さいかち亭雑記

短歌を中心に文芸、その他

島田修二の歌

2018年10月21日 | 現代短歌
 長雨の九月と十月が続いたが、昨日と今日と久しぶりに晴れた。取り出したのは島田修二の歌集『草木國土』である。作者六十歳前後の作品が収められている。

あらはなる生おもむろにしづめつつ草木國土冬に入りゆく     島田修二

 ※「草木國土」に「さうもくこくど」と振り仮名。

差しとほる光の中におのがじし葉をはらひつつ樹樹の浄まる

 ※「浄」に「きよ」と振り仮名。

「あらはなる」というのは、動植物の盛んな営みをさす。さらには人間のあからさまな欲望に満ちたありようも示唆されている。そのような生の様相を一度に鎮静させて冬がやって来ようとしている。生の営みはなべて「あらはなる」もの、光にさらされたものである。
 二首めは、落葉の季節に明るむ木肌は、葉を落とすことによって自らを浄化しているようにみえるというのである。すき間の開いた枝の間からまともに差し込んで来る日射しの明るさを歌いながら、樹樹のみならず自身の心境の浄くあらんことを作者は願っているのだ。

秋空の澄みわたる下いちにんの市民の思ひよみがへり来よ

 折しもサウジアラビアの暗殺されたジャーナリストのニュースが世界を駆け巡っている。新聞社に勤務した作者には、「市民」という言葉に特別な思いがある。一人の「市民の思ひ」を知る人は、それを引き継ぐ義務があるのだ。一人の「市民の思ひ」が、この世界を変えてゆく、秋空の澄みわたる下、そう思うのである。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿