君とともに生き、君とともに逝くのならば、僕は君の為に生きよう。

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『君がいる幸せ』 Artemisia編 二章「心の中は」 十四話「眠り姫」

2012-12-27 03:34:14 | 『君がいる幸せ』Artemisia編二章 心の中は
☆アニメ「地球へ…」の二次小説です。
<人物>
ジョミー キースの警護をしていたが今は教育ステーションに在学中 ジュピターは宇宙の軍を動かせる権限を持っている
キース・アニアン ノアの首相 人類の評議会議長を兼任
ソルジャーズ 人類が作ったブルージョミーのクローン(タイプブルー)
シド ミュウの優秀なパイロット シャングリラのキャプテン 今はジョミーの専属

   『君がいる幸せ』 Artemisia編 二章「心の中は」 十四話「眠り姫」

 軍事基地ペセトラへと送られたトラヴィス将軍は軍事裁判にかけられる事となった。
 その裁判の証人としてクリスティナもペセトラに居た。
 彼女にも色々な容疑がかけられているが彼女は事実を正直に話す事で好印象を得ていた。
 彼の裁判が進む中で、避けては通れない事象があった。
 今まで機密だったマザー信奉者と将軍一派の反政府主義者の繋がりと、彼らが、大戦直後兵器メギドを強奪し、ミュウの惑星メサイアと人類の首都星ノアを攻撃した事件。そして、マザーの狂信的な科学者達が(成人検査を行っていた)人類からミュウを作る人体実験をしていた事と、ミュウやタイプブルーのクローンを作る実験がされていた事などが公表された。
 この事実は大きな波紋を呼ぶ事となった。
 東の空域の海賊達の多くは軍部に復帰し自分たちの力で軍をより良くしてゆこうとしていた。
 裁判の中で、新たにわかった事は、トラヴィス将軍はミディアンを探せなかったのではなく、探さなかったのだという事だった。
 彼はミディアンの子、エディがミディアンとクライブの遺伝子で作られた子ではないかと疑っていたからだった。
 クリスティナの気持ちも信じられず、周りの全てが自分を騙していると思い込んでしまっていた。
 その思いを野心へと変え、マザーに愛されたキースを妬み恨んでいたのだった。

  軍事基地ペセトラ 議員室 
「それじゃあ、あの教育ステーション襲撃の時に、エディが海賊のもとに行っていたら殺されていたかもしれないんですね」
 資料を見ながらシドが言った。
「彼の父親に会いたい思いを利用した口車に乗せられてクリスティナと一緒に行ってたら…彼女もエディを殺す気だったのだから、そうだったかもね。多分、ソルジャー・シンに化けたジョミーに殺されて…悲劇の王子ってなってたかもね」
「怖い事を言わないで下さい。人類との戦争になってしまいますよ。ソルジャー・トォニィ」
「まぁ、そうならなくて良かったけどね」
「それはそれで面白そうだって顔に書いてありますよ」
「それくらいでなくちゃ…さ。共闘してもつまらないよね」
「トォニィ。共闘ではなく…共存です…」
「同じようなものじゃん」
「トォニィ。その物言い。気をつけろよ」
「わかってるって。セルジュ。ここだけだって」
「だが、まさか、十二人の議会員の僕が抜けた穴を君が埋めるとは思っていなかったな」
「総督と副総督の二人が薦したら議会も認めるだろうね。だけど、僕も良い頃合いだと思っていたから…それで、総督は?」
「ソル太陽系、木星に向かわれた」
「副総督も?」
「多分…副総督は月へ行ってから、合流されると思う」
「…そう。しかし、相変わらす…。キースの話になると堅いね。セルジュ」
「口癖だとでも思っててくれればいい」
「でも、彼は戻るのでしょうか?」
「さぁ、それは僕にもわからない」
「彼こそが悲劇の王子だな」
「うーん。眠り姫ならぬ、眠り王子だよ。誰かが迎えに来るのを待っているんだ。月にはソルジャー・ブルーがいる。今度はフィシスも来てくれるし、きっと、目覚める」
「そうですね」
「そうだな」
「そう、でないと。ソルジャー・シンが彼に託した想いが消えてしまう。だから、大丈夫さ」
「トォニィ。君も月に行きたいんじゃないか?また蚊帳の外に置かれる気分じゃない?」
「蚊帳の外?そんな事は思っていないよ。彼らには彼らの思いがあって動いている。僕には僕の思いがある。それがそれぞれの生き方だろう?何も同じ事をしていないと同じと言えない訳じゃない」
「へぇぇ、いつからそんな風に考えられるようになったんだ…いつも置いてきぼりだって怒っていたのに」
「別に怒ってないっ」
「そう?僕に何度も愚痴ってきたのは誰でしたっけ?」
「う…。そ、そりゃ、そう言った時もあったけど、僕を外に置くのはジョミーの優しさなんだし…。それと、同じ事をしていないとダメなのか?と思ったのは、ジョミーが戻ってから、あの二人を見ていたからなんだ…」
「……」
「あれって、目指す場所が同じなら違う方向から攻めていった方が良いって事だよね?」
「トォニィ…それで大きくは間違ってないと思うけど、結局、考えの基準が戦いなんだな。君は…」
「そうかなぁ?」
「だと思いますけど?」
「だね」
 と三人は笑いあった。

 あの東部宙域での戦闘で撃たれたソルジャーズのジョミーは一命を取り留めた。
 だが、あれから半年が過ぎても彼の意識は戻って来なかった。
 ミュウの医師団の見解では体や脳に異常は見られない事から、彼の意識にダイブして戻す事になり、その場所をジョミーが旧月基地(黄昏の海)と指定してそれが行われたのが三ヶ月前の事。
 その時には彼の意識は戻らずに終わった。
 ジョミーは彼の体を月基地に催眠状態にして残してきたので、今回は再度の挑戦だ。
 前はジョミーが潜ったが、今度はフィシスを補佐にしてジョミーとソルジャーズのブルーが潜るという。
 彼には裁判の証人という重大な嫌疑もかかっているのだけれど、ジョミーは何か別に彼を必要としているようだ。
 あの時、ジョミーはクローンのジョミーが自分を操りキースを殺させる計画だと知った時、すぐに入れ替わりを、と言ったのだそうだ。
 それは、きっと、キースを殺した後で、自分も殺される事、そして、その後に彼も殺される事を見越したからだ。
 もし、自分と彼が死んでしまったら…タイプブルーであるクローンのブルーを誰が止めるのだと思ったと、トォニィがその役目を負ったのなら、ミュウに大きな被害が出る。
 もちろん、その場にいる人間も大勢死ぬだろう。
 それを止めるには、まずは、最初の段階で変える事。
 ソルジャー・シンという強大な力を持ったミュウの長の立場を利用してジョミーをあの場から逃がす。
 (入れ替わった)ソルジャー・シンを逃がしてしまっても将軍の計画は大きく変わらない。
 自分(ソルジャー・シン)にキースを殺させる事は将軍にとってはほんのお遊びの余興でしかない。
 何故なら、公開処刑時にソルジャー・シンが必要なだけなら、彼になれるクローンがいるのだから、、。
 自分がキースを仮死状態に落としてでも時間を稼ぐ事。
 軍部のミュウ部隊をシャトル爆破と共に船へと運ぶ役割はブルー。
 ブレスに気づき事を起こしたのがクリスティナだったのは予定外だった。
(ブレスがソルジャー・シンの化けたクローンのジョミーの腕にあるように見えていたのは彼らが作った幻影)
 事態の急変を知り飛び出したブルー。
 それを収める為に、トォニィが現れた。
 ジョミーがあの時見落としたのは、クローンのジョミーがミュウ達を騙す事に耐えられないくらいに大事に思っていた事に気がついていなかった事。
 その罪を自分の命で贖おうとしてしまう程に…。
 そして、ジョミーにキースを殺すという行為をして欲しくないという彼の気持ちを知らなかったから…。
 ジョミーとキースという本人同士が了解済みなら、殺しあうという事は大きな問題は無かった。
 何故なら、彼らは互いに戦ってきた軍人と戦士なのだから、だが、それを知らないまだ若い彼には信じられないものだったのだろう。
 ジュピターのブレスの発動は、人類の船を東部へと導くだけで戦闘空域まで飛ばすものではなかった。
 クローンのジョミーを読みきれなかった事実がジョミーとトォニィに衝撃を与えてしまい、最後の手段である、民間人を人質に使うような事になってしまったのだそうだ。

 だが、あの時、トォニィが言ったのは、
「民間船を一隻でも落としたらミュウは軍と海賊を壊滅させて、人類をミュウが牛耳るよ」と言う意味なのだそうだ。
 彼らは本当に優しい。
 その優しさが仇になってしまう程に…。
 彼らも危うい。
 ミュウという特殊な能力を持つ新人類でありながら、結局は同じ人間なのだと思わせる。
 その事に最初に気付いたのはソルジャー・シン。
 そして、キース・アニアン。
 僕ら人類とミュウはその事に気がつくのに十四年かかった訳だ。
 それは人が成人する年数と同じだった。

「それくらい時間が必要だったんでしょ?人類は」
「そうなるね」
「ねぇ、セルジュ。それより、成人検査ってゲームアプリがあるの知ってる?」
「…それって、職業認定の適性検査の悪どいやつでしょ?」
「僕がやったらどう出ると思う?」
「やりたいの?」
「やってみたい」
「止めておいた方がいいと思う」
「何故?」
「君がやったら、ゲームサーバーごと、ぶっ壊しかねない」
「えー、そんな事しないよ」
「だって、君は占いとか嫌いじゃないか?」
「まぁ、そんな物に命令されるみたいのは信じないけど…」
「それじゃ、僕が君の適正を教えるよ」
「で、何?」
「そうだな。大人に成りきれないガキだな。でもそこが良いと思う……ん?」
「じゃあ、セルジュ。俺を大人にしてみろよ」
「え?って…それって…そんな…」
 セルジュは両手を顔の前に上げて、近づいてくるトォニィを避けて後ろに下がった。
「って、これじゃ、反対だね…。僕が君を知らない世界へと連れてってあげようかな…」
「冗談。そんな所…行きたくも…ない…」
 前に一度、ジョミーによって開かれているセルジュの意識の壁は脆かった。
 僕は怖かったんだ。彼を視るのが…。
 本当だ。ジョミー。
 彼の心の中には…、……がいる。
 それなのに、僕を恨む事無く、自然に僕を見ていてくれている。

 深く眠りについたセルジュを見つめてトォニィが囁く。
「君もさ。君が本当に思う相手をちゃんと認めてあげればいいのに。そうすればもっと心が楽になるよ。死んだ人を思い続けるのは辛いよね…僕に対してでいい、その思いを全部吐き出して…それを認めて…そして、その先を見て歩くんだ。セルジュ。僕に言わせれば眠り姫は君だな…」




   続く







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