つばた徒然@つれづれ津幡

いつか、失われた風景の標となれば本望。
私的津幡町見聞録と旅の記録。
時々イラスト、度々ボート。

二つの「城歩き」。

2023年11月11日 20時20分20秒 | 旅行
                            
先月(2023/10)幽玄との遭遇と題し記事を投稿した。
一部を抜粋したい。

【大学3年の夏、ツーリングに出かけた。
 愛車「SEROW225」に跨り、当時住んでいたアパートから名古屋市内を抜け、
 ワインディングロードをひた走り数時間。
 午後4時近く、岐阜県・岩村町(いわむらちょう/現:恵那市)に到着した。
 東美濃の山城「岩村城」址の見学が目的だった。

 山頂の石垣群に近い駐車場まで登ろうと思っていたが、
 麓に予想外の人影を見止め一旦エンジン停止。
 手近な方に何があるのかと聞いてみたところ、
 ちょうどこれから「薪能(たきぎのう)」が催されるとのこと。
 なるほど立派な舞台もある。
 城址訪問は次の機会に譲り、僕は観客の一人となった。】


書いていて、ハタと気が付いた。
僕はまだ“次の機会”を作っていない。
ならばと38年越しの城址見学を思い立ち、東美濃へ一泊二日の旅に出た。



まずは、岐阜県・恵那市の「岩村城(いわむらじょう)」。

本丸は標高717mの山頂に位置する。
城囲い:1255m、山回り:3700mの広大なエリア内には、
本丸・二の丸・出丸・櫓・各種曲輪・門・藩主邸等などがあった。







「岩村城」の別名は「霧ヶ城」。
雨の前後、秋冬の早朝など、霧に包まれ佇む姿から名付けられた。
ロマン漂うネーミングに一役買っているのが、今も水が湧き出る井戸の1つ「霧ヶ井」。
戦いの際、ここに秘蔵の「蛇骨」を投げ入れると霧が湧き出して城を覆い隠し、
敵の攻撃を阻んだという。
真偽の程は定かではない。
しかし、美しい勾配を描いて連なる苔むした石垣を眺めながら、
時が止まったような城山を歩いていると、不思議と頷けたりするのである。







六段壁(ろくだんへき)は「岩村城」の白眉。
石垣が六段積みになっていることからそう呼ばれる。
急峻な地形に石積をする為に工夫を施し、一階づつに犬走りを設けた工法で積まれ、
修理を容易にし、防御を固くした先人の知恵の結晶だ。



--- さて「岩村城」にまつわるエピソードで最も耳目を集めるのは「おつやの方」だろう。
「織田信長」の叔母である彼女は、政略(戦略)結婚で岩村に嫁ぎ、
夫の病死により、事実上の城主に就任。
その後「武田信玄」の重臣の軍門に下って敵将の妻となり、やがて悲劇的な最期を遂げた。
この“美貌のおんな城主”については、回を改めて投稿したいと考えている。
乞うご期待。



変わっては、恵那市のお隣・中津川市の「苗木城(なえぎじょう)」である。

最大の特徴は、自然環境を巧みに取り入れた点。
街を東西に貫流する木曽川が天然の水堀。
右岸に聳える標高432mの高森山の山頂に本丸、
一段下がった所に二の丸・三の丸と配した。
むき出しの岩盤・巨石を利用し、そこに様々な石垣を積み合わせ平坦面を確保。
更に、長い柱で崖の上に建物を固定する「懸造り(かけづくり)」を用い構築。
自然の地形をフルに活かして築かれた山城である。



別名は「赤壁城」。
城の壁は白漆喰ではなく赤土がむき出しになっていたとか。
領主・苗木藩の石高は城持ち最小規模の1万石。
つまりは経費が捻出できなかった為と思われる。
そう考えると、わざわざ制約の多い場所を選んで築城したのは、
土地の造成改良、土木・基礎工事の一部が省ける経費的メリットを考慮したのかもしれない。







日本列島に遺された城址は4万にも及ぶという。
日本の城と聞けば、高い石垣の上に聳えた天守閣、水を湛えた堀をイメージするが、
こうした形態は戦国末期の「安土城」から後。
中世(鎌倉~室町/戦国)のそれは、山岳部の地形を利用した防御施設である。



今回訪れた2つの城址「岩村城」「苗木城」の築城は、
共に、ちょうど中世から近世へ移行する境目。
軍事拠点から、政治・経済の中心機能を満たす拠点へ。
敵に攻め込まれにくい山から、物流に利便性の高い平地へ。
城に求める役割が大きく変わろうとしていた頃に出現した「要塞」は、
一種のロストワールド--- 恐竜の生き残りみたいに思える。
そして、戦国~安土桃山~江戸~明治維新まで、
400年近く運用存続した意味でも、史上他に類を見ない異彩を放っているのだ。



息を切らせ、汗を流しながら「苗木城」址から下山する途中、もう一つの遺構に出会う。
中近世の建造物を見慣れた目に、木立の間から覗く鉄骨の何と逞しく美しい事よ。
それは、昭和53年(1978年)廃止された「北恵那鉄道」の上地橋梁。
レンガ積みの橋脚は、近代遺産のように重厚。
一足飛びに1500年の時を遡った錯覚に襲われ、軽い驚きを禁じ得なかった。



<次回へ続く>
                           
コメント (4)
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