A GH3 family member, OsGH3-2, modulates auxin and abscisic acid levels and differentially affects drought and cold tolerance in rice
Du et al. Journal of Experimental Botany (2012) 63:6467-6480.
doi:10.1093/jxb/ers300
生体内のオーキシン(IAA)量の調節は、遊離の活性型IAAからIAAとアミノ酸(Asp、Ala、Phe)との不活性型縮合体への転換によってなされており、この反応はGH3ファミリーに属するIAA-アミド合成酵素によって触媒されている。中国 華中農業大学のXiong らは、イネを実験材料に用いて、オーキシン量制御と環境ストレス耐性との関係を調査した。OsGH3-2 を過剰発現させた形質転換イネは、わい化し、葉身と葉鞘との間の屈曲の程度が増し、止葉、穂、節間の長さが短くなった。よって、OsGH3-2 の過剰発現はイネの成長に対して有害な効果を示す。過剰発現個体の葉身の表皮や節間の細胞は小さく、このことが過剰発現個体のわい化をもたらしていると考えられる。また、過剰発現個体は冠根数が少ないが、根自体は長く、根毛の密度が低くなっていた。OsGH3-2 は野生型植物において多くの組織や器官で発現しており、特にカルス、葉、根での発現量が高く、穂や茎での発現量は低くなっていた。OsGH3-2 の発現はIAA処理によって急速に増加し、アブシジン酸(ABA)処理によって減少した。また、OsGH3-2 の発現は乾燥処理によって誘導され、低温処理によって抑制された。ABA欠損変異体でのOsGH3-2 の発現量は通常の栽培条件でも乾燥処理条件でも野生型との差が見られず、乾燥処理によるOsGH3-2 の発現誘導はABA生合成量の変化によるものではないと考えられる。OsGH3-2 過剰発現個体は乾燥処理による葉のしおれが野生型よりも早く起こり、通常の栽培条件に戻した際の生存率も低かった。過剰発現個体でのスーパーオキシドディスムターゼ(SOD)活性は、通常栽培条件下では野生型よりも高いが、乾燥処理後には野生型よりも低くなっていた。よって、OsGH3-2 過剰発現個体は乾燥ストレス条件下での活性酸素種(ROS)の除去能力が低下していると考えられる。低温処理をした場合には、野生型植物はOsGH3-2 過剰発現個体よりも早くしおれ、通常栽培条件に戻した際の回復もOsGH3-2 過剰発現個体のほうが優れていた。低温処理は細胞膜に損傷をもたらすが、OsGH3-2 過剰発現個体の細胞膜の損傷の程度は野生型よりも低くなっていた。OsGH3-2 過剰発現個体でのIAA量の減少と酸化ストレスとの関係を見るために、野生型植物に合成オーキシンのナフタレン酢酸(NAA)もしくはIAA生合成阻害剤のアミノエトキシビニルグリシン(AVG)処理をしてROSの生成量を見たところ、NAA処理ではROS生産量が増加し、AVG処理では減少していることがわかった。OsGH3-2 過剰発現個体はメチルビオロゲン(MV)処理によるクロロフィル含量低下の程度が野生型よりも低く、酸化ストレスをもたらす中間代謝産物のモノデヒドロアスコルビン酸(MDA)の低温処理による生成量が野生型よりも低くなっていた。したがって、OsGH3-2 過剰発現個体は酸化ストレス耐性が高くなっていると考えられる。OsGH3-2 過剰発現個体は内生IAA含量が野生型よりも少ないが、内生ABA含量も少なく、ABAの前駆体であるα-カロテン、β-カロテンの含量も少なくなっていた。OsGH3-2 過剰発現個体でABA含量が減少していることから、気孔の開閉度と密度を調査したところ、OsGH3-2 過剰発現個体では乾燥ストレス条件での気孔の開度が野生型よりも高くなっており、このことか乾燥ストレス感受性に関与していると考えられる。OsGH3-2 過剰発現個体では多くのABA生合成酵素遺伝子の発現が抑制され、ABAの異化に関与する酵素遺伝子の発現量が増加していた。ABAシグナル伝達に関与する遺伝子の発現量には大きな変化見られなかったが、OsPPC30 とOsPPC49 の発現量は僅かに増加し、OsbZIP23 の発現量は僅かに減少していた。IAAシグナル伝達に関与する遺伝子は、OsIAA20 、OsRAA1 、OsSAUR39 の発現量は増加していたが、他の遺伝子の発現量には変化は見られなかった。以上の結果から、OsGH3-2 過剰発現個体ではABA生合成に関与する遺伝子やオーキシンシグナルに関与する遺伝子の発現量が変化し、このことが乾燥や低温ストレスに対して異なる応答性をもたらしていると考えられる。したがって、オーキシン量とABA量の調節は乾燥や低温に対する応答性にとって重要であると考えられる。RNAiによってOsGH3-2 の発現を抑制した個体では、IAA量やABA量、ストレス応答性に変化は見られず、他のOsGH3 ファミリー遺伝子によってOsGH3-2 の機能が相補されていると考えられる。