Characterization of JAZ-interacting bHLH transcription factors that regulate jasmonate responses in Arabidopsis
Niu et al. Journal of Experimental Botany (2011) 62:2143-2154.
doi:10.1093/jxb/erq408
The Arabidopsis bHLH Transcription Factors MYC3 and MYC4 Are Targets of JAZ Repressors and Act Additively with MYC2 in the Activation of Jasmonate Responses
Ferna´ndez-Calvo et al. The Plant Cell (2011) 23:701-715.
doi:10.1105/tpc.110.080788
The bHLH Transcription Factor MYC3 Interacts with the Jasmonate ZIM-Domain Proteins to Mediate Jasmonate Response in Arabidopsis
Cheng et al. Molecular Plant (2011) 4:279-288.
doi: 10.1093/mp/ssq073
ジャスモン酸(JA)は植物の成長やストレス・防御応答において重要な役割を演じている。実質的なJA活性を有するJA-IleがF-boxタンパク質のCORONATINE INSENSITIVE1(COI1)とJASMONATE ZIM-DOMAIN(JAZ)タンパク質によって形成された受容体複合体に受容されると、JAZタンパク質はSkp1-Cul1-F-box protein(SCF)タイプE3ユビキチンリガーゼSFC(COI1)によってユビキチン化され、26Sプロテアソーム系によって分解される。JAが存在しない条件ではJAZタンパク質はJAシグナルの抑制因子として作用しており、JA応答遺伝子の発現を活性化させるbHLH型転写因子のMYC2と相互作用をすることが知られている。シロイヌナズナには12のJAZタンパク質が存在するが、JAZと相互作用をするタンパク質としてはMYC2以外には報告がない。今回、JAZと相互作用をする新たなbHLH型転写因子について、3つのグループから報告があった。
米国 ワシントン州立大学のBrowse ら(J Exp Bot 62:2143-2154.)は、JAZ1をベイトに用いて酵母two-hybrid(Y2H)スクリーニングを行ない、44個の陽性コロニーを得た。これらのクローンの20はJAZコリプレッサーのNINJA(At4g28910)、9つはユビキチンファミリーのRAD23C(At3g02540)をコードしていた。そして、MYC3(At5g46760)とMYC4(At4g17880)をコードするクローンが2つずつ得られた。MYC3とMYC4はbHLHタンパク質サブグループⅢeに属し、このグループにはMYC2やMYC5/bHLH28も含まれている。Y2HアッセイやプルダウンアッセイによりMYC3とMYC4はJAZ3、JAZ9と相互作用を示すことが確認され、MYC5はこれらのJAZタンパク質と相互作用を示さないことがわかった。MYC3、MYC4はMYC2と同様に核に局在し、ニンジン培養細胞に導入したプローモーター-GUS コンストラクトの発現からJAZ1 、2 、5 、6 、7 、9 プロモーターを活性化させることが示された。T-DNA挿入myc3 、myc4 単独変異体は表現型に野生型との明確な差異は認められず、myc2 変異体のようなJAによる芽生えの根の伸長阻害に対する感受性低下も見られなかった。MYC3 、MYC4 を35Sプロモーターにより過剰発現させた芽生えは、MYC2 過剰発現個体と同様にアントシアニンの蓄積が見られ、特にMYC3 過剰発現個体において蓄積量が高くなっていた。さらに、MYC3 過剰発現個体はJAによる根の伸長阻害に関しての感受性が増加していた。また、MYC3 、MYC4 過剰発現個体ではJAZ 遺伝子やJAが発現誘導する傷害応答遺伝子のLIPOXYGENASE 3 (LOX3 )、VEGETATIVE STORAGE PROTEIN 2 (VSP2 )、TYROSINE AMINOTRASFERASE 3 (TAT3 )の発現量が増加していた。病害応答遺伝子のPLANT DEFENSIN 1.2 (PDF1.2 )の発現はMYC2 過剰発現個体とMYC4 過剰発現個体では抑制されていたが、MYC3 過剰発現個体では野生型と同等だった。
スペイン国立バイオテクノロジーセンターのSolano ら(Plant cell 23:701-715.)は、JAZ2とJAZ3をベイトに用いてY2Hスクリーニングを行ない、60個の陽性クローンを得た。各クローンの塩基配列を調査した結果、20%はMYC2 をコードしており、残りはMYC3とMYC4をコードするクローンだった。Y2HアッセイにおいてMYC2はJAZ4とJAZ7以外のJAZタンパク質と相互作用を示すが、MYC3はJAZ4以外のJAZタンパク質と、MYC4はJAZ4との相互作用は弱いが全てのJAZタンパク質と相互作用を示した。JAZタンパク質との相互作用はプルダウンアッセイによっても確認され、やはり、MYC2、MYC3、MYC4の間でJAZタンパク質との結合において量的及び質的な差異が見られた。シロイヌナズナ培養細胞において、MYC3、MYC4はMYC2と同様に各種JAZタンパク質やNINJAと複合体を形成することが確認された。また、MYC2、MYC3、MYC4は生体内においてホモ/ヘテロ二量体を形成し、MYC/MYCの相互作用の強度はタンパク質毎に異なることがわかった。タンパク質結合マイクロアレイによる解析から、MYC3、MYC4が結合するDNAコンセンサス配列はMYC2結合配列(G-box)と類似しており、MYC2とMYC3のDNA結合特異性は殆ど同一であることが示された。MYC3 、MYC4 共に若い芽生えの地上部において強く発現しており、MYC3 は胚軸、子葉や葉の全ての組織で発現が見られるが、MYC4 は維管束走向で強い発現が観察された。また、両者ともJA処理によってごく弱く発現が誘導された。myc3 、myc4 単独変異体はJAによるJAZ10 、VSP2 、PDF1.2 の発現誘導に対して殆ど影響がなかったが、myc の二重/三重変異体では相加的にJAZ10 、VSP2 のJA誘導性が低下した。よって、MYC3、MYC4はMYC2によって正に制御されているJA応答遺伝子の発現に関与していることが示唆される。myc3 、myc4 単独変異体、myc3 myc4 二重変異体ともJAによる根の成長阻害の程度は野生型と同等であったが、myc2 myc3 myc4 三重変異体ではJAの根成長阻害がmyc2 単独変異体よりも緩和されていた。よって、MYC3 、MYC4 も根におけるJA応答に多少は関与していると考えられる。しかし三重変異体のJA感受性はcoi1 変異体よりも高いことから、根のJA応答に関与する転写因子が他にも存在するものと思われる。myc3 、myc4 単独変異体はアフリカヨトウ(Spodoptera littoralis )幼虫による食害に対する抵抗性が低下しており、その程度はmyc2 変異体よりも大きかった。また、myc の二重/三重変異体では相加的に抵抗性が低下し、三重変異体とcoi1 変異体の抵抗性は同程度であった。よって、MYC転写因子はJAの誘導する虫害抵抗性に効果があり、特にMYC3、MYC4の関与が大きいと考えられる。半生物栄養性のトマト斑葉細菌病菌(Pseudomonas syringae pv tomato DC3000)に対してcoi1 変異体やmyc2 変異体は抵抗性を示すが、myc3 、myc4 単独変異体もmyc2 変異体と同程度の抵抗性を示し、二重/三重変異体では相加的に抵抗性が増加した。
中国 精華大学のXie ら(Mol Plant 4:279-288.)は、Y2HスクリーニングによってJAZ1と相互作用をするタンパク質としてMYC3を見出した。MYC3は他のJAZタンパク質(JAZ2、JAZ5、JAZ6、JAZ8、JAZ9)とも相互作用を示し、N末端側領域がJAZタンパク質との相互作用に関与していることがわかった。MYC3 過剰発現(MYC3-OE )形質転換シロイヌナズナ芽生えはJAに対する感受性が増加しており、野生型よりもJAによる根の成長阻害を強く受け、地上部の成長も阻害された。RNAiによりMYC3 を抑制した芽生えのJAによる成長阻害は野生型と同程度であり、MYC2等の他の転写因子がMYC3の機能を相補しているものと思われる。野生型植物とMYC3-OE との間で遺伝子発現プロファイルを比較したところ、46遺伝子の発現量がMYC3-OE において高くなっていた。これらの遺伝子には、酸化ストレス、JA生合成、塩ストレス応答、傷害応答、病虫害応答に分類されるものが含まれていた。よって、MYC3は各種ストレス誘導遺伝子の転写制御に関与しているものと思われる。MYC3 のJA処理による発現誘導はMYC2 の発現誘導よりも遅れることから、MYC3 はJAシグナル伝達において応答の遅い因子として機能しているものと思われる。したがって、MYC3とMYC2は機能的には重複しているが、JA応答制御の点では異なる機能があると考えられる。