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Laboratory ARA MASA のLab Note

植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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論文)根毛伸長におけるストリゴラクトン、オーキシン、エチレンの相互作用

2011-05-31 20:16:47 | 読んだ論文備忘録

Strigolactones interact with ethylene and auxin in regulating root-hair elongation in Arabidopsis
Kapulnik et al.  Journal of Experimental Botany (2011) 62:2915-2924.
doi:10.1093/jxb/erq464

ストリゴラクトン(SL)は側根形成を抑制し、根毛の伸長を促進することが知れている。根毛伸長はオーキシンやエチレンによっても促進されるが、根毛伸長促進におけるこれらのホルモンとSLとの相互の関係は明らかではない。イスラエル国立農業研究所ボルカニセンターKoltai らは、シロイヌナズナSL非感受性変異体max2-1 芽生えをエチレン前駆体のACC処理をすると野生型と同様に根毛伸長が促進されることを見出した。よって、SLシグナルはエチレン応答に関与していない。しかし、エチレンシグナル欠損変異体のein2-1etr1-1 を合成SLのGR24処理すると、etr1-1 変異体では根毛伸長促進が抑制され、ein2-1 変異体ではGR24に対する応答性は示すがその程度は野生型よりも低くなった。また、GR24とエチレン生成阻害剤のAVGを同時に処理するとGR24による根毛伸長促進が抑制された。したがって、SLによる根毛伸長促進はエチレンシグナルが関与していると考えられる。さらに、GR24処理はシロイヌナズナの根で発現しているACC合成酵素(ACS)をコードするAt-acs2 の発現量を増加させることがわかった。以上の結果から、エチレンとSLは同じ経路によって根毛を伸長を制御しており、エチレンはSLよりも上位に位置していると思われる。max2-1 変異体のIAAに対する応答は野生型と同等であり、根毛伸長が促進された。よって、オーキシン応答にSLシグナルは関与していない。オーキシン受容体TIR1の機能喪失変異体tir1-1 はGR24に応答して根毛伸長を促進させるが、低濃度のGR24では根毛伸長の度合いが野生型よりも悪くなった。tir1-1 変異体のACC処理による根毛伸長促進は野生型と比較すると僅かに低下していることから、tir1-1 変異体の低濃度SLに対する感受性低下はACCに対する感受性低下が関連していると思われる。根毛伸長促進を起こさない濃度のIAAおよびGR24を同時に与えると根毛伸長促進が起こることから、SLとオーキシンは相加的に作用すると考えられる。オーキシンに対する感受性が低下したarf7arf19 二重変異体は根毛伸長促進においてオーキシンに応答しないが、GR24に対しての応答性は野生型よりも高まり、ACCに対しての応答性は野生型よりも低下していた。したがって、arf7arf19 二重変異体のSLに対する感受性はオーキシンシグナル伝達経路を介していないと言えるが、エチレンに対する感受性が低下していることから、この変異体ではエチレンシグナル伝達経路とは別のシグナルがSLによって活性化されて根毛伸長が促進されるものと思われる。以上の結果から、オーキシン、SL、エチレンは相互にクロストークして根毛伸長を制御しているものと思われる。

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論文)根とシュートの間の情報伝達

2011-05-28 17:40:58 | 読んだ論文備忘録

Gene expression analysis of wounding-induced root-to-shoot communication in Arabidopsis thaliana
Hasegawa et al.  Plant, Cell & Environment (2011) 34:705-716.
DOI: 10.1111/j.1365-3040.2011.02274.x

植物の器官の間のシグナル伝達は環境ストレス等に応答・適応する能力として重要である。金沢大学西内らは、シロイヌナズナ芽生えの根に傷害を与えてシュートにおいて発現量の変化する遺伝子(RtS )を網羅的に解析した。その結果、68のRtS 遺伝子が傷害を与えた初期(30分)に3倍以上に発現量が増加していることを見出した。これらの遺伝子にはジャスモン酸(JA)やエチレンによる全身抵抗性や病原体防御に関するものが含まれており、多くはERF、bHLH、MYBといった転写因子をコードしていた。また、JAZ 遺伝子(JAZ1JAZ2JAZ9 )も強く誘導されていた。これら初期RtS 遺伝子のプロモーター領域にはAACGTGやACGTGGといった配列が見られた。根への傷害はシュートにおけるJA生合成系やエチレン生合成系の遺伝子を活性化させており、これらのホルモンは根とシュートの間の情報伝達に関与していると考えられる。さらに、RtS 遺伝子にはカルモジュリン、カルシニューリンに関連した遺伝子、防御関連代謝産物の生合成に関与する遺伝子も含まれていた。68の初期RtS 遺伝子のうち36は葉に傷害を与えた際に発現上昇する遺伝子であり、32は植物体をJA処理した際に発現上昇する遺伝子であった。したがって、エチレン、JA等のシグナルも初期RtS 遺伝子の発現制御をしていると考えられる。根に傷害を与えた6時間後にシュートにおいて発現量が3倍以上上昇している後期RtS 遺伝子は5つあり、これらにはVSP のようなストレス応答遺伝子が含まれていた。VSP は12-オキソ-フィトジエン酸(OPDA)によって発現誘導されることが知られている。初期と後期の両方に含まれるRtS 遺伝子はVSP1 のみであり、多くの初期RtS 遺伝子は根の傷害によりシュートにおいて一過的に発現上昇するものであることが示唆される。また、後期RtS 遺伝子にはDFRANS といったフラボノイド生合成に関与する遺伝子が含まれており、根の傷害によるシュートでのフラボノイド合成は傷害から6時間以上経過してから行なわれるものと思われる。根の傷害によりシュートで発現量が2倍以上低下する遺伝子は、初期RtS 遺伝子として28、後期RtS 遺伝子として5つあった。根に傷害を与えた際のシュートのJAおよびOPDA量を調査したところ、JAは傷害30分後には高いレベルに達していたが6時間後には定常レベルに戻っていたのに対して、OPDAは傷害30分後では変化は見られないが6時間後には2倍程度に増加していた。よって、JAは初期RtS 遺伝子のOPDAは後期RtS 遺伝子の発現に関与していると考えられる。根に傷害を与えた際の根におけるJAやOPDAの量はほとんど変化せず、RtS 遺伝子の発現も誘導されなかった。よって、根とシュートの間の情報伝達は根で生産されたJAがシュートに輸送されるのではなく、シュートにおいてJAが新規合成されることによって行なわれていると考えられる。オキシリピン欠損変異体fad3fad7fad8 やJA欠損変異体opr3 では根の傷害による初期RtS 遺伝子の発現量増加が野生型よりも低く、JAは初期RtS 遺伝子の発現にとって重要であることが示唆される。エチレン非感受性変異体ein3 においてもWRKY18 といった一部の初期RtS 遺伝子の発現上昇が低下したが、MYB95 は逆に発現上昇が野生型よりも高くなっていた。以上の結果から、根が傷害を受けることで急激にシュートにおいて全身性のシグナルが起こり、このシグナルがJA、OPDA、エチレンの生産を介してRtS 遺伝子の発現を誘導するものと考えられる。

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論文)オーキシンによるブラシノステロイド生合成の促進

2011-05-26 19:42:55 | 読んだ論文備忘録

Auxin stimulates DWARF4 expression and brassinosteroid biosynthesis in Arabidopsis
Chung et al.  The Plant Journal (2011) 66:564-578.
doi: 10.1111/j.1365-313X.2011.04513.x

シロイヌナズナのブラシノステロイド(BR)生合成経路において、DWARF4(DWF4)の触媒する過程は律速段階となっており、DWF4 遺伝子は活発に成長している組織でのみ発現し、遺伝子の発現量とBR量との間には正の相関が見られる。韓国 ソウル大学校のChoe らは、DWF4 プロモーターの制御下でGUS を発現させるコンストラクトを導入した形質転換シロイヌナズナ芽生えを用いた実験から、2,4-DがDWF4 の発現を劇的に増加させ、ブラシノライド(BL)は発現を抑制することを見出した。2,4-Dによる発現増加は特に根端と側根において強く見られた。DWF4 プロモーターはオーキシンの化学構造に関係なくIAAやNAAによっても発現誘導を起こし、添加するIAA濃度に応じてGUS活性が増加した。DWF4 転写産物の蓄積を見ると、オーキシン処理後1時間で転写産物の増加が確認され、処理後12時間で転写産物の蓄積が最大となってその後低下していった。DWF4 プロモーターの発現誘導は、BRシグナル伝達やBR生合成の機能喪失変異体において増加し、オーキシンシグナル伝達の機能喪失変異体では減少していた。DWF4 遺伝子プロモーター領域には、BZR1が結合するBRRE、BES1が結合するE-box、ARFが結合するAuxRE等に類似した配列が見られた。そして、BES1タンパク質はDWF4 プロモーターと結合し、この結合はオーキシンやBRの添加による影響を受けないこと、BZR1はオーキシンの存在しない条件でのみ、ARF7はBLの存在しない条件でのみDWF4 プロモーターと結合することがわかった。芽生えをオーキシン処理することによって根に含まれるBR類縁物質の量が大きく増加していた。以上の結果から、オーキシンはDWF4 の発現を促進することでBR生合成を制御していることが示唆される。オーキシンととBR生合成阻害剤のブラシナゾールの同時処理により発現量の変化する遺伝子の中にはオーキシン単独処理による発現変化とは異なる挙動を示すものもあることから、オーキシン作用の中には、オーキシンによって生合成が誘導されたBRが関与しているものも含まれていると思われる。

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論文)オーキシンシグナルの遺伝子スイッチ

2011-05-24 22:36:44 | 読んだ論文備忘録

Auxin triggers a genetic switch
Lau et al.  Nature Cell Biol (2011) 13:611-615.
DOI: 10.1038/ncb2212

オーキシンシグナル伝達はオーキシン応答因子(ARF)とその作用を阻害するAUXIN/INDOLE-3-ACETIC ACID(AUX/IAA)の相互作用によって制御されており、オーキシンによりAUX/IAAが分解されることでARFを活性化して遺伝子の転写が促進されることが明らかとなっているが、この制御機構がどのようにオーキシンに応答して一定の状態を維持しているのかは明らかではない。ドイツ テュービンゲン大学 Jürgens らは、シロイヌナズナのARFの1つMONOPTEROS(MP)とこれを阻害するAUX/IAAのBODENLOS(BDL)に注目し、シロイヌナズナ培養細胞由来のプロトプラストを用いてオーキシン応答制御機構の解析を行なった。MPBDL は共に初期胚の頂端細胞で発現しており、それぞれの機能喪失変異体では初期胚発生に異常が見られる。BDL 遺伝子の発現はオーキシン処理によって促進されるが、MPタンパク質もBDL の発現を促進する作用があった。そしてこの促進作用はオーキシン処理によってさらに高められた。MPの活性はBDLによって阻害されるので、BDL の発現は負のフィードバック制御を受けているといえる。アミノ酸置換により安定性の増したBDL(bdl)はMPタンパク質によるBDL 発現を喪失させ、相互作用ドメインIIIとIVを欠きAUX/IAAによる阻害を受けない変異MPはBDL存在下であってもBDL の発現を促進した。変異MPによるBDL の発現活性化はタンパク質合成阻害剤シクロヘキシミド(CHX)存在下でも観察されることから、MPはBDL の発現を直接活性化していると考えられる。MP 遺伝子の発現もMPタンパク質によって活性化され、この活性化はオーキシン処理によって促進された。相互作用ドメインを欠いた変異MPは完全長MPよりもMP 遺伝子の発現を活性化させ、MP 遺伝子プロモーター上に存在する9つ全てのオーキシン応答エレメント(AuxRE)を変異させるとこの活性化は喪失した。変異MPによるMP 遺伝子の活性化もCHX存在下において観察されることから、MPはMP 遺伝子の活性化を直接行なっていると考えられる。MPによるMP 遺伝子の発現活性化はオーキシン添加の有無に関わらず安定型bdlによって抑制された。以上の結果から、BDL 遺伝子とMP 遺伝子は同じ機構による転写制御を受けていると考えられる。したがって、MPは自身の発現と自身の阻害因子BDLの発現を正に制御しており、さらにオーキシンによるBDLの分解を介することでこの遺伝子発現制御は相互に連動した2つのフィードバックループを形成している。このMPとBDLからなる制御系はオーキシンによって始動されるヒステリシスな遺伝子発現制御回路として機能していると考えられる。

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植物観察)鳥取砂丘

2011-05-22 23:19:25 | 植物観察記録

所用で鳥取に行ったので、鳥取砂丘に植物観察に行ってきました。朝からの雨は砂丘に着いたころには上がり、砂が湿っていて散策には歩き易い状態となっていました。鳥取砂丘ジオパークセンターで植物の情報を見たところでは、ハマヒルガオとハマニガナの花が見られるとのことでしたが、ハマニガナは蕾ばかりで、ハマヒルガオも荒天の為か綺麗に開花した花は見られませんでした。帰化植物も含めて10種類程度の植物を観察することができました。鳥取砂丘では1970年ごろから外来植物の進入が目立ち始め、平成6年から除草を開始、平成16年からはボランティアによる除草活動も実施されるようになったそうです。


鳥取砂丘の植物群落


コウボウムギ(Carex kobomugi カヤツリグサ科)


コウボウシバ(Carex pumila カヤツリグサ科)


ハマヒルガオ(Calystegia soldanella ヒルガオ科)


ハマニガナ(Ixeris repens キク科)


ネコノシタ(Wedelia prostrata キク科)


ハマゴウ(Vitex rotundifolia クマツヅラ科)


ハマボウフウ(Glehnia littoralis セリ科)

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論文)サイトカイニン応答抑制因子の同定

2011-05-20 14:52:23 | 読んだ論文備忘録

The CKH2/PKL Chromatin Remodeling Factor Negatively Regulates Cytokinin Responses in Arabidopsis Calli
Furuta et al.  Plant Cell Physiol (2011) 52:618-628.
doi: 10.1093/pcp/pcr022

The CKH1/EER4 Gene Encoding a TAF12-Like Protein Negatively Regulates Cytokinin Sensitivity in Arabidopsis thaliana
Kubo et al.  Plant Cell Physiol (2011) 52:629-637.
doi: 10.1093/pcp/pcr021

大阪大学柿本らは、EMS処理により作出したシロイヌナズナ変異集団の中からサイトカイニン感受性の高い変異体cytokinin-hypersensitive 1ckh1 )、ckh2 を単離している。今回、これら2つの変異体の原因遺伝子の同定を行なった。

遺伝子マッピング、T-DNA挿入変異体との比較、野生型遺伝子を過剰発現させた相補性試験の結果から、CKH2 遺伝子はPICKLEPKL 、At2g25170)であることがわかった。CKH2 /PKL は植物ホメオドメイン(PHD)、クロモドメイン、SWI/SNF2 ATP依存クロマチンリモデリングドメインを含んだクロモドメインヘリカーゼDNA結合(CHD)タンパク質3タイプのSWI/SNF2クロマチンリモデリング因子様のタンパク質をコードしていることがわかった。ckh2-2 変異ではATP結合部位にアミノ酸置換を起こす塩基置換が生じており、ckh2-1 変異ではC末端側にアンバー変異が生じていた。よって、C末端領域はサイトカイニン応答に関与していると考えられる。シロイヌナズナカルスをサイトカイニン処理をしてもCKH2 転写産物量に変化は見られなかった。CKH2/PKLのホモログとしてPKR2が知られており、両者は種子発芽時の遺伝子発現制御に関与していることが報告されているが、pkr2 変異体カルスはサイトカイニンに対する感受性に変化が見られず、ckh2 pkr2 二重変異体カルスのサイトカイニン応答性はckh2 単独変異体と同等であった。サイトカイニン受容体のCRE1/AHK4/WOLの変異体cre1 はサイトカイニン応答性が低下してカルスの緑化が起こらないが、ckh2 cre1 二重変異体カルスはckh2 単独変異体と同様に低濃度のサイトカイニンで緑化した。CKH2/PKLは動物のヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)複合体のMi-2サブユニットと相同であり、ヒストン脱アセチル化阻害剤トリコスタチンA(TSA)はサイトカイニン応答性を増加させる効果を示した。野生型植物胚軸切片を高濃度サイトカイニン(200 ng/ml カイネチン)処理をすると272遺伝子の発現量が2倍以上増加し、低濃度サイトカイニン(25 ng/ml)条件ではこのうち15遺伝子のみが発現量の増加を示すが、chk2 変異体胚軸切片では272遺伝子のうちの58遺伝子が低濃度サイトカイニン条件で発現量が増加した。同様に、野生型植物の高濃度サイトカイニン処理で224遺伝子の発現量が減少し、低濃度処理ではこのうちの7遺伝子の発現量低下が見られるが、chk2 変異体では224遺伝子のうち74遺伝子の低濃度サイトカイニン条件での発現量低下が見られた。したがって、ckh2 変異はサイトカイニン応答遺伝子の一部について応答性を高めていることが明らかとなった。しかしながら、タイプ-A ARR遺伝子のようなサイトカイニン初期応答遺伝子の発現量は野生型とckh2 変異体との間で発現量の差が見られないことから、CKH2 /PKL はこれらの遺伝子に対しては影響していないと考えられる。ckh2 変異体では核にコードされている光合成関連遺伝子のサイトカイニン処理による発現量増加と、根のパターン形成に関与する遺伝子のサイトカイニン処理による発現抑制が強まっていた。

ckh1 変異についても同様の探索を行なったところ、At1g17440が原因遺伝子であることがわかった。この遺伝子はenhanced ethylene response 4eer4 )変異体の原因遺伝子として過去に報告されており、681アミノ酸からなる75 kDaのタンパク質をコードしている。タンパク質のN末端側には幾つかのグルタミンリッチ領域、C末端側領域はTATA-box結合タンパク質(TBP)会合因子(TAF)の1つTAF12に見られるヒストンH2B様TAFモチーフがある。CKH1 とそのホモログのAtTAF12a(At3g10070)はシロイヌナズナの各組織で発現しており、サイトカイニン等植物ホルモン処理による発現量の変化は見られない。CKH1タンパク質は細胞の核に局在しており、転写調節に関与していると考えられる。ckh2 変異体の解析で行なった異なるサイトカイニン濃度での遺伝子発現変化と同様の解析をckh1 変異体についても行なったところ、ckh1 変異体では低濃度サイトカイニン条件でも272遺伝子のうち121遺伝子の発現量が増加、224遺伝子のうち131遺伝子の発現量が減少していることがわかった。ckh1 変異体のサイトカイニン感受性増加は、サイトカイニン量の増加やサイトカイニン受容体、サイトカイニン初期シグナル伝達に関与する遺伝子の発現量増加によるもではなく、サイトカイニンシグナル伝達の後半の過程に関与している遺伝子の発現が強まったことによると考えられる。CKH1はサイトカイニン応答の負の制御因子であることから、サイトカイニンシグナル伝達経路の負の調節因子を正に制御しているものと思われる。

酵母two-hybridアッセイによりCKH1とCKH2は相互作用を示すことが確認された。CKH1はDNA結合に、CKH2はクロマチンリモデリングに関与していることから、両者が複合体を形成することは考えられる。しかし、それぞれの変異体で低濃度サイトカイニン条件で発現量の増加する遺伝子が一部しか重複していないことや、ckh1 ckh2 二重変異体は単独変異体よりもサイトカイニン無添加条件でのカルスの緑化や成長が強く現れることから、両者はサイトカイニン応答抑制に対して独立して機能しているものと思われる。

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論文)茎頂の発達におけるArgonaute10の役割

2011-05-17 04:53:32 | 読んだ論文備忘録

Arabidopsis Argonaute10 Specifically Sequesters miR166/165 to Regulate Shoot Apical Meristem Development
Zhu et al.  Cell (2011) 145:242-256.
DOI 10.1016/j.cell.2011.03.024

米国 テキサスA&M 大学Zhang らは、シロイヌナズナARGONAUTE10(AGO10)と結合するsRNAを調査したところ、80%のsRNAがmiRNAであり、そのうち90%がmiR166/165であることを見出した。miR166/165は調製した花組織の全miRNAの8%であることから、AGO10複合体におけるmiR166/165は抽出液よりも11倍以上高くなっている。このような偏りはAGO1や他のAGO複合体では見られなかった。このmiR166/165とAGO10との結合特異性には、それぞれのスターフォームとの間で形成されるミスマッチを含んだ二本鎖構造が重要であることがわかった。miR165/166はクラスIIIホメオドメイン-ロイシンジッパー(HD-ZIP III)型転写因子をコードする遺伝子をターゲットとしており、これらの転写因子は茎頂分裂組織の維持や葉の極性に関与している。AGO1には組み込まれるがAGO10には組み込まれない変異miR166を過剰発現させた個体はpinhead様の形態を示し、この形態変化はago10 変異体よりも強く現れた。したがって、AGO10-miR166複合体形成の低下はmiR166/165のAGO10とAGO1との間の分配バランスに変化をもたらし、このことが茎頂の形態異常を引きこしていると考えられる。ago10 変異体ではmiR165/166量が異常に多く、発達中の茎頂において異所的に分布していた。また、ago10 変異体ではAGO1に組み込まれるmiR166の量が増加していた。ago10 変異体においてターゲットmRNAの分解に関与する領域を変異させたターゲット模倣(target mimicry)コンストラクトMIM166/165AGO10 プロモーター制御下で発現させると、ago10 変異体で見られる茎頂の異常が解消され、miR166/165量が正常になり、その結果HD-ZIP III 転写産物量も増加した。しかしながら、MIM166/165AGO1 プロモーター制御下で発現させてもago10 変異体の形態異常の回復は起こらなかった。PHABULOSAPHB )mRNAはAGO10タンパク質によって切断されるが、AGO10のPIWIドメイン内の活性に関与しているAsp-Asp-His(DDH)残基をAla残基に置換した変異体(AGO10DDH)ではmiR166/165との結合能は有しているがPHB mRNAの切断は起こらない。ago10 変異体において、AGO10 プロモーター制御下でAGO10DDHを発現させるとago10 変異体で観察される茎頂異常が回復し、miR166の蓄積量が減少してHD-ZIP III 転写産物量も野生型と同等になっていた。したがって、ago10 の形態異常を回復させるためにはAGO10の切断活性は必須ではないことが示唆される。また、AGO10はmiR166に対する親和性が高く、AGO1とAGO10が同時に存在した場合にmiR166はAGO10により多く組み込まれることがわかった。AGO10 とAGO1 はパラログであり機能が重複していると考えられていたが、両者とも互いの欠失を相補せず、機能が異なっていると考えられる。おそらく、AGO10はmiR166/165がAGO1に組み込まれてHD-ZIP III 転写産物の分解が増加するのを抑制し、HD-ZIP III 遺伝子の正の制御因子として機能することで茎頂の維持を行なっていると考えられる。

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植物観察)箱根

2011-05-15 20:36:42 | 植物観察記録

箱根へバイケイソウの観察に行ってきました。今日は天気がよく、富士山がくっきり見え、箱根を歩くハイカーも多く見られました。今日箱根を訪れたハイカーの中にはベニバナヒメイワカガミの花を目的に来られた方もいたようですが、まだ蕾の段階で、開花はもう少し先になりそうです。例年ですと、5月下旬ころに咲きますが、今年は少し遅れるかもしれません。バイケイソウは大分大きくなり、今年花を咲かせるであろう個体が区別できるようになりました。数年にわたって生育調査をしている集団の中にも花芽形成しそうな個体が幾つかあり、バイケイソウの開花周期のデータを得ることができそうです。


バイケイソウは大分大きくなりました


今日は富士山がくっきり見えました


ベニバナヒメイワカガミ(Schizocodon ilichifolius )はまだ蕾


キクザキイチゲ(Anemone pseudoaltaica )は花弁を開いてくれました

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論文)タンパク質フォスファターゼ2AによるACC合成酵素の制御

2011-05-11 20:53:04 | 読んだ論文備忘録

Protein Phosphatase 2A Controls Ethylene Biosynthesis by Differentially Regulating the Turnover of ACC Synthase Isoforms
Skottke et al.  PLoS Genet 7: e1001370.
doi:10.1371/journal.pgen.1001370

エチレン生合成の鍵酵素1-アミノシクロプロパン 1-カルボン酸(ACC)合成酵素(ACS)は、C末端側にあるリン酸化モチーフの有無によって3つのサブクラスに分類される。タイプ1ACSタンパク質は、C末端に分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)によりリン酸化されるモチーフとカルシウム依存タンパク質キナーゼ(CDPK)によりリン酸化されるモチーフを有している。タイプ2ACSはCDPKリン酸化モチーフのみを持っており、タイプ3ACSにはリン酸化モチーフがない。ACSタンパク質のリン酸化はタンパク質を安定化させることが知られているが、ACSを脱リン化するフォスファタ-ゼは見出されていない。米国 ブラウン大学DeLong らは、セリン/スレオニンタンパク質フォスファターゼPP2AのAサブユニットが欠失したシロイヌナズナroots curl in naphthylphthalamic acid1rcn1 )変異体がエチレンを過剰生産することに着目し、PP2AがACSを脱リン酸化するのではないかと考え、解析を行なった。rcn1 変異体はACS酵素活性が高く、タイプ2ACSの活性阻害やプロテアソームによる分解に関与しているETHYLENE-OVERPRODUCING1(ETO1)の機能喪失変異体eto1 と同程度のACS活性を示した。rcn1 eto1 二重変異体は単独変異体よりも芽生え胚軸の伸長阻害やエチレン生成量が高まることから、PP2AとETO1はエチレン生成に関して独立に作用していることが示唆される。野生型芽生えをフォスファターゼ阻害剤のカンタリジン(CT)で処理すると胚軸伸長が阻害されるが、タイプ1ACSの変異体acs2acs6 ではCTに対する応答性が低下し、タイプ2ACSの変異体acs5acs9 はCTの応答性が野生型よりも僅かに増加した。よって、胚軸伸長におけるCTの効果はタイプ1ACSを介しており、タイプ2ACSには関与していないものと思われる。エチレン生成においても、野生型芽生えのCT処理はエチレン生成量を増加させ、acs6 変異体芽生えでも増加が見られたが、acs2 変異体、acs2 acs6 二重変異体ではCT処理によるエチレン生成の増加が減少していた。タイプ2ACSの変異体芽生えではCT処理によりエチレン生成が増加した。よって、CTはタイプ1ACSに作用してエチレン生成を増加させていると考えられる。微生物由来のエリシターFlg22はタイプ1ACSのリン酸化による安定化を誘導して野生型芽生えのエチレン生成を増加させるが、rcn1 変異体ではFlg22に対する応答性が低下しており、rcn1 変異体ではPP2A活性が低下していることでタイプ1ACSのリン酸化と安定性が野生型よりも増していると考えられる。ACS6タンパク質の分解速度はrcn1 変異体やCT処理をした野生型芽生えでは遅くなっており、リン酸化されるアミノ酸残基をAspに置換して擬似リン酸化状態としたACS6タンパク質はCTの有無に関係なく安定性が増加した。また、PP2AはACS6と相互作用を示し、ACS6タンパク質のC末端のリン酸化部位を脱リン酸化することが確認された。タイプ2ACSのACS5も野生型芽生えにおいて速やかに分解されるが、rcn1 変異体やCT処理した野生型芽生えではACS5タンパク質の安定性が低下しており、PP2AによるACS5の蓄積制御には、ETO1の認識するC末端配列が関与していることがわかった。したがって、PP2A活性の喪失は、タイプ1ACSの蓄積増加をもたらし、タイプ2ACSの減少を引き起こすと考えられる。以上の結果から、PP2AはACS各アイソザイムの安定性に対して異なる影響を及ぼすことでエチレン生成の微調整を行なっていると考えられる。タイプ2ACSの蓄積制御がPP2Aによって直接なされているのかETO1複合体の脱リン酸化を介したものなのかは明らかではない。

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植物観察)札幌

2011-05-08 22:22:01 | 植物観察記録

今日は野幌森林公園へ行きました。バイケイソウは葉の展開が始まって草丈30‐40cmに成長していました。花としては、エゾエンゴサク、エンレイソウ、ミズバショウ、ザゼンソウ等が咲いており、昨年に比べると見られる春の花の種類は少ないように思われます。

この後、札幌の北大植物園へ行きました。今回の訪問で今頃になって知ったのですが、この植物園は2001年の改組により、農学部附属植物園から北方生物圏フィールド科学センター植物園となっていたんですね。見ごろをむかえた花としては、ハクモクレン(Magnolia heptapeta )、キタコブシ( Magnolia praecocissima var. praecocissima )、エゾムラサキツツジ(Rhododendron dauricum )、ミツバツツジ(Rhododendron dilatatum )、チョウセンレンギョウ(Forsythia koreana )、ミネザクラ(Prunus nipponica )といった木々の花や、エゾノリュウキンカ(Caltha palustris var. barthei)、キバナノアマナ(Gagea lutea )、エゾエンゴサク(Corydalis ambigua )、シラネアオイ(Glaucidium palmatum )などの草花が見られました。


野幌森林公園のバイケイソウ


エンレイソウ(Trillium smallii 、野幌森林公園)


ザゼンソウ(Symplocarpus foetidus、野幌森林公園)


シラネアオイ(Glaucidium palmatum、北大植物園)

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