Laboratory ARA MASA のLab Note

植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
ホームページの更新情報

論文)光による根の成長阻害

2023-09-02 15:07:46 | 読んだ論文備忘録

Local phytochrome signalling limits root growth in light by repressing auxin biosynthesis
Spaninks et al.  Journal of Experimental Botany (2023) 74:4642–4653.

doi:10.1093/jxb/erad163

シロイヌナズナの芽生えをシャーレで培養すると簡単に根の成長を観察できるが、これらの実験系の大半は根が光に曝されたままである。根への直接の光照射は、根の成長を抑制し、側根の発生と分布、アントシアニンの蓄積、さらには開花時期にまで影響を及ぼすことが知られている。オランダ ライデン大学Offringaらは、シロイヌナズナ(Col-0、Ler)芽生えを明所育成根条件(LGR)と暗所育成根条件(DGR)で栽培し、LGRで育成した芽生えの根はDGRで育成した芽生えの根よりも短いこと、LGR芽生えの根の基部側の分裂組織がDGR芽生えよりも小さいことを見出した。このことから、根に光照射することで根端基部側分裂組織の細胞増殖が低下し、結果として根が短くなると考えられる。根の成長・発達はオーキシンによって制御されていることから、pDR5::GFP オーキシンレポーターを導入した芽生えでの蛍光を観察した。その結果、光照射は根分裂組織でのオーキシン応答を阻害することが判った。また、LGR芽生えの根分裂組織は、DGR芽生えと比較して、オーキシン生合成遺伝子のYUC4YUC6 の発現量が有意に低下していた。したがって、LGR芽生えの根分裂組織におけるYUC4YUC6 の低発現が局所的なオーキシン生合成の低下を引き起こし、結果的に根の短縮を引起していると考えられる。LGRとDGRのオーキシン量の差異は光感知によって生じていると考えられるので、光受容体(フィトクロム、クリプトクロム、フォトトロピン)の変異体の根の成長を調査した。その結果、phyA 変異体、phyB 変異体、phyAphyB 二重変異体ではLGRとDGRで根の成長が同程度あることが判った。また、芽生えの根を赤色(RGR)または青色(BGR)のプラスチックで覆ったところ、RGRはLGRと同様に根の成長が阻害された。phyA 変異体、phyB 変異体では、オーキシンレポーターの応答性がLGRとDGRで類似していた。phyA 変異体芽生え根分裂組織でのYUC4 発現のLGR/DGR比は、野生型植物やphyB 変異体よりも高く、YUC6 発現のLGR/DGR比はphyA 変異体、phyB 変異体共に野生型植物よりも高くなっていた。変異体の接ぎ木試験から、根に局在するPHYA、PHYBの光活性化が光による根の成長阻害を誘導していることが確認された。これらの結果から、遠赤色光と赤色光は、それぞれ根に局在するPHYAとPHYBを直接活性化してYUC4(PHYA)とYUC6(PHYAとPHYB)の発現を阻害するため、局所的なオーキシン量を低下させて主根の成長を抑制していると考えられる。フィトクロムシグナルは、PHYTOCHROME INTERACTING FACTOR(PIF)転写因子の分解を促進することで遺伝子発現を制御している。そこで、pif 変異体の表現型を観察したところ、pif1 変異体、pif4 変異体は根の成長やオーキシンレポーターの応答性がLGRとDGRで同等であることが判った。また、pif1 変異体芽生え根分裂組織でのYUC4 発現のLGR/DGR比は、野生型植物やpif4 変異体よりも高く、YUC6 発現のLGR/DGR比はpif1 変異体、pif4 変異体共に野生型植物よりも高くなっていた。このことから、PIF1は根の遠赤色光照射に応答してPHYAによるターゲットとなっている可能性が高く、PHYBは赤色光照射に応答してPIF4を阻害していると考えられる。このような光による根の成長制御が他植物においても見られるのかをトマト芽生えを用いて調査した。その結果、トマト芽生えの根の成長もLGRでは抑制され、オーキシンレポーターの応答性が低下し、6つのオーキシン生合成遺伝子のうちSlFZY1SlFZY4 の発現量が減少することを見出した。phy 変異体では、phyB2 変異体の根は光に対して非感受性であったが、phyB1 変異体は感受性を示し、phyA 変異体はLGRでDGRよりも根が伸長した。したっがて、PHYが誘導しオーキシンが調節している光による根の成長阻害は、シロイヌナズナとトマトの間で保存されているが、シグナル伝達経路のすべての構成要素が同じように作用し、共有されている訳でもないことことが示唆される。以上の結果から、光照射された根ではフィトクロムの活性化によってPIFが分解され、オーキシン生合成遺伝子の発現が低下することで最終的に根分裂組織のオーキシン含量が低下し、成長が抑制されると考えられる。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 論文)AUXIN-SIGNALING F-BOX... | トップ | 論文)高温による維管束発達... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

読んだ論文備忘録」カテゴリの最新記事