Laboratory ARA MASA のLab Note

植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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論文)PIN-LIKESによるブラシノステロイドとオーキシンのクロストーク

2020-05-27 06:51:29 | 読んだ論文備忘録

PIN-LIKES Coordinate Brassinosteroid Signaling with Nuclear Auxin Input in Arabidopsis thaliana
Sun et al.  Current Biology (2020) 30:1579-1588.

doi:10.1016/j.cub.2020.02.002

PIN-LIKES(PILS)タンパク質は小胞体膜に局在する細胞内オーキシンキャリアーで、核内のオーキシン量とオーキシンシグナル伝達を負に調節していると考えられている。オーストリア 天然資源および応用生命科学大学 (BOKU)Kleine-Vehn らは、恒常的にPILS5 を発現させたシロイヌナズナ(PILS5OE )をEMS処理してPILS5OE の表現型が変化した変異体を複数単離した。暗所で育成したPILS5OE 芽生えの胚軸は、短く、重力屈性がやや低下し、茎頂フックが早期に開く。imperial pils 1imp1 )変異体は、PILS5OE 芽生え胚軸の表現型が強まり、明所育成芽生えの主根の伸長が抑制されていた。imp1 変異は、ブラシノステロイド(BR)受容体BRASSINOSTEROID INSENSITIVE 1BRI1 )の一塩基置換によりアミノ酸置換(G644S)が生じたものであった。交雑によりPILS5OE を除去したbri1imp1 変異体の暗所育成芽生え胚軸はPILS5OE と類似した表現型を示し、imp1 変異はPILS5OE の表現型を強めていることが確認された。bri1imp1 変異体はBR処理に対して強い耐性を示し、BRシグナル伝達に異常があると考えられる。bri1 変異体でPILS5 を過剰発現させると、imp1;PILS5OE と類似した表現型を示した。PILS 遺伝子のプロモーター領域にはBRシグナル伝達に関与する転写因子のBRASSINAZOLE-RESISTANT 1(BZR1)、BZR2が結合するモチーフがあり、BZR1はPILS5 の発現を負に制御していることがわかった。また、BRシグナルはPILSタンパク質量を減少させることが確認された。したがって、BRシグナルはPILSの機能を転写段階と転写後段階で低下させていると考えられる。高温はPILSタンパク質量を減少させ、オーキシンの核への流入が増加して主根の成長が促進されることが知られている。また、BRI1を介したBRシグナルも高温による根の成長促進をもたらす。bri1 変異体とPILS5OE の芽生えは野生型よりも根が短いが、温度上昇による根の伸長促進の程度は野生型よりも大きかった。また、bri1imp1 変異体での高温によるPILS5タンパク質の減少は野生型よりも少なくなっていた。よって、BRシグナルは温度上昇によるPILSタンパク質の減少に関与している。BRによるPILS の発現とPILSタンパク質の減少は、核内のオーキシン量とオーキシンシグナルの増加をもたらしていた。pils2 pils3 pils5 三重変異体芽生えの根は、BR処理による伸長抑制に対する感受性が高く、PILS5OE の根は感受性が低くなっていた。このうようなBR感受性の変化は暗所育成芽生えの胚軸伸長においても観察された。以上の結果から、PILSタンパク質は、ブラシノステロイドシグナルとオーキシン作用を統合する因子として機能していると考えられる。

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論文)MYC転写因子による光形態形成制御

2020-05-23 08:16:39 | 読んだ論文備忘録

The JA‐pathway MYC transcription factors regulate photomorphogenic responses by targeting HY5 gene expression
Ortigosa et al.  Plant Journal (2020) 102:138-152.

doi: 10.1111/tpj.14618

bHLH型転写因子のMYC(MYC2、MYC3、MYC4、MYC5)は、ジャスモン酸(JA)を介した病虫害防御応答や成長制御で重要な役割を果たしている。最近、MYCタンパク質は暗所で分解が促進されることが報告され、このことからMYCは光形態形成に関与していることが推測されている。スペイン国立バイオテクノロジーセンターSolano らは、白色光下で育成したmyc2 変異体やmyc3 変異体芽生えの胚軸は野生型よりも長くなり、この表現型は三重変異体(mycTmyc2myc3myc4 )や四重変異体(mycQmyc2myc3myc4myc5 )で強くなることを見出した。この表現型は赤色光下において強く現れた。phyB 変異体芽生えの胚軸は野生型よりも長くなるが、MYC2 を過剰発現させることで伸長が抑制された。これらの結果らか、MYCsはPhyBの下流で光に応答した胚軸伸長を制御していることが示唆される。coi1 変異体芽生えの胚軸伸長は野生型と同等であることから、MYCsによる胚軸伸長制御はCOI1とは独立していると考えられる。白色光照射したmycT 変異体と野生型との間で発現量の異なる遺伝子を解析したところ、mycT で発現量が減少する遺伝子の半数以上は赤色光で発現誘導され、遠赤色光で発現抑制される遺伝子であった。そのような遺伝子の中に光形態形成性の正の制御因子として機能するHY5 が含まれており、HY5 遺伝子のプロモーター領域にはMYC結合部位が存在していた。mycT 変異体ではHY5 の発現量が減少しており、MYCsはHY5 の発現を活性化していた。以上の結果から、MYC転写因子はHY5 の発現を直接活性化することで光形態形成を制御していることが示唆される。

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論文)光シグナルによる葉の老化制御

2020-05-20 07:40:32 | 読んだ論文備忘録

Arabidopsis FAR-RED ELONGATED HYPOCOTYL3 Integrates Age and Light Signals to Negatively Regulate Leaf Senescence
Tian et al.  Plant Cell (2020) 32:1574-1588.

DOI:10.1105/tpc.20.00021

光シグナルは葉の老化を制御しており、低光強度や遠赤色(FR)光は老化を促進し、強光強度や赤色(R)光は老化を阻害する。しかしながら、光シグナルによる葉の老化制御機構については明らかとなっていない。中国 山東農業大学のLi らは、シロイヌナズナの光シグナル伝達経路関連の様々な変異体を長日条件で育成して葉の老化を観察、フィトクロムAを介したFR光シグナル伝達に関与しているFAR-RED ELONGATED HYPOCOTYL3(FHY3)の変異体fhy3 は野生型よりも様々な成長段階で葉の老化が促進されることを見出した。fhy3 変異体では、老化のマーカー遺伝子であるSAG13PR1 の転写産物量が増加しており、光合成関連遺伝子LHCB4;1 の転写産物量が減少していた。よって、FHY3は齡に応じた葉の老化を負に制御していることが示唆される。FHY3 とそのホモログであるFAR-RED IMPAIRED RESPONSE1FAR1 )の変異体は、強光や低R:FR比光条件での葉の老化が野生型よりも促進された。よって、FHY3、FAR1は光条件による葉の老化制御において重要であると考えられる。また、FHY3FAR1 の変異体はメチルジャスモン酸(MeJA)やサリチル酸(SA)処理による葉の老化誘導も促進された。fhy3 far1 二重変異体と野生型のロゼット葉での遺伝子発現解析から、2240の老化関連遺伝子がFHY3、FAR1による発現制御を受けていることが判明した。ChIP-seq解析から、FHY3の直接のターゲット遺伝子のうち95遺伝子が老化に関連していると推測され、その中にはWRKY28 が含まれていた。WRKY28 遺伝子のプロモーター領域にはFHY3、FAR1が結合するシスエレメント(FBS; CACGCGC)が2箇所有り、FHY3はこのエレメントに直接結合してWRKY28 の発現を阻害することが判った。CRISPR-Cas9でWRKY28 をノックアウトしたwrky28 系統は野生型よりも長日条件での葉の老化が遅延し、WRKY28 過剰発現系統(WRKY28-ox )は葉の老化が促進された。よって、WRKY28 は葉の老化を正に制御していることが示唆される。fhy3 wrky28 の葉の老化は野生型と同等になり、SAG12 の発現量が減少してLHCB4;1 の発現量が増加していた。fhy3 変異体はSA生合成遺伝子やSA応答遺伝子の発現量が高いが、fhy3 wrky28 では低下していた。fhy3 変異体にSA生合成酵素遺伝子SA INDUCTION DEFICIENT2SID2 )の変異を導入したり、SAを不活性化する酵素遺伝子SA-3-HYDROXYLASES3H )を過剰発現させることで老化促進が抑制された。SID2 遺伝子はWRKY28の直接のターゲットであり、WRKY28-ox はSAが誘導する葉の老化が強く現れた。これらの結果から、FHY3はWRKY28 の発現を抑制することでSA生合成やSA応答によって誘導される葉の老化阻害していることが示唆される。fhy3 変異体やWRKY28-ox は、低R:FR比光よりも高R:FR比光を照射した際に葉の老化が促進された。以上の結果から、FHY3、FAR1は、サリチル酸生合成を促進するWRKY28 の発現を抑制することで、齡や光によって誘導される葉の老化を負に制御していると考えられる。

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論文)ジベレリンによる腋芽形成の抑制

2020-05-17 07:59:14 | 読んだ論文備忘録

Gibberellin repression of axillary bud formation in Arabidopsis by modulation of DELLA-SPL9 complex activity
Zhang et al.  Journal of Integrative Plant Biology (2020) 62:421-432.

doi: 10.1111/jipb.12818

腋芽形成には様々植物ホルモンが関与しており、最近の研究から、ジベレリン(GA)は腋芽形成を負に制御することが示唆されている。しかしながら、その機構については明らかとなっていない。中国 山東大学Fan らは、シロイヌナズナをGA処理することでロゼット葉の葉腋からの腋芽形成が阻害されること、GAシグナル伝達の抑制因子であるDELLAの五重変異体della-p は腋芽形成が強く抑制されること、GA欠損変異体ga1 は腋芽形成が促進されることを見出した。ga1 変異体では腋芽形成を誘導する転写因子LATERAL SUPPRESSORLAS )の発現量が増加しており、della-p 変異体では減少していた。これらの結果から、GAはLAS の発現を抑制することで腋芽形成を阻害していると考えられる。マイクロRNA miR156のターゲットとなるsquamosa promoter binding protein-like転写因子のSPL9は、DELLAタンパク質と相互作用をする。miR165を過剰発現させた系統は腋芽形成が増加し、miR156耐性型のSPL9rSPL9 )を発現させた系統では腋芽が減少した。しかし、rSPL9 発現系統でRGA を発現させることで腋芽形成は野生型と同等になった。よって、DELLAタンパク質はSPL9と相互作用をすることで腋芽形成を制御していることが示唆される。SPL9はLAS 遺伝子のプロモーター領域に結合することが報告されている。rSPL9 を発現させた系統ではLAS 発現量が減少したが、GA生合成阻害剤パクロブトラゾール(PAC)処理や、RGA を発現させることでLAS の発現が回復した。よって、SPL9はLAS プロモーター領域に結合して転写を抑制しており、DELLAはSPL9のDNA結合を阻害していると考えられる。las 変異体ではGAを不活性化するGA 2-オキシダーゼ4をコードする遺伝子(GA2ox4 )の発現量が減少しており、LASはGA2ox4 遺伝子のプロモーター領域に結合して発現を活性化することが確認された。これらの結果から、LASはGA2ox4 の発現を誘導することで腋芽形成領域のGA含量を低下させていることが考えられる。そこで、GA合成酵素遺伝子のGA20ox2 を葉腋特異的プロモーター制御下で発現する形質転換体を作出したところ、この系統では腋芽形成が抑制された。以上の結果から、DELLA-SPL9-LAS-GA2ox4によるフィードバックモジュールが葉腋のGA含量を調節して腋芽形成を制御していると考えられる。

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論文)AT-Hook転写因子による葉柄伸長制御

2020-05-14 06:09:16 | 読んだ論文備忘録

AT-Hook Transcription Factors Restrict Petiole Growth by Antagonizing PIFs
Favero et al.  Current Biology (2020) 30:1454-1466.

doi:10.1016/j.cub.2020.02.017

理化学研究所 環境資源科学研究センターのFavero らは、シロイヌナズナAT-hook motif nuclear-localized(AHL)転写因子のSUPPRESSOR OF PHYTOCHROME B4-#3(SOB3/AHL29)は葉柄の伸長に対して抑制的に作用することを見出した。この作用はSOB3と類似性の高いESCAROLA(ESC/AHL27)においても観察された。AHLsによる葉柄伸長の制御は、細胞増殖と細胞伸長に影響することによって引き起こされていた。AHLsはストレス応答に関する遺伝子の発現を活性化し、成長に関連する遺伝子の発現を抑制しており、転写の活性化と抑制の両方の因子として機能しうることが判った。DREMEによる転写因子結合サイト解析を行なったところ、最もスコアの高いモチーフはTCP転写因子の結合モチーフに類似した「GGHCCA」であり、2番目にMYCやPHYTOCHROME INTERACTING FACTOR(PIF)といったbHLH型転写因子の結合モチーフと類似した「CACRYG」が見出された。このうちPIFsはオーキシンシグナル伝達を活性化することで葉柄伸長を促進することが知られている。pif4 pif5 pif7 三重変異体のRNA-seq解析から、PIFによって発現誘導される遺伝子の約40%はAHLによって発現抑制され、PIFによって発現抑制される遺伝子の43%はAHLによって発現誘導されることが判った。そして、ChIP-seqデータから、SOB3とPIFはターゲット遺伝子のよく似たDNA領域に結合することが示された。SOB3とPIFが結合し、PIFが発現誘導、SOB3が発現抑制する遺伝子を34個同定し、この中には成長や植物ホルモン応答に関連した遺伝子が含まれていた。sob3 機能喪失変異体は葉柄が長くなり、pif4 機能喪失変異体は葉柄が短くなるが、sob3 pif4 二重変異体はpif4 変異体と同じ表現型を示した。したがって、SOB3はPIFによって活性化される遺伝子の転写を拮抗的に抑制することで葉柄の伸長を制御していることが示唆される。SOB3とPIF4は物理的相互作用を示さないが、SOB3はPIF4のターゲット遺伝子への結合を阻害することが判った。以上の結果から、SOB3はPIFがターゲットとする成長促進に関連した遺伝子に結合することでPIFによる転写活性化を拮抗的に阻害し、葉柄伸長を抑制していると考えられる。

理化学研究所のプレスリリース

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論文)分枝形成制御における光シグナルとストリゴラクトンシグナルの統合

2020-05-11 07:02:30 | 読んだ論文備忘録

Arabidopsis FHY3 and FAR1 integrate light and strigolactone signaling to regulate branching
Xie et al.  Nature Communications (2020) 11:1955.

doi:10.1038/s41467-020-15893-7

シロイヌナズナZinc-finger型転写活性化因子のFAR-RED ELONGATED HYPOCOTYL 3(FHY3)とそのホモログのFAR-RED IMPAIRED RESPONSE 1(FAR1)はフィトクロムAを介した光シグナル伝達に関与しているが、両者が植物の分枝の正の制御因子として機能していることが報告されている。植物の分枝は、植物ホルモンのストリゴラクトン(SL)や赤色光/遠赤色光(R/FR)比が低い光条件で抑制されるが、SLと光シグナルとの関連は明らかとなっていない。中国 華南農業大学Wang らは、fhy3 変異体、fhy3 far1 二重変異体、FHY3 過剰発現個体(FHY3-OE )に毎日明期の終わりにFR光処理(EOD-FR)をしてロゼットからの分枝形成を観察した。その結果、EOD-FR処理はロゼット分枝形成を抑制したが、FHY3-OE は野生型よりも抑制の程度が強く、fhy3 変異体、fhy3 far1 二重変異体は抑制が弱いことがわかった。EOD-FR処理は、FHY3FAR1 の発現量を低下させ、FHY3タンパク質の26Sプロテアソーム系による分解を促進した。植物特異的SQUAMOSA PROMOTER BINDING PROTEIN-LIKE(SPL)転写因子のSPL9、SPL15は、TCPファミリー転写因子をコードするBRANCHED 1BRC1 )の発現量を高め、分枝を抑制する。FHY3/FAR1はSPL9/SPL15と相互作用をして、SPL9/SPL15のBRC1 遺伝子プロモーター領域への結合を阻害することが判った。SLシグナル伝達の抑制因子として機能しているSUPPRESSOR OF MORE AXILLARY GROWTH2-LIKE(SMXL)タンパク質のSMXL6/7/8は、SPL9/SPL15と相互作用をすることが確認された。SMXL6/7/8はSPL9/SPL15のBRC1 遺伝子プロモーター領域への結合には影響しないが、転写活性化活性を阻害した。FHY3/FAR1はSMXL6/7/8と相互作用をしないが、SMXL6/7 遺伝子の第1エクソンに結合して発現量を高めた。FHY3/FAR1、SMXL6/7/8は、BRC1 の発現やBRC1の活性には直接影響していなかった。以上の結果から、FHY3/FAR1は、SPL9/SPL15のBRC1 遺伝子プロモーター領域への結合を阻害することと、SMXL6/7 遺伝子の発現量を高めることで、分枝形成を促進しており、光シグナルとSLシグナルを統合する因子として機能していると考えられる。

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論文)HY5によるBIN2キナーゼの活性化

2020-05-09 06:32:45 | 読んだ論文備忘録

Modulation of BIN2 kinase activity by HY5 controls hypocotyl elongation in the light
Li et al.  Nature Communications (2020) 11:1592.

doi:10.1038/s41467-020-15394-7

ブラシノステロイド(BR)は、シロイヌナズナ芽生えの胚軸伸長を促進する。BR受容体BR INSENSITIVE 1(BRI1)の変異体bri1-5 はわい性を示すが、フィトクロムB(phyB)の変異を導入するとわい化が部分的に回復する。よって、BRシグナルと光シグナルはクロストークしていることが示唆される。中国 北京大学Deng らは、BRシグナル伝達の負の制御因子として機能するGSK3キナーゼのBRASSINOSTERO-IDINSENSITIVE 2(BIN2)およびそのホモログのBIN2-Like1(BIL1)、BIL2は、光形態形成を促進するbZIP型転写因子のELONGATED HYPOCOTYL 5(HY5)と相互作用をすることを見出した。明所で育成したhy5 変異体芽生えは野生型よりも胚軸が伸長するが、BIN2 の機能獲得変異bin2-1 を導入することで胚軸伸長が抑制された。また、HY5 過剰発現系統(HA-HY5 )にBIN2 およびBIN2 ホモログの機能喪失三重変異bin2-3bil1bil2 を導入した芽生え、BIN2阻害剤のビキニン(BK)処理をしたHA-HY5 芽生えは、HA-HY5 よりも胚軸が伸長した。これらの結果から、BIN2は胚軸伸長制御においてHY5よりも上位で作用していると考えられる。BIN2は転写促進因子のBRASSINAZOLE-RESISTANT 1(BZR1)をリン酸化してBZR1のDNA結合を阻害し分解を促進している。hy5 変異体にBZR1 とそのホモログのBES1 の二重変異を導入したhy5bzr1bes1 三重変異体芽生えの胚軸はhy5 変異体よりも短くなることから、BZR1は胚軸伸長制御においてHY5の下流で作用していると考えられる。hy5 変異体はBZR1タンパク質量が野生型よりも増加しているが、この増加はbin2-1 変異が導入されることで抑制された。また、HA-HY5 系統ではBZR1タンパク質量が減少しており、この減少はbin2-3bil1bil2 三重変異の導入やBK処理によって抑制された。これらの結果から、HY5はBIN2に依存してBZR1の蓄積を負に制御していると考えられる。HY5はBIN2 の発現やBIN2とBZR1との相互作用には影響していないが、BIN2のキナーゼ活性を濃度依存的に高めていた。BIN2のキナーゼ活性にはY200残基の分子内リン酸化(pTyr200)が必要であり、HY5はこのリン酸化を促進していた。したがって、HY5-BIN2相互作用はBIN2の活性化にとって重要であると考えられる。芽生えに照射する光強度が高まるとHY5蓄積量が増加し、胚軸伸長が抑制される。この時、BZR1蓄積量は減少し、この減少はhy5 変異体では緩やかであった。また、野生型芽生えの光照射条件下でのBZR1リン酸化レベルはhy5 変異体よりも高くなっていた。以上の結果から、HY5は、転写因子としてではなく、相互作用によってBIN2を活性化しており、このことによってBZR1の分解が促進され、BRによる胚軸伸長が阻害されると考えられる。

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論文)乾燥ストレスによるトマト落花の誘導

2020-05-06 14:03:20 | 読んだ論文備忘録

Peptide signaling for drought-induced tomato flower drop
Reichardt et al.  Science (2020) 367:1482-1485.

DOI: 10.1126/science.aaz5641

未成熟の花や果実の器官脱離(落花、落果)は、養分の減少や乾燥、高温といった環境ストレスによって引き起こされる。これまで器官脱離の制御に関する研究は、トマトやシロイヌナズナを用いて行われてきており、トマトの研究からオーキシンやエチレンといった植物ホルモンによる制御、シロイヌナズナの研究からスブチリシン様セリンプロテアーゼ(スブチラーゼ)によって生成されるINFLORESCENCE DEFICIENT IN ABSCISSION(IDA)ペプチドによる器官脱離誘導が報告されている。ドイツ ホーエンハイム大学Schaller らは、様々なスブチラーゼを発現させた形質転換トマトを作出し、フィタスパーゼ 2(SlPhyt2)を過剰発現させたトマトにおいて未成熟器官の脱離が起こることを見出した。植物体に乾燥ストレスを与えたところ、SlPhyt2 過剰発現個体の落花は野生型よりも増加し、SlPhyt2 ノックダウン個体では減少していた。SlPhyt2 の発現は、乾燥ストレスを与えることで小花柄離層部分の植物本体側や葉の維管束で誘導された。また、オーキシン供給源である花を除去することで植物本体側離層部分でのSlPhyt2 の発現が誘導された。SlPhyt2 過剰発現個体では、器官脱離に関与しているポリガラクツロナーゼ(TAPG4 )の離層部分での発現が増加しており、ノックダウン個体では減少していた。一方、オーキシン応答遺伝子やエチレン遺伝子の発現量、エチレン発生量、エチレン前駆体のACC含量、小花柄切断面へのエチレン作用阻害剤1-メチルシクロプロペン(1-MCP)やオーキンの添加による器官脱離の遅延は、野生型と同等であった。よって、TAPG4 の発現はオーキシンやエチレンとは独立してSlPhyt2によって制御されていると考えられる。SlPhyt2の基質となるペプチドの探索を基質ライブラリーを用いて行なったところ、切断部直前のアミノ酸残基がAspで、その上流/下流が疎水性アミノ酸であるペプチドをSlPhyt2は特異的に切断することがわかった。そのような前駆体ペプチドとしては、傷害応答や植食性昆虫に対する防御に関与しているシステミンの前駆体と、植物の成長を制御しているファイトスルフォカイン(PSK)の前駆体の2種類があった。PSK前駆体をコードする遺伝子(SlPKS )はトマトに8種類あり、このうちの幾つかは離層部分で発現し、SlPKS1SlPKS6 は乾燥ストレスに応答してSlPhyt2 と共発現していた。バイオアッセイの結果、成熟PKSは小花柄の器官脱離とTAPG2TAPG4 の発現を誘導し、離層を不活性化状態にしている遺伝子の発現を低下させることが判った。以上の結果から、乾燥ストレスで誘導されるスブチリシン様プロテアーゼによって生成されたペプチドホルモンがトマトの未成熟の花や果実の器官脱離を引き越していると考えられる。

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