君とともに生き、君とともに逝くのならば、僕は君の為に生きよう。

真城灯火の小説ブログです。
二次小説とオリジナル小説の置き場となっています。
同人に傾いているので入室注意★

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☆入室ありがとうございます☆ PN:真城灯火です。 『小説家になろう』で書いています。「なろう」で書いている小説も転載させていますが、ここはアニメ「地球へ…」の二次小説置き場です。本編の『君がいる幸せ』は終了しています。今は続編の『限りある永遠』を連載中です☆まずは、カテゴリーの「はじめに」と「目次」「年表」で(設定やR指定について等…)ご確認の上、お進み下さい。 ブログタイトルですが、これの「君」は自分自身、心の事で、「僕」は自分の身体の事です。 自分の心がそうであるなら、自分はそれに従う覚悟を意味しています。 だから、ジョミーや誰かが一方的に誰かに…って意味ではありません。(小説停滞中) 2021年に、他にあるブログを統合させたので、日常の駄文とゲームの話が混ざった状態になっています。

『君がいる幸せ』 五章「星の在り処」 十八話「銀の祈り 金の願い」

2012-04-14 14:27:17 | 『君がいる幸せ』本編五章「時の在り処」
☆アニメ「地球へ…」の二次小説です。
 <用語>
惑星ノア 大戦時ミュウが陥落させた人類の首都星 今は人類に返還している
軍事基地ペセトラ 人類の軍事拠点 戦後十二人の代表で議会制になる 
惑星メサイア ミュウが移住した惑星

   『君がいる幸せ』 五章「時の在り処」 十八話「銀の祈り 金の願い」

「僕はもう二度と…貴方の手を離さない…もう見送ったりしない」
「ジョミー…」
 あの優しい声が消えてゆく、
 お願いです。ブルー。僕の思いのままに…抗わないで…。
 僕を信じて…。
 …その淡い光りは僕の中に溶け込んでゆく。
 優しい微笑みを浮かべたままブルーは消えていった。
「…ごめんなさい…また心配させてしまいましたね…」
 こうしないと貴方は完全に消えてしまう。
 心を体に戻さないと貴方の輪廻は適わない。
 ブルーが持っていた僕の最後のカードが風に舞い上がり僕の手に落ちる。
 これを貴方は僕に求め続け、僕はこれを受け取ろうとしなかった。
 ジョミーは、最後のカードをかえした。
「生きたいと願っていいですか?」
 その瞬間、ガラスのドームは粉々に砕け飛んだ。

 青い地球
 白い月

「月」へ向かって僕は飛んだ。
 ブルーの記憶の中にあった。
 あの古い施設、そこにグランド・マザーがいた。
「ジョミー・マーキス・シン」
「私をどうするつもりです」
 マザーはマザーイライザのようなフィシスのような女性の形をしていた。
「最後を看取りに…」
「そうですか」
「マザー、貴方の計画は遂行されました。ミュウになったブルーは僕を見つけ、僕は力を得てSD体制を壊し、人類は未来に向かって歩き出した。そして、僕は、貴女に殺された。僕は死に地球は青い星に戻りました。やがて、人類も戻ってくるでしょう…」
「なら、私はもう必要ありませんね」
「そうですね」
「さぁ、殺しなさい」
「…壊すの間違いでしょう?」
「どちらでも同じです」
「ですね。マザー。最後に教えていただけますか?僕はミュウのDNAだけで守られたとは思えないのです。貴女も僕を繋ぐようにしていましたね。それは何故なんです?」
「その答えは私にはわかりません」
「そうですか…。この答えは僕がそう思っていればいいくらいのものですね」
「そう、それでいいのです」
「貴女は何故フィシスの遺伝子を使ってキースを作ったのですか?」
「それも私にはわかりません」
「貴女も本当は賭けていたのかもしれないですね…。本当に人類はどうしようもなく愚かな事をしたけれど、それを変えてゆけるかもしれないと願っていた」
「そうかもしれません」
「人類に望みも希望も未来もあると思わないと、滅びを与えたくなってしまいますからね」
「ジョミー。希望はありますか?」
「それを貴女が?貴女が僕に聞くのですか?」
 ジョミーは少し笑ってしまった。
「ええ」
「そうですねぇ…」
「未来はありますか?」
「ありますよ」
「そうですか…」
 マザーは微笑んだ。
「この後はそうなってからでないと、僕もわからないですけどね」
 ジョミーも笑った。
「では、マザー僕はそろそろゆきます」
「どこへですか?」
「僕は、地球のあの山の頂きにブルーを連れて行かないと…。そうしないと、彼はオリジンのままだ。「ブルー」になれない。そして、僕らは貴女を壊して人類が目覚めの道に進む為の道標になれない」
「わかりました」
 僕は月基地の上空に飛んで、光りを集め、それをぶつけた。
 基地は消滅した。
 大きなクレーターだけが残った。
 僕の手の中の黒い塊が静かに消えていった。
 時間を遡るその前に、僕は「黄昏の海」へ向かった。
 ブルーが眠る青い氷
 その向こうに青い地球

「見えますか?青い地球ですよ」

「ブルー。貴方と会うのはもう少し先になりそうです。僕は、まだ生きようと思います。どこまで生きていられるかはわかりません。ですが、貴方が願ったように、それまではしっかりと強く生きて行こうと思います。この先、僕に何が出来るのか。何がしたいのかはまだわからないけれど…。今は、生き続けたいと思います。長かった僕たちの輪廻はこれで終わりです。今、貴方の心を身体に戻しますね」
 七十八枚のタロットカードが氷を囲む その端から順に青く燃えて消えてゆく。
 僕というモノを「生かし」「殺した」二つの命を僕は見送った。
 僕を縛り続けていた沢山の鎖を僕の意思に関わらず断ち切ったのがマザー。
 そうなる事でしか僕は生きたいと願えなかった。
 そう願う事すら罪だと思ってしまっていたから…。
 願いたくても願えなかった。
 それを知っていたブルーは僕の死の瞬間に罠を仕掛けた。
 自分を見て発動するように、命の本能に従うようにと…。
 諦めずに、生きあがけと。
 たとえ、辛くても生きろと生き続けろと。

 彼の言う「生きて」は「生きたいと願って」だった。
 そう祈り続けてくれたんだ。
 地球で会った僕を探し続け求め続け、皆を守って死んだ後も僕を守り続けて、その身体も心も記憶すらも塵と消える事をいとわなかったブルー。
 だけど、あの時彼が托した絆を、ただ一つ残った鎖を、僕は心の中で切ろうとしたんだ。
 それを切らせないように現れた。

「生きたいと願っていいですか?」
 最後に残った僕のカード。
 あれは、ブルーがずっと離さずに持っていてくれたものだ。
 僕は心の世界ですら何も知ろうとしなかった。
 カードという形で僕はみせつけられ、ずっと奥底に閉じ込めていたカードをやっと出す事が出来た。
 あんなに脆いくせに、どこまで頑な…なんだろうな僕は…。
 僕は本当は生きていたいと願っていた。
 貴方はそれを知っていた。
 最後の時にそう願うようにと祈っていた。
 僕は貴方に誓った。
 僕は、あの絆は絶対に離さない。
 そう、もう二度と離さない。

 ブルー。
 貴方にこの世界にある全ての感謝を、そして、永遠の安らぎを。
「これで、本当にさよならです。ブルー」
 ジョミーは微笑むと静かに目を閉じた。
 カードの最後の1枚が青く燃えて消えていった。

 僕は時空を飛んだ。
 一万年の旅は一瞬だった。
 過去のオリジンに地球を視せて、僕は現在に戻ってきた。
 僕が戻るには月で消えた僕の身体を再生しないといけなかった。
 思念体のままでは戻れない。
 時空を戻ってくるのに力を使い過ぎて、完全に再生は出来なかった。
 それでも、僕は戻りたかった。
 僕は鎖を手繰り寄せる。
「皆のもとへ戻るんだ。僕はそう願う」



  終 章 へ




『君がいる幸せ』 五章「時の在り処」 十七話「銀の祈り 金の願い」 

2012-04-09 01:09:51 | 『君がいる幸せ』本編五章「時の在り処」
☆アニメ「地球へ…」の二次小説です。
 <用語>
惑星ノア 大戦時ミュウが陥落させた人類の首都星 今は人類に返還している
軍事基地ペセトラ 人類の軍事拠点 戦後十二人の代表で議会制になる 
惑星メサイア ミュウが移住した惑星


   『君がいる幸せ』 五章「時の在り処」 十七話「銀の祈り 金の願い」

 施設の麻酔銃だった。
 さっきまでの景色が消えて、そこは三棟から二棟へ行く途中の廊下だった。
 僕は水槽が割れたから逃げたんだ。
 そして、捕まった。
 別室に運ばれた僕の許に研究員達が来て検査をしていた。
「走れないのに無理して走るから、あちこち痣だらけじゃない」
 さっきの女性が心配している。
「ここから逃げてもどこにも出られないから、脱走は無理よ」
「…こ…こは?」
「え、知らなかった?月よ。月基地の研究機関よ」
「月」
「そして、私はあなたの子供をここに宿しているわ」
「え?」
 ブルーの子供?
 僕の記憶の中では月の基地はもうずっと前に閉鎖されている。
 SD何年だろう。
 まだその頃は、自然分娩で子供が生まれていたのか…。
「機械で作る子供だけじゃなくて、こうして産むのも資料になるんじゃないかって」
「そして、生まれたら、僕がパパ。大事に育てるからね」
 横の男性研究員が言った。
 オリジンはミュウの力を持っていたが、まだ未分化に近かった。
 水槽を割った力は外からの僕の力と中からのブルーの力で割れたものだ。
 ブルーはそれに気付いていた。
 そして、水槽に戻され、その中で力の使い方の練習を始めた。
 ブルーが記憶していた十四歳の成人検査の記憶は後からマザーの手で植え付けられたものだ。
 彼は実験体として生まれた。
 彼の持つミュウの力が危険なんだと人類に思わせる為にそう仕組まれた。
 やがて、二人が子供が産まれたと見せにきた。
 赤ちゃんは可愛かった。
 小さくて、ふわふわしてそうだった。
 そして、事件が起きた。
 月基地内での反乱だ。
 小競り合いの中、研究員が殺されてゆく。
 水槽のガラスが彼女の血で赤く染まった。
「やめろ。止めてくれ!」
 水槽をいくら叩いても割れてくれなかった。
「彼のように力が使えたら…」
 悔しかった…。
 僕の中に力はあるのに!
 僕はそれをただ見ている事しか出来なかった。

 記憶が引き戻される。


「ブルー?」
 と低くて優しい声がする。
 ハーレイだ。
「どうしたんです。何故急に泣き出したんです」
「月で…。いや、なんでもない。少し思い出し…」
「過去を思い出した?」
「ううん…違う」
 ハーレイがいて一緒に閉じ込められている。
 そうなると、ここは…。
 木星上空、衛星都市「アルタミラ」だ。
 良く見ると、そこにはハーレイだけじゃなくてゼルもエラ女史も、ブラウも教授もいた。
「……」
 皆、若い。
 僕は懐かしさでまた泣きそうになってしまった。
 ミュウ達は脱走の計画を練っていた。
 力の強い者を中心にして計画が進んでいた。
 僕はここの全体の構造を読み取り、皆に知らせた。
 一人でも確実に逃げおおせるように。
 そして外部探査船の操縦をハーレイに教え終わるとここを去る時になっていた。
 僕はどうしても彼に伝えた事があった。
「ハーレイ。僕達を心配し過ぎないでね。あまり心配ばかりしてるとハゲちゃうよ」
「ハゲって…」
 と苦笑いをするハーレイ。 
 僕はハーレイにお礼と気持ちと受け取る事すらしなかった僕達の分までキスをした。
 きっと、ハーレイはブルーが好きだったんだ。


  イグドラシル・降下をするエレベーターの中
 そこには、僕とキースがいる。
 彼らを繋ぐ者は、セキ・レイ・シロエ。
 ブルーの声が聴こえる。
「ジョミー…。これは、ほんのきっかけでしかない。僕にはもうこれしか君にしてあげられない。僕は君に酷い事をしてきた。君は…、僕の想いを受け取ってくれるだろうか?僕は心から祈る。この日が来るまで君の傍で、僕は生きていたかった。僕は祈り続ける。どうか、ジョミー生きていて。どんなに苦しくても未来は訪れるから…」
 あの時、僕達の前にふいに現れたシロエ。
 彼を導いたのはブルーだったんだ。
 僕達二人が自分の行動に後悔の気持ちを持つ者。
 僕は助けられる者を救えなった思いがあった。
 キースには彼を殺したという思いと、自覚もしていないが、彼に好意を持っていたという思い。
 僕がマザーの許に降りてしまったら、キースがどんな答えを出そうとも、僕は殺される運命だった。
 それを、ブルーは変えようとしたんだ。

 それは、きっと…。
 そして、僕は生きた。


 頬に触れる冷たいガラスの床
 白い雲と星空

 僕が僕の中に戻ってきた。
 外には「青い地球」が見えた。
 それは僕の意識が太陽系に戻って来たと言う事だ。

 ジョミーは起き上がり問う。
「ブルー…教えて下さい」
 返事は無かった。
「グランド・マザーはどこですか?」
 返事の代わりにカードが一枚落ちてきた。
 ブルーのだ。

 人を愛してもいいですか?

「答えが欲しいのですね?」
 僕は上を向いて大声で言った。
「人を愛していいですよ。僕も貴方を愛しています」
 ブルーは遠い過去で、遠い未来から来た僕を、ずっと待っていてくれた。
 僕を太陽と思い、あの希望の丘で再び会える事を夢見て。
 四百年の後、僕がシャングリラで会った時のブルーは、もう誰も愛せない程に僕を愛していた。
 僕はそれに全く気付かずにいた訳だ。
「僕は貴方を冷たい人だ。ズルイとかヒドイとか色々と言いましたね。貴方は誰の物にもならないのに、僕にはあれこれと指示してきて、貴方は最初から最後まで、僕だけを見ていてくれた。僕はもうずっと前から貴方を許しています。僕に言ってくれたのと同じです。誰も貴方を責めたり出来ない!」
 僕は…また泣いていた。
 僕にも、もう誰も好きになれないと思った時があった。
 貴方と仲間を失ってからはずっと…そうだった。
 想いを地球へと変換して恋焦がれた。
「だけど…、僕は貴方のようにいつまでも想い続ける事が出来なかった。僕を置いて逝ってしまった貴方を酷いとなじった事もある。だけど、だけど、僕は…」
 何も無い。抜け殻の僕に貴方は生きろと「人」を与えた。
 人智を超えた力に翻弄される僕は、力を封印して人と共に生きた。
 そして僕はキースに出会った。
 人としての弱さや強さ、苦悩と混乱、そして、その意思。
 僕は彼に惹かれた。
 出来損ないの僕に居場所を与え、愛をくれた。
 人と生きる事が出来る。
 ミュウと人類の先を知って僕は、このままでは、逝けなくなった。
 希望が見えたんだ。
 生きたいと願った僕は、僕に「地球」を託して、ここにいる。
 その悲しみを越えて、まだ、貴方は生きろと…。
 僕がどうなっていようと生きる意志は捨てないと、貴方は信じていたんだ。
 そう、僕は「ミュウ」であり「人」だから…。
「貴方の本当を知って僕は…」
 一度、涙を拭う。
 そうして、止まってしまうと次の言葉が出て来なくなってしまった。
 多分、もう時間はない。
 彼の限界がそこまで来てる。
 それが辛かった。
「僕はもう大丈夫ですよ。ブルー」
 貴方の思いも全て僕がもらってゆくから…。
「出てきてください」
 僕は泣かないように、もう一回、声を張り上げて叫んだ。
「貴方を愛しています!」
「でも、でも、…さよならです」
 そう言うとまた涙が溢れそうになり、僕は目を閉じた。
 何かが僕に触れた。
 それは少しずつそれは姿を現した。
 ブルーが僕を抱きしめていた。
 まだ僕は目が開けられなかった…開けたら、涙がこぼれてしまう。

「貴方からのメッセージ…受け取りました…」
 ………。
「ブルー、そのカードはかえさないで…。それが、ここのキーだから…貴方もそれは知っているはず」
 こうして、このままずっと一緒に…いたい。
「僕もです」
 青い地球は見えたかい?
「ここまで来た甲斐がありました…。すばらしく綺麗な星だ」
 君が連れて行ってくれたあの山の頂きに、行ってみたかった。
「今から行きませんか?」
 それをしたら君は過去に戻れなくなる。
「大丈夫ですよ。僕を信じて下さい」
 目を開けてジョミー。
「涙が…」
「もう溢れてるから…その緑の瞳を見せて最後に…お願いだ」
 ジョミーはゆっくりと目を開ける。
 涙がこぼれる。
 目の前には、銀色の髪と赤い瞳の彼がいた。
「辛い旅をさせてしまったね」
「僕も貴方に辛い思いをさせましたね」
「僕も君を心から愛しているよ。ジョミー。本当にありがとう」
 そう言うと、ブルーは僕のカードをかえそうとする。
 僕は、その手を押さえて、残った右手でブルーを抱きしめると、彼の背中に手をあて彼のカードを強制的に全部引きだし、強引に全てを表にかえした。
 そしてカードはゆっくりと彼の中に戻ってゆく。
「な…何を…」
 僕は崩れそうになったブルーを再び抱きしめた。
「もう、僕は貴方を一人でいかせたりしないと決めたんです」
「ジョミー。無茶だ…僕は君を助けに来たのに」
「無茶は承知です。だけど、僕はもう助けてもらう必要はないんです。言ったでしょう。僕はもう大丈夫だと。僕を信じて…大丈夫です。必ず戻ります。だから…貴方の心を全て…僕に下さい…僕はもう二度と…貴方を見送らない…僕に全てを下さい…」
 僕は白く光り出したブルーにキスをした。

「マザーはどこにいますか?僕は全てを終わらせなければならないんです。教えて下さい」
 と力を使った。



  続く








『君がいる幸せ』 五章「時の在り処」 十六話「銀の祈り 金の願い」※腐あり

2012-04-05 01:00:58 | 『君がいる幸せ』本編五章「時の在り処」
☆アニメ「地球へ…」の二次小説です。
 <用語>
惑星ノア 大戦時ミュウが陥落させた人類の首都星 今は人類に返還している
軍事基地ペセトラ 人類の軍事拠点 戦後十二人の代表で議会制になる 
惑星メサイア ミュウが移住した惑星

   『君がいる幸せ』 五章「時の在り処」十六話「銀の祈り 金の願い」※BL風味

 僕は、彷徨い続けるシャングリラの中で、必死に貴方になろうとしていた。
 何年も何年もずっと追い続け、調べ続けた。
 眠ったままの貴方に色々と報告をして、そんな毎日をずっと繰り返していた…。

 あれは僕らが地球へ着く十五年前

  Shangri-La・青の間
 僕は貴方になろうとしていた。
「今日は素敵な事があったんですよ。新種の花が咲いたんです。どんな色だろう、どんな匂いだろうって皆が待っていたんです。色はオレンジで、匂いもまるでオレンジのようで…。だから今度は菜園にオレンジを育てたくなって…それで…」
「君の色だね…」
「!」
 思いがけなく聞こえた声に僕はびっくりした。
 ブルーが目覚めるなんて何ヶ月振りだろう。
「ブルー。すぐにフィシスを呼んで…」
「いい。呼ばなくていいよ」
 ブルーが僕の服を引っ張った。
 彼は手を離し笑った。
「オレンジ色は君の色だ」
「オレンジですか?」
 僕はブルーの顔が見たくて覗き込んだ。
 彼は僕を下から見上げ、眩しそうにしていた。
「そう、明るい太陽の光りと似たオレンジ色。君は僕の太陽だ」
「え…たいよう…」
 そんな、定番のくどき文句みたいなのを言われても…。
「間違ってないよ。僕はそう思っている」
 こういうセリフを平気で言う人なのは知っていたけど…。
「い…言い過ぎですよ……」
「君が太陽なら、僕は月だね」
 ブルーは言う。
「違います。貴方が皆の太陽ですから」
「僕は君という太陽を追ってここまで来た」
「ブルー?」

「覚えておいて。ジョミー、君が太陽で僕が月だ」

  五年後
 その頃の僕は眠る貴方に話しかけながら、自分の中に貴方を作っていた。
「つらい事があったんだね」
 その日も、急に声がした。
 ブルーが目覚めたのはわかったけど、今日は起きてほしくなかった。
「泣いているの?」
「……」
「ジョミー」
「ブルー、教えて下さい…。戦う先に本当に僕らの目指す未来はあるのですか?いったい何人殺せば、それが手に入るのです?殺すのは最小限にしていますが、それでも…。犠牲は出ます。それは僕らの方にも言えるけど…僕は、もう誰の命も奪いたくない。もう何も失いたくないんです」
「目指す未来はある」
「…そう…ですか…」
「君がそれを信じないと訪れない」
「また僕の所為…ですか?」
「未来は皆のものだから、君だけが背負う事はない」
「そんな事。だけど、僕がやらなきゃ…僕は誰も殺したくない。でも…それ以上に誰にも殺させたくはないんだ。そんな辛い事は僕がすればいい」
「知ってるよ。君は優しいから」
「貴方は…。僕を知らない。貴方は僕が本当に欲しい言葉をくれない」
「そうだね、ジョミー」
「……」
「君が欲しがっているのは、こんな言葉ではないから…。難しいんだ。言葉で表せられる物を君は欲しがっていない。僕は何を君にしてあげればいいのだろう」
「…僕が欲しいのは言葉じゃない…?」
「そう。君は心を欲しがっている」
「…貴方の心をですか…それは、もらえないですね…」
「あげるよ」
 ブルーのベッドの横の床で仰向けに寝転んでいたジョミーがここではじめて目を開けた。
「ブルー?」
「心でも何でもあげるよ」
「……」
「何が欲しい?」
「もし…もしも、あなたが欲しい…と言っても?くれるのですか?」
「あげるよ」
「……」
「大丈夫」
「いいえ。もらえません…」
「いいから。おいで」
 ベッドの上でブルーが起き上がる音がした。
 そして彼はもう一度
「ジョミー」
 と僕を呼んだ。
 その声に惹かれるようにゆっくりと僕は立ち上がり彼の待つベッドに手をかけ彼の肩を抱き寄せた。

「ブルー、僕…やはり…」
 と言い掛けた僕の言葉を遮ってブルーが言った。
「ね、ジョミー。僕も君の中に挿れていい?」
「ええ…!そ、それって…」
 当然、僕はあわてた。
「僕も君が欲しいんだ」
 まっすぐに僕を見る瞳、僕はその赤い瞳に酔ってしまったのだろうか、拒否する言葉が出てこなかった。
「…いいも何も。僕は知らない…から…」
「…じゃあ、僕が教えてあげるからね」
「い…」
「イヤ?」
「…いいえ…」
「おいで」
 ブルーの肩に手を置いたまま、動かないジョミー。
「あの、ブルー」
「……」
 ブルーは返事の代わりにじっと僕を見つめてきた。

「僕は貴方が好きです」
 真っ赤になってそう言うジョミー。
 きっと彼の頭の中では、こういう時は何か言わないといけないって渦巻いていたのだろうな。と思うブルー。
「可愛いね。嬉しいよ。ジョミー」
「……」
 ますます真っ赤になって言葉が出ないジョミー。
「僕も君が大好きだよ」
 ブルーが僕の首にぶら下がるようにキスをしてきた。

 僕らはいつまでもベッドの中で縺れ合った。


 急に辺りが白くなる。
 時間が動いている。
「どこです。ブルー?」
「痛ッ」
 どこかから飛んできた氷の粒が僕の頬を掠めた。
 細い傷が出来た。
 よく見ると霧の中にキラキラと光る小さな粒がある。
「あれが当たったのか…」
 粒は無数にあり進む僕に小さな傷を沢山作った。
 血は流れなかったが、痛かった。
 白い霧の世界
 足元はごつごつとした岩場で真下しか見えない。
 どこかに転げ落ちそうな怖さがあった。
 きっと、ここはブルーの心の世界。
 この霧が晴れるのを待っているかのような世界だった。
 そのまま進むと遥か天井から白いレースがドレープ状になって何重にも重なっていた。
 ここには、前に来た事がある。
 あれはブルーの記憶を探った時。
 あの時は、ここから先には行けなかった。
 いや、行ってはいけない気がして入れなかったんだ。
「ジョミー…」
 すぐ真横にブルーがいた。
 彼はどうぞと言うように手でレースを持ち上げ招いた。
 僕は中に進んだ。

「!」
 肺が苦しい。息が出来ない。
 ここは?
 ここは水の中だ。
「飲んでゆっくり、大丈夫だから」と誰かの声がした。
 水が肺を満たすと息が出来るようになった。
 ここは?
 僕は水槽に入れられている。
 外には白衣を着た研究員みたいな人が何人もいて、苦しがっている僕を心配そうに見上げていた。
「どうしたの?急に大丈夫?オリジン」
 と、優しそうな女性研究員が声をかけてくる。
 僕は返事をしようとしたがもちろん声にはならなかった。
 オリジンと呼ばれたなら、ここはブルーの過去だ。
 僕はブルーの中にいる。
 ここは何処で、何年なんだろう。
 他にミュウはいるのだろうか?
 僕の力は僕の中にある。
 ここで使ってブルーを逃がしたら歴史は変わってゆくのだろうか?
 そう思った時、オリジンが何かに反応した。
 水槽の外に誰かがいるのだ。
「僕がいる?」
 ソルジャー服を着た僕が、ジョミーがいた。
 外の僕は水槽に手を当てる。
 中のブルーもその手に自分の手を合わせる。
 すると、お互いが青く光りだして、やがて水槽にひびが入り大きな音と共に割れた。
 僕は水と一緒に外へ転げ落ち咳き込んだ。
 そして、僕は彼の差し出した手に引かれ走りだした。
 「だめだ。僕は走れない」
 ずっと長い間水槽にいたんだ。
 いきなりは走れない。
「大丈夫だ。僕がいる。僕が支える」
 と彼は言った。
 力強い声と共に彼の力が僕を走らせた。

 やがて、ドアがあった。
 開けて出ると、そこは、緑の草原だった。
 後ろに建物はなかった。
 短い背丈の草が生えている。
 ブルーは足の裏に当たる冷たい草の感触と硬い岩肌を感じて、嬉しくなった。
 ここは、外なんだ。
 でも、何か苦しい?
「空気が薄いからね。焦らずにゆっくり呼吸するんだよ」
 と彼が言う。
「こっち、こっち」
 と彼が手を引いて僕を連れて行った。
 先には、断崖とどこまでも続く雲海だった。
 やがて、その先から太陽が昇ってくる。

 眩い黄金色の光。
 青い空。
 白い雲。
 下から上ってくる霧のような雲と通り過ぎる風。
 足元には鮮やかな緑。
 キラキラと光る朝露。
 それらを僕は一つとして知らなかったが、彼は一つ一つ教えてくれた。
 寒さで指先が凍え痛かったが、胸は熱くなった。
 泣きそうだった。
 いや、泣いていたと思う。
「この気持ちは…何?」
「ブルー、これが希望なんだ。これが僕達のね」
「希望…」

 太陽の光の中で僕を見て笑う金色の髪の彼が、僕の希望になった瞬間だ。
 この景色を二人で見て、この風を二人で感じる為に、僕は生きてゆくんだ。
 ブルーはそう確信した。

「あなたはだれ?」
「僕は、ジョミー」
「ここはどこ?」
「ここは地球だよ。僕達の故郷だ」
「地球?」
「そう、TERRA」
「テラ?」
「君はブルー。忘れないで、僕達は必ずまた会える」

 彼がそう言った瞬間、僕は背中を撃たれた。



  続く







『君がいる幸せ』 五章「時の在り処」 十五話「銀の祈り 金の願い」   

2012-03-31 01:26:32 | 『君がいる幸せ』本編五章「時の在り処」
☆アニメ「地球へ…」の二次小説です。
 <用語>
惑星ノア 大戦時ミュウが陥落させた人類の首都星 今は人類に返還している
軍事基地ペセトラ 人類の軍事拠点 戦後十二人の代表で議会制になる 
惑星メサイア ミュウが移住した惑星

   『君がいる幸せ』 五章「時の在り処」十五話「銀の願い 金の祈り」

 貴方を…僕が許す?
「何をです?」と聞いてみようと思ったけれど、何を指しているのかはもうわかっている気がした。
「僕の償いも許してもらえるなら…」
 そう答えるとブルーはにっこりと笑った。
 そして、君のどこに過ちがあるというんだ?と言った。
「けれど、ブルー。僕がもし、生まれて来なければ良かった。これ以上生きていても良い事なんて一つも無い。と言ったら貴方は僕になんと言いますか?」
「それは、とても残酷な言葉だね」
 ブルーは言う。
 そう…。
 彼にとって最も無慈悲な質問なのだ。
「さっきの僕の許しはいつまでも有り得ない事になってしまうね」
「それは…僕が貴方を許さないなら、貴方も僕を許せなくて。僕が貴方を責めるなら、貴方も僕を責め続けるのですか?」
「君が自分を価値の無いものだと辱め続けるなら、僕はいつまでも自分を責めていなければならなくなる」
「……それでは、僕は貴方を救えない。救う資格さえ無くなってしまう。僕がここに居る理由も無くなってしまう」
「そうだよ」
「それは…酷過ぎます」
「ああ」
「僕は…自分を否定する事も出来ないんですか?」
「否定ばかりでは何も生まれない。前に進めないから、君は過ちなど犯していない。全ての物事は、行程と結果でしかない。君はその時その時、最善だと思って選んできたのだろう?後悔すらも結果だ。ならば、もう自分を責めないで、そろそろ許してあげてもいいんじゃないか?そうすれば、僕も許される」
「僕が僕を許したとしても、そこには何があるのですか?」
「僕にはわからない。それは君自身が見つけないと。言っただろう。全てはやってみないとわからないと」
「…貴方はどこまでも酷い人ですね」
「それは、君も同じだろう?」
 と微笑んだ。

 最善を選ぶ事など出来はしない。
 その時、その時で選んで来た道の全てを最良と思って生きていける人間などいない。
 これしか出来ない。
 ここまでしか来れない。
 そんな道を選び取って人はそれでも進むのだ。
 そして、それがわかっていて最善だと言い切るしか僕らには出来なかった。
 それはとても酷い事だ。
 後悔する事も成した事の結果でしかない。
 それはとても冷たい。
 貴方は先はわからないと言った。
 僕はまだ終わる事を許されていないのだ。
 最後の瞬間が訪れた時に良いも悪いもその全てを自分の物として受け止めていくしかないのだ。
 ブルーはまだ進めと、僕に言っている。
 ここが終わりではないなら、貴方は何を言いたくて現れているのですか?
 死者の想いの塊よ。
 貴方は何を語るのですか?
 そんな僕の心を見透かすようにブルーは言った。
「そうだね。懺悔でもしてみる?」
「懺悔?」
 またそんな大変な事を簡単に言う。
「終わりではないと言うのに?」
「終わりではないが、ここが始まりでもあるから」
「僕が生きて居ないと言う事ですね」
「君がここでの全てなんだ」
「……」
「時間はまだあるだろう?ここで全てを見せていけばいい。僕はそれを君に望む」
「僕は…」
「最初に戻ろう。君は何が知りたい?僕はそれに答えをあげるよ」
 そう言ってブルーはまた笑った。
「本当に…酷な人だ。貴方は…。何でも自分の思い通りに行くと思ってるんでしょ?」
 変な方向にすねない。と軽くあしらわれてしまったが、ブルーは手を伸ばし僕の頭を軽くなでた。
「…そんな事をしたら泣いちゃいますよ」
 と言うと、
「それは困るな。泣かないで話して欲しいからね」
 とブルーは言う。
「…だから、何を聞けばいいのか…」
 彼は小さなため息をついた。
「なら、こうして引き出さないといけない…」
 とブルーがそう言って手を上げると、僕の胸からカードが滑る音と共に出てきて宙を舞った。
「あっ…」
 痛みは無かったが、気力が抜かれた感じがして、僕は床に手をついた。
 二人を囲むように放射線状に散らばる七十七枚のタロットカード。
「君の心を並べて、返ってないカードを一枚、一枚、返していけば…見えてくる。君の全てが」
 ブルーが裏を向いている一枚を拾おうとする。
 僕にはそのカードが何かわかった。
「待って、ブルー!」
 僕は遠くにある一枚を飛ばして彼の前に出した。
「問いだ。さっきと同じ答えはしないで下さい」
 ブルーがそのカードを表に返した。
「ここはどこか?か…。ここは君の心が作った君の自我を守る最終の場所だ」
「…僕の自我…」
 この厚い雲、底が見えない場所で、こんなガラスに守られたのが、僕の心?自我?
 そうだ…気がついていた。
 誰にも心を許しているようで、許してはいなくて、強いようでいてとても、もろい。
 それが僕だ。
「君はマザーから逃れてこれを作った」
「それはどうして?」
「それは次のカードで答えよう」
 ブルーは二枚目を選んだ。
 それは
「貴方は何故ここに?」だった。
 合計七十八枚。
 最初に裏返しのままのカードは全部で五枚あった。
 残りは三枚。
「ジョミー。僕がここに来たのは、君を助けたいから…。君は地球再生の為ならマザーの言いなりになってもそれは人としてミュウとして当然の行為だと思っていたね。でも君の本心はそうは思っていなかった。悩み迷っていた。それで…」
「僕は人としても、ミュウとしても異端だった。だから、この力が人類の未来の為になるならと思っている」
「マザーにとってはそれは好都合だったんだ。君が絶望すればする程、落ちれば堕ちる程、君を取り込みやすくなるのだから。だから、僕はそれを阻止する為にここに来た。君が君の全部が取り込まれてしまったら、もう僕にはどうにも出来ない。だから、僕の姿を見せ、力を解放させてここを作らせた」
 ブルーがそう言った時、もう一枚が飛んだ。
 カードがかえる度に遠い昔に封印されていた記憶が僕の中に蘇ってきていた。
 それが、床に座り込んだままの僕を苦しませていた。
「…僕は貴方に…助けてもらう資格はない…」
 僕は…貴方に…。
 もう耐えられない。
「僕も死ぬ。助けないで。僕は何度僕を殺せばいいんだ」
「耐えるんだジョミー。僕は助けに来た。僕はこの手を絶対離さない。だから…」

 時間が動きを止めた。
 ブルーが手に取ろうとしたカードが空中で止まる。
 カードにはジョミーの細い青い剣が刺さっていた。
「ジョミー…」
「その…カードを返す前に聞きたい事があります…」
「……」
「ここは時間も何もない場所だと言いながら、何故貴方は急ぐのですか?こんな…方法を取ってまで…どうして…」
「…ここが何もかも超越した場所にあるのは、もう君にもわかるね?…だけど…僕は君の本心を知りたいんだ」
 ジョミーはその答えに違和感を感じた。
 明快にはぐらかす感じが彼のやり方だ。
 僕のは小さな部分を曲げていって自分のペースにする。
 今は彼のやる事に乗っていった方が良いのだろうと思いつつ、僕は言葉を続けた。
「それを知った時…、貴方はどうするのですか?」
 本当はどうなるのですか?と聞きたかった。
「君を守る。僕はそれしか考えていない」
「では、僕は貴方を…」
 青い剣を引き抜き、ブルーはカードを返した。
 そこには
「人を憎んでいいですか?」
 とあった。
 ブルーは少し寂しげに笑うと、
「でも、これには対でもう一枚ある」と遠くのカードを飛ばした。
 もう一枚は
「人を愛してもいいですか?」
 だった。
「ジョミー。僕は人を憎んでいたよ。生まれてくる同胞を何人も目の前で殺されて、何も出来ずにただ見ているだけだったから、残虐な人間をすべて殺してしまおうと何度も思った。だけど、ある日、マザーが僕に言ったんだ」
「…僕を探し出せですよね?」
 ブルーは静かにうなずいた。
「貴方はミュウのオリジン。貴方は人に作られた実験体だった。特殊な力を植え付ける実験で…、ただ一人成功した。最初のミュウ…そこから、ミュウの歴史は始まった…」
 ジョミーはブルーを見上げる。
「そう…、僕も人であり、ミュウなんだ。僕は人を捨てて生きる道を選んだ。それでも生きるには地球が必要だった。心の拠り所だ。ミュウの指針だ。それを目標にして皆を導いてきた。僕にはそれしか出来なかったからね…。そして、君を探し出した」
「…僕は…僕のした事は…」
「ジョミー」
「だから…僕は…貴方に何もしてもらう資格は無い…」
 涙が床に落ちる。
 僕は泣いていた。
 これじゃ、本当に懺悔じゃないか…。
 そう思っても涙は止まってくれない。
 僕は下を向いたまま、泣き続けるしかなかった。
 ブルーは僕の前に座り、床に散らばる僕のカードを集めた。
 カードは宙を舞い彼の手に収まった。
 一枚だけ裏のまま残るカード。
「すべてを思い出したんだね…君には辛いだろうが…それが事実なら受け止めて欲しい」
「ブルー…」
 僕は泣き続けた。
 一枚を残してカードが僕の前に置かれる。
 僕はそれに手を伸ばした。カードがまた滑る音と共に僕の胸に戻った。
「君に資格が無いと言うのなら…きっと、それは君と同じように僕にも無い」
「いいえ。いいえ」
「ミュウのDNAは君を守っていた。それを君は自分の罪だと言うのなら、それはミュウ全体の罪になる。君は僕らの希望だったんだ」
「いいえ…」
 僕は首を振った。
「ジョミー、僕に同じ事をして。僕の心を出してごらん」
「……」
 僕は無言で首を振った。
「ジョミー。罪があるのは僕の方だ。心を見せたら、きっと、僕は君のよりもっとずっと沢山表にならないカードがあるだろう。君の心は憎むと愛するが対になっていたけれど、僕の憎むには対が無い」
「ブルー。貴方には人をミュウを信じる心があった。それが愛するのと同じくらいに…」
「僕には人は愛せない」
「…言わないで下さい…」
「ジョミー」
「もう何も言わないで、下さい」
 もう聞きたくない。
 僕が懺悔をしなければならないなら、いくらでもする。
 貴方を苦しめるのはしたくない。
「何も…」
 聞きたくない…。
 貴方は何も悪くない…。
 それはさっきまでの状況と逆転していた。
 僕は自分を責めて貴方を傷つけていた。
 今は、貴方が…。
「君が僕を好きだと言ってくれた時は嬉しかった。本当に嬉しかったんだ」
「わかっています…それは…だから」
 だから、もう。
 話さなくていいんです。
 ジョミーは俯いていた顔を上げて、ブルーを抱きしめた。
「もう、何も…」
 わかっていますから…。
 全ては僕が…。

「ジョミー」
 ブルーは自分の胸から一枚カードを取り出して、宙に飛ばした。
 それは二人の上でくるくると回った。
「本当に嬉しかったんだよ」
 ブルーのカードはジョミーと同じ
「人を愛してもいいですか?」
 だった。

 そのカードに誘われるように僕の意識は落ちていった。
 ジョミーの体をブルーは優しく抱き止めた。




  続く









『君がいる幸せ』 五章「時の在り処」 十四話「銀の祈り 金の願い」 

2012-03-26 02:23:52 | 『君がいる幸せ』本編五章「時の在り処」
☆アニメ「地球へ…」の二次小説です。
 <用語>
惑星ノア 大戦時ミュウが陥落させた人類の首都星 今は人類に返還している
軍事基地ペセトラ 人類の軍事拠点 戦後十二人の代表で議会制になる 
惑星メサイア ミュウが移住した惑星

   『君がいる幸せ』 五章「時の在り処」十四話「銀の祈り 金の願い」

 どこまでも、白い世界
 ガラスの床、ガラスのドーム
 外は白い光と白い雲が流れてゆく
 そんな白い空が映るガラスの床
 音も何もない 人も何もない世界
 僕は死んだのだろうか?
 ここが天国なのだろうか?
 あれから何日、いや、何ヶ月経ったのだろう。
 ずっと歩いてやっとドームの端に辿り着いた。
 下を覗いてみたが、やはりそこには何も無かった。
 他と同じように、ただ雲が流れているだけだった。
 僕は外に向かって声を出してみた。
「誰か居ませんか?」
 もちろん返事はない。
 ドームに沿って、一周しようと僕は歩き出した。
 ここは何処だろう。
 そして、僕はここで何をすればいいのだろう?
 そう、ミュウの力はまだ僕の中にある。
 けれど、それでここを壊す事は出来なかった。
 力を使っていないのに、目は霞む事無く見えるし、耳も聴こえる。
 五感は損なわれていないようだった。
 そして僕は昔のソルジャー服を着ていた。

 僕はスメールで倒れて意識を無くしたはず…。
 やはり、僕は死んだのだろうか?
 死んだならどうしてマザーは僕に何もしないのか?
「早く死んでおしまい」と、いつも彼女は側にいた。
 何年もすぐにでも発動しそうだったあの感覚は今は無かった。
 それとも、僕はもう彼女に吸収されていて、このままここで朽ち果てるのだろうか?
 暖かいベッドで死を迎えられるとは思ってはいない。
 ここが最後でも構わない。
 このままでも僕は構わない。
 沢山の人を殺し、沢山の人から憎み恨まれ、大切な仲間を騙し裏切り続けて、最愛の人を見殺しにした。
 そんな僕が今更何をどう償えと。
 どう生きろと…言うのだろう。
 この命の起源すら作り物だったと言うのに、僕の本当はどこにも無い。
 それでも僕に何かが出来ると言うのなら、身体も命も心も何もいらない。
 何一つ残さなくていい。
 この思いを、力に変えて未来に繋げる事が出来るなら…。
 もう思い残す事はない…。
 そう、僕は何も思い残すことは無い…。
 僕は、人の想いの塊の魂のような存在(もの)になる事もない…。
 思いはどこにも残していない。あの人にもあの子にも、どこにも。

 この白いドームから伸びる一本の銀の鎖。
 これは…?
 これを切ったら…。
 …る…も……無くなる…?
 僕は無意識で青い細い剣を作っていた。
 それはいつものよりずっと小さく細かった。
 そして
 鎖へと手を延ばした時…
「待って、ジョミー」
 僕の背後で懐かしい優しい声がした。
 静かに青い剣が消える。
 その声に振り返るとそこには白い淡い光があった。
 それは段々と変化して…彼になった。
 そこにはソルジャー・ブルーがいた。
「ジョミー、やっと会えたね」
「……」
 彼は本物だ。
 本物の想いの塊。
 僕が作り出した幻影ではない。
 それだけで、そう確信しただけで言葉が出なかった。
 ゆっくりと思い出が蘇ってくる。
 死なせてしまった後悔や「月」での再会が浮かんだ。
 またいつかどこかで出会えるとしたら、きっと僕は子供のように泣くのだろうなと思っていた。
 けれど、実際は、涙は一すじ流れただけだった。
 ただ会えた事がとても嬉しかった。
 心がとても穏やかで静かなのは、きっと彼から感じられる空気がそうだったからだろう。
 貴方はすごく自然にそこにいた。
 柔らかに微笑んでいた。
 僕も彼につられるように笑った。
「信じられない…逢えると思っていなかった」
「ジョミー」
「じゃあ…やっぱり僕は死んだんだ」
「正確に言うとそうだ。だが、厳密に言うと死んではいない」
「死んでない?」
「そう」
「そう…なんだ…」
 しばらくジョミーは黙っていた。
「…ジョミー。どうして君は何も聞いてこない?」
「何も浮かばないんだ。何もかも真っ白になってる。ブルー。貴方が知っているなら、僕に話してくれればいい」
「…そうか、わかった」
 そう言うとブルーは昔のようにマントを翻して歩き出した。
 ジョミーは自分の身長が彼より高くなっているのを感じつつ後に続いた。
 そして、ドームの中心と思われる所まで戻ると彼はゆっくりと話し始めた。
「まずここは何処で何かを話そう。ここは宇宙の一部だ。現実世界でもあり、非現実でもある。そしてここは、君が作ったんだ」
「僕が?」
「そう。ほら見てごらん」
 ブルーは手を上に上げる。
 そう言われて見上げた先にはさっきまで全く見えなかった星が見えた。
「雲が切れて、星が見える!」
「ジョミー。今の僕の言葉で君がここを宇宙だと認識したからだよ」

 暗い宇宙、星の瞬きしかない無音の世界
 その寂しい世界を懐かしく思った。
 僕らはそんな宇宙を何年も彷徨っていたんだ。
 だからこそ僕らは大地を地球を求めた。
「でも、ここは何処?」
 上を見上げたままジョミーが聞いた。
「座標を感じないからかい?」
 そう僕は少しずつ見えてくる星を確認しつつ座標を探していた。
「ここはね、あえて言うなら未来なんだ。だから君は知らないんだ」
「知った星がない程の…未来…」
「そう。でも現実でもあり、現実でもない」
「どういう事?」
「ここは時間を必要としていない。宇宙の一部。君が作った、君の最後の砦。覚えてないのか?」
「僕の砦?」
 僕が作った砦って?と考えていると、急に記憶が戻ってきた。
 僕はスメールで倒れてすぐにマザーと会ったんだ。
 マザーの後ろには「赤い地球」があって…僕は…。
 僕の意識は太陽系まで行っていた事になるのか…。
 それが、何故…こんな所に…いる。
「ソルジャー・ブルー」
 ジョミーは彼を見た。
「思い出したかい?」
「僕が………」
「ん?」
「いや、よく覚えてない…のだけど…貴方が助けてくれたの…ですか?」
 なんとも歯切れの悪い言い方になってしまったが、あの時僕は一度死んでいると思えるけど、と付け足した。
「助けたのは僕じゃない。僕の思念は月と地球の中間にあった。グランドマザーが君を連れて行くのがあまりに急だったから、僕は間に合わなかった。倒れた時に君の側に誰か…。クローンの僕か…、彼がとっさに君の時間を止めた」
「ソルジャーズのブルー。彼が…?」
「仮死状態になった君の思念は、マザーの許に引き寄せられ、地球へと向かった。仮死だった影響で、そこにわずかな時間(隙)が生まれた。僕は君にやっと追いつき、そして君は「地球」と「僕」を見た」
「…僕は地球の前にいる貴方を見た」
「そう、そして君は自分の力でマザーの許から逃げここに来て、これを作った。僕はまた君を追えず君を探すのに時間がかかってしまった…」
「…貴方が僕の前に来たのは僕の力を解放する為?」
「君が、その眼で僕を見ると、君が作った君の制限(リミッター)が解除されるようにしたのは僕だからね」
 だから、僕は月で制御が出来なかったんだ。
 あの狂いそうな想いは力の奔流…。
 僕は想いのすべてをぶつけてあの氷を作った。
 「月」が終わりで始まりの場所だった。
 僕は月へ貴方への想いを封印して、また再び地球へ向かう事を決めたんだ。

 ふいにブルーが僕の手を取り、覗き込むように見上げた。
「ジョミー、君は僕を許してくれるかい?」


  続く