つばた徒然@つれづれ津幡

いつか、失われた風景の標となれば本望。
私的津幡町見聞録と旅の記録。
時々イラスト、度々ボート。

皇后と軽業師。~ 背教者ユリアヌス。

2020年03月31日 07時28分07秒 | 手すさびにて候。

(※今回の文章は、2015年12月6日投稿のほゞ再掲載です)

ほんの手すさび手慰み。
不定期イラスト連載、第百三十五弾は歴史小説の登場人物。
向かって右、白い肌が「エウセビア」。
左、鳶色の肌が「ディア」。

巻末の奥付には「昭和五十六年 29版発行」と書いてある。
つまり、今から40年近く前に製本されたという事だ。
また、定価3,500円となっている。
当時、高校1年だった僕にしては、かなり思い切った散財だったはずだ。
「フラッシュダンス」を観た後に立ち寄った書店で、
タイトルに惹かれ衝動買いした分厚い本の背表紙には、明朝体でこう印字されている。

【背教者ユリアヌス  辻 邦生】

ご存知の方は多いだろうが「辻 邦生(つじ・くにお)」氏は、日本の小説家。
「背教者ユリアヌス」は、氏の作品中でも傑作の呼び声高い一冊である。

主人公は、古代ローマ帝国 第49代皇帝「フラウィウス・クラウディウス・ユリアヌス」。
血塗られた粛清を逃れ、幽閉先でギリシア哲学に親しんだ少年時代。
ガリア(現在のフランス)を統治する「副帝」に任じられ活躍した青年期。
運命に導かれ「正帝」の座に就き、戦場となった砂漠で命を落とすまでの短い治世。
その30余年の生涯を描いた大作だ。
別称の「背教者」は「反キリスト教政策を行った者」という意味。
キリスト教を禁教にした訳ではないが、キリスト教聖職者の既得権益を取り上げ、
ギリシャ・ローマ伝統の宗教を復活させるなどしたため、後にそう呼ばれた。

長編でボリュームはあるが、美しい文体のお蔭で滞らずに読み進められる。
的確な描写に誘われ、1600年の時を遡る旅ができる。
史実を元にしたフィクションだけに、登場人物も魅力的だ。
哲学者のシンボルである顎ヒゲを蓄えた「哲人皇帝」は言うに及ばず、
個人的には、取り分け2人の女性に魅せられた。
ほんの一端を紹介したい。

1人は先帝の皇后「エウセビア」。
筆者は、主人公との邂逅シーンを次の通りにつづった。
『ユリアヌスは、そのとき、自分の目の前に、
 ふたたびアテナ女神が美しい眼を輝かしながら近づいてくるのを見たのだった。
 彼は、半ば呆然とし、半ば恍惚として、女神の幻影に見入った。
 女神の茶色い明るい眼には、どこか涼し気な、甘やかな感じがあり、
 ほっそりとした綺麗な顔立ちは、
 エフェソスで見た時よりは、ずっと柔和で親しみ深い感じがした。』


もう1人はローマ帝国ナンバー1の軽業師「ディア」。
主人公を弁護するため法廷に立つシーンは、以下の通り。
『たしかにディアはニコメディアで別れた頃のような少女じみた娘ではなかった。
 軽業で鍛えられた身体は浅黒く引きしまってはいたが、
 細くしなやかな腰や、しっとりと成熟した美しい二の腕には、
 以前には見られなかった、匂いのいい果実のような甘い豊満さが漂っていた。
 その横顔にも、落着きと自信と注意深さがのぞき、
 浅黒い卵型の可愛い表情に、ある柔らかな分別臭い輪郭が加わっていた。
 しかし、その黒いきらきらした眼は、
 プロポンティス湾の青い入り江で、彼をじっと見ていた眼であった。』


(※赤文字原典:背教者ユリアヌス-辻邦生/抜粋、原文ママ)

語ればキリがない。
ここで語り尽くせるものでもない。
好き嫌いは否めない。
しかし、お薦めしたい。
未読の方は一度手に取ってみてはいかがだろうか。
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誘惑のアルト。~ 枢軸サリー。

2020年03月29日 08時16分53秒 | 手すさびにて候。
「第二次世界大戦」は、時期によって対立構造が異なる。

@戦端が開いた当初は、「英仏」対「独ソ」。
@フランス降伏後の図式は、「英」対「独伊」。
@ナチスの東部侵攻により、「英ソ」対「独伊」。
@真珠湾が黒煙に包まれて以降が、「英米ソ」対「日独伊」。
敵と味方が離合集散しながら、各地で繰り広げた戦闘の「集合体」と言える。

更に、核、ロケット、近接信管、レーダーといった新兵器が開発され、
空母と航空機を主役にする海戦、電撃戦、都市爆撃などの新戦術が発展した。
今回は第二次世界大戦から本格化した「電波戦」とでも呼べる戦いの話だ。

ほんの手すさび手慰み。
不定期イラスト連載、第百三十四弾は「枢軸サリー(Axis Sally)」。

移ろい易い人間の「心」を標的にした、ラジオによる「プロパガンダ放送」。
「枢軸サリー」とは、ナチス・ドイツの“対米電波攻撃手”の異名である。
(※枢軸は独伊の軍事同盟を指し、Sallyは女性名で「出撃」などの意を含む。)

本名:「ミルドレッド・エリザベス・ギラース」。
出身:アメリカ・メイン州ポートランド。
女優を夢見て、スポットライトの下に立つも道半ばで挫折。
渡欧し、ドイツの外国語学校で英語教師を務めた後、
「ラジオ・ベルリン」に採用され、女優 兼 アナウンサーとしてマイクの前に立つ。
その官能的で甘やかなアルトボイスは電波に乗り、
ヨーロッパ~北アフリカ~アメリカへと飛んで、多くの人心を惑わせた。

放送内容は、次のようなものだったという。
@前線の兵士に向け、祖国の恋人が不貞を働くかもしれないと語りかける。
@捕虜となった傷病兵のインタビューを通じ、ナチス庇護下の「快適な日常」をPR。
@人種差別政策を批判し、アフリカ系の兵士に猜疑心の種を撒く。
@ノルマンディー上陸作戦の直前、ラジオドラマで「アメリカ人の母親」を熱演。
 息子の無事を祈り、多くの犠牲者が出るだろうと憂慮した。
・・・いずれも戦意喪失を促し、気勢を削ぐのが目的である。

ドイツ以外の戦争当事国も、プロパガンダには積極的で、
特に“ニューメディア”ラジオによるそれは熾烈を極めた。

また、自国民に向けた戦意高揚プロパガンダも盛んである。
ナチスは、市価の3~4割程度で、選局を制限した「国民ラジオ」を開発。
各家庭のスピーカーからは、娯楽に混ざり、勇ましい演説が流れた。

それから三四半世紀余りが経った現在、
大衆扇動のツールは、電波に電脳ネットワークも加わり巧妙になっている。
注意しよう。
やはり情報は鵜呑みにしてはいけない。
そして、拒絶してもいけない。
少し勘繰りながら耳を傾け、行動を起こす前に立ち止まって考えてみるのがいい。
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朱ゝと 陽はつれなくも 春の川風。

2020年03月28日 08時34分04秒 | 自然
色はそれぞれ異なる波長を持っている。
太陽光線が大気中の微粒子にぶつかると、
波長の短い「青系」から先に、四方八方へ散乱してゆく。
光が人の眼に届くまでの距離が長くなる日没時、
青系色は殆どが散乱してしまい、波長の長い赤系が残る。
夕空が赤っぽく見えるのは、その為だ。

先日、津幡川で、美しい夕日に出逢った。
「川尻水門」が開き、水量が少なく、それなりに流れのある川面は、
夕日を照り返して、黄色みを帯びた朱に染まる。
岸辺で翼を休める鴨やサギも、陰影鮮やか。
見慣れた日常が別世界に見えるのだ。

落日は人の心を動かす。
昼が去り、やがて闇が下りてくる間際の荘厳な輝きは、
まるで、死を迎えようとしている「今日」への手向けの花にも思える。
そして、夜の先に続く、新たな一日が無事に始まるよう願い、
自らの生きざまを重ね合わせた。

そんな気持ちに揺れ動いてしまうのは、やはり、混迷の世と無縁ではない。

陽は沈み、陽は昇る。
川も流れている。
花も咲いた。

例年に比べ、少し早めの春到来。
しかし、慌ただしくも心浮き立つ、いつもの春ではない。

OGPイメージ

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大団円。~吉凶は糾える縄の如し。

2020年03月23日 23時51分58秒 | 賭けたり競ったり
きのう(2020年3月22日)、史上初の無観客SGが幕を下ろした。
優勝は兵庫支部の「吉川元浩(よしかわ・もとひろ)」。

スタートラインを跨いだ途端、2号艇を突き放し、
舳先を捻じ込もうとする3号艇も意に介さず、
トップスタートを切った4号艇、
唯一の地元選手の5号艇、
果敢に攻め上がろうとする6号艇、
まとめて置き去りして一人旅。
文句のつけようのない独壇場。
圧勝劇を演じ終えた記者会見の席で、
チャンピオンは人目をはばからず涙を流した。

「珍しくエース機を引いて、僕を後押ししている何かがあると思って…」。
 だが、この後の言葉が続かない。
「すみません。ちょっと待ってください。我慢していたんですが…」。
 こう絞り出すように語ると、目を拭いながら
「いい報告ができるかな」と小さくつぶやいた。

(※画像、赤文字共に「スポーツニッポン」より引用)

所属の兵庫支部では2月に死亡事故があった。
故「松本勝也さん」は恩義ある先輩レーサー。
今節、エースモーターを引き当て、相棒のポテンシャルを引き出し、
序盤の劣勢を跳ね返し、幾つかの幸運を経て手にした優勝戦1号艇。
勢いそのままに連覇。
まるで、何かに導かれるように成し遂げた偉業だった。

二着は滋賀支部の「吉川昭男(よしかわ・あきお)」。
彼もまた、期するところがあったかもしれない。
一時期マスコミを賑わせた「八百長事件」は、
同じ支部の後輩レーサーが起こした。
汚名返上。
名誉挽回。
“びわこ番長”SG初優出の裏に、そんな思いがあったとしても不思議ではない。
果たして準優勝戦では下馬評を覆し、
優勝戦では最後まで諦めず、
他艇と遮二無二競り合い、奮闘を見せてくれた。

禍(わざわい)を乗り越えようと戦った2人の「吉川」。
観客のいない平和島でのドラマを、僕は忘れないだろう。
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歓声は消えたまま。

2020年03月22日 09時54分33秒 | 賭けたり競ったり
現在、新型コロナウイルス感染拡大防止のため
「無観客試合」を行うスポーツは多い。
競技の別なく、プレイヤー達は異口同音に次のようなコメントを発している。

「ファンの声援が力になっていると、改めて思う」
「誰も見てくれない悲しさを痛感した」
「お客さんが雰囲気を作ってくれていると感じた」など。

これらに共通したニュアンス、“応援が力になる常識”は、本当だろうか?
スポーツ心理学によると、選手のパフォーマンスが最大になるのは、
ストレスや緊張が「適度」にかかる時。
過度なプレッシャーになり得る大声援や拍手喝采がない方が、
競技によっては、高い次元に到達する可能性がある。
「無観客」は意外と奥深い世界なのかもしれない。

しかし、ファンの立場からすれば寂しい事この上なし。
身銭を切る「公営競技」なら、尚更と思う。

先日、僕は「テレボート会員」になった。
未だ本場・場外の扉が開かない中、
2020年最初のSGが開幕したからだ。
艇界最高峰グレードレースを賭けずに見過ごす事は忍びなく、
インターネット経由で舟券を投票し始め、一週間余りが経つ。

「テレボート」は、確かに便利ではある。
指を咥えて観てるだけに比べれば、マシなのは認める。
しかし、的中してもハズレても、どこか実感に乏しい。
率直に言って、やはり「現場・現金投票」の方が性に合う。

きのう散歩がてら「ミニボートピア津幡」を訪れてみた。

建物壁面の開催レース告知看板にかかる文字はない。

ファンの姿はなく、歓声も、笑いも、罵声も聞こえない。
賑わいが消えて久しい。

休館解除は、いつになるのか?・・・待ち遠しい。

今節「第55回 ボートレースクラシック」の会場、
「平和島競艇場」のスタンドも、関係者を除きほぼ無人。
声援なき競争水面では、5日間に亘る熱戦が繰り広げられた。
予選トップ3が敗れる大波乱を経て、最後のレースに臨む6ピットは以下の通り。

1号艇:吉川元浩(兵庫)
2号艇:坂口 周(三重)
3号艇:吉川昭男(滋賀)
4号艇:守田俊介(滋賀)
5号艇:福来 剛(東京)
6号艇:柳沢 一(愛知)


最有力は、エースモーター13号機を駆る、
ディフェンディングチャンプの「吉川(元)」だろう。
きのうの準優勝戦は、2コースからツケマイ一撃の凄まじい勝ちっぷり。
トップスタートを切った「毒島」を、
あっという間に置き去りにしたパワーには舌を巻いた。
機力は間違いなく節イチ。
しかも、最内のポールポジション。
まともに行っては、誰も敵わないのではないだろうか。

個人的には連覇よりも初戴冠が見てみたい。
つまり2号艇、3号艇、5号艇の1着だ。
特に伸るか反るかの一発勝負に出るであろう、
“びわこ番長” 「吉川(昭)」に期待したい。

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