☆アニメ「地球へ…」の二次小説です。
☆今回。一人称が二人とも「僕」なので、混乱すると思います><
一応、交互に話をさせていますが、読みにくくてすみません;
<人物>
ジョミー ノア副首相に就任 ジュピターは宇宙の軍を動かせる権限を持っている
キース・アニアン ノアの首相 人類の評議会議長を兼任
ソルジャーズのブルー 人類が作ったブルーのクローン(タイプブルー)
ジョミー 本当はジョミーはクローンではない(タイプイエロー)
『君がいる幸せ』 Missing-link編 「伝えたい言葉」 十八話
「惑星ノアの砂漠で,最初は別人かと思っていたんです。でも、ソルジャー・トォニィがあなたは前は力で髪や目の色を変えていたって言ってて、それで、気が付いて、あの時は、黒い服で髪は栗色で目の色も違ってて、僕は同じ車に居たんです。僕はあなたを見ています。あれは、ジョミー、あなたですよね?」
「…ノアの砂漠…栗色の髪…それは、列車のように繋がったあのバギーの輸送車か?」
「はい」
僕はあの頃、ブルーの足跡を追うとともに強奪されたメギドと遺伝子研究所を探していた。彼はその対象の側にいたのだから、偶然、出会っていてもおかしくはなかった。
「…そうだったのか…よりにもよってあの時か…。僕は覚えていないな…」
とため息をついた。
「覚えていない?そんなの記憶を手繰れば、すぐに蘇るでしょう?」
身を乗り出し懸命に話す彼を見ても、脳内の情報は変わらなかった。
「いや、ミュウの力でも無理だった…。ああ、君たちの所為じゃない、今回の事は関係ない。あの辺りの記憶は前から曖昧で粉々なんだ。君の前の記憶が壊変され過ぎてずたずたになってしまっているように、僕自身、上手く思い出せないんだ」
諭すように説明をしてみたが、彼はがっかりしたように「そうですか…」と言っただけだった。だから僕は、僕の疑問を彼に聞いてみる事にした。
「だけど、今の僕にはその記憶は無くても、あそ場にミュウが居るか居ないかは僕は視てるはず、ミュウは居なかったと思うんだが…。仲間が居たら事態は大きく変わっていただろう。…しかし、君はよく僕に気が付いたね」
事態が大きく変わる?彼はその部分に少し興味を持ったようだったが、僕の質問に答えてきた。
「あ、あの、僕は誰にも言ってないから、誰にもばれてないと思うけど、多分、あの時、僕はもうミュウだったと思うんです。だから、あの時、あそこであなたの中の大きな力を見て、僕は助けてもらえると思ったんです。だから…どうして…」
「そうかだから、君は、僕は大きな力を持っていても何もしてくれなかった。と言うんだね…」
「はい」
「あの時、僕は、助けて欲しいと言う君の気持、そして、君の願いを踏みにじってしまったんだね」
「あの!でも、もう謝らないで下さい。僕が勝手に期待してしまっただけですから…」
「でも、君がそう言っても、僕は君に許しが得たい」
「……」
ノアでの事が彼にとって重荷になっているとは思えないが、僕は説明を始めた。
「あの時、僕は色々な事を知っていて、その現場に居たのに、何もしなかったのは事実だ。今になって何を言っても許されるものではないな…悪用されないように痕跡を消してあるいても、どこかで残るものなんだね」
惑星メサイア襲撃事件の後で、ノアにあった研究所の全てが何者かに焼かれ何も残さず燃え落ちてしまっていると聞いた。あれはあなたがやった事だったんだ。僕には悲痛な顔で炎の中に立つジョミーが見えるような気がした。
「ジョミー。それは、人間が勝手にやった事であなたの所為では無いです。ミュウを作るなんて無理なんです」
「それでも、僕は彼らに僕の存在が無ければと言われたよ」
「そんな…」
「だが、今は僕の存在ではなくて、君の存在意義を見つけなくてはね」
ジョミーは僕の目をまっすぐに見て行った。
僕はその視線を受け止めたが、あやふやな作り笑いになってしまっていた。
こんな僕の存在意義?それはもうずっと前から、きっと生まれた時から僕の手に中には無い。それをどうやって見つけるというのだろう。ミュウの力で、魔法のようにパッとどこから持ってこれるそんな簡単な物ならいいのに。そんなのを僕に教えてくれると言うのですか?それはどんな方法でだろうか…。ジョミーは僕に何を言うのだろう?
ただ、じっと僕らはお互いを見つめていた。
「あの、今、僕が知りたいのは、あの時、あなたが何故何もしなかったのかが知りたいんです」
「そうか…」
なら…。とジョミーは考え込んだ。
そして、
「君は僕がスメールで言った。ミュウの力の事を覚えているかい?」
スメールで話した事が何故ここに出てくるのか?と僕は思った。
「あなたが言ったのは、人の命の重さを知らなければならないというのと、ミュウの力は武器と同じで、剣や銃のように簡単に人を殺せてしまうから、そんな力を持つ者はそれに対して責任を持たなければいけない。でしたよね?」
「そう。君たちはそれを理解してくれているね。僕は嬉しいよ。それで、そこにはもう一つ考えないといけない事があるんだよ」
「もう一つ?」
「ああ、もう一つは、人を殺す事を自分の中で折り合いをつける事さ」
「え…」
僕らの力は武器で、人を殺してはいけないのだと言ってから、そのすぐ後で、殺す理由みたいなのを考える?それっていったいどういう事なのか?僕はますますわからなくなった。
「それが…さっきの答えになるのですか?」
「いいや。彼らを殺せなかったのは別にある。だけど、君が人を殺せなくなったのは僕がそう教えたからじゃないかと思ったんだ…」
何も知らず、人を殺してはいけないとは思っていなかった頃、多分死んでいるんじゃないかと思えるような事を僕たちはしてきた。倒すべき敵だと話に聞いてきたジョミーがあまりにも違っていたから、僕はただ彼に怯え甘えていた。だから、僕には信じられなかった。「彼らを殺せなかった」って、ジョミーは、あの運び屋を殺すつもりだったんだ。緊張が走った。そして、得体のしれない怖さが僕に忍び寄っているのを感じていた。何が起きようとしているのだろう。
「…あ、でも、僕は、海賊にも誰も死んで欲しくなかっただけ」
「わかるよ」
ジョミーは優しくそう言った。だけど、一度高鳴りだした心臓はなかなか落ち着いてくれなかった。
「それじゃあ、殺せば…良かったんですか?」
「ああ、君が失われるくらいなら、僕は何人でも殺せる」
「でも。それじゃ、キースが、ミュウと人類はまた戦争になるかもしれなくて…」
「だから、僕がキースを死なないように殺すんだ」
ここにきて、僕はジョミーが怒っている事に気が付いた。彼は僕がした事を怒っているんだと…。
「僕は、あの、ジョミー!ごめんなさい」
大きな不安が襲ってくる気がする。僕はとにかく謝らないと、と思った。
そう、別に僕はキースを助けられて良かったとは思ってはいない。だけど、もう自分が死んでしまえば楽なんじゃないかと思ってしまったのも事実だった。自殺しようと思った訳じゃないなんて…でも、そうした方が楽とは思っていた。だったら、彼を庇っても死んでも良いんじゃないかと思ったんだ。
「ああ、いや。君を責めてはいないんだ。あんな事になるくらいなら、最初に僕がさっさと手を下しておけば良かったのかもしれないと思った…ただそれだけで。今は、僕も、人は殺したくはない。でも、僕は殺せるんだ。そんな矛盾が僕の中にあると言いたかっただけなんだよ」
「矛盾…?」
「そうだな。君にはまだ早いのかもしれないね。もう少し、人の中で生きてから…にした方がいいのかもしれない」
そう言ってジョミーは立ち上がってモニターから外れてしまった。
「ジョミー?」
と呼ぶと「何?」と答えは返ってくる。
画面にはアルテメシアの空港の貴賓室が映っているだけだった。さっきまでジョミーが座っていた応接セットの大きな椅子と、その向こうには大きな窓、外は青空と白い雲が見えていた。
どこかの窓が空いているのか、ゆらゆらとレースのカーテンが揺れていた。
そんな平和な光景だった。
時間にしてもそんなに経ってはいない。ただジョミーが宙に浮かせたモニターのカメラを自動追尾にしていないだけだった。
そんな短い時間だけど、僕はどうしようもなく不安に駆られた。
さっきの心臓のドキドキが戻ってきたのか、不安でたまらなくなった。
それはまるで、親に置き去りにされた子供のような気分だった。怖くて、寂しくて、不安だった。人を殺せなかったとジョミーが言った所為か、僕に怒っているのだと知ったばかりだからか、僕にはまだ早いと言われたからか、僕は泣きそうな気分になっていた。このまま、今ここで捨てられるかもしれない。そんな不安が襲ってきた。
「ジョミー!」
僕は叫んでいた。
「な、何?」と驚いた顔で、ジョミーが画面に戻ってきた。
「ごめんなさい」と僕は頭を下げた。
「ああ、僕の方こそ、ごめん。カメラが追尾になってなかったね」
ジョミーは空港が騒がしかったんだと言った。
彼は頭を下げたままだった。
ジョミーは…これには、少し心が痛んだ。僕は彼の不安を煽って心を開かせている。
近くに居ればたやすい事だが…。流石に距離があるから時間がかかってしまう。
そろそろか…。
「ごめんなさし。あの時、あなたが助けてくれなかったのを、何もしてくれなかったのを、ずっと悲しんでいた訳じゃありません。だって、でなければ僕はブルーに会えなかったから」
ジョミー。そこは順番が違うよ。ノアに居た頃はもうとっくに君たちは会っているはずだ。君たちはもっと小さい時に会っている。
「ジョミー」
「だから、僕は良いんです。きっと一緒だった子供達もあなたに葬ってもらえて良かったと思ってます」
彼は頭を下げたまま話している。
「……」
「僕は、きっと、とても悪いんです。あなたやフィシスと会ってスメールに行けて本当に嬉しかったのに、本物のあなたにブルーが惹かれてゆくのを見て、僕はあなたに嫉妬したんです。だって、スメールでも、戻った時でも、いつもいつも、あなたはブルーばっかりで。僕は、ブルーにもキースにも、ずっとあなたの事しか言わないシドにも、必死になっているトォニィにも。そんな皆に嫉妬してたんです」
「……」
彼の心は開かれた。
手に取るように彼の痛みがわかる。
暗闇で握りしめている手を開くとキラキラとした小さな光が残った。
それが彼だ。愛しかった。
僕は泣きそうになるのをこらえていた。
「ソルジャーズのブルーはもちろんだが、トォニィもシドもフィシスも、そしてキースも君が好きだよ」と僕は言った。
「だから、僕はあなたが消えた時、嬉しかったんです。だって、あなたに成るように育てられて、本物が目の前で消えたなんて、どうしてもそう思ってしまう。だから、あなたの代わりをしていられたのは楽しかった。でも、それは最初だけで、あなたがいつもどんな気持ちであの大変な状況で生きていたかがだんだんとわかってきて…。どこにいても何をしていても、どこかで人類に監視されてる。ミュウだって、いつも誰かが何かを言ってくる。願ってくる。その全てを叶えるなんて出来ない。だって、ソルジャーは神じゃないんだ。トォニィやシド、キースやセルジュ、ヴィーやジュピターの時のあなたの友人たち。そんな皆のフォローがなければ僕は二年もあなたの代わりは務まらなかった」
「ジョミー。落ち着いて。目を開けて、そして手を」
「え?」
僕はゆっくりと目を開いた。
ザアッと風が過ぎる。そこは、僕と彼だけの世界。
僕たちは向き合って浮かんでいた。そして、彼は僕の手を取ると静かに着地した。
回りを見回すと、ガラスで造られた丸いドームだった。
ガラスの外の宇宙を写しながら白く光るどこまでも続くようなガラスの床。
所々に遥か高い天井から下までまっすぐに下がっている透けるドレープ状の床までとどく白いカーテン。
宇宙には遠くに見える太陽と、青い地球と月、火星と木星。
「…ここは?」
「ようこそ。ジョミー。ここは僕の精神世界だよ」
「精神世界…」
「つまりは心の中だよ」
僕はノアに居てジョミーはアルテメシアに居る。最新の戦艦で何回も跳んで、それでも二か月はかかる距離だ。それをこんな風に繋げてしまうなんて…。そんな信じられない事をしてしまう彼が、僕の目の前で優しく微笑んでいた。
「どうやって、どうして?」
「ここに来てもらうのに時間がかかってしまったけれど、僕は今から君に人を殺す話をするつもりなんだ。前と反対の事を言うようだが、聞いてもらえるかな?だから、そんな話は通信じゃなくて、二人だけの方がいいだろうと思ってさ…」
と小さく笑った。
続く