私は、これまで5回も、全身麻酔の手術を受けてきました。 今回は6回目です。 6回目で初めて経験したのが、「術後せん妄」という症状です。 「術後せん妄」なんて聞いたことがない人が大部分だと思います。 見えないものが見え(幻視)、聞こえないはずの声や音が聞こえ(幻聴) 自分がどこにいるのか、夢の中の世界が本当のことのように思えてしまう 精神の異常状態です。 そのせん妄の内容はこうでした。 |
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私は、コロナで九州の小さな病院に入院していると思っています。 心臓だか脳の手術もしたと、医師には告げられていましたが、 コロナが重篤になって、ものすごく苦しい状態です。 周りの医師や看護師は、もうこの患者はダメだからと言って、私を安楽死させようとします。 私は、それに抵抗して、 「触らないでください!このままにしておけば、自然に死にますから」 と言って、何かしようとする看護師や、医師を振り払って暴れました。 そして場面は変わって、未だ死んでいないのに、私の葬式が始まります。 コロナなので、家族はいなくて、病院の人たちだけです。 私は一番前に座って、倒れそうになりながら、 「未だ死んでいない人の葬式をするなんてひどすぎます!こんな病院はほかにありません」 と、大声で叫びます。 奥の方で僧侶の読経が聞こえるので 「お坊さんを呼んでください!死んでもいないのにお経を読むなんて、おかしいでしょ!」 と叫びますが、お坊さんは来てくれませんでした。 私が、死なないので、また病室に戻って、何度も安楽死をさせようとするので、 私はそのたびに抵抗して暴れました。 そしてそのまま寝てしまったようです。 |
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翌日、便意を感じて目を覚ましました。 「えっ!私、生きてるじゃない!」 もう本当に驚愕しました。 工場のように広いところに寝ていました。 病院を変わったんだと思いました。 「便がしたいんですが…」 と言うと 「おむつをしてますからそのまましてください」 「えーっ!そんなぁ」 と、思うまもなく出てしまいました。 「あっ、出ましたね。すぐ取り替えますから」 「出た方がいいんですよ。出ないと本当の困りますから」 と言って、手際よくきれいに取り替えてくれました。 その後も 「もう少しベッドの頭側を高くした方が楽ですか?」とか、 「のどが渇いた」と言えば、すぐに水を持ってきてくれたりすごく優しく看護してくれます。 今度の病院は前とは全然違うと思いました。 手術後3日目でした。 「娘さんが面会に来ましたよ」 と言われ、娘がベッドの横に来ました。 「どう?お母さん」 「うん、前の病院はひどかったけど、今度の病院は、みんな優しくしてくれて良かったわ。ここは、漢方の病院なんでしょ」 娘は、私が何を言っているのかわけもわからず、びっくりして、 「何を言ってるの。お母さんは救急車で最初からここの病院に運ばれて、大動脈の手術をして、無事成功したんだよ」 「えーっ!コロナじゃないの?」 「コロナなんかじゃないよ!ここは府中の榊原記念病院で、専門病院だから、ここにいれば安心なんだよ!」 「えーっ!榊原記念病院と言えば、従弟のMさんが狭心症で手術したとき、お見舞いに来たあの心臓病専門病院?」 私がひどい目に遭ったのは、みんな妄想で、手当てをしてくれていたドクターやナースに暴言を吐き散らして、 暴れまくっていたのだと思ったら、もう恥ずかしくなって、 「お母さん、お医者さんや看護師さんにひどいこと言ってしまったみたいだから、あなたからも謝って!」 と叫んでしまいました。 しかしその後も、少し眠って目を開けると、壁に文字がびっしり書いてあったり、 太平洋の島々の地図が書いてあったり、 私の点滴に誰かが勝手に謎の液を入れていたり、 夢なのか現実なのか、よく分からない状態は、暫く続きました。 担当の医師や、看護師に 「私、失礼なことを言い散らして、暴れまくったみたいで、本当にすみませんでした」 と言うと 「覚えていますか?いやこの手術ではよくあることで、慣れてますから、全然気にしないでいいですよ」 と、言ってくださった。 3~4日目くらいには、すっかりなくなりました。 調べてみると、術後せん妄というのは、心臓血管外科術後患者に多いそうで、約40%で発症するそうです。 本当に不思議な体験でした。 |