「日本アルプス」という、いみじくも名づけられたこの大山脈に私がはじめて興味を覚えたのは、数年前、その山々の景観をしきりに褒めそやしているチェンバレン教授のお話を聞いてからである。私は何度も現地を訪れて、そのたびに新しい風景の美しさ、雄大さを発見した。それは全体の八分の七を山地が占めている日本の国土でも、ほかでは見られないほどのものである。しかしこのあたりを旅行するのがきわめて困難なので、この天然の砦は、日本の国がかつて人為的に孤立していたのと同じように、自然によって隔絶された「秘境中の秘境」だったのである。しかし、日本国中どこへ行っても、これほど多様な自然の美しさに恵まれたところはない。というのは、この山々の斜面には氷河こそないが、それ以外は豊富な亜熱帯植物から高山性の雪にいたるまで、ないもののほうが珍しいからである。富士が白雪のマントを脱ぎすてて青ぐろい山肌をあらわすときも、飛騨山脈の巨大な花崗岩の山腹には残雪がまぶしく光っているのである。
(ウェストン著・青木枝朗訳『日本アルプスの登山と探検』より)
当時、ウェストンより先に来日していた英国人は、いずれも例外なく旅と山を愛して、富士山や中部地方の山岳地帯について知見をもっていた。
ラザフォード・オールコック、ハリー・パークス夫人、ロバート・ウィリアム・アトキンソン、アーネスト・サトウ、ウィリアム・ゴーランド、バジル・ホール・チェンバレン、ジョン・ミルン、イザベラ・バードなどである。