さいかち亭雑記

短歌を中心に文芸、その他

𠮷岡生夫『草食獣 第八篇』

2018年04月04日 | 現代短歌
 先月は一か月に二度かぜをひいて、二度目はほぼ五日間寝たきりとなり、ブログの文章どころではなかった。きのう、やっと本をめくる気分になって、たまたま手に取ったのが『草食獣 第八篇』である。読み始めたら、いつの間にか顔がほころんで来て、にこにこしながらその晩のうちに読了した。こういうことは、あるようでいて、なかなかない。

おおくにのぬしのみことのような学生のスポーツバッグが通路を占める

 うまいことを言うなあ、と感心した一首。あのおろかな学生のスポーツバッグは、何とかならないものか、といつも思う。

おふくろの声がきこえてノックする音がきこえて夢はきれぎれ

幣を振りじゃじゃぼじゃぼじゃを繰り返すうちに普通でなくなってきた

 こういう歌は、高瀬一誌の歌境に通ずるところがある。〈ただこと〉の「現実」が、「超-現実」となる瞬間をつかんでいる。

眉黒に白い歯並び「虫めづる姫君」のようだイモトアヤコは

ふなっしーのようにぴょこぴょこさせている孫の両脇ささえてあれば

持っているだけでたのしくなりそうなキーホルダーの天童よしみ

 きっと孫にとっては楽しいおじいさんなのだろう。三首とも固有名詞の効き目が抜群である。自由自在な平俗さ、とでも言ったらいいか。

けなげだがからぶりばかり舗装路にウンチをたれたそのあとの犬

 ユーモラスな〈写生〉歌である。「からぶりばかり」の間抜けな犬の姿が、なんともおかしい。