Laboratory ARA MASA のLab Note

植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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論文)フィトクロムBは日中の温度形態形成にも関与している

2019-01-28 22:05:36 | 読んだ論文備忘録

Daytime temperature is sensed by phytochrome B in Arabidopsis through a transcriptional activator HEMERA
Qui et al. Nature Communication (2019) 10:140.

doi:10.1038/s41467-018-08059-z

フィトクロムB(PHYB)は短日条件下での温度による胚軸伸長制御に関与していることが知られている。夜間の気温上昇は、PHYBのPfr型からPr型への暗反転を促進し、PHYBによる胚軸伸長抑制が解除される。PHYBの暗反転は、明所でも温度による影響を受けるので、理論的にはPHYBは連続光を含む長日条件下の日中の温度変化も感知しているはずである。米国 カリフォルニア大学リバーサイド校Chen らは、これまでに行われてきた明所での温度に応答した胚軸伸長実験は白色光下で行われてきたためにクリプトクロムの影響を受け、PHYBによる温度感知効果をマスクしてしまうことを突き止めた。そこで、赤色光下で実験を行なった。シロイヌナズナ芽生えを21℃もしくは27℃の短日、長日、連続の赤色光下で育成し、胚軸伸長を見たところ、連続および長日赤色光は短日赤色光よりも温度上昇による胚軸伸長効果が高くなっていた。そして、変異体を用いた解析から、この伸長促進はPHYBによって制御されていることが確認された。PHYBシグナル伝達の初期過程に関与しているHEMERA(HMR)の変異体hmr-5 は、短日条件よりも長日条件や連続光での温度上昇による胚軸伸長促進を強く抑制した。したがって、明所でのPHYBによる温度感知において、HMRは重要なシグナル伝達因子であると考えられる。HMRの酸性転写活性化ドメイン(TAD)がアミノ酸置換(D516N)したhmr-22 変異体も短日条件よりも長日条件や連続光での温度上昇による胚軸伸長促進を強く抑制することから、この過程にはHMRのTADが必要であると考えられる。bHLH型転写因子のphytochrome-interacting factor(PIF)は胚軸伸長を促進し、その中でもPIF4は温度形態形成に関与していることが知られている。PIF1、PIF3、PIF4、PIF5の変異体を用いた解析から、赤色光下での温度形態形成には、PIF4のみが関与し、この応答にはHMRが必要であることがわかった。HMRはPIF4 の転写を制御しているのではなく、PIF4タンパク質の安定化に関与していた。さらにプルダウンアッセイからHMRとPIF4が物理的に相互作用をすることが確認された。温度上昇によって発現量が増加するマーカー遺伝子(YUC8IAA19IAA29 )の解析から、これらの遺伝子の発現活性化にはHMRのTADが関与していることがわかった。以上の結果から、フィトクロムBは日中の温度上昇による胚軸伸長も制御しており、これにはHMRによるPIF4の活性および安定性の制御が関与していると考えられる。

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論文)水分に応答した側根形成誘導の分子機構

2019-01-18 22:23:47 | 読んだ論文備忘録

Root branching toward water involves posttranslational modification of transcription factor ARF7
Orosa-Puente et al. Science (2018) 362:1407-1410.

DOI: 10.1126/science.aau3956

PERSPECTIVE
Hydropatterning-how roots test the waters
Giehl & von Wiren Science (2018) 362:1358-1359.

DOI: 10.1126/science.aav9375

根は土壌水分と接触すると側根を形成して分枝する(hydropatterning)。しかしながら、その分子機構は明らかとなっていない。英国 ノッティンガム大学Bennett らは、シロイヌナズナ変異体の解析から、オーキシン応答転写因子のARF7が水分に応答した側根誘導に関与していることを見出した。また、ARF7が発現を制御しているLBD16 の機能喪失変異体はhydropatterningが見られなかった。寒天培地上で育成したシロイヌナズナ芽生えの観察から、LBD16 は根の寒天に接している側で発現しており、arf7 変異体ではそのようなLBD16 の不均等な発現分布が見られなかった。また、lbd16 変異体でLBD16 を35Sプロモーター制御下で恒常的に発現させてもhydropatterningは見られなかった。したがって、hydropatterningにはLBD16 の不均等な発現が重要である。一方、ARF7 は不均等発現をしておらず、arf7 変異体でARF7 を35Sプロモーター制御下で発現させてもhydropatterningは見られた。このことから、hydropatterningはARF7の翻訳後の機構によって制御されているものと思われる。ARF7にはSUMOタンパク質による修飾を受けうるリシン残基が4つ(K104、K151、K282、K889)あり、これらの残基を全てアルギニンに置換してSUMO化が起こらなくなったARF7(ARF7-4K/R)を発現させたarf7 変異体では、側根密度の増加は起こるが、hydropatterningは見られなかった。したがって、ARF7-4K/Rは側根誘導能はあるがhydropatterning制御能は失われている。ARF7はオーキシン処理によって速やかにSUMO化された。ARF7のSUMO化部位の1つ(K151)はDNA結合部位内にあり、ARF7-4K/RはARF7よりもLBD16 プロモーターへの結合力が強くなっていた。よって、SUMO化はARF7のDNA結合活性を負に制御していると考えられる。ARF7の転写活性はAux/IAAリプレッサータンパク質のIAA3/SHY2やIAA14/SLRによって負に制御されている。shy2-31 機能喪失変異体はhydropatterningが見られなかった。また、ARF7-4K/RはIAA3/SHY2と相互作用をしなかった。IAA3/SHY2にはSUMO化タンパク質と相互作用をするSUMO結合モチーフ(SIM)が含まれており、SIMドメインに変異の入ったIAA3は、TIR1オーキシン受容体やTPL転写リプレッサーとは相互作用をしたが、ARF7とは結合しなかった。また、IAA3/SHY2の機能獲得変異syh2-2を過剰発現させるとARF7による側根形成が見られなくなるが、SIMドメインが欠失したshy2-2を発現させた場合には側根形成は正常であった。SUMOはE3リガーゼによって付加され、SUMOプロテアーゼによって除去される。シロイヌナズナのSUMOプロテアーゼOTS1、OTS2の機能喪失二重変異体ots1 ots2 では、hydropatterningが見られなかった。SUMOプロテアーゼは植物が非生物ストレスに曝されると不安定となり、SUMO化したターゲットタンパク質が増加する。芽生えを寒天培地から離すことでARF7のSUMO化が急速に進んだ。したがって、水分刺激がなくなることで翻訳後応答としてのSUMO化が起こる。以上の結果から、以下の仮説が考えられる。根の水分に接していない側ではARF7がSUMO化されているのでIAA3と結合して転写抑制複合体を形成し、側根誘導に関連したオーキシン応答遺伝子の発現が抑制される。一方、水分と接している側ではARF7がSUMO化されないためにIAA3が結合せず、ARF7の転写活性によってLBD16 のような遺伝子の発現が誘導されて側根形成が起こる。

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論文)ストライガの自殺発芽を誘導するストリゴラクトンアゴニスト

2019-01-11 17:58:53 | 読んだ論文備忘録

A femtomolar-range suicide germination stimulant for the parasitic plant Striga hermonthica
Uraguchi et al. Science (2018) 362:1301-1305.

DOI: 10.1126/science.aau5445

PERSPECTIVE
Can witchweed be wiped out?
Harro Bouwmeester  Science (2018) 362:1248-1249.

DOI: 10.1126/science.aav8482

寄生植物ストライガ(Striga hermonthica )の種子は、宿主の生産するストリゴラクトン(SL)が発芽刺激となる。ストライガは絶対寄生植物なので、宿主のいないところで発芽すると死んでしまう。したがって、ストライガを駆除するために自殺発芽を誘導するSLアゴニストの開発が求められている。名古屋大学 トランスフォーマティブ生命分子研究所(ITbM)土屋らは、ストライガの11個のα/β加水分解酵素フォールド受容体(Striga HYPOSENSITIVE TO LIGHT/KARRIKIN INSENSITIVE2、ここでは「ShHTL」と呼ぶ)のうち、SLに対する感受性が高くSL受容ポケットが大きいShHTL7をターゲットとしてアゴニストの開発を行なった。ストライガ種子発芽、さらにShHTL7分子結合による合成化合物のスクリーニングを行ない、ShHTL7により加水分解されずにマイクロモル量でストライガを発芽させるSAM690と命名した分子を得た。さらに、SAM690の精製過程で見出された副産物で、SAM690のアリルスルフォニルピペラジン部分とSLのD環部分のハイブリッド分子がピコモルからフェムトモル量でストライガ種子発芽効果を示すことを発見した。そしてこのハイブリッド分子を、人間の頭部とライオンの体を持つスフィンクスにちなみ、スフィノラクトン-7(SPL7)と命名した。SPL7はオロバンキ(Orobanche minor )や寄生する宿主の異なる幾つかのストライガのエコタイプの発芽に対しても効果を示した。SPL7と合成SLであるGR24はD環構造が同じだが、発芽刺激活性はGR24よりも高い。これは、SPL7のアリルスルフォニルピペラジン部分がSL受容体の活性化に寄与していることによると考えられる。SPL7は、GR24とは異なり、シロイヌナズナの分枝の抑制、根毛伸長促進、SL応答遺伝子の発現誘導といった植物ホルモンとしてのSL活性を示さなかった。また、SPL7はアーバスキュラー菌根菌の応答性がGR24の1/800程度であった。鉢栽培試験において、SPL7処理はストライガを自殺発芽させ、宿主のトウモロコシはストライガの寄生を受けずに健全に育成することが確認された。したがって、スフィノラクトン-7は宿主のストリゴラクトン関連の生理作用に影響せずにストライガによる寄生を抑制することができる。


ITbMの研究ハイライト

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