PIN-LIKES Coordinate Brassinosteroid Signaling with Nuclear Auxin Input in Arabidopsis thaliana
Sun et al. Current Biology (2020) 30:1579-1588.
doi:10.1016/j.cub.2020.02.002
PIN-LIKES(PILS)タンパク質は小胞体膜に局在する細胞内オーキシンキャリアーで、核内のオーキシン量とオーキシンシグナル伝達を負に調節していると考えられている。オーストリア 天然資源および応用生命科学大学 (BOKU) のKleine-Vehn らは、恒常的にPILS5 を発現させたシロイヌナズナ(PILS5OE )をEMS処理してPILS5OE の表現型が変化した変異体を複数単離した。暗所で育成したPILS5OE 芽生えの胚軸は、短く、重力屈性がやや低下し、茎頂フックが早期に開く。imperial pils 1 (imp1 )変異体は、PILS5OE 芽生え胚軸の表現型が強まり、明所育成芽生えの主根の伸長が抑制されていた。imp1 変異は、ブラシノステロイド(BR)受容体BRASSINOSTEROID INSENSITIVE 1 (BRI1 )の一塩基置換によりアミノ酸置換(G644S)が生じたものであった。交雑によりPILS5OE を除去したbri1imp1 変異体の暗所育成芽生え胚軸はPILS5OE と類似した表現型を示し、imp1 変異はPILS5OE の表現型を強めていることが確認された。bri1imp1 変異体はBR処理に対して強い耐性を示し、BRシグナル伝達に異常があると考えられる。bri1 変異体でPILS5 を過剰発現させると、imp1;PILS5OE と類似した表現型を示した。PILS 遺伝子のプロモーター領域にはBRシグナル伝達に関与する転写因子のBRASSINAZOLE-RESISTANT 1(BZR1)、BZR2が結合するモチーフがあり、BZR1はPILS5 の発現を負に制御していることがわかった。また、BRシグナルはPILSタンパク質量を減少させることが確認された。したがって、BRシグナルはPILSの機能を転写段階と転写後段階で低下させていると考えられる。高温はPILSタンパク質量を減少させ、オーキシンの核への流入が増加して主根の成長が促進されることが知られている。また、BRI1を介したBRシグナルも高温による根の成長促進をもたらす。bri1 変異体とPILS5OE の芽生えは野生型よりも根が短いが、温度上昇による根の伸長促進の程度は野生型よりも大きかった。また、bri1imp1 変異体での高温によるPILS5タンパク質の減少は野生型よりも少なくなっていた。よって、BRシグナルは温度上昇によるPILSタンパク質の減少に関与している。BRによるPILS の発現とPILSタンパク質の減少は、核内のオーキシン量とオーキシンシグナルの増加をもたらしていた。pils2 pils3 pils5 三重変異体芽生えの根は、BR処理による伸長抑制に対する感受性が高く、PILS5OE の根は感受性が低くなっていた。このうようなBR感受性の変化は暗所育成芽生えの胚軸伸長においても観察された。以上の結果から、PILSタンパク質は、ブラシノステロイドシグナルとオーキシン作用を統合する因子として機能していると考えられる。