ゆっくり読書

読んだ本の感想を中心に、日々、思ったことをつれづれに記します。

銀川の思い出

2011-03-29 22:00:47 | Weblog
最近よく思い出す中国の女性がいる。
95年に出張で中国の銀川に行き、ホテルの従業員のお嬢さんと少し仲良くなった。

彼女がある日、「私は韓国ウォンを持っているんだけど・・・」と話し出した。
危険な気配を感じたので、私は話をそらし、逃げた。

それから毎日、彼女は私を追いかけてくる。
「韓国ウォンを持っているんだけど、価値がわからない」と。

ある日、ホテルの廊下を歩いていたら、彼女がついてくる。
「銀行へ行っても、韓国ウォンのことが書いていない。
あなたしか聞ける人がいない。
あなたがお金を換えてくれるのでもいいのだけれど」と言われた。

金額を聞いてみると、韓国ウォンらしく、額面は大きく感じるのだけれど、
日本円にすると500円にもならない金額だった。
少し面倒になったので、
「韓国ウォンは、中国では換金できないから価値がないよ。
それに、私は韓国ウォンをほしくない」と言ってしまった。
ふと振り返ると、彼女は泣き崩れていた。

当時、韓国人の留学生は、ドルで持ってきていた。
そして、中国人は外貨をほしがっていた。

彼女は、どうやってウォンを手に入れたのだろう。
あれだけ号泣したのだから、
きっとすごく辛い想いをしながら、手に入れたのだろうと思った。
それに、そのお金になにか夢や希望を持っていたのだろうと思った。
不安に押しつぶされそうになりながら、
それでも一縷の望みをもって、勇気をもって私に聞いたのに、
私が冷たく言ってしまった。
言った内容よりも、言い方のほうが冷たかったかもしれない。
翌日も、その翌日も、彼女の姿を見なかった。

いまだったら、なんて言うだろう。
当時と違って、韓国ウォンも中国国内で換金できる場所ができたし、
中国人も、むかしのように外貨を求めていない。
相変わらず韓国ウォンの額面は大きいが、
中国国内でも適正な価値を知ることができるようになった。
彼女は、いま、あのときのことを思い出すことがあるだろうか。

あのとき、換えてあげればよかった、とも思うけれど、
普通のレートで換えてあげたら、それはそれで、彼女は傷ついただろう。
だまされた人が悪いのか。
だました人が悪いのか。
だまされた人を、さらに傷つけた人が悪いのか。

あの時の彼女の涙は、いまでもとても重い。