Laboratory ARA MASA のLab Note

植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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論文)避陰反応を調節する因子

2010-11-30 20:58:50 | 読んだ論文備忘録

AtBBX21 and COP1 genetically interact in the regulation of shade avoidance
Crocco et al.  The Plant Journal (2010) 64:551-562.
doi: 10.1111/j.1365-313X.2010.04360.x

植物は遠赤色光の割合の高い光を受けると胚軸、葉柄、茎が伸長して開花が早くなる避陰反応(SAS)を示す。光形態形成の抑制に関与するE3ユビキチンリガーゼのCONSTITUTIVE PHOTOMORPHOGENIC 1(COP1)はSASを誘導することが知られており、cop1 変異体では避陰反応が抑制される。しかしながら、COP1と避陰反応との関係について詳細は明ではない。アルゼンチン ブエノスアイレス大学のBotto らは、シロイヌナズナT-DNA挿入系統集団の中から上部からの光を遮った状態で芽生え胚軸が野生型よりも長く、光照射下、暗黒下では正常な表現型を示す変異体を選抜し、lhuslong hypocotyl under shade )と命名した。この変異体においてT-DNAはLHUS 遺伝子(At1g7540)の5'UTRに挿入されていた。この遺伝子は過去にSTH2SALT TOLERANCE HOMOLOG2 )として報告されており、B-box(BBX)タンパク質のAtBBX21をコードしていた。BBX21はLONG HYPOCOTYL 5(HY5)と相互作用し、胚軸の伸長を阻害することが知られている。T-DNA挿入変異体ではLHUS /BBX21 の発現量が低下しており、RNAiによりLHUS /BBX21 の発現を抑制した形質転換体も同じ表現型を示した。しかしながら、LHUS /BBX21 を35Sプロモーターで恒常的に発現させた形質転換体も遮光条件で胚軸が伸長した。シロイヌナズナの他のBBXタンパク質も芽生えの成長過程での光シグナルに対して負もしくは正の制御をするものが知られており、bbx19bbx21bbx22 変異体芽生えは遮光条件で胚軸が伸長し、bbx18bbx24 変異体芽生えは逆の表現型を示した。bbx21 bbx22 二重変異体芽生えでは胚軸がさらに伸長したことから、両者は遮光条件下での胚軸伸長抑制に対して相加的に作用するものと思われる。野生型植物を遮光条件下で育成するとBBX21BBX19BBX22 転写産物量が増加し、BBX18BBX24 転写産物量は減少した。よって、BBX19、BBX21、BBX22は避陰反応において植物成長の抑制因子として作用し、BBX18とBBX24は逆のシグナルを伝達する因子として機能しているものと考えられる。BBX21は、避陰反応で発現量が増加するPAR1HFR1PIL1ATHB2 の正の制御因子として機能していた。bbx21bbx22cop1 単独変異体および二重、三重変異体における避陰反応の解析から、BBX21とBBX22はCOP1の下流において作用していることが推測された。また、マイクロアレイ解析から、BBX21はオーキシン(AuxREAUX1EOR1 )、光(ATHB52FIN219 )、低温ストレス(GRP3S )に関連する遺伝子の負の制御因子として機能していた。したがって、BBX21は避陰反応での遺伝子発現を制御する内生シグナルと環境シグナルの間のクロストークに関与していると考えられる。以上の結果から、BBX21とBBX22はCOP1の下流において避陰反応の調節を行なう因子として機能していると考えられる。

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植物観察)箱根

2010-11-27 18:40:26 | 植物観察記録

箱根へバイケイソウの子ラメットの観察に行ってきました。バイケイソウはクローン成長をする植物で、花成しなかった親からは1つの子ラメット(地下茎)が形成され、花成した親からは1~3個の子ラメットか形成されることが知られいます。子ラメットは比較的早い段階、6月頃には形成されるようです。今回、花成した株の根元をいくつか掘って子ラメット数を確認してみました。確かに、言われているように、花成親の基部には120度の開度で1~3個の子ラメットか形成されていました。子ラメットの数を決定する要因が何であるのかはよく判りませんが、親の資源量が関係しているのでしょうか。花成親の成長量と子ラメット数の関係を調査することで何か判るかも知れません。これは今後の課題です。箱根の山の上は既に紅葉は終わっていましたが、下の温泉街辺りでは丁度見ごろでした。

 

参考文献
谷 友和 2005
バイケイソウのクローン成長と有性繁殖様式
植物地理・分類研究 53:181-186.

 

花成親の株元 子ラメットが3個

 

子ラメットが2個

 

子ラメットが1個

 

時折、雲間から雪化粧した富士山が顔を見せた

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論文)種子発芽に関与するユビキチンE3リガーゼ

2010-11-25 06:19:08 | 読んだ論文備忘録

BRIZ1 and BRIZ2 Proteins Form a Heteromeric E3 Ligase Complex Required for Seed Germination and Post-germination Growth in Arabidopsis thaliana
Hsia & Callis  JBC (2010) 285:37070-37081.
DOI:10.1074/jbc.M110.168021

シロイヌナズナには1300程度のユビキチンE3リガーゼが存在し、このうち480程はRING型のE3リガーゼである。RING型E3リガーゼは、細胞周期、光受容、ホルモンシグナル伝達、胚発生、病害応答、DNA修復に関与するものが報告されているが、大部分は機能未知である。米国 カリフォルニア大学バークレー校のCallis らは、RINGドメインを含んでいるタンパク質をコードする遺伝子にT-DNAが挿入された系統のうち、ホモ接合体が成熟個体ににまで成長しない系統を見出し、この系統について詳細な解析を行なった。この系統は、機能未知のRINGタンパク質をコードする遺伝子(At2g42160)にT-DNAが挿入されており、この遺伝子をBRIZ1 (BRAP2-RING-ZnUBP)と命名、T-DNA挿入アレルをbriz1-1 とした。BRIZ1 /briz1-1 ヘテロ接合体後代種子の1/4は、発芽時の種皮からの胚の出現が遅く、出現した胚は緑化せず子葉が展開しないといった形態異常を示し、このような個体はbriz1-1 ホモ接合体であった。BRIZ1 にコードされるタンパク質は、RINGドメインの他に、C末端側にコイルドコイル領域、N末端側にBRAP2ドメイン、RINGドメインのC末端側にZnF-UBPドメインが見られた。BLAST検索の結果、シロイヌナズナには同様の4つのドメインを持つタンパク質がもう1つ(At2g26000)存在することがわかり、これをBRIZ2と命名した。BRIZ2 のT-DNA挿入系統もヘテロ接合体後代の1/4でbriz1-1 ヘテロ接合体後代と同じような表現型を示した。よって、BRIZ1とBRIZ2は機能重複しておらず、どちらかの機能喪失によって発芽と芽生え成長の遅延という同じ形態変化を示す、同一経路上で機能するタンパク質であると考えられる。BRIZ1、BRIZ2ともに、in vitro でE3リガーゼ活性を示したが、BRIZ2のみがユビキチンとの結合能を有していることがわかった。また、BRIZ1とBRIZ2はヘテロオリゴマーを形成し、この相互作用にはコイルドコイル領域が必要であることがわかった。コイルドコイル領域を欠いたBRIZ1はE3リガーゼ活性は示すが、BRIZ2との相互作用は示さず、植物体で発現させてもBRIZ1 /briz1-1 ヘテロ接合体後代で出現する形態異常の比率に変化は見られなかった。よって、BRIZ2と結合できないBRIZ1は機能相補することができない。また、BRIZ1、BRIZ2ともにそれぞれのT-DNA挿入系統を機能相補するためにはRINGドメインが必要であることがわかった。以上の結果から、BRIZ1とBRIZ2はヘテロオリゴマーを形成してユビキチンE3リガーゼとして機能し、種子発芽とその後の芽生えの成長に関与していることが示唆される。

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論文)ジャスモン酸はCOI1-JAZ複合体によって受容される

2010-11-23 18:16:59 | 読んだ論文備忘録

Jasmonate perception by inositol-phosphate-potentiated COI1-JAZ co-receptor
Sheard et al.  Naturre (2010) 468:400-405.
doi:10.1038/nature09430

ジャスモン酸(JA)シグナルはF-boxタンパク質のCORONATINE INSENSITIVE 1(COI1)を介して受容され、転写抑制因子のJASMONATE ZIM DOMAIN(JAZ)ファミリータンパク質がポリユビキチン化、26Sプロテアソーム系による分解を受けて伝達される。JA(JA-Ile)の受容体としてCOI1が機能していることを示唆する報告はあるが、その詳細な分子機構は明らかとなっていない。米国 ワシントン大学のZheng らは、結晶構造学、薬理学的手法を用いて、シロイヌナズナのCOI1とJAZによるJA-Ile受容機構を解析した。その結果、COI-JAZ複合体は、COI1単独よりもJA-Ileと高い親和性を有する共受容体を形成することがわかった。JAZタンパク質のCOI1結合領域は、C末端側のJasモチーフにあり、JAZ1タンパク質のJasモチーフペプチドとCOI1との相互作用を解析した結果、Gul200-Val220の配列がJAZ1のデグロン(ユビキチンリガーゼが基質タンパク質を認識する配列)であることがわかった。そこで、E3ユビキチンリガーゼ複合体を形成するASK1とCOI1、JAZ1デグロンペプチドをJA-Ileもしくはコロナチン存在下で結晶化し、その構造を解析した。その結果、COI1タンパク質は、N末端側の3つのへリックスで構成されたASK1と結合するF-boxモチーフと、C末端側の縦に並んだ18個のロイシンリッチリピート(LRR)によって形成される蹄鉄型のソレノイドドメインで構成されており、このドメインがJA-Ileを高い特異性で認識するポケットを形成していることがわかった。また、JAZ1デグロンは、N末端側の7アミノ酸からなるループ領域がJA-Ileを捕捉するリガンド結合ポケットを包むクランプとして機能し、C末端側のαへリックスはCOI1とJAZ1との結合に関与してリガンド結合部位の調整を行なっていることがわかった。さらに、COI1-JAZ1共受容体のリガンド結合ポケットの底には、イノシトール-1,2,4,5,6-ペンタキスリン酸が存在しており、共受容体のホルモン受容にとって重要であることがわかった。以上の結果から、JA-Ileの真の受容体は、COI1、JAZ、イノシトールペンタキスリン酸の3分子で構成された共受容体複合体であることが明らかとなった。JAZデグロンのN末端クランプ領域のアミノ酸配列はJAZタンパク質によって異なるが、この違いがそれぞれのCOI1-JAZ共受容体のホルモン応答の差異をもたらしているのかもしれない。イノシトールペンタキスリン酸がCOI1のコファクターとして機能していることの発見は、イノシトールリン酸がホルモンシグナル伝達にとって重要であること示唆している。

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論文)活性酸素種による根の成長制御

2010-11-18 20:01:46 | 読んだ論文備忘録

Transcriptional Regulation of ROS Controls Transition from Proliferation to Differentiation in the Root
Tsukagoshi et al.  Cell (2010) 143:606-616.
doi:10.1016/j.cell.2010.10.020

Previews
Feeling UPBEAT about Growth:
Linking ROS Gradients and Cell Proliferation
Wells et al.  Developmental Cell (2010) 19:644-646.
doi:10.1016/j.devcel.2010.10.017

植物の根は、根端分裂組織の幹細胞から生み出された細胞が分裂を繰り返し、その後細胞が伸長して成長していく。細胞分裂から細胞伸長・分化への移行には、植物ホルモンが関与しており、オーキシンとサイトカイニンのバランスが移行の制御を行なっているとされている。米国 デューク大学のBenfey らは、根の細胞の分裂から伸長への移行を制御している転写因子を同定することを目的に、シロイヌナズナの根の分裂領域と伸長領域の境界で発現しているおよそ100種の転写因子のうち、96種についてT-DNA挿入変異体を得て一次根の成長を比較した。そして、野生型よりも芽生えの根が長くなる系統を選抜した。この系統は、機能未知のbHLH転写因子(UPBEAT1(UPB1)と命名)をコードするAt2g47270 遺伝子にT-DNA挿入が見られた。野生型において、UPB1 は分裂-伸長領域の境界で主に発現し、T-DNA挿入系統upb1-1 では発現が強く抑制されていた。ubp1-1 では皮層の細胞数が増加しており、このことにより根端分裂組織が大きくなっていたが、根の細胞層の放射状パターンは野生型と同じだった。UPB1 を恒常的に発現させた個体の根は短く、分裂領域の皮層細胞数が少なく、伸長した細胞の長さ短くなっていた。よって、UPB1は根の細胞の分裂から伸長への移行を調節することで根の成長、細胞サイズを制御していると考えられる。UPB1 mRNAは維管束組織、根毛、側部根冠組織で発現していたが、UPB1タンパク質は側部根冠組織や分裂領域の維管束組織には少ないことから、UPB1タンパク質は側部根冠組織から伸長領域へ移動するものと思われる。ubp1-1 と野生型との間で、分裂領域では55の遺伝子に発現量の違いが見られ、伸長領域では738遺伝子に違いが見られた。発現に違いの見られる遺伝子群の比較から、UPB1はパーオキシダーゼ活性関連、活性酸素種(ROS)応答関連の遺伝子群の発現を抑制していることがわかった。UPB1の直接のターゲットとなる遺伝子として166の候補が見出され、この中には3つのパーオキシダーゼ遺伝子(At4g11290 ; Per39At4g16270 ;Per40At5g17820 ;Per57 )が含まれていた。これらの遺伝子はubp1-1 で発現量が高く、UPB1 を恒常的に発現させた個体では発現量が低下していた。また、Per57 を恒常的発現させた形質転換体は、upb1-1 ほどではないが分裂組織が野生型よりも大きくなっていた。よって、UPB1の直接の制御を受けているパーオキシダーゼは根の成長に相加的に作用している。upb1-1UPB1 過剰発現個体、野生型植物に対して、過酸化水素、過酸化水素スカベンジャー、パーオキシダーゼ阻害剤を与えた試験から、過酸化水素含量およびパーオキシダーゼによるその含量の調節が根の成長にとって重要であることがわかった。根の過酸化水素の分布を可視化したところ、野生型では過酸化水素はコルメラ細胞、側部根冠組織、維管束走行、伸長領域の表皮に多く、分裂領域は伸長領域よりも少ないことがわかった。upb1-1 では根の全域で過酸化水素が少なく、逆にUPB1 過剰発現個体では増加していた。よって、upb1-1 において増加しているパーオキシダーゼ活性は根の過酸化水素量を低下させている。また、スーパーオキサイドの分布を見ると、野生型では分裂領域に多く、upb1-1 では分裂領域、伸長領域ともに野生型よりも多くなっていた。したがって、過酸化水素とスーパーオキサイドは逆の分布を示し、両者の分布勾配が交差する領域が根の分裂領域と伸長領域の移行領域を決定していると考えられる。過酸化水素はUPB1 の発現を上昇させる作用があり、UPB1 の発現は活性酸素種によるフィードバック制御を受けていると考えられる。オーキシンやサイトカイニンはUPB1 の発現に影響しておらず、UPB1 はこれらのホルモン制御とは別個に分裂組織のサイズを制御しているものと思われる。以上の結果から、UPB1はパーオキシダーゼの発現を抑制することで根の活性酸素種の分布を調節し、細胞分裂から細胞伸長・分化への移行を制御していると考えられる。

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論文)SHORT-ROOT、SCARECROWは葉の成長も制御している

2010-11-14 16:10:18 | 読んだ論文備忘録

SHORT-ROOT and SCARECROW Regulate Leaf Growth in Arabidopsis by Stimulating S-Phase Progression of the Cell Cycle
Dhondt et al.  Plant Physiology (2010) 154:1183-1195.
doi:10.1104/pp.110.158857

シロイヌナズナのSHORT-ROOT(SHR)とSCARECROW(SCR)はGRASファミリーの転写因子で、根端分裂組織の幹細胞の維持に関与している。SHRは皮層と内皮を形成する非対称分裂と内皮細胞の運命特定に関与しており、SCRはSHRの直下において機能している。SHRSCR の機能喪失変異体では、静止中心が機能を失い、根の成長が抑制される。これらの変異体のシュートでは、葉の維管束鞘細胞層や胚軸、花茎の内皮に乱れが生じ、わい化して葉が小さくなる。これらの形態変化が根の成長抑制による二次的な影響なのか、ベルギー ゲント大学のInzé らは、shrscr 変異体の詳細な解析を行なった。shrscr 変異体の種子は正常に発芽するが、その後の成長は著しく阻害され、葉数と葉面積が減少する。変異体の根端分裂組織は完全に成長が止まっているのに対して、茎頂分裂組織の活性は部分的な阻害に留まっている。SHRSCR の発現は、成長過程ある若い葉全体で発現し、葉が拡張するにつれて発現部位が葉脈に限定される。SHR 遺伝子のコード領域にEn-1トランスポゾンが挿入されたshr-3 変異体では、トランスポゾンの転移によって根やシュートの成長が野生型と同等になる復帰突然変異体が出現する。その中で、根の部分のみトランスポゾン転移が起こり正常に根が成長するが、シュートでは転移が起こらずにわい化したままものが見られることがある。よって、シュートにおけるSHR の発現は、根の遺伝子型や表現型に関係なく、ロゼット葉の成長に必要であると考えられる。野生型植物芽生えの根を切り詰めると、葉の細胞のサイズと数が減少して葉が小さくなるが、shrscr 変異体では葉の細胞のサイズに変化は見られない。したがって、shrscr 変異体のシュートの表現型は根の成長低下が直接の原因ではなく、SHR/SCRの機能喪失による葉の細胞数の減少が引き起こしていると推測される。この細胞数の減少は、細胞分裂速度の減少によってもたらされており、shr 変異体では葉の成長の早い時期に細胞周期活性が低下していることが確認された。また、shrscr 変異体の葉では核内倍加も減少していた。葉においてSHRSCR によって発現制御を受ける遺伝子群をマイクロアレイによって網羅的に解析したところ、shrscr 変異体の両方でオーキシン応答、ブラシノステロイド応答、クロマチン構築関係の遺伝子群の発現が低下し、フラボノイド生合成、生物/非生物ストレス応答、アブシジン酸関連の遺伝子群の発現が増加していた。shrscr 変異体の葉は、細胞周期のS期にある細胞が多く、S期のマーカー遺伝子のヒストンH4 遺伝子の発現量が高く、M期のマーカーであるCYCB1;1 の発現量が低かった。よって、SHR、SCRは、葉において、根と同様に、細胞周期の制御に関与していると考えられる。

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論文)CLAVATA3シグナル伝達に関与する第3の受容体型キナーゼ

2010-11-11 05:48:17 | 読んだ論文備忘録

RPK2 is an essential receptor-like kinase that transmits the CLV3 signal in Arabidopsis
Kinoshita et al.  Development (2010) 137:3911-3920.
doi:10.1242/dev.048199

茎頂分裂組織(SAM)の幹細胞は、ホメオドメイン転写因子WUSCHEL(WUS)とCLAVATA3 (CLV3 )のコードする分泌ペプチドによる負のフィードバックループによって維持されている。茎頂分裂組織において機能しているCLV3ペプチド受容体として、ロイシンリッチリピート(LRR)受容体型キナーゼ(RLK)のCLV1と、LRR受容体のCLV2と膜貫通キナーゼCORYNE(CRN)/SUPPRESSOR OF LLP2(SOL2)から構成される複合体の2種類が知られている。これらのCLV3受容体は相加的に作用していることが機能喪失変異体の解析から明らかにされているが、2つの受容体の二重変異体の表現型はclv3 変異体の表現型に比べると弱いことから、CLV3受容体がCLV1、CLV2-CRN/SOL2以外にも存在することが推測されている。東京大学の澤らは、CLV3シグナル伝達に関与する新規因子を単離することを目的にシロイヌナズナのEMS処理変異体集団から合成CLV3ペプチド(MCLV3)に対する感受性が低下した変異体clv3 peptide insensitivecli )の選抜を行なった。得られた変異体のうち強いMCLV3抵抗性を示すcli1 変異体について詳細な解析を行なった。cli1 変異体はMCLV3存在下で茎頂分裂組織が活性を維持しており、抽だいが誘導された。また、clv2 変異体やcrn /sol2 変異体と同様にMCLV3存在下での根の伸長抑制を起こさなかった。よって、CLI1CLV2CRN /SOL2 と同様にMCLV3を介したシュートと根の分裂組織のサイズを制御するシグナルに関与していると考えられる。マップベースクローニングにより、cli1 変異の原因遺伝子は、以前にRCEPTOR-LIKE PROTEIN KINASE 2RPK2 )もしくはTOADSTOOL 2TOAD2 )として報告されているLRR-RLKをコードする遺伝子At3g02130 に1塩基置換が生じ、翻訳産物のAPT結合部位がアミノ酸置換したものであることがわかった。rpk2 変異体は、MCLV3を添加しない条件では花に形態異常が生じるが、それ以外には際立った変化は示さなかった。RPK2 は花序分裂組織、花分裂組織、花器官原器、根端分裂組織で発現していた。茎頂分裂組織でのRPK2 の発現を詳細に観察すると、周辺部での発現が強く、中央帯での発現は弱かった。RPK2 を35Sプロモーターで過剰発現させた個体は、茎頂分裂組織の発達が遅れ、根端分裂組織が小さくなって根が短くなり、しばしば花に異常が見れるといったCLV3 過剰発現個体やwus 変異体で観察されるものと同じような表現型を示した。RPK2 過剰発現個体の形態異常の程度は、RPK2 の発現量と一致していた。rpk2 変異体茎頂分裂組織でのCLV3WUS の発現量は野生型とそれほど大きな差は見られなかった。CLV1、CLV2とRPK2の関係を調べるために、それぞれの単独、二重、三重変異体の茎頂分裂組織の形状を比較した。その結果、変異が多重になるにつれて茎頂分裂組織が肥大し、帯化するものが現れるようになった。また、clv1 clv2 rpk2 三重変異体の表現型はclv3 変異体と似たものになっていた。変異体の花分裂組織の形態異常に関しても、rpk2clv1clv2 と相加的に作用していた。RPK2 のCLV3-WUS シグナル系における位置について解析したところ、WUSRPK2 に対して上位に位置していることがわかった。生化学的な解析から、RPK2タンパク質はCLV1複合体やCRN/SOL2-CLV2複合体とは別個にホモオリゴマーを形成することが確認された。以上の結果から、PRK2はCLV3シグナル伝達に関与する第3の経路を構成していると考えられる。PRK2がCLV3ペプチドを受容するかの詳細な解析は行なっていないが、おそらく、CLV3を含む複数のCLEペプチドを受容するものと思われる。

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論文)葉の向背軸性を制御するDof転写因子

2010-11-09 06:08:36 | 読んだ論文備忘録

The DOF transcription factor Dof5.1 influences leaf axial patterning by promoting Revoluta transcription in Arabidopsis
Kim et al.  The Plant Journal (2010) 64:524-535.
doi: 10.1111/j.1365-313X.2010.04346.x

韓国 明知大学校のChoi らは、シロイヌナズナのT-DNA挿入アクティベーションタギング集団の中から葉が上向きにカールする変異体を得た。T-DNAの挿入部位とその近傍に位置する遺伝子の発現から、Dof転写因子ファミリーのDof5.1 (At5g02460)の発現量が増加いていることがわかった。Dof5.1 を薬剤誘導プロモーター制御下で発現させた植物体は、薬剤処理後に展開した葉が上向きにカールした。また、C末端側活性化ドメインを欠いたDof5.1タンパク質を恒常的に発現させた植物体は、葉が細くなり、下向きにカールした。T-DNA挿入によりDof5.1 の発現量が増加したDof5.1-D 変異体の葉の表皮細胞は表裏とも細胞の大きさが同じとなり、向軸側の表皮細胞は背軸側に比べて細胞の並びが不規則になっていた。Dof5.1-D 変異体の葉の断面を見ると、向軸側の細胞は不規則に分布し、背軸側の細胞は密に詰まっていた。このような異常な表現型は、葉柄断片においても観察され、木部細胞が中央部に集中していた。よって、Dof5.1-D 変異体の葉が上向きにカールする表現型は葉の極性が変化したことによって生じたと考えられ、これがさらに維管束形成層の発達にも影響を及ぼしているものと思われる。このような、葉や維管束の形態変化は局所的なオーキシンの生合成や分布の影響を受けていることが考えられたので、Dof5.1-D 変異体でのオーキシン輸送や応答に関与している遺伝子の発現を見たところ、IAA6 およびIAA19 の発現量が低下しており、Dof5.1-D 変異体でオーキシン応答プロモーターDR5 によりレポーター遺伝子(GFPGUS )を発現させてもレポーターの発現量は野生型よりも低いことがわかった。Dof5.1-D 変異体をオーキシン処理するとIAA6IAA19 や導入したレポーターの発現量が増加することから、Dof5.1-D 変異体では内生オーキシン量が低下していると考えられる。Dof5.1 の発現はオーキシンやオーキシン輸送阻害剤N -1-ナフチルフタラミン酸(NPA)で処理をしても変化せず、野生型と各種オーキシン関連変異体(massugu1arf7nph4arx6 )で発現量に差が見られなかった。Dof5.1 はすべての組織で恒常的に発現しており、維管束組織で強い発現が見られた。Dof5.1 の発現と葉の極性の制御との関係を調査するために、葉の向背軸極性を制御しているクラスⅢホメオドメイン/ロイシンジッパー(HD-ZIPⅢ)遺伝子群の発現を見たところ、Dof5.1-D 変異体およびDof5.1 を薬剤誘導プロモーター制御下で発現させた植物体でREVOLUTAREV )/IFL1 の発現量が増加していた。REV 遺伝子のプロモーター領域にはDof転写因子の結合することが推測される逆方向反復配列(TAAAGTとACTTTA)が存在し、Dof5.1タンパク質がこの配列と結合することが確認された。また、Dof5.1は生体内において核に局在し、REV プロモーターに結合して転写を活性化することが確認された。REVの機能はmiR165 /166 によって転写後に、ZPRタンパク質によって翻訳後に負の制御を受けることが知られており、miR165 もしくはZPR4Dof5.1-D 変異体で恒常的に発現させると葉が上向きにカールする表現型が消失した。以上の結果から、Dof5.1はREV の発現を活性化してmiR165 やZPRタンパク質とは別の経路によって葉の向背軸性を制御していることが示唆される。

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論文)サリチル酸のジャスモン酸に対する拮抗作用

2010-11-07 17:30:05 | 読んだ論文備忘録

Salicylate-mediated suppression of jasmonate-responsive gene expression in Arabidopsis is targeted downstream of the jasmonate biosynthesis pathway
Leon-Reyes et al.  Planta (2010) 232:1423-1432.
DOI:10.1007/s00425-010-1265-z

ジャスモン酸(JA)とサリチル酸(SA)は病害応答や虫害応答の誘導を制御しており、両者のシグナルは互いに交流して防御応答の調節を行なっている。SAはJAシグナルと拮抗し、JA応答遺伝子のPDF1.2VSP2 の発現や、JA生合成経路の酵素をコードする遺伝子の発現を抑制する。よって、SAによるJA生合成の抑制がJAシグナルの拮抗作用をもたらしているとも考えられる。そこで、オランダ ユトレヒト大学のPieterse らは、JA生合成経路の鍵酵素であるアレンオキシド合成酵素(AOS)が機能喪失したシロイヌナズナ変異体aos /dde2 を用いてSAのJAシグナル拮抗作用を解析した。aos /dde2 変異体は、黒すす病菌(Alternaria brassicicola )を感染させてもPDF1.2 の発現誘導が起こらないが、変異体をメチルジャスモン酸(MeJA)処理すると発現が誘導された。また、aos /dde2 変異体はモンシロチョウ(Pieris rapae )幼虫の食害を受けてもVSP2 の発現が誘導されなかったが、MeJA処理では発現量が増加した。野生型植物、aos /dde2 変異体ともにMeJA処理によってPDF1.2 の発現や誘導され、SA処理によってPR-1 の発現が誘導されたが、MeJAとSAを同時に与えると、PDF1.2 の発現はどちらの植物体においても抑制され、PR-1 の発現誘導には変化が見られなかった。よって、SAによるJA応答遺伝子の発現抑制は、SAによるJA生合成の抑制とは別に引き起こされている。

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論文)イネのジベレリン生合成を制御する因子

2010-11-05 05:59:50 | 読んだ論文備忘録

Identification and characterization of dwarf 62, a loss-of-function mutation in DLT/OsGRAS-32 affecting gibberellin metabolism in rice
Li et al.  Planta (2010) 232:1383-1396.
DOI:10.1007/s00425-010-1263-1

イネのわい性突然変異体はこれまでに60以上報告されており、その多くがジベレリン(GA)もしくはブラシノステロイド(BR)に関連した変異体である。中国 浙江大学のShi らは、インディカイネ品種93-11のγ線照射によって得られたわい性変異体d62 について解析を行なった。d62 変異体の表現型は4葉期以降に出現し、出穂期には野生型の66%程度の草丈となっている。変異体のすべての節間が野生型より短いが、第1(最も上)、第2節間はわい化の程度が低い。分けつ数が少なく、出穂が遅く不揃いで、一部雄性不稔が生じる。葉身は短く幅広で、先端が丸みを帯び、出穂期には皺の入った葉身が見られることがある。穂は小さくて花軸が短く、籾長が短く籾幅が広くなり、腹白米となる。また、d62 変異体は野生型よりも根が短い。d62 変異は、Os06g0127800 遺伝子のORFの中ほどに2塩基の欠損が生じており、D62 遺伝子はBRシグナルの正の制御因子として以前に報告されているDWARF AND LOW-TILLERINGDLT )/OsGRAS-32 と同じものであった。D62タンパク質はGRASファミリーに属するが、DELLA、DELLA-like、SCARECROW(SCR)とは異なるグループに分類される。D62 遺伝子は葉、茎、根、穂で発現しており、根での発現量は他組織よりも低い。d62 変異体は、半切無胚種子のGA3によるα-アミラーゼ生産量が減少していたが、GA3による芽生えシュートの伸長は野生型と同等であった。よって、d62 変異はGA経路に関連した変異であるが、わい性の表現型はGAシグナルとは別の要因によって引き起こされていると思われる。d62 変異体芽生えはGA1含量が野生型よりも低く、GA生合成に関与する酵素遺伝子の発現量を見たところ、GAによって負のフィードバック制御受けているOsGA20ox2 /SD1 の発現量が野生型に比べて増加しており、OsGA3ox2 /D18 の発現量は変化していなかった。また、GAによる制御受けないOsCPS1OsKS1OsKO1OsKAO の発現量も増加していた。さらに、GA不活性化酵素のOsGA2ox3 の発現量も増加していた。以上の結果から、D62 はGA生合成酵素をコードする遺伝子の発現制御に関していると考えられる。D62DLT/OsGRAS-32 )の変異体はBR非感受性となることが報告されていることから、D62 はイネにおいてGAとBRのクロストークに関与する因子として機能しているのかもしれない。

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