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論文)ジャスモン酸シグナルを介して花弁の大きさを制御する因子

2009-12-27 16:38:50 | 読んだ論文備忘録

Jasmonate controls late development stages of petal growth in Arabidopsis thaliana
Brioudes et al.  The Plant Journal (2009)60:1070-1080.

DOI: 10.1111/j.1365-313X.2009.04023.x

フランス国立農業研究所(リヨン)のBendahmane らのグループは、以前にシロイヌナズナの花弁の細胞拡張を制御しているbHLH型転写因子BIGPETALp(BPEp)を同定した。BPEpBIGPETAL 遺伝子から転写される2種類の転写産物の1つで、選択的スプライシングにより第5イントロンが保持されることによって生じる。第2の転写産物BIGPETALubBPEub )は恒常的に発現しているが、BPEp 転写産物の蓄積は、APETALA3AP3 )、PISTILLATAPI )、APETALA1AP1 )、SEPALLATA3SEP3 )による正の制御とAGAMOUSAG )による負の制御を受けている。BPEpとBPEubは系統樹上、AtbHLH79と同じクレイドに属しており、AtbHLH79は葯の発達におけるジャスモン酸(JA)シグナル伝達経路に関与する因子であることが知られている。そこで、BPEpBPEub の発現とJAとの関係を調査したところ、両遺伝子の発現はcoi1 突然変異体では野生型と変わりはなかったが、JA生合成経路の酵素12-オキソフィトジエン酸リダクターゼ(OPR3)の機能喪失変異体opr3 の花序ではBPEp 転写産物が検出されないことがわかった。OPR3 過剰発現個体でのBPEp 転写産物量は野生型と変わりはないが、opr3 変異体をJA処理するとBPEp の発現が回復した。BPEub の発現量はopr3 変異体やJA処理によって変化しなかったことから、BPEp の発現のみがOPR3 の下流のJAシグナルによって正の制御を受けていると考えられる。BPE プロモーターにGUS遺伝子を繋いだコンストラクトを導入した野生型とopr3 変異体でGUS活性に変化が見られなかったことから、JAシグナルによるBPEp の発現制御は転写後になされていると思われる。JA生合成に関与するリポキシゲナーゼ(LOX)やOPR3をコードする遺伝子の発現はpi 変異体やap3 変異体で低下していることから、JAはホメオティックタンパク質の制御下でBPEp の発現を制御していると考えられる。opr3 変異体は、BPE をRNAiでノックアウトした個体bpe-1 と同様に花弁の細胞がより拡張することで花弁が大きくなり、二次葉脈の増加が見られる。bpe/opr3 二重変異体では花弁の拡張や細胞のサイズに対して相加的な影響は見られないことから、OPR3BPEp は同じ系路上で機能していると思われる。しかし、JA処理したbpe/opr3 変異体の花弁サイズはbpe-1 変異体のそれよりも常に大きいこと、opr3 変異体でBPEp を過剰発現させても花弁の拡大に対して回復が見られないことから、BPEpの他にもOPR3の下流で細胞拡張を制御している因子が存在すると思われる。以上の結果から、JAシグナルは細胞拡張を制御することで花弁の大きさを制限しており、そのシグナル伝達経路に関与する因子の1つのとしてBPEp が機能していると考えられる。JAによるBPE の選択的スプライシングの機構は明らかではない。

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