか命と愛が別物になってしまっていた…。愛があるからなんだね」
 ボロボロとジョミーは泣き出した。
「バカだな。お前」
「機械人間に愛を諭されるなんて思わなかったよ」
「俺には子供時代が無いが、お前は子供からいきなり大人にさせられた感じがあったからな…」

「あ…れ?」
「?」
 それっきり何も言わなくなってしまったジョミーをいぶかしげに見るキース。
「どうした?」
 ジョミーはじっとキースを見ながら、
「君がちゃんと見れない」と言った。
「?見てるじゃないか?」
「ドキドキするんだ」
「…お前、今までの経験って何だったんだ?したいだけだったのか?」
「ち、違う。好きで愛してきたけど、どうしたんだろう…情けないな…僕はこんな感情も閉じ込めてきたってことなんだね…」

 ミュウになるという事。
 ソルジャーという重責。
 ナスカの責任、宣戦布告、地球へと。
 その役目を終えた僕は…。
 もう人でもミュウでも無くなっていた。そう思っていた。
 家族を作る事には憧れたけど、僕はどこか臆病になっていた。
 人を愛せない。
 いや、愛してはいけない。そう決め付けていた。
 カリナを失い、ブルーを逝かせてしまった。
 僕が愛する人は不幸になるんだと、だったら、誰も愛さずに。すべてを愛してゆこうと。
 でも、それはとても悲しい事だったんだ。

「僕はどうすればいいのだろう?」
 そう聞かれたキースは、今、はじめて、ブルーに会って話をしてみたいと思っていた。
 ジョミーは確実にブルーを愛している。
 それは心の底から、ジョミーの深層心理には彼がいた。
 深い海の底でジョミーを見守るブルーがいた。
 だからもう誰も他を愛するなんて出来ないのだろう。
 けれど、その一画に自分が入った。
 それは事実だ。
 今、ブルーならジョミーをどう受け止めていくのだろうと思っていた。
 どうやって愛してゆくのだろうと思った。
 結局はこいつは…、俺だけのものにはならない。
 いや、なれない。
 そうキースが思った時、
「僕だけの…ものになって…」
 聞こえないような声で、きれぎれにジョミーが言った。
 それはきっと心からの言葉だろう。
 自分は俺だけのものになれないのに、俺にはなれ。と言うのか?
 そんな事、もうずっと前から決まっている。
「いつでも俺はお前だけのものだ」
 お前が笑っていられる世界を、作っていくのが俺が生きるという事だ。

 半年前のあの時、俺はふわふわとどこでも行ってしまいそうだったジョミーを、繋ぎとめようと抱いた。
 思えばそんなのは一時の事で、腕の中に居る時間だけしか止めておけない事に気がつくべきだったんだ。
 でも今は違った。俺の中にも愛しているという自覚があった。

「何でも持っていけばいい。それがお前を俺のモノに出来る。唯一の方法なら」



  続く






『君がいる幸せ』 三章「星の祈り」十八話

2011-11-11 01:52:37 | 『君がいる幸せ』(本編)三章「星の祈り」
☆アニメ「地球へ…」の二次小説です。
 <用語>
惑星ノア 大戦時ミュウが陥落させた人類の首都星 今は人類に返還している
惑星メサイア ミュウが移住した惑星
育英都市スメール フィシスとカナリア達が住む都市
木星軌道上の衛星都市メティス 二人がいた建物
ジュピター キース警護時のジョミーのコードネーム(シャトル所有)

   『君がいる幸せ』 三章「星の祈り」

   十八話 現在  
 戦艦ゼウス キースの部屋
「シャトルが撃ち落されなくてよかったな」キースは冷たく言った。
「普通に飛んできたから…ね…」
「能力で飛んでたら即撃ち落されてたかもな」
 急速接近するシャトルに一時戦闘(スクランブル)状態になったゼウスだった。
 二人はテーブルを挟んで向き合って座っていた。
 ジョミーの後ろにはソルジャーズがいる。
「……」
「で、急用でもないのに、何をしに上がってきた?」
「……」
 ジョミーは答えなかった。
「あんたに会いくなったからだよ」ブルーが言う。
「わー!ダメだってば」とブルーをおさえるソルジャーズのジョミー。
「ごめんなさい」彼はブルーを無理やりひっぱり出ていった。
 ドアが閉まるのを見届けてから、
「ブルー、声が低くなったな」キースが言う。
「最近、声変わりしてきたからね。ますます似てきたかな」
 ジョミーは彼らが出て行ったドアを見たまま答えた。
「それで、ブルーが言った事は本当か?」
「うん。そうだな…認めるよ。会いたくて来たんだ」
 ジョミーはキースの方を見ながらゆっくりと返事をした。
「それだけで、来たのか?」
「……」
「バカだな、おまえ」キースはため息をついた。
「後、何時間かで会えるだろうに…」
 ゼウスは式典の後、各地を回ってノアに戻る前にメサイアに寄る事になっていた。
 僕もそれは十分承知していた。
 だが、僕はゼウスが到着する頃には、メサイアを出発する予定になっていた。
 出来れば会いたいなと思っていたのは確かだけど、たとえトォニィ達にのせられたとしても、こんな行動を取ってしまった自分が恥ずかしかった。
「会いたかったんだから!いいじゃないか!」と心の中で言ってみた。
 情けないが、言い訳すら出てこなかった…。
「……」
「いつも、そう素直で大人しかったら、何年もかかる事はなかったのにな」
「え?」
「お前が俺を好きだと自覚してから今日みたいに本音が出るまで何年かかっていると思っている?」
「自覚って…メサイアでの事?」
「素直に俺に会えて嬉しいと言ってただろう?俺の事を好きだったとも。だけどお前が俺を意識するようになったのはもっと前だと思っている」
「……」
「お前はいつからだと思う?」
「…わからない…」
 キースが真正面からじっと僕の目を見て話すので、彼の前に、尋問を受けるような形で椅子に座らされているのが、苦痛になってくる。
 しかし、よくそういう事を平気な顔で言えるなと、キースは照れるってないのか?と思った。
 この機械人間!
 僕は下を向いていた顔を上げて、キースの目を見返して言い返した。
「確かにメサイアで僕は好きだって言ったけど、キースからは何もなかったじゃないか」
「言っている」
「いつ?」
「月に行った後だったか…」
「え?…あ…」

『お前は俺を好きになればいい』

「あれは、冗談だと思ってた…」
「好きだと気づくまで何年もかかって、自覚しても行動に出るまで二年か…。それで、まだ何年もかかるのか?」
 その言い方にカチンとなるジョミー。
「じゃあ!キースはいつから、僕を好きになった?」
「俺はナスカでも、地球でも、敵としか見ていなかった。助けられてからも、余計な事をしてくれたとしか思ってなかったな…」
「…助けてごめん」 ぼそりとジョミーが言った。
「そこでお前が謝る必要はない。言いたい事は違うだろ?言葉をとめるな。そこで切るんじゃない。言いたい事はすべて言え。受け止めるから、俺はそんなやわじゃない」
 ここまでこんな風に来てしまい、僕の感情が不安定に露になってて隠せてない今だから…。
 キースは僕から全てを吐き出させるつもりなんだと感じた。
 今の心のままに全部出してしまおう…と覚悟を決めた。
「…わかった。僕は君を、地球で助けた事を後悔はしていない。だから謝らない。」
「そうか」
「あの時は、僕も死ぬと思った。だけど…助かる可能性があるのならそれに懸けてみようと。地の底で、君を助ける事が僕も生きる事に変わったんだ。もう駄目だと諦めた時、君に触れたら「命の音が聴こえてきた。それで、諦めずに地上まで上がれたんだ。君が僕を助けた。だから謝らない」
「俺はお前を責めてはいない。意識が戻った時に礼は言っている。あれは本心だ。今も感謝している。俺はあの日でやっと人間になれた気がした」
 キースは少し優しい目をした。
「キース」
 彼にあらためてそう言われると、あの時の死にそうな思いや死んでいった仲間たち。僕たちを押し上げてくれた幾多の人々の想いが報われる気がした。
 キースは言葉をつづけた。
「地球で、お前の覚悟と優しさを知った。きっかけはシロエだったのかも知れないが…、ビルレストで暮らしている間は、危なっかしいやつくらいにしか思っていなかった。月日が経つ内に、俺の中でわだかまっていた「月」を教えないといけなくなった。だが、何故だか教えられなかった。そこが自分でも不思議だった。月にはブルーがいる。だから、言えなかったのだと俺は気がついた。あれは嫉妬だったのかもしれない…。正面からお前を見るようになったのは月を教えた時からだ」
「月を…」
「上手く言えないが、あの時、月でお前を守るのが俺の役目みたいに思った」
「守る?」
「能力が強い弱いじゃない…。お前はどこで何をしてても自分を捨ててる気がして」
「僕はちゃんと生きてるよ」
「そうだな、今はな…」
 キースは、一度目を伏せてから、あらためて僕を見つめ直した。
 彼の目は「さあ、まだ言いたい事を言え」と言っていた。
 そんなキースの行動に言葉がつられて出てくる。
「…確かに僕は月で…変だったかもしれない。月に着いてから、何もかもがどうでもよくなってた。地球も月も、人もミュウも。すべて…。僕は何故死ななかったのだろう?とそればかり…何の為に生き延びているのだろう?とそう、すごく死にたがっていた」
「月でブルーを見て生きていこうと思ったのか?」
「ううん…ブルーを見ていたら、生きなくてはならないって感じはしたけど、彼じゃない。あの赤い地球を見たら、青い地球が見たくなる。生きて青い地球が見たいと…。月は近い、肉眼で地球が見える。地球は青く美しいとインプットされた僕の心は軋むんだ。人は愚かだと泣くんだ」
「ああ」
 自分をつかまえ地球を見せたジョミーを思い出すキース。
「キース、僕は、今どう見える?」
 今度はジョミーがキースを真正面から捉えて聞いてくる。
「今も探してる気はするが、スメールに行ったからか?何かがあった方が良いのかもしれないな。お前は。生まれながらのソルジャー(導く者)なのかもな」
「導く者がソルジャーなら、キース、君もだね」
「その称号は欲しくないが、今度、月へ行ってみるか?」
「議長の許しが頂ければ、いつなりと」


 戦う者がソルジャーだと思ってた時期もあった。
 導く者だと地球に着いてやっと気がついた。
 僕らはブルーに導かれてここまでやって来たのだと…。
 今は、守護する者だと思っている。
 この新しき世界を…。

 ブルーが恋がれ 
 キースが願い 
 トォニィが夢を見て
 僕が望む

 この世界を護りたい
 僕はこの世界の剣と盾になろう。
 



  続く



『君がいる幸せ』 三章「星の祈り」十七話(Messiah/現在)※BL風味

2011-11-10 19:27:56 | 『君がいる幸せ』(本編)三章「星の祈り」
☆アニメ「地球へ…」の二次小説です。
 <用語>
惑星ノア 大戦時ミュウが陥落させた人類の首都星 今は人類に返還している
惑星メサイア ミュウが移住した惑星
育英都市スメール フィシスとカナリア達が住む都市
木星軌道上の衛星都市メティス 二人がいた建物
ジュピター キース警護時のジョミーのコードネーム(シャトル所有)

   『君がいる幸せ』 三章「星の祈り」

  十七話(Messiah)現在 ※BL風味(遊び回です)
 人類の首都ノアの政変は連邦政府の勝利となった。
 惑星ノアの避難も解除され、各地で起きた暴動の芽も収まっていった。
 ノアを救ったのは連邦政府と報道された。
 ミュウの星、メサイアにも人々が戻った。
 ノアと同じようにメサイアも狙われたが、こちらも無事に終わったと報道されていた。
 危険度の高い兵器コロナフィズの存在は人類には明かされなかった。
 けれど、人類の首都ノアを救ったのは「ソルジャー・トォニィとジョミーである」と静かに広まっていた。
 ミュウ達は自分達が人類と同等では無いと思う者が多いが、この事件はミュウ達にとって心強い誇りとなっていった。

  シャングリラ メディカルルーム
 ミュウとしての力を使うのに慣れていないソルジャーズの二人はジョミーより遅かったが、動けるまでは回復をしていた。
 トォニィは政府からメサイア襲撃の実行犯として彼らの引渡しを要求された。
 彼は重症の為、治療中と拒否をした。
 交渉の末、彼らの身柄はジョミーが預かる事となった。
 しばらくして「終戦式典」が行われた。
 最後のメギドは太陽系地球のの太陽に落とされた。
 また人類は自立と、共存の道を静かに進み始めた。
 式典後、ジョミーとトォニィの許にセルジュが訪れた。
 一時、メサイアの治安を守っていた彼はトォニィと話が合うようだった。
 前は喧嘩腰だったのに、いつの間にこんなに仲良くなったのだろうか…とジョミーは思った。

  メサイア上空 衛星ステーションのトォニィの部屋
 セルジュはノアやペセトラでソルジャーズのデータを集めていた。
「こう表現するのも申し訳ないのですが…」少し恐縮したように話し出した。
「彼ら二人はとても完成度の高いクローンのようです。今の人類では最高傑作と言えるのでは…と思われます」
「細胞の活性化の付加はない?」
「今のところはないですね。多分この先も起きないと思います。成長も十歳くらいまで意図的に引き上げられてますが、その後は普通に育てられていたようですし…」
「十四になって覚醒するように、時を待ったのか…」
「SD体制でクローンを作るのと似たような事をしてたのに、人類は人間のクローンは禁止なんだもんね」とトォニィが皮肉を言った。
「それは、同じ人間が何人も居たら困るじゃないか」セルジュが真顔で答えた。
「なんで?わかってればいいじゃない?」
「一人だけで何人も作って、独裁国家なんて出来たらどうするんだ?」
「そんなの相手にしなきゃいい」
「強大な軍事国家を作ったら?」
「ありえないよ」
「まぁ、ありえないけど…」ジョミーが口を挟んだ。
「彼らは、百人以上作られてたらしい」
「え?…百人も…なんで…」
「DNAを使ってクローンを作っても、僕達と同じようにミュウとして覚醒するとは限らないんだ。百体以上作って一人なら良い方だ…僕も二十体は破棄して…」とそこで言葉を切った。
 重くなってきた空気を変えようとセルジュが言った。
「でも、たとえば、自分のクローンを作って、子供はいらないってなったら、人類の未来はないからね」
「そうだ!そうだよ。ジョミー」
「?」
「クローンの彼らは勝手に作られた。それはジョミーの意思じゃない。ジョミーも子供をつくればいいのに!メサイアにはジョミーの子が欲しいって言う娘が沢山いるよ」
「だよね?」とセルジュに同意を求めた。
「そ、そう…ですね」とセルジュが言った。
「…あのね…」
 データを見ていたジョミーが困惑したようにトォニィを見る。
「命を生み出す事は全然怖いことじゃないよ」
 トォニィが静かに言った。
「…トォニィ…」
 彼が言おうとしている意味が伝わってくる。
「僕は、もう怖がっていないよ」
「だったら」
 チラッとセルジュを見てから、
「キースなんかと一緒にいないでさ、結婚しなよ」と言った。
「なんかとは、聞き捨てならないな!ソルジャー・トォニィ」
「じゃ、あいつ」
「おい!」
「トォニィ…」
 ジョミーが二人の止めに入った。
「だけどさぁ、そうでしょ?」
「アニアン議長にはジョミーが必要なんです」
「ふーん。じゃあさ。ジョミーにはキースは必要なの?」
「…え?…」
「どう?」
「…それは…別に…」
 苦笑いをしたまま答えないジョミー。
「別に必要ないなら、いいじゃん。メサイアにおいでよ。カナリアもソルジャーズも一緒にさ」
「だから、議長には…」
 セルジュが食い下がってくる。
「だから?どうして?どう必要なんだよ。僕がもう彼を襲うこともないし、もうちゃんと守られてるじゃん。まさかまた今回みたいにミュウを利用しようってんじゃないよね?」
「利用されたと思うなら、利用しかえせばいいじゃないか」
「何だよ、それ?軍人らしい考え方だな。だいたいさぁ、ジョミー。キースのどこがいいの?まさか、こいつみたいに軍人っぽく感化されて、彼を利用しようってのでもないでしょ?」
「ジョミーはそういう事はしないし、僕に感化なんかもされない人でしょ?さっきから言ってるじゃないか。議長のどこって全部がいいじゃないか!」
 とセルジュがほえる。
「セルジュに聞いてないって。だからさ、あいつのどこがいいんだよ。一緒にいる意味があるの?」
「どこって…」
「どこって、大きいからじゃん」※ソルジャーズのジョミー(声は同じ)
 いつから居たんだ?となるトォニィとセルジュ。
 ジョミーは頭を抱える。
 話がズレていた。だがそのまま話を繋げるトォニィ。
「大きい?何が?」「何がだよ?」とかぶせる。
「だからー、こ…」答えようとするソルジャーズのジョミーの邪魔をするブルー。
「ちょっと、待てジョミー。お前が入ると事がややこしくなるからやめろ」
「なんでさ」
「いいか。良く聞けよ」とブルー。
「?」
「この状態で大きいなんて言ったらアレに決まって…」
「…」
「アレ?」事が不明なソルジャーズのジョミー。
「鈍いヤツだな。アレはあれだろ?」 (笑いを堪えているブルー)
「何が何だって?セルジュわかる?」トォニィがわざと聞いた。
「…ソルジャーズのジョミーって天然?…」
 セルジュは笑えて返事になってならなかった。
 この瞬間。ジョミーはソルジャーズを連れて跳んだ。(逃げた)

「行ったかな…。全く頑固なんだから」
「行き先は?ゼウス?」
 上がってゆくジョミーのシャトルを見ながらトォニィは呟く。
「もう僕は大丈夫だから…気にしないでいいのに…」
「トォニィ?」
「自分で命をつくる事を怖がっているんだジョミーは」
「命を?なぜ?そんなのあえて作る必要ないんじゃないか」
「命って言っても、子供とか。ソルジャーだからって後を継ぐものが必要ってんじゃないよ。だけど、立場的には命を生みだす事を怖がってたらいけないじゃん?」
「立場的ねぇ」
「一応ね」
「見ため的に幸福な図ってのが必要って事?でも、彼なら、そういう事に敏感で真っ先にやってゆきそうじゃないか?どうしてそうしてこなかったんだ?」
 とセルジュが聞いた。
「詳しくは知らないけど、昔、何かあったみたい。それと、僕達ナスカチルドレンは、彼が望んだから生まれてきたんだ。僕らが生まれた事で大きく戦況が動いたのも事実だし、僕らの仲間も無事には終わっていない…。確かに力技だったかもしれないけど、ジョミーの本意ではなかったかもしれないけれど、だけどさ。もう戦いは終わって、僕達は生きている。だから、もういいよね?」
「まだ君たちへの責任を感じているというのか?、そして、今はもうそれを感じる必要はないという事だな」
「そう。だって僕ら。今はもうジョミーの為だけに生きていると思ってないし、ジョミーはジョミーの生き方があるからさ。そろそろ過去からも僕らからも解放されていいと思うんだ」
「お前達、ソルジャーって生きるの不器用だな」
「ソルジャーだけじゃないよ。ミュウ達はみんなこんなもんさ」
「そうか…」
「お前達、人間が単純すぎるんじゃないの?」
「ははは、そうなのかもな」
「だけど、ジョミー。キースの所へ行くってのも問題ありだなぁ」
「まぁな…。でも、二人して焚き付けといて、今更それを言うのか?」
「僕は二人が仲がいいなんて、承知してないけどね。でも、いつまた何が起きるかわからないんだから、今、ジョミーが望むのならいいんじゃない?」
「あの二人は負った傷が同じなんだと思う」
「…負った傷か…。そうかもね」
 と二人は空を見上げた。



  続く


 

『君がいる幸せ』 三章「星の祈り」十六話(Messiah/現在)終

2011-11-09 02:07:35 | 『君がいる幸せ』(本編)三章「星の祈り」
☆アニメ「地球へ…」の二次小説です。
 <用語>
惑星ノア 大戦時ミュウが陥落させた人類の首都星 今は人類に返還している
惑星メサイア ミュウが移住した惑星
育英都市スメール フィシスとカナリア達が住む都市
木星軌道上の衛星都市メティス 二人がいた建物
ジュピター キース警護時のジョミーのコードネーム(シャトル所有)

   『君がいる幸せ』 三章「星の祈り」

  十六話(Messiah)現在  
  Shangri-La  -ノア上空でフィズを消した直後ー
 メサイアの避難民を乗せているシャングリラは、まだ続く連邦の戦闘に加わわれず、通常航行でメサイアへの岐路についた。
 メディカルルームでの治療を終えて動けるようになった僕は、まだ眠るソルジャーズの二人を見ていた。
 彼らから動けなくなるまで力を無理やり引っ張り出し使わせたのは僕だ。
 自分の能力を相手に与えるのが出来るという事は、相手の能力を引き出す事も出来る。
 眠る二人をドクターに任せて部屋を出た。
 僕も治療は終わったといっても無理をさせた身体には体力がまだ戻らなかった。
 部屋で安静にしているようにと言われていた。
 大戦後、シャングリラにはブルーの「青の間」のように、人が集まれるくらいの大きさの、僕の部屋とトォニィの部屋が作られた。
 僕はイグドラシルでのケガの治療が終わってすぐに船を降りてしまったので自分の部屋になじみがなかった。
 だから、部屋へ行こうとは思わなかった。
 だけれど「青の間」やフィシスの居る「天体の間」に行こうとも思わなかった。
 庭園や広間は避難してきたメサイアの仲間達でいっぱいだった。
 一人になれる場所を求めて僕は船内上部の展望室へ向かった。
 ゆっくりと星が流れてゆく。
 ガラスに手をつき外を見た。
 しばらく宇宙を眺めてから、身体の向きを変えガラスにもたれて船を見る。
 この船が僕の家だと思える。
 ここが僕を作り、僕を育てた。
 立っているのが辛くなり、ずるずるっと背中がガラスをすべり片足を投げ出し、床に座った。
「本当にこれで…良かったのだろうか…」
 メサイアに戻ったら今回の事を皆に説明して無理をさせてしまった事を謝らないといけない。
 僕はミュウの皆に、頭上にメギドがある状態で逃げなければならないというそんな恐怖を強いたんだ。
 そう、仲間を囮に使うなどと許される事ではない。
 だけど、確実にメギドが我々を狙ってくると言うのならば、どうするのが良かったのだろう…。
 いつ強襲されるかわからないのを、怯えながら待つ気は僕には無かった。
 メギドの事を聞いた時、最初は残っているタイプブルーでメギドを封じるのも考えた。
 だが、それでも今の彼らではメギドは防げないと思った。
 タイプブルーの能力は確かに戦闘特化だ。
 攻撃力・防御力・危険を察知する直感みたいなものに優れている。
 戦えば戦う程強くなる。
 戦った経験がそのまま能力に変わってゆく。
 そしてその攻撃の種類も当然増えてゆく。
 ソルジャーであるトォニィは別だが、他のナスカチルドレン達の今の力は大戦中の半分もなかった。
 それと、、妊娠中のツェーレンに無理はさせられない。
 それを言うと余計に彼女は無理をして来てしまうだろう。
 そうして、たとえ壊せていたとしても、あの二人との戦闘は無理だろう。
 敵がどういった戦い方を仕掛けてくるかわからない。
 犠牲が出てしまうかもしれなかった。
 そんな危険な目にあわせる訳にはいかない。
 だが、彼らにメギドを任せてしまえば、避難なんてしなくても済んだかもしれない。
 それで、もし、止めるのに失敗してしまった時、万が一にだが、メギドが撃たれた場合にと反射板も作った。
 でも、それではナスカと同じだ…。
 逃げるわずかな時間を稼ぐだけでしかない…。
 結局はメサイアは燃えてしまう。

 多分、彼らをもう一度戦士に鍛えなおして、戦わせるのが一番簡単だったかもしれない。
 それが、タイプブルーとして生まれてしまった者の運命ならば…。
 そんな運命。
 もういらない。
 たとえ彼らの運命がそうだったとしてもだ。
 ミュウがメサイアに行く事を決めて旅立った時に僕は誓ったんだ。
 そんな運命は変えてやると。
 もう二度と彼らを戦わせない。
 メサイアの避難時に彼らはタイプブルーとして立派に皆を助けたと聞いた。
 そう、それでいいんだ。
 彼らはもう戦わなくていい。
 もう、タイプブルーは生まれなくていい。
 残る問題は、ソルジャーズの二人…。
 彼らの能力は未知数だ。
 人類がミュウを作っているのではないか、という情報はカナリア事件で確実となった。
 敵に屈したミュウではなく…、あれは、僕らのクローンだと、僕にはわかった。
 そこに居る。
 ただそれだけで恐怖だった。そして、哀れでならなかった。
 僕が僕のクローンをミュウの発達した技術と知識だけで作ったあの時、細胞分裂に失敗したものを何体も捨ててきた…。中には人の形になったのに育たなかったものあった。
 二十体、いや、二十人以上の自分を殺してきた。
 彼らを作るには一体何人「死んで」いったのだろう。

 ノアにその研究所があるのならそこに行かなければならない。
 もうノアはに無いかもしれない。
 そしたらそこを探して、僕が葬らなければならない。
 それが、死んでいった彼らの為なんだ。
 気がつくと指の先が冷たくなっていた。
 気温が下がったのではなく、僕の周りの空気だけが冷えたのだった。
「寒いな」
 僕は自分の身体を両腕で抱えた。

「ジョミー・マーキス・シン。お前が存在するのがいけないのだ」
 自分の存在が彼らを作らせた。
 ブルーの身体を残してしまったから、僕が生きていたから…。
 事の発端は残ったメギドでもなく、マザー信奉者でもない。
 自分の存在だ。

 僕は格納庫に急いだ。
 そこには僕のシャトルがある。
「ノアに戻らなければ…」
 壁づたいに急ぐ僕の腕を誰かがつかんだ。
「どこに行くのですか?」
 振り返ると、そこには…ハーレイがいた。
「……ハーレイ…」
 体力の戻りきってない僕はそこに座り込んでしまった。
 一瞬ハーレイに見えたのはシドだった。
「だ、大丈夫ですか?無理をしないで部屋に戻ってください」
 座り込んだまま僕は答えた。
「君って、僕がこんな状態の時ばかりに現われるね…」
「こんな状態?ジョミー。立てませんか?そんなふらふらでどこに行こうとしてるのです?」
「格納庫の…僕のシャトルに…」
「…一緒に行きましょう」
 シドは僕を立たせた。
 格納庫に向かいながら船は大丈夫か?と聞くと「今は副操舵士が」とシドは答えた。


  シャングリラ 格納庫
 僕はシャトルに着くとカードキーを通し、通信を開きパスワードを打ち込み、連邦の情報部のデータを見た。
 そのまま操縦席に座り発進準備に入ろうとした。、
「ノアに行くのですか?」
「行かなきゃならない」
「ダメです。そんな状態で行かせられません」
「行かせてくれ…」
「何をしに行くのですか?まだ敵が居るのですよ。このシャトルでは逃げるのが精一杯、攻撃は出来ないでしょう?いくらジョミーでも無謀です…。訳を言ってください。でないとキャプテンとして許可は出せません」
 僕は、同じセリフを言われた事があった。
 昔、ドールを連れてハッチを壊してでも出て行くと叫んだ僕に「行かせられない」とハーレイが心配して言ったんだ。
 懐かしさで泣きそうになった。
 あの時は彼が折れた…。
 今度は僕が折れる番だった。
「わかった…諦めるよ。キャプテン・シド」
 シドの肩を借りてシャトルを降りた僕は、格納庫の壁にもたれてそこに居る人々を見ていた。
 格納庫は避難してきた船でいっぱいだった。
 皆は僕を見ると「ソルジャー・シン」と挨拶をしてゆく。
 今日は前のソルジャー服を着ているからだろう。
 それが嬉しくも気恥ずかしくもあった。
「こんな所でどうやってシャトル出すのかとヒヤヒヤしましたよ」とシドが笑った。
「シャトルごと外に跳んでから行けばいい」
「じゃあ、僕の許可なんか無視して行けたって事ですか?」
「さっき、少しだけジョミーの上に立てたかと思ったのに…」彼はガクンとうなだれてしまった。
「シド?」
「ジョミーは僕達より後からミュウになったのに、あっと言う間にソルジャーになって、段々普通に話せなくなって。ナスカでも地球でも、同じように辛い目にあったのに…話したい時には船降りてしまって、そんな君を…僕達はいつも…心配していた…」
 見るとシドの目にうっすらと涙が浮かんでいた。
 僕はそれを見ないようにした。
 彼はナスカで沢山の友人達を、戦争中は仲間達を、そして地球では尊敬するハーレイを失ってきている。
「知ってたよ。君たちは僕をソルジャーと呼ばなかった。ずっと、いつも。昔のようにジョミーと呼んでくれた。嬉しかった。でも、ナスカが僕達を切り離した…」
「……」
 シドは僕から見えないように向こうを向いてしまった。
「あの後、僕は君たちを避けていた。僕の事を誰から責められるより、君たちに責められるのが怖かったんだ」
「ジョミー、僕達は誰も責めたりしない。誰も責める事は出来ません」
「責めていいんだよ。それが僕に出来る唯一の償いだから」
「だから、責めないって言ってるじゃないですか。信じているからついて来たんです」
 こっちを向いたシドの目から一筋の涙がこぼれる。
 シドはあわてて涙をぬぐい、こう言った。
「でも、大戦後は、今度は僕達が避けていましたね。地球へ行ったのに、人類との対話も出来たのに。僕は傷つき疲れてしまったあなたにかける言葉が無かった…。それでも、共存の為に立とうとする姿が痛々しくてならなかった…。船を降りるという提案がすんなり通ってしまったのも、そんな空気からだったのでしょうね…」
「あれは、もう一度、人として暮らしてみたいっていう。僕のわがままだったんだよ」
 とジョミーは小さく笑った。
 ジョミーは嘘つきだ。
 シドの直感がそう言っていた。
 まだ「君たちから逃げたんだ」と言われた方が信じれたかもしれない。
「だから、僕達はいつも…心配して…」
 またシドの目から涙が零れた。
「シド。今度は僕の背中貸そうか?」
 僕はシドの方に背中を向けた。
「ジョミーの方が背が低いじゃないか…」
「君がちょっとかがめば隠れれないか?」
 シドはそんなジョミー背中を見て改めて気が付いた。
「ジョミー…」
 シドはジョミーの肩が思っていたより小さいと思った。
 タイプブルーとしての強大な力はこの身体のいったいどこに隠されているのだろう?
 そして僕達はこの小さな肩にどれ程の重荷を背負わせてきたのだろう。
「…シド?」
「ああ、いえ。ジョミー、身長が少し伸びてます?」
「うん。ゆっくりだけど、成長させてる」
「あ、では、背中を借りるのはまた今度にしますよ」
「君を隠せるほど伸びないよ」
 と笑った。
「そうですか?もう少し伸びれば…」
 とジョミーの肩に両手を置いて、背中にかがむ真似をするシド。
「僕はいつでも…」
「ん?何?」
「あ、だから、まだ隠れれそうにないので。この前のは、貸しにしておいて下さい。何かあったらいつでも言って下さいね」
 ジョミーの肩から手を離してシドが半分泣きながら笑って言った。
「じゃあ、背中空けておいて。僕も、いつでも貸すからね」
「わかりました」
「シド。言葉使い普通でいいよ」
「僕はこっちのが話しやすいんですよ」
「そうなの?」
 二人は笑った。
 カリナやユウイやキムやハロルド…皆とずっとこんな風に笑っていられたらよかったのに、と思う気持ちが二人の間を流れる。
 ふっと優しい感情が流れていった…
「カリナ…?」
 それはシドにも感じられたようだった。
 それが消えた方向を二人は見送った。

 しばらくしてから、シドが僕のシャトルを指をさし、
「ジョミー、あの優秀なシャトルにパイロットを一人雇いませんか?いつもステルス追尾だけじゃ不都合もあるでしょう?」
 と言ってきた。
「確かに融通の利かない時はあるけど、でもそれは…君の事か?シャングリラに君が居ないのは困るだろう?」
「今回は特別ですが、長距離航行用のシャングリラはメティスでもここでもほとんど飛んでないですよ。年に1回も飛ばない船のキャプテンなんて無職のようなものです」
「無職って…。そんな事はない。君程の優秀な人材を僕が連れていく訳にはいかない…」
「それに、あのシャトルに興味があるんです。人類の最新鋭にミュウの技術を乗せてるんですよね?」
「ああ。人類のを僕が上手く操縦出来なかったからね」
「人類の最新鋭…」
 と目を輝かせるシド。
「わかったよ。君の事をトォニィに話してみよう。でも、条件が一つ」
「何ですか?僕に出来る事なら何でもします」
「なるべく普通に話さないか?」
「ど、努力してみます」

 やがて、艦橋からメサイアが見えるようになったと放送が入った。

 人類の惑星ノアの問題。
 ミュウの惑星メサイアのこれから。
 クローンの二人の事。
 色々な問題が残っているけれど、きっと皆で乗り越えていける。
 そう、人は助け合える。
 思っているより人は強い。

 

    星の祈り 終



 
後書き ここでひと段落着きました。
 続くのは閑話に近いです。
 四章までの繋ぎです。