Laboratory ARA MASA のLab Note

植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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論文)根の成長を阻害するペプチド

2022-08-28 18:06:35 | 読んだ論文備忘録

RALF1 peptide triggers biphasic root growth inhibition upstream of auxin biosynthesis
Li et al.  PNAS (2022) 119 (31):e2121058119.

doi:10.1073/pnas.2121058119

Rapid alkalinization factor(RALF)ファミリーペプチドは、細胞外をアルカリ化し、根の成長を抑制するシグナルとして知られている。しかし、アルカリ化と成長阻害の関連性、およびその分子機構は不明な点が多い。オーストリア科学技術研究所Friml らは、マイクロ流体チップ(vRootchip)と共焦点顕微鏡を用いて、シロイヌナズナ芽生えの根の成長とアポプラスト/サイトゾルのpHを同時に観察した。その結果、RALF1の添加は1分以内に根の成長を阻害してアポプラストをアルカリ化すること、この反応に転写は必要なく可逆的であることが判った。RALF1の受容体FERONIA(FER)が機能喪失したfer-4 変異体の解析から、RALF1による急速な根の成長阻害とアポプラストのアルカリ化はFERを介していることが判った。アルカリ性の培地ではアポプラストがアルカリ化して根の成長が阻害され、酸性の培地では根の成長が促進された。よって、RALF1によるアポプラストのアルカリ化が急速な根の成長阻害を誘導していることが示唆される。fer-4 変異体も外部からのpH操作に対して同様の反応を示すことから、FERはpH変化を感知して反応しているのではなく、RALF1の作用を媒介していると考えられる。このRALF-FERによる急速なアポプラストのアルカリ化と根の成長阻害はオーキシンシグナルによる根の成長阻害と類似している。しかしながら、fer-4 変異体はIAA処理により急速な根の成長阻害を受けることから、オーキシンによる急速な成長阻害はRALF-FERを介してはいないと考えられる。オーキシンシグナル伝達の因子として成長制御に関与している膜貫通キナーゼ(TMK)が機能喪失したtmk1,2 二重変異体の根は、野生型と同じようにRALF1によって成長が阻害され、野生型よりも強くアポプラストがアルカリ化した。TMKによる制御を受けている細胞膜H+-APTaseの活性もRALF-FERによる成長阻害に関与していなかった。オーキシン受容体TIR/AFBが機能喪失したtir 三重変異体も、野生型と同じようにRALF1による根の成長阻害とアポプラストにアルカリ化が起こった。TIR/AFBに結合してシグナル伝達を遮断するオーキシン拮抗物質のPEO-IAAの添加は、RALF1による根の成長阻害を緩和させ、この効果は添加から1時間後に強くなった。さらに、Aux/IAAタンパク質IAA17のドミナントネガティブ型を発現させた形質転換体は、RALF1による根の伸長阻害が1時間後に緩和された。これらの結果から、TIR1/AFBを介したオーキシンシグナルはRALF1による長期的な根の伸長阻害に関与していることが示唆される。tir 三重変異体は、RALF1処理初期には野生型と同程度の感受性を示すが、時間がたつと感受性が低下するという二相性の反応を示した。よって、RALF1は2種類の成長制御の役割を果たしており、オーキシンシグナルはFERを介した急速な応答の後の持続的な成長抑制に関与していると考えられる。オーキシンレポーターを用いた解析から、RALF1はオーキシンシグナルを誘導するが、IAA処理と比較してシグナルの活性化に10分程度の遅れがあることが判った。よって、RALF1は間接的にTIR/AFBオーキシンシグナルを誘導しており、このシグナルがRALF1-FERが誘導する持続的な根の成長阻害を引き起こしていることが示唆される。芽生えをオーキシン生合成阻害剤で前処理することによってRALF1による持続的な根の成長阻害が改善された。また、オーキシン生合成変異体はRALF1による根の成長阻害に対して部分的な抵抗性を示した。このことから、RALF1による持続的な根の成長阻害にはオーキシン生合成が関与していることが示唆される。解析の結果、RALF1はFERに依存してオーキシン生合成酵素遺伝子YUC5YUC6YUC11 の発現を誘導することが確認された。また、RALF1はFERに依存して根のIAA、IAA異化産物のoxIAA、IAA縮合体のIAAspやIAGluの量を増加させ、IAA前駆体のIPyA量を減少させることが判った。したがって、RALF1-FERはオーキシンの生合成活性を上昇させ、持続的な根の成長抑制に寄与していると考えられる。以上の結果から、RALFとオーキシンシグナルは、それぞれ独立に、急速なアポプラストのアルカリ化と根の成長抑制をもたらすが、持続的な成長抑制に関しては、RALFがFERを介してオーキシンの生合成とシグナルを誘導することで引き起こされていると考えられる。

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論文)硝酸供給による地上部の成長促進

2022-08-23 09:35:27 | 読んだ論文備忘録

Molecular framework integrating nitrate sensing in root and auxin-guided shoot adaptive responses
Abualia et al.  PNAS (2022) 119:e2122460119.

doi:10.1073/pnas.2122460119

硝酸塩は好気性土壌における窒素の主要な無機形態の一つであり、植物の成長と発達に大きな影響を与える。オーストリア科学技術研究所Benková らは、シロイヌナズナ芽生えをコハク酸アンモニウム(AS)を唯一の窒素源として7日間栽培し、その後にASまたは硝酸カリウムを含む培地に移植して成長を観察した。その結果、硝酸塩を窒素源として育成した芽生えは、ASを窒素源とした場合よりも、根および地上部の成長が促進されることが判った。植物の成長・発達過程においてオーキシンとその濃度勾配が重要な役割を担っていることから、PINオーキシン排出キャリアーを介したオーキシンの輸送が硝酸供給による器官の発達に寄与しているかを検討した。その結果、硝酸培地に移植することで根ではPIN3 の発現量が増加し、地上部ではPIN1PIN4PIN6PIN7 の発現量が増加することが確認された。したがって、硝酸供給に対する芽生えの応答の初期段階は、地上部における極性オーキシン輸送の変化を伴っている可能性がある。そこで、pin4 変異体、pin7 変異体を硝酸培地に移植して成長を野生型と比較したところ、pin 変異体の地上部の成長は野生型よりも劣ることが判った。このことから、植物が硝酸供給に対して効果的に成長調整するためには、PINを介したオーキシン輸送が必要であることが示唆される。PIN 遺伝子の転写調節因子として機能しているAPETALA2/ERF型転写因子をコードするCYTOKININ RESPONSE FACTOR2CRF2 )とCRF6 は、硝酸培地で育成することによってシュートでの発現量が高くなった。また、植物の硝酸応答を制御しているNIN-様転写因子NLP7の機能喪失変異体nlp7 は、硝酸培地での育成によるCRF2CRF6 の発現量増加が見られなかった。crf 機能消失変異体は、nlp7 変異体と同様に、硝酸による地上部の成長促進が見られず、恒常的にCRF2CRF6 を発現させた形質転換体は、硝酸供給に関係なく地上部の成長が促進された。これらの結果から、CRFはNLP7を介したシグナルの下流で硝酸供給による成長適応の制御因子として機能していることが示唆される。また、nlp7 変異体、crf 変異体では硝酸培地での育成によるPIN 遺伝子の発現量変化が見られず、CRF2 を恒常的に発現させた形質転換体では窒素源に関係なくPIN7 の発現量が増加していた。したがって、硝酸に応答した地上部の成長促進は、NLP7/CRFを介したPINによるオーキシン輸送の制御に依存していると考えられる。接ぎ木試験の結果、nlp7 変異体の接ぎ穂を野生型の根に接いだ際には硝酸供給による地上部成長促進が部分的に回復したが、野生型の接ぎ穂をnlp7 変異体の根に接いだ場合には硝酸による成長促進効果が見られなかった。したがって、硝酸はNLP7を介して何らかの移動性シグナルの根から地上部への移行を促進し、地上部の成長を制御していることが示唆される。解析の結果、根において硝酸によって活性化されたNLP7シグナルは、地上部へのサイトカイニン輸送に関与していることが判った。硝酸培地への移植によって、根においてサイトカイニン生合成遺伝子(IPT3IPT7 )、トランスポーター遺伝子(ABCG14 )の発現量が増加するが、nlp7 変異体の根ではそのような変化は見られなかった。nlp7 変異体やサイトカイニン生合成能が欠損したipt3,5,7 三重変異体の根にサイトカイニンを与えると頂上部の成長が促進されたが、abcg14 変異体やサイトカイニン受容体が欠損したahk2,ahk3 二重変異体ではそのような変化は見られなかった。したがって、根におけるNLP7を介したサイトカイニンの生合成と輸送の制御は、硝酸供給に応答した地上部の成長にとっての重要な要因の1つであると考えられる。硝酸供給は根と地上部のトランスゼアチン(tZ)型サイトカイニン含量を高めた。一方で、nlp7 変異体では根のtZ型サイトカイニン含量が野生型よりも高く、地上部の含量は野生型よりも低くなっていた。したがって、NLP7は、硝酸供給に応じてサイトカイニンの生合成に加えて、分布を微調整することすることも重要な役割である可能性がある。接ぎ木植物を用いた解析から、サイトカイニンは、硝酸供給された根で生合成され、地上部に輸送されてPIN 遺伝子の発現を活性化する移動性のシグナルであることが示唆された。以上の結果から、硝酸は根のNLP7を介したシグナル伝達によりサイトカイニンの生合成と地上部への輸送を促進し、地上部ではサイトカイニン量の変化に応答してCRFがPIN 遺伝子の発現を微調整することでオーキシン流量を制御して成長を促進していると考えられる。

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論文)根のショ糖含量を制御する長距離移行性ペプチド

2022-08-19 10:04:33 | 読んだ論文備忘録

Long-distance translocation of CLAVATA3/ESR-related 2 peptide and its positive effect on roots sucrose status
Okamoto et al.  Plant Physiology (2022) 189:2357-2367.

doi:10.1093/plphys/kiac227

新潟大学岡本らは、以前の研究で、ダイズの道管滲出液に含まれるペプチドについて調査し、根で発現しているxylem sap-associated peptide 4XAP4GmCLE32 )は、シュートや葉の切除、暗処理といった低炭素条件で発現量が増加することを見出した。このペプチドの機能を解析するために、シロイヌナズナのXAP4/GmCLE32ホモログについて解析を行なった。XAP4/GmCLE32ペプチドは、CLE1-7と類似性が高く、道管滲出液からCLE2ペプチドが検出された。CLE2 は主に根で発現しており、光合成の阻害や暗処理によって転写産物量が増加した。また、CLE3 も同様の挙動を示した。変異体の解析を行なったところ、cle1-7 七重変異体の根は野生型と比較してショ糖含量が低下しており、cle1-7 変異体、cle2cle3 二重変異体では成熟葉のショ糖含量が低下していた。よって、CLEペプチドは根や葉のショ糖含量に影響していると考えられる。CLE2 もしくはCLE3 をCommelina Yellow Mottle Virus(CoYMV)プロモーター制御下で維管束組織特異的に発現させた形質転換体は、根のショ糖含量が野生型よりも高くなっていた。また、野生型植物のロゼット葉にCLE2ペプチドを添加すると根のショ糖含量が増加し、cle1-7 変異体に添加すると根のショ糖含量が回復した。よって、CLEペプチドは根のショ糖含量を正に制御していると考えられる。cle1-7 変異体は野生型よりも根量が少なく、培地にショ糖を添加すると根量が回復した。ショ糖の輸送、生合成、分解に関与する遺伝子の発現量を見たところ、cle1-7 変異体の葉ではショ糖トランスポーターをコードするSUCROSE-PROTON SYMPORTER 2SUC2 )の転写産物量が減少していた。この減少は、cle1-7 変異体の葉にCLE2ペプチドを添加することで回復した。CLE1-7 は主に根で発現していることから、葉でのSUC2 発現量変化は根由来のCLEペプチドによると考えられる。そこで野生型植物とcle1-7 変異体との接ぎ木試験を行なったところ、野生型の接ぎ穂にcle1-7 変異体の根を接ぐことで葉のSUC2 発現量がcle1-7 変異体同士を接いだ場合と同程度に減少することが確認された。このことから、根のCLE 遺伝子の遺伝子型が葉でのSUC2 の発現を制御していると考えられる。以上の結果から、CLEペプチドは根および葉のショ糖含量を制御する根由来の長距離移行シグナルとして機能していると考えられる。

新潟大学のニュース

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論文)傷害によるジャスモン酸生合成の誘導

2022-08-15 13:52:53 | 読んだ論文備忘録

On the initiation of jasmonate biosynthesis in wounded leaves
Kimberlin et al.  Plant Physiology (2022) 189:1925–1942.

doi:10.1093/plphys/kiac163

ジャスモン酸(JA)は、昆虫に対する防御反応の多くを調整する重要な植物ホルモンである。JAの生合成経路はよく知られているが、その調節機構や傷害によるJA生合成誘導機構は不明な点が残されている。無傷の葉に含まれるJAはごく微量であるが、傷害を与えると局所的にも全身的にも2-5分以内にJAの生合成が活性化される。米国 ミズーリ大学Koo らは、シロイヌナズナに転写阻害剤のコルジセピンもしくは翻訳阻害剤のシクロヘキシミドを処理して葉に傷害を与えても傷害後の局所的および全身的なJA量は薬剤処理をしていない植物と同じように増加することを見出した。これらの結果から、転写または翻訳を阻害しても傷害が誘導するJA蓄積に大きな影響を与えないこと、JA生合成に必要な酵素は傷害を与える前から既に組織に存在していることが示唆される。JAと同じ生理作用を示す微生物由来の植物毒素コロナチン(COR)で植物体を処理すると、JA生合成酵素をコードする遺伝子の多くが発現誘導される。しかしながら、この時に内生JA量の増加は見られなかった。CORの前処理をした後に傷害を与えてもJA蓄積量の増加はCOR未処理の植物と同等であった。したがって、JA生合成遺伝子の発現だけではJA蓄積の引き金とはならない。JA生合成の最初の段階は、膜脂質の加水分解による遊離脂肪酸の生成であると考えられている。そこで、シロイヌナズナ芽生えにJAの前駆体とされている遊離脂肪酸のα-リノレン酸(α-LA)を与えたところ、JA蓄積量が増加した。α-LAが欠損して傷害によるJA生産が起こらないfad3fad7fad8 三重変異体にα-LAを与えても野生型と同等のJA蓄積が見られた。プラスチドに局在する7つのDEFECTIVE IN ANTHER DEHISCENCE1(DAD1)-like ホスホリパーゼA1(PLA1)遺伝子の発現を見たところ、5遺伝子は傷害によって転写産物量が増加し、特にDAD1 が強く誘導されることが判った。しかしながら、DAD1-like PLA1 遺伝子の発現誘導はJAの増加よりもかなり遅いものであった。一方で、これらの遺伝子はCOR処理では発現誘導されず、他のJA生合成遺伝子とは挙動が異なっていた。JA応答性プロモーター制御下でDAD1 を発現するコンストラクト(OPR3pro:DAD1 )を導入した形質転換シロイヌナズナは、矮化してアントシアニンを蓄積し、恒常的なJA蓄積の症状を示した。この形質転換体では傷害を与えなくてもDAD1 が高い発現量を示し、そのためJAを添加してもさらなるDAD1 発現量の増加は起こらなかった。また、薬剤(デキサメタゾン)誘導プロモーター制御下でDAD1 を一過的に発現させるコンストラクト(Pdex:DAD1-Myc )を導入した形質転換シロイヌナズナを用いた解析から、DAD1は傷害を与えなくてもJA生産を誘導しうることが確認された。しかしながら、その生産量は傷害によって誘導される場合よりも低かった。薬剤処理と傷害を共に与えた場合のJA生産量は、傷害のみ与えた場合の約6倍、薬剤処理単独の場合の1000倍であった。このことから、DAD1 の発現だけでもある程度のJA生合成を引き起こすことができるが、傷害によってDAD1を介したJA生合成は著しく促進されると考えられる。傷害と薬剤処理を異なる葉に施した実験から、傷害シグナルは全身に伝達してJA生産を活性化することが確認された。DAD1は他のJA生合成酵素と比べてタンパク質の代謝回転が速く、α-LAはDAD1の分解を促進すること、傷害は分解を遅延させることが判った。また、アミノ酸置換によってリパーゼ活性を失った変異型DAD1mutはDAD1よりも安定性が高くなっていた。これらの結果から、DAD1タンパク質の安定性は傷害葉でのJA生合成の誘導に寄与している制御対象の1つであると思われる。以上の結果から、傷害葉での急速なJA蓄積は、遺伝子の転写や翻訳とは無関係な機構であり、脂肪分解段階の活性と安定性の変化に起因しているものと思われる。α-LAや傷害によるDAD1の安定性制御機構については不明である。

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HP更新)バイケイソウ考 その14 2022年度北海道バイケイソウ花成個体調査

2022-08-08 10:33:11 | ホームページ更新情報

私のHP「Laboratory ARA MASA」の「バイケイソウプロジェクト」に「バイケイソウ考 その14 2022年度北海道バイケイソウ花成個体調査」を追加しました。これは、2022年6月に実施した北海道でのバイケイソウ花成個体数調査の結果をまとめたものです。今年は私が調査している礼文島、ベニヤ原生花園、旭川、野幌の4地点で多数の花成個体が確認できました。特に、旭川と野幌は2013年以来の9年ぶりの一斉開花となりました。これらの結果をまとめ考察を加えました。ご意見、コメント等ありましたらお願い致します。

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論文)エチレンを介した圧縮土壌に対する根の適応

2022-08-02 13:31:05 | 読んだ論文備忘録

Ethylene inhibits rice root elongation in compacted soil via ABA- and auxin-mediated mechanisms
Huang et al.  PNAS (2022) 119:e2201072119.

doi:10.1073/pnas.2201072119

圧縮された土壌は、根端周辺でのエチレンの拡散を抑制し、蓄積したエチレンは根の伸長を抑制すると同時に根の膨張を促進する。しかしながら、エチレンによる根の成長変化の機構は明らかとなっていない。英国 ノッティンガム大学Pandey らは、圧縮土壌で育成したイネの一次根の根端組織のアブシジン酸(ABA)量は圧縮されていない土壌で育成したイネの根端よりも3倍高いことを見出した。また、圧縮土壌で育成したイネの根端はABA生合成酵素遺伝子の発現量が増加しており、発現量はエチレン処理によっても増加した。野生型イネをエチレン処理すると皮層細胞が径方向に膨張して根の径が倍加するが、エチレン非感受性のoseil1 変異体、osein2 変異体の根ではそのような変化は見られなかった。一方で、ABA処理をすると野生型もエチレン非感受性変異体も、エチレン処理をした際と同じように、皮層細胞が膨張した。このことから、ABAは皮層細胞の径方向の膨張を引き起こしており、このシグナルはエチレン経路の下流で圧縮土壌に応答した根の成長変化として作用していることが示唆される。ABA生合成酵素遺伝子MHZ5 の機能喪失変異体mhz5 は、根の成長変化に対してエチレン非感受性であり、圧縮土壌に応答した皮層細網の膨張が見られなくなっていた。しかし、mhz5 変異体をABA処理することで皮層細胞は膨張した。これらの結果から、圧縮土壌に応答した根の径方向の膨張にはABA生合成が必要であると考えられる。圧縮土壌では根の伸長が阻害されるが、mhz5 変異体の根の伸長阻害の程度は野生型植物の根よりも低くなっていた。よって、圧縮土壌に応答したABAによる皮層細胞の膨張は根の貫通能力を助けるものではなく、むしろ根の伸長を低下させていると思われる。他のABA生合成変異体の根も圧縮土壌で野生型よりも高い貫通性を示した。エチレンはオーキシン量を増加させて根の伸長を阻害することが知られている。オーキシンレポーターDR5:VENUS を用いた解析から、圧縮土壌で育成したイネの根の分裂領域、伸長領域の表皮細胞はオーキシン応答性が高いことが判った。一方、osein2 変異体の根では圧縮土壌によるオーキシン応答性の変化は見られなかった。そして、osein2 変異体、oseil1 変異体の根は圧縮土壌での根の伸長阻害の程度が野生型よりも低くなっていた。これらの結果から、オーキシンは圧縮土壌での根の伸長阻害においてエチレンの下流で作用していることが示唆される。osein2 変異体、oseil1 変異体に合成オーキシンアナログの1-ナフタレン酢酸(NAA)処理をすると圧縮土壌での根の伸長阻害が見られ、エチレンは圧縮土壌においてオーキシンを介して根の伸長を阻害していると考えられる。しかしながら、NAA処理をしても皮層細胞の径方向の膨張は誘導されなかった。OsEIL1はオーキシン生合成酵素遺伝子OsYUC8 のプロモーター領域に結合して発現を活性化することが知られている。OsYUC8 の発現は圧縮土壌で育成した根で高くなっており、このような変化はosein2 変異体、oseil1 変異体では見られなかった。また、圧縮土壌で育成したosyuc8 変異体の根は伸長阻害の程度が野生型よりも低下していた。これらの結果から、エチレンによる圧縮土壌に対する根の応答はOsYUC8を介したオーキシンの生合成に依存しているものと思われる。OsEIL1OsYUC8 は根端の内部組織で発現しているが、圧縮土壌で育成した根でのオーキシン応答は表皮で高まっている。このことから、圧縮土壌でのオーキシン応答の変化にはオーキシン輸送が関与しているのではないかと考え、オーキシン流入キャリアAUX1の機能喪失変異体osaux1 について調査した。osaux1 変異体の根はエチレン感受性が低下しており、圧縮土壌での根の伸長阻害が見らず、分裂領域、伸長領域の表皮細胞のオーキシン応答性も変化しなかった。野生型植物の根の表皮細胞は圧縮土壌で育成すると短くなるが、osaux1 変異体ではそのような変化は見られなかった。したがって、OsAUX1に依存した圧縮土壌での根の伸長阻害は、根端から伸長領域表皮細胞へのオーキシン輸送の増加と関連していると考えられる。osaux1 変異体では圧縮土壌に応答した皮層細胞の変化は見られなかったが、ABA処理により皮層細胞は径方向に膨張した。しかしながら、ABA処理はosaux1 変異体の根の径方向の膨張を完全には回復させないことから、OxAUX1を介したオーキシンの供給はABAに応答した皮層の膨張に関与している可能性がある。以上の結果から、圧縮土壌が誘導するエチレン応答は、オーキシンとABAを下流シグナルとしてイネの根の伸長と径方向の拡張を制御することで、根端を膨張させ圧縮土壌を貫通する能力を低下させていると考えられる。

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