迷宮映画館

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アレクセイと泉

2003年06月13日 | あ行 外国映画
チェルノブイリ事故後の小さな村の生活を描いた「ナージャの村」から6年。写真家の本橋成一さんが、その続編ともいえるような本作を描いた。

ブジシチェ村はチェルノブイリから180kmの小さな村。事故の後、この村には退避命令が出され、多くの人々が村を去っていった。残ったのは55人の老人と、たった一人の若者、アレクセイ。彼には小児マヒの後遺症があり、町に出ることより、村にとどまる事を選んだ。

村にはコンコンと湧き出る泉がある。村の人たちはそこの水を汲み、洗濯をし、野菜を洗い、馬に水を飲ませる。100年かけて大地に沁みこんでいった水には放射能など、微塵もないのだった。

村はいつもの通り、じゃがいもを植え、収穫する。町に出て行った家族はそのときだけは帰ってくる。コンバインを稼動して小麦の収穫をする。若いアレクセイは何かと皆に重宝がられる。家畜のえさを作り、ペチカでパンケーキを焼く。火をつけたペチカから追い出されるように猫が飛び出してくる。ガチョウを養い、食卓にのぼる。毛糸をつむぎ、機を織る。何の変哲のない日々。ゆったりゆったりと毎日がすぎていく。

泉の脇の洗濯場の板が危うくなってきていた。女たちは男たちに何とか直してくれと願っていたが、なかなか腰の重い男たち。しかし、村に久々に司祭がやってくるという話から、思い腰が上がる。森の木を切り出し、鋸と斧だけで泉を囲う板を作り出していくじいさんたち。んーーすごい。

自給自足の毎日、国から支給される年金も結構な額になっている。それでも変わらぬ日々の生活。水を汲み、木を切る。しかし、その大地は未だガイガーカウンターの針が振り切れる土地のはずだ。しかし、彼らはそこに生き、そこで死んでいくのだろう。この泉のまわりで。

チェルノブイリの事故から今年で17年。あのときの衝撃は忘れられない。原子力発電所の爆発!一体、世界はどうなるんだろう。その後のさまざまな動きを、できる限り追ってきたつもりである。事故のすぐ後のソ連礼賛映画の「チェルノブイリ・クライシス」から、情報公開、ペレストロイカ。ソ連を崩壊させてしまった一番の要因は実はこの原発事故だ。隠すにはあまりにも大きすぎる事故。そこから情報公開が進み、果てはソ連崩壊までつきすんでいってしまったわけだ。ゴルバチョフの処遇、日々変わる国の名前、エリツィンはきっと独裁者になるぞ、などと教えたはげとふさふさの法則など、めまぐるしく変わる体制を見てきた。

そんな日々もきっとこの村にすむ人々は、今日はちょっと雨が降った。なんだかすごい事故が起こったらしい、ここには住むなという。でも、私たちはここにすむ。今までもいろんなことがあった。しかし、ここにすみ続けてきた。これからも変わらず住むだけ、と受け流した事だろう。その姿はあまりに美しく、あまりに悲しかった。幸せな老夫婦を見ただけで、涙が出てきた。

老人の中で一人、ゆったりと黙々と働くアレクセイ。その姿は神々しかった。あれを神々しいといわずして、何をいうのだ。きっとこれからもずーーっと、黙々と働いてくのだろう、あの泉がある限り。

「アレクセイと泉」

監督 本橋 成一  
出演 アレクセイ・マクシメンコ イワン・マクシメンコ エレーナ・マクシメンコ 2002年 日本作品


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