Laboratory ARA MASA のLab Note

植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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論文)FLOWERING LOCUS Cは様々な成長過程の遺伝子発現制御に関与している

2011-04-29 18:42:21 | 読んだ論文備忘録

FLOWERING LOCUS C (FLC) regulates development pathways throughout the life cycle of Arabidopsis
Deng et al.  PNAS (2011) 108:6680-6685.
doi:10.1073/pnas.1103175108

MADS-boxファミリー転写因子FLOWERING LOCUS C(FLC)はシロイヌナズナの花成の誘導において重要な役割をはたしている。FLCは花成誘導に関与しているSUPPRESSOR OF OVEREXPRESSSON OF CONSTANS 1SOC1 )とFLOWERING LOCUS DFD )のプロモーター領域およびFLOWERING LOCUS TFT )の第1イントロンに結合して転写を抑制し、花成を抑制している。FLC は植物の様々な成長過程で多くの組織において発現しており、花成以外にも遺伝子発現の制御を行なっている可能性がある。オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO) 植物産業部のPeacock らは、FLCが結合する領域を全ゲノムクロマチン免疫沈降シーケンス(ChIP-seq)により調査し、505箇所のFLC結合部位を見出し、この結合部位から786のFLCのターゲット候補の遺伝子を同定した。505箇所のFLC結合部位の69%はMADS-boxタンパク質が結合するコンセンサス配列のCArG boxを1つは含んでおり、CCAAAAAT(G/A)Gの3'側にAAAが付加したものがコアコンセンサス配列となっていた。ChIP-seqの結果をもとに20の遺伝子についてFLCの結合を確認したところ、それぞれの遺伝子でFLCの結合能が異なっていることがわかった。FLCの結合強度が異なる40のFCLターゲット候補遺伝子の芽生えにおける発現を調査したところ、25の遺伝子の発現量がflc-3 変異体と野生型との間で違いが見られ、20の遺伝子はflc-3 変異体で発現量が増加し、5つは発現量が減少していた。よって、FLCは遺伝子発現を正にも負にも制御しうるが、抑制因子として機能する場面が多いと考えられる。FLCターゲット遺伝子を遺伝子オントロジー(GO)で分類すると、MADS-box、AP2-EREBP、NACの各ファミリーに属する転写因子が多く、FLCは花成を抑制するAP2型転写因子SMZTOE3 の発現を正に制御し、幼若期から成熟期への転換に関与するSPL15SPL3 の発現を抑制して成熟期への転換を遅らせる方向の制御をしていた。他には、環境ストレス応答(CFB1CFB3 )、植物ホルモン関連(JAZ6JAZ9GA3 GIDIC )、概日時計関連(CIR1FIO1LCL1COL1 )、生殖成長、胚発生に関連するものが見られた。したがって、FLCはシロイヌナズナの様々な成長過程の遺伝子発現制御に関与していると考えらる。

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論文)フィトクロム相互作用因子(PIF)のリン酸化と分解

2011-04-27 20:34:14 | 読んだ論文備忘録

Phosphorylation by CK2 Enhances the Rapid Light-induced Degradation of Phytochrome Interacting Factor 1 in Arabidopsis
Bu et al.  JBC (2011) 286:12066-12074.
DOI:10.1074/jbc.M110.186882

フィトクロムは赤色光に曝されて活性のあるPfr型に変化すると、核へ移行して様々な因子と相互作用をして遺伝子発現を制御し、光形態形成を引き起こす。bHLH型転写因子のフィトクロム相互作用因子(PIF)は光形態形成における転写抑制因子として機能しており、Pfr型フィトクロムと相互作用をすることでリン酸化され、ユビキチン化と26Sプロテアソームによる分解を受ける。しかしながら、PIFをリン酸化するキナーゼとリン酸化されたPIFを認識してユビキチン化するE3リガーゼは明らかとなっていない。シロイヌナズナにおいて光シグナルや概日リズムの制御に関与しているキナーゼとして、セリン/スレオニンキナーゼのCK2(カゼインキナーゼⅡ)が知られており、CK2は光シグナルの正の制御因子であるHY5やHFR1をリン酸化して安定化させることが知られている。CK2ホロ酵素は2つの触媒αサブユニットと2つの調節βサブユニットから構成されており、シロイヌナズナゲノムにはαサブユニットをコードする遺伝子が4つ、βサブユニットをコードする遺伝子が4つ存在している。米国 テキサス大学オースチン校Huq らは、CK2が光シグナルの負の制御因子であるPIFのリン酸化にも関与しているかを調査した。in vitro キナーゼアッセイを行ったところ、PIF1はCK2α1サブユニットにより弱くリン酸化され、ここにβ1サブユニットを添加することでPIF1のリン酸化が強く刺激された。また、CK2活性の特異的阻害剤であるヘパリンを添加するとPIF1のリン酸化は阻害された。よって、PIF1はCK2の基質となっていることが示唆される。全てのαβホロ酵素の組み合わせがαサブユニット単独よりも強いリン酸化活性を示したが、組み合わせによって活性の強さが異なり、特にα1β2、α2β3、α2β4の組み合わせがPIF1のリン酸化に対して強い活性を示した。CK2サブユニットをコードする遺伝子は組織によって発現量が異なっていた。マススペクトル等によりPIF1ポリペプチドのリン酸化されるセリン/スレオニン残基を7箇所同定し、これらの残基をアラニンに置換した変異PIF1はCK2によるリン酸化が全く起こらないことを確認した。リン酸化残基を1箇所のみ置換した変異PIF1を発現させた形質転換シロイヌナズナでは赤色光照射により変異PIF1がリン酸化され分解されたが、6箇所置換した変異PIF1(PIF1-6M)は正常なPIF1よりも分解が遅くなり、赤色光照射した形質転換体芽生えの胚軸は野生型よりも長くなっていた。したがって、PIF1-6Mは野生型PIF1と同様にフィトクロムシグナルの負の制御因子として機能し、光照射下での安定性が増したことで胚軸の伸長を促進したと考えられる。また、リン酸化されるアミノ酸残基のうち、C末端側に位置する3つのセリン残基(Ser-464-466)が光照射によるPIF1の分解にとって重要であることがわかった。CK2βサブユニットを過剰発現させた形質転換シロイヌナズナは光照射によるPIF1の分解が強まっていた。以上の結果から、PIF1はCK2の基質となっており、光照射によりCK2によってリン酸化されたPIF1は分解され、光形態形成が誘導されると考えられる。リン酸化されたPIF1が分解されやすくなる機構は明らかではないが、フィトクロムとの親和性の変化が関与しているかもしれない。

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論文)光屈性の分子メカニズム

2011-04-25 22:54:44 | 読んだ論文備忘録

Light-mediated polarization of the PIN3 auxin transporter for the phototropic response in Arabidopsis
Ding et al.  Nature Cell Biol (2011) 13:447-452.
DOI: 10.1038/ncb2208

植物の光屈性は、光を受容することによって形成されるオーキシンの横方向の不等分布によって引き起こされる。この不等分布を引き起こす候補として、胚軸表皮細胞の側面の膜に局在しているオーキシン排出キャリアのPIN3が挙げられており、事実、pin3 機能喪失変異体は光屈性応答が低下している。ベルギー フランダースバイオテクノロジー機構(VIB)Friml らは、GFPを付加したPIN3を発現させたシロイヌナズナを用いてPIN3タンパク質の細胞内局在と光屈性との関係を調査した。暗所ではPIN3-GFPは極性をもたずに表皮細胞の内側と外側の両方の膜に局在していたが、光を当てると徐々に外側の側面のPIN3-GFPが減少し内側の維管束走行に面した膜に多く分布するようになった。よって、光照射はPIN3の細胞内局在を制御しており、このPIN3の細胞内局在変化が光屈性応答でのオーキシンの流れの変化をもたらしているものと思われる。PIN3-GFPの不等分布は光照射をした胚軸でのみ観察され、光照射1時間後にはPIN3は光の当たる側から離れて局在していた。このPIN3の局在変化によって求基的なオーキシンの流れに胚軸の陰側への流れがもたらされていると考えられる。フォトトロピンの機能喪失変異体phot1 では光照射後のPIN3の局在化が見られず、PIN3の細胞内局在変化とオーキシンの不等分布はphoto1を介した光受容の後に引き起こされることが確認された。光照射によるPIN3の局在変化はプロテアソーム阻害剤のMG132を処理しても観察されることから、この過程にはタンパク質分解は関与していないと考えられる。PINタンパク質はクラスリンによるエンドサイトーシスによって細胞膜上をリサイクルしているが、エンドサイトーシスを阻害するブレフェルジンA(BFA)処理をするとPIN3-GFPの局在化が完全に阻害され、オーキシン分布の変化や光屈性が見られなくなった。BFA非感受性GNOM/EMB30 ARF GTPase GEFを発現させた芽生えの胚軸では、BFA処理をしても光照射によるPIN3-GFPの局在化や光屈性が見られることから、GNOMはPIN3の表皮細胞の外側から内側へのトランスサイトーシスに関与していると考えらる。PINタンパク質は中央部の親水性ループがPINOID(PID)セリン/スレオニンキナーゼによってリン酸化されることで極性輸送が制御されていることが知られており、PIN3もPIDによってリン酸化される。PID の発現は光によって強く抑制されることがわかり、PID活性は暗所で高く明所では低い。このことが光屈性応答の際のPIN3のリン酸化と極性輸送の差異をもたらしていると考えられる。photo1 photo2 二重変異体では光によるPID の発現抑制が低下しており、青色光受容体クリプトクローム(CRY)の機能喪失cry1 cry2 二重変異体では光によるPID の発現抑制が見られることから、フォトトロピンが光照射によるPID 発現抑制に関与していると考えられる。PID を恒常的に発現させた形質転換体やPIDとそれに関連するキナーゼが機能喪失したwag1 wag2 pid 三重変異体では光屈性が見られなかった。以上の結果から、光屈性は、フォトトロピンによって制御されているPID の発現制御により胚軸表皮細胞におけるPIN3オーキシン排出キャリアのリン酸化と細胞内輸送の違いによって形成されると考えられる。陰となる側ではPID活性が高くPIN3はリン酸化されているのでPIN3は極性を持たずに均等に分布しているが、光の当たっている側ではPID の転写が抑制されることでPID活性が低下してPIN3が脱リン酸化され、PIN3は内側へと極性輸送される。このことにより陰側にオーキシンが蓄積して成長が促進され胚軸の屈曲が起こると考えられる。

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植物観察)箱根

2011-04-22 19:09:11 | 植物観察記録

箱根のバイケイソウの成長具合を調査に行ってきました。前回(4/10)から2週間近くたっていますので、芽はだいぶ伸長していましたが、やはり例年に比べると1週間から10日ほど成長が遅れており、ようやく葉の展開が始まった段階でした。春の花たちも、ハナネコノメ(ユキノシタ科)は咲いていましたが、キクザキイチゲ(キンポウゲ科)は花弁が展開しておらず(曇天であった所為かもしれません)、スミレの類は見られませんでした。


前回(4/10)に比べるとだいぶ成長してきました



定点観察している群落でも芽吹きが見られるようになりました



キクザキイチゲ(キンポウゲ科)はまだ花弁が開いていません



ハナネコノメ(ユキノシタ科)の花はあちこちで見られました

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論文)COI1はイノシトールポリリン酸を必要とする

2011-04-20 05:22:01 | 読んだ論文備忘録

Jasmonic acid perception by COI1 involves inositol polyphosphates in Arabidopsis thaliana
Mosblech et al.  The Plant Journal (2011) 65:949-957.
doi: 10.1111/j.1365-313X.2011.04480.x

ジャスモン酸(JA)受容体として機能するF-boxタンパク質のCORONATINE INSENSITIVE 1(COI1)は、その構造がオーキシン受容体TRANSPORT INHIBITOR RESPONSE 1(TIR1)と類似している。TIR1はコファクターとしてイノシトールヘキサキスリン酸(InsP6)を含んでおり、InsP6はオーキシン受容に必要であると推測されている。TIR1のInsP6受容に関与している5つのアミノ酸残基はCOI1においても保存されており、COI1もイノシトールポリリン酸をコファクターとしている可能性がある。ドイツ ゲオルク・アウグスト大学ゲッティンゲン アルブレヒト-フォン-ハラー植物科学研究所Heilmann らは、イノシトールポリリン酸受容に関与することが推測されるCOI1のアミノ酸残基をAlaに置換した変異COI1はコロナチン存在下でのJAZ9との相互作用が低下することを酵母two-hybridアッセイにより見出した。また、シロイヌナズナT-DNA挿入coi1 変異体で観察される芽生え根のJAによる伸長阻害の喪失や長角果の稔性低下が変異COI1 を導入することで相補されるかを見たところ、変異箇所によって程度の差はあるが、正常なCOI1 を導入した際に見られるような完全な相補は起こらなかった。したがって、イノシトールポリリン酸結合アミノ酸残基は生体内でのCOI1の機能にとって重要であることが示唆される。そこで、イノシトールポリリン酸キナーゼ1(IPK1)を欠損し、InsP6含量が低下し前駆体のイノシトールペンタキスリン酸(InsP5)を蓄積する酵母(ipk1Δ )を用いてCOI1とJAZ9の相互作用を見たところ、コロナチン存在下でのJAZ9/COI1相互作用が2-3倍増加していることがわかった。さらにシロイヌナズナikp1-1 変異体では傷害応答遺伝子(T18K17.7AOSWRKY70 )の発現誘導量が野生型よりも高くなっており、コナガ(Plutella xylostella )幼虫の食害に対する抵抗性が増加し、芽生え根のJAによる伸長阻害の程度が強くなっていた。これらの結果から、ipk1-1 変異体はJAに対する感受性が増加していることが示唆される。以上、変異COI1のJAZ9との相互作用、イノシトールポリリン酸代謝の変異した酵母とシロイヌナズナの実験結果から、InsP5がCOI1の機能に関与しているものと思われる。

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論文)イネのジャスモン酸シグナル伝達に関与する転写因子

2011-04-18 04:56:56 | 読んだ論文備忘録

OsbHLH148, a basic helix-loop-helix protein, interacts with OsJAZ proteins in a jasmonate signaling pathway leading to drought tolerance in rice
Seo et al.  The Plant Journal (2011) 65:907-921.
doi: 10.1111/j.1365-313X.2010.04477.x

韓国 ソウル大学校Choi らは、イネのジャスモン酸(JA)シグナル伝達機構を解析することを目的に、メチルジャスモン酸(MeJA)処理した芽生えにおいて発現量が増加している遺伝子を60Kマイクロアレイによって網羅的に調査し、81の遺伝子を見出した。この中には、JA生合成酵素、様々な防御応答、酸化ストレス応答に関与するタンパク質をコードする遺伝子が含まれており、このうち、bHLH型転写因子をコードするOsbHLH148 (AK071734)について詳細な解析を行なった。OsbHLH148タンパク質はシロイヌナズナAtMYC2、トマトSIMYC2、SIMYC10、タバコNtWIN4といったJAシグナル伝達に関与するタンパク質と相同性が高く、AtMYC2の結合配列であるG-box(CACGTG)に結合することが知られている。OsbHLH148 の発現はMeJA、アブシジン酸(ABA)処理15分で誘導され、サリチル酸やエチレン(エテホン)では発現誘導されない。MeJAによる誘導はABAよりも強く、MeJAとABAを同時に処理すると発現量が増加した。OsbHLH148 は物理的傷害、乾燥、塩処理によっても誘導された。したがって、OsbHLH148 はMeJAやABAを介した非生物ストレスに対する応答に関与しているものと思われる。OsCc1 プロモーターによりOsbHLH148 を恒常的に発現させた形質転換イネは、乾燥によって生じる萎れやクロロシスに対して耐性があり、再注水後の生存率も野生型より高くなっていた。OsbHLH148 過剰発現個体では166の遺伝子の発現量が野生型よりも高く、115遺伝子の発現量が低下していた。発現量の増加した遺伝子の中には、乾燥ストレス耐性に関与しているOsDREB1ABCEG やJAシグナル伝達の抑制因子をコードするOsJAZ ファミリー遺伝子が含まれていた。酵母two-hybridアッセイやプルダウンアッセイにより、OsbHLH148タンパク質とOsJAZタンパク質が相互作用を示すことが確認され、OsbHLH148はOsJAZによる制御を受けていることが示唆される。以上の結果から、OsbHLH148はJAに応答して乾燥等の非生物ストレスに関与する遺伝子の発現を活性化し、OsJAZはOsbHLH148の活性を抑制しているものと思われる。

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論文)JAZはMYC3、MYC4とも相互作用を示す

2011-04-15 22:17:30 | 読んだ論文備忘録

Characterization of JAZ-interacting bHLH transcription factors that regulate jasmonate responses in Arabidopsis
Niu et al.  Journal of Experimental Botany (2011) 62:2143-2154.
doi:10.1093/jxb/erq408

The Arabidopsis bHLH Transcription Factors MYC3 and MYC4 Are Targets of JAZ Repressors and Act Additively with MYC2 in the Activation of Jasmonate Responses
Ferna´ndez-Calvo et al.  The Plant Cell (2011) 23:701-715.
doi:10.1105/tpc.110.080788

The bHLH Transcription Factor MYC3 Interacts with the Jasmonate ZIM-Domain Proteins to Mediate Jasmonate Response in Arabidopsis
Cheng et al.  Molecular Plant (2011) 4:279-288.
doi: 10.1093/mp/ssq073

ジャスモン酸(JA)は植物の成長やストレス・防御応答において重要な役割を演じている。実質的なJA活性を有するJA-IleがF-boxタンパク質のCORONATINE INSENSITIVE1(COI1)とJASMONATE ZIM-DOMAIN(JAZ)タンパク質によって形成された受容体複合体に受容されると、JAZタンパク質はSkp1-Cul1-F-box protein(SCF)タイプE3ユビキチンリガーゼSFC(COI1)によってユビキチン化され、26Sプロテアソーム系によって分解される。JAが存在しない条件ではJAZタンパク質はJAシグナルの抑制因子として作用しており、JA応答遺伝子の発現を活性化させるbHLH型転写因子のMYC2と相互作用をすることが知られている。シロイヌナズナには12のJAZタンパク質が存在するが、JAZと相互作用をするタンパク質としてはMYC2以外には報告がない。今回、JAZと相互作用をする新たなbHLH型転写因子について、3つのグループから報告があった。

米国 ワシントン州立大学Browse ら(J Exp Bot 62:2143-2154.)は、JAZ1をベイトに用いて酵母two-hybrid(Y2H)スクリーニングを行ない、44個の陽性コロニーを得た。これらのクローンの20はJAZコリプレッサーのNINJA(At4g28910)、9つはユビキチンファミリーのRAD23C(At3g02540)をコードしていた。そして、MYC3(At5g46760)とMYC4(At4g17880)をコードするクローンが2つずつ得られた。MYC3とMYC4はbHLHタンパク質サブグループⅢeに属し、このグループにはMYC2やMYC5/bHLH28も含まれている。Y2HアッセイやプルダウンアッセイによりMYC3とMYC4はJAZ3、JAZ9と相互作用を示すことが確認され、MYC5はこれらのJAZタンパク質と相互作用を示さないことがわかった。MYC3、MYC4はMYC2と同様に核に局在し、ニンジン培養細胞に導入したプローモーター-GUS コンストラクトの発現からJAZ125679 プロモーターを活性化させることが示された。T-DNA挿入myc3myc4 単独変異体は表現型に野生型との明確な差異は認められず、myc2 変異体のようなJAによる芽生えの根の伸長阻害に対する感受性低下も見られなかった。MYC3MYC4 を35Sプロモーターにより過剰発現させた芽生えは、MYC2 過剰発現個体と同様にアントシアニンの蓄積が見られ、特にMYC3 過剰発現個体において蓄積量が高くなっていた。さらに、MYC3 過剰発現個体はJAによる根の伸長阻害に関しての感受性が増加していた。また、MYC3MYC4 過剰発現個体ではJAZ 遺伝子やJAが発現誘導する傷害応答遺伝子のLIPOXYGENASE 3LOX3 )、VEGETATIVE STORAGE PROTEIN 2VSP2 )、TYROSINE AMINOTRASFERASE 3TAT3 )の発現量が増加していた。病害応答遺伝子のPLANT DEFENSIN 1.2PDF1.2 )の発現はMYC2 過剰発現個体とMYC4 過剰発現個体では抑制されていたが、MYC3 過剰発現個体では野生型と同等だった。

スペイン国立バイオテクノロジーセンターSolano ら(Plant cell 23:701-715.)は、JAZ2とJAZ3をベイトに用いてY2Hスクリーニングを行ない、60個の陽性クローンを得た。各クローンの塩基配列を調査した結果、20%はMYC2 をコードしており、残りはMYC3とMYC4をコードするクローンだった。Y2HアッセイにおいてMYC2はJAZ4とJAZ7以外のJAZタンパク質と相互作用を示すが、MYC3はJAZ4以外のJAZタンパク質と、MYC4はJAZ4との相互作用は弱いが全てのJAZタンパク質と相互作用を示した。JAZタンパク質との相互作用はプルダウンアッセイによっても確認され、やはり、MYC2、MYC3、MYC4の間でJAZタンパク質との結合において量的及び質的な差異が見られた。シロイヌナズナ培養細胞において、MYC3、MYC4はMYC2と同様に各種JAZタンパク質やNINJAと複合体を形成することが確認された。また、MYC2、MYC3、MYC4は生体内においてホモ/ヘテロ二量体を形成し、MYC/MYCの相互作用の強度はタンパク質毎に異なることがわかった。タンパク質結合マイクロアレイによる解析から、MYC3、MYC4が結合するDNAコンセンサス配列はMYC2結合配列(G-box)と類似しており、MYC2とMYC3のDNA結合特異性は殆ど同一であることが示された。MYC3MYC4 共に若い芽生えの地上部において強く発現しており、MYC3 は胚軸、子葉や葉の全ての組織で発現が見られるが、MYC4 は維管束走向で強い発現が観察された。また、両者ともJA処理によってごく弱く発現が誘導された。myc3myc4 単独変異体はJAによるJAZ10VSP2PDF1.2 の発現誘導に対して殆ど影響がなかったが、myc の二重/三重変異体では相加的にJAZ10VSP2 のJA誘導性が低下した。よって、MYC3、MYC4はMYC2によって正に制御されているJA応答遺伝子の発現に関与していることが示唆される。myc3myc4 単独変異体、myc3 myc4 二重変異体ともJAによる根の成長阻害の程度は野生型と同等であったが、myc2 myc3 myc4 三重変異体ではJAの根成長阻害がmyc2 単独変異体よりも緩和されていた。よって、MYC3MYC4 も根におけるJA応答に多少は関与していると考えられる。しかし三重変異体のJA感受性はcoi1 変異体よりも高いことから、根のJA応答に関与する転写因子が他にも存在するものと思われる。myc3myc4 単独変異体はアフリカヨトウ(Spodoptera littoralis )幼虫による食害に対する抵抗性が低下しており、その程度はmyc2 変異体よりも大きかった。また、myc の二重/三重変異体では相加的に抵抗性が低下し、三重変異体とcoi1 変異体の抵抗性は同程度であった。よって、MYC転写因子はJAの誘導する虫害抵抗性に効果があり、特にMYC3、MYC4の関与が大きいと考えられる。半生物栄養性のトマト斑葉細菌病菌(Pseudomonas syringae pv tomato DC3000)に対してcoi1 変異体やmyc2 変異体は抵抗性を示すが、myc3myc4 単独変異体もmyc2 変異体と同程度の抵抗性を示し、二重/三重変異体では相加的に抵抗性が増加した。

中国 精華大学Xie ら(Mol Plant 4:279-288.)は、Y2HスクリーニングによってJAZ1と相互作用をするタンパク質としてMYC3を見出した。MYC3は他のJAZタンパク質(JAZ2、JAZ5、JAZ6、JAZ8、JAZ9)とも相互作用を示し、N末端側領域がJAZタンパク質との相互作用に関与していることがわかった。MYC3 過剰発現(MYC3-OE )形質転換シロイヌナズナ芽生えはJAに対する感受性が増加しており、野生型よりもJAによる根の成長阻害を強く受け、地上部の成長も阻害された。RNAiによりMYC3 を抑制した芽生えのJAによる成長阻害は野生型と同程度であり、MYC2等の他の転写因子がMYC3の機能を相補しているものと思われる。野生型植物とMYC3-OE との間で遺伝子発現プロファイルを比較したところ、46遺伝子の発現量がMYC3-OE において高くなっていた。これらの遺伝子には、酸化ストレス、JA生合成、塩ストレス応答、傷害応答、病虫害応答に分類されるものが含まれていた。よって、MYC3は各種ストレス誘導遺伝子の転写制御に関与しているものと思われる。MYC3 のJA処理による発現誘導はMYC2 の発現誘導よりも遅れることから、MYC3 はJAシグナル伝達において応答の遅い因子として機能しているものと思われる。したがって、MYC3とMYC2は機能的には重複しているが、JA応答制御の点では異なる機能があると考えられる。

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論文)細胞の脱分化を促進する因子

2011-04-11 22:48:30 | 読んだ論文備忘録

The AP2/ERF Transcription Factor WIND1 Controls Cell Dedifferentiation in Arabidopsis
Iwase et al.  Current Biology (2011) 21:508-514.
DOI:10.1016/j.cub.2011.02.020

傷害が誘導する細胞の脱分化は多くの生物で見られる現象であり、特に植物はその能力が高い。しかしながら、植物細胞がどのようにして細胞の脱分化を制御しているかについての分子レベルでの知見は少ない。理化学研究所 植物科学研究センター杉本らと産業技術総合研究所高木らは、シロイヌナズナの芽生えと培養細胞の間で発現量が異なる遺伝子のうち、培養細胞において発現量の高いAP2/ERFファミリー転写因子をコードするWOUND INDUCED DEDIFFERENTIATION 1WIND1 、At1g78080)に注目して解析を行なった。WIND1 遺伝子は傷害に応答して発現が誘導され、無傷の植物体では根の内鞘や分裂組織幹細胞の周辺で僅かに発現している。WIND1 は傷害により直ちに発現が誘導され、その後のカルス形成の間も発現が維持される。WIND135S プロモーターで恒常的に発現させた形質転換シロイヌナズナは、様々な形態異常を示し、最もひどいもの(タイプⅢ、形質転換体の20%程度)では発芽後に茎頂分裂組織の周辺からカルス様の未分化の細胞集塊が形成された。この細胞集塊を切り出してMS培地で培養すると、植物ホルモンを添加しなくても細胞増殖を起こした。60%の芽生え(タイプⅡ)は葉が萎縮し、植物体をMS培地で培養すると様々な組織からカルスが形成された。残り20%の植物は葉にねじれが生じ、傷害部分から野生型植物よりも高い頻度でカルスが形成された。これらの形態異常はWIND1 の発現量と正の相関が見られ、WIND1 は細胞の脱分化を促進する作用があると考えられる。WIND1 と他の5つの類似遺伝子はAP2/ERF転写因子群の中でサブファミリーを形成しており、これらのホモログ遺伝子も傷害応答性を示す。WIND2 (At1g22190)、WIND3 (At1g36060)、WIND4 (At5g65130)も35S プロモーターで恒常的に発現させることにより細胞の脱分化を促進した。これらのWIND 遺伝子のT-DNA挿入単独変異体もwind1, 2, 3, 4 四重変異体も傷害誘導カルス形成に変化は見られなかった。そこでキメラリプレッサー遺伝子サイレンシング技術(CRES-T)によりWIND1の機能を抑制させたところ、植物体の成長に変化は見られなかったが、傷害や植物ホルモン処理によって胚軸から誘導されるカルスの形成割合が低下した。よって、WIND1と他の機能的に重複している因子が細胞の脱分化の制御を行なっていることが示唆される。カルス形成はオーキシンとサイトカイニンのバランスによって制御されているが、WIND1 を過剰発現させた植物の胚軸切片は野生型の胚軸切片よりも低濃度のサイトカイニン量でカルス形成を起こし、サイトカイニン/オーキシン比がを高くした際のシュート形成率も野生型よりも高かった。よって、WIND1 過剰発現個体はサイトカイニン感受性が高くなっていると考えられる。CRES-TによりWIND1を機能抑制した個体の胚軸切片は高サイトカイニン条件においても根を分化させる傾向があることから、サイトカイニン応答性が低下していると思われる。したがって、傷害により局所的に発現したWIND1 は内生のサイトカイニンに対する応答性を高めることで脱分化を引き起こしているものと考えられる。傷害はB-タイプARABIDOPSIS RESPONSE REGULATOR(ARR)を介したサイトカイニン応答を上昇させるが、CRES-TによりWIND1を機能抑制した個体を用いた解析から、WIND1はこの経路を介して脱分化を促進していることが確認された。さらに、WIND1 過剰発現個体では内生の活性サイトカイニンのtrans-ゼアチン含量が野生型の2倍程度あり、WIND1はサイトカイニン生産の活性化にも関与していると思われる。しかし、WIND1は内生オーキシン量や細胞のオーキシン応答には関与していなかった。また、WIND1 遺伝子はオーキシンやサイトカイニンによる発現制御は受けておらず、WIND1はこれらのホルモンのシグナル伝達の下流に位置する因子ではないと考えられる。以上の結果から、傷害によって誘導されたWIND1とそのホモログは局所的にサイトカイニン応答を活性化することで細胞の脱分化を促進していると考えられる。

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植物観察)箱根

2011-04-10 22:26:02 | 植物観察記録

本日より今年の箱根バイケイソウ調査を始めました。箱根の山の麓ではアセビの花が咲いていましたが、山の上のほうではまだ蕾の状態でした。バイケイソウの芽吹きは、遅れているように感じられます。調査をしている群落の同一ラメットの成長量を昨年、一昨年の同じ時期と比べると1/2~1/3程度でした。この理由としては、

1)今年の春は気温が低いためにラメットの成長が遅れた
2)昨年の秋冬は暖かかったために低温春化処理の開始が遅れた

といったことが考えられます。これらの点については、継続的な調査と気象データとの比較を行なうことで検討していきたいと考えています。


箱根の山の麓ではアセビの花が咲いていました


山の上ではアセビはまだ蕾の状態


バイケイソウの芽吹きは今年は遅れ気味


定点観察をしている群落ではまだ殆どのバイケイソウの芽は小さい

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論文)オーキシンシグナルを負に制御するオーキシン受容体

2011-04-07 05:52:33 | 読んだ論文備忘録

The AFB4 Auxin Receptor Is a Negative Regulator of Auxin Signaling in Seedlings
Greenham et al.  Current Biology (2011) 21:520-525.
doi:10.1016/j.cub.2011.02.029

オーキシン受容体として機能するF-boxタンパク質のtransport inhibitor response protein 1(TIR1)/auxin-signaling F box protein(AFB)は、系統発生的な研究から4つのクレイド(TIR1、AFB2、AFB4、AFB6)に分けられる。これまでにTIR1/AFBに関する遺伝学的、生化学的な研究はTIR1とAFB2のクレイドに属するF-boxタンパク質について行なわれてきた。AFB4クレイドに属するAFB4(At4g24390)とAFB5(At5g49980)は他のTIR1/AFBタンパク質との相同性が50%程度しかなく、詳細な機能は明らかとされていない。米国 カリフォルニア大学サンディエゴ校Estelle らは、AFB4、AFB5はASK1タンパク質と相互作用をしてSCF複合体を形成すること、オーキシン存在下でIAA3タンパク質と相互作用を示すことを確認した。このことは、両者ともオーキシン受容体として機能しうることを示唆している。合成オーキシンのピクロラム(4-アミノ-3,5,6-トリクロロピコリン酸)は除草活性があり、野生型のシロイヌナズナやtir1 変異体の芽生えはピクロラム処理により根の伸長が阻害されるが、afb4 変異体、afb5 変異体の芽生えはピクロラム耐性を示し、afb4 afb5 二重変異体は耐性がさらに強まった。しかし、afb4 変異体、afb5 変異体はIAAや2,4-Dに対しては耐性を示さなかった。また、ピクロラム処理は野生型芽生えの胚軸伸長を促進するが、afb4 変異体は僅かにピクロラム耐性を示し、afb5 変異体やafb4 afb5 二重変異体はピクロラム処理による胚軸伸長が見られなかった。よって、ピクロラムによる胚軸伸長にはAFB4/5が関与していると考えられる。AFB4とAFB5はピクロラムに依存してIAA3タンパク質と相互作用を示すが、TIR1ではそのような相互作用は見られなかった。AFB4、AFB5は、IAA、NAA、2,4-Dといった他のオーキシンに対しても応答した。よって、AFB4クレイドは、IAAと親和性を示すが、ピクロラムとも相互作用をするという点で他のTIR/AFBとは異なっており、シロイヌナズナにおいてピコリン酸系除草剤の主要なターゲットとなっていると考えられる。afb4 変異体芽生えは野生型よりも葉柄や胚軸が長く、根が短く、側根形成数が多いという特徴が見られた。このような形態変化はafb4 変異体でAFB4 を発現させることで解消されることから、AFB4は胚軸や葉柄の伸長、側根形成に対しての負の制御因子として機能していることが示唆される。tir1 afb2 afb4 三重変異体はafb4 変異体と類似した形態を示し、tir1 afb2 変異体や野生型よりも葉柄や胚軸が長くなった。よって、afb4 変異はtir1 変異やafb2 変異よりも上位に位置しており、AFB4の機能は他のTIR1/AFBファミリーとは異なっていると考えられる。tir1 afb2 afb4 三重変異体はtir1 afb2 変異体と比べて側根数は増加していないので、afb4 変異は側根形成に関しては上位性はない。しかし、一次根の伸長については上位性が認められた。bHLH型転写因子のPIF4、PIF5は胚軸伸長の正の制御因子であることが知られており、pif4 pif5 二重変異体は胚軸が短くなるが、ここにafb4 変異が加わるとこの表現型が幾分か抑制された。よって、AFB4はPIF4、PIF5とは部分的に独立して機能していると考えられる。AFB4 転写産物量は調査した根、胚軸、子葉において他のTIR1 /AFB ファミリーと比べて非常に少ないが、AFB5 転写産物は胚軸において他のTIR1 /AFB ファミリーよりも多くなっていた。よって、AFB4 の芽生えの成長における効果の大きさは発現量とは関連しておらず、AFB4とAFB5の効果の差異は両者の生化学的な活性の違いによるものと思われる。afb4 変異体芽生えで観察される形態変化は野生型芽生えをオーキシン処理した際に見られる変化やオーキシン生合成に関連する酵素遺伝子が過剰発現してIAA含量が増加したyucca-2D 変異体の表現型と類似している。しかし、afb4 変異体と野生型との間でIAA含量に差はなく、afb4 変異体での胚軸伸張のような形態変化はIAA量の増加によってもたらされたものではない。初期オーキシン応答遺伝子の発現をafb4 変異体と野生型との間で比較すると、何も処理をしていない胚軸では両者に差は見られないが、オーキシン処理をした際の発現量の上昇がafb4 変異体は野生型よりも大きくなっていた。よって、afb4 変異体は胚軸のオーキシン感受性が高くなっていると考えられる。このような感受性の変化は根や子葉では見られなかった。芽生えを高温(29℃)で育成すると遊離IAAが蓄積して胚軸伸長が促進されるが、afb4 変異体では高温による胚軸伸長促進が抑制された。以上の結果から、AFB4クレイドのオーキシン受容体はピクロラムの主要なターゲットとして機能し、奇異なことにAFB4は芽生え成長時のオーキシン応答において負の制御因子として機能していることが明らかとなった。AFB4の作用機作の詳細は不明だが、オーキシン作用は複数のフィードバック系によって高度に制御されているので、AFB4は負の調節ループにおいて何らかの役割を担っているとも考えられる。また、生化学的には、AFB4は特定のAux/IAAやARFと結合するといった活性があるのかもしれない。

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