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論文)AUXIN-SIGNALING F-BOX 1によるオーキシンシグナルの制御

2023-08-30 11:20:02 | 読んだ論文備忘録

The AFB1 auxin receptor controls the cytoplasmic auxin response pathway in Arabidopsis thaliana
Dubey et al.  Molecular Plant (2023) 16:1120-1130.

doi:10.1016/j.molp.2023.06.008

オーキシンは植物の成長・発達の様々な過程において重要な役割を果たしている。オーキシンのシグナル伝達において最も解明が進んでいる経路は、TRANSPORT INHIBITOR RESPONSE1(TIR1)/AUXIN-SIGNALING F-BOX(AFB)オーキシン受容体ファミリーを介したAUXIN RESPONSE FACTOR(ARF)転写因子の活性化である。しかし、最近のシロイヌナズナの研究から、オーキシンによる迅速な根の伸長阻害や根の重力屈性にTIR1/AFBファミリーのAFB1が特異的に関与していることが示された。チェコ プラハ・カレル大学Fendrychらと米国 カリフォルニア大学サンディエゴ校Estelleらは、シロイヌナズナ芽生えをオーキシン処理処理をして根の伸長阻害を観察し、afb1 変異体では処理から20分後の伸長阻害が見られないがtir1 変異体では野生型植物と同等に阻害されること、その後時間が経過するとともにafb1 変異体でも伸長阻害を起こすことを見出した。また、afb1 変異体は重力屈性応答が遅延するが、tir1afb2 変異体やtir1afb345 変異体の応答性は野生型植物と同等であった。さらに、合成cvxIAAとのみ結合するccvAFB1やccvTIR1を用いた解析から、ccvAFB1はcvxIAA処理によって迅速な根の伸長阻害を起こすが、ccvTIR1の応答はccvAFB1よりも遅いことが判った。これらの結果から、AFB1は迅速なオーキシン応答における重要な受容体であることが示唆される。根におけるオーキシン応答のうち、カルシウムイオン(Ca2+)の取込みは最も早く検出されるものの1つとなっている。しかし、afb1 変異体の根ではオーキシン添加後の細胞質でのCa2+の増加は緩やかであり、tir1afb2 変異体では野生型植物と同等であった。よって、オーキシンが誘導するCa2+輸送にはAFB1受容体が必要であると考えられる。TIR1とAFB1は、その作用機序に明らかな違いがあるにもかかわらず、シロイヌナズナにおけるTIR1/AFBファミリーの中で最も最近分岐したメンバーである。このことから、両者の機能特異性は発現パターンの差異によるものではないかと考え、afb1 変異体においてTIR1AFB1 プロモーター制御下で発現させてみたが、afb1 変異体の表現型は相補されなかった。AFB1は細胞質に多く存在し、TIR1は主に核に局在している。そこで、AFB1に核局在配列(NLS)もしくは核外移行配列(NES)を付加してafb1 変異体に導入したところ、AFB1-NESのみがafb1 変異体の表現型を相補した。よって、AFB1が根の迅速な伸長阻害を引き起こすためには細胞質に局在する必要があると考えられる。AFB1はF-boxドメインに多型があり、これがCUL1との相互作用やSCF複合体形成を著しく低下させている。そこで、TIR1にも同様のアミノ酸置換変異(E12K)を導入したところ、CUL1との親和性は低下したが、細胞内局在やオーキシンによる根の伸長阻害に変化は見られなかった。cul1 変異体はオーキシンによる根の伸長阻害が正常に起こり、AFB1の細胞内局在に変化は見られなかった。よって、CUL1との結合やSCF複合体形成はAFB1による迅速な根の伸長阻害に関連していないことが示唆される。Aux/IAA転写リプレッサーはSCFTIR1/AFBの基質となっているので、DII領域の変異により長期の根の伸長試験ではオーキシン耐性となったIAA7、IAA3の変異体(axr2-1shy2-2)について解析を行なったところ、どちらも迅速な根の伸長阻害は見られることが判った。よって、これらのAux/IAAは迅速な応答には関与していないと考えられる。AFB1の細胞内局在と機能の特異性に関与する領域を特定するために、AFB1TIR1 との間でのドメインスワッピングを行なったコンストラクト作出し、afb1 変異体に導入して表現型を観察した。その結果、N末端側にあるF-boxドメインが受容体の細胞質/核内局在を決定していること、AFB1のleucine-rich repeat(LRR)ドメインのN末端側配列が迅速なオーキシン応答に必要であることが判った。バイオインフォマティクス解析の結果、TIR1やAFB1のF-boxドメインには明確なNLSやNESが見つからなかったことから、F-boxドメインと相互作用する未知のタンパク質が細胞内局在の制御に関与している可能性が考えられる。AFB1は典型的なオーキシンシグナルによる長期のオーキシン応答にも影響するのかを調査したところ、AFB1-NLS を発現させた系統はオーキシン耐性を示し、AFB1-NES を発現させた系統はオーキシン感受性がやや高まることが判った。AFB1は側根形成に対して抑制的に作用しており、afb1 変異体ではオーキシン応答遺伝子(IAA5IAA6IAA1)や側根関連遺伝子(LBD16LBD29)のオーキシンによる発現誘導が促進され、AFB1-NLS 発現系統、AFB1-NES 発現系統では抑制されていた。したがって、核内および細胞質内のAFB1は共にオーキシンを介した転写の負の制御因子として機能しており、おそらく長期的な発生過程の典型的なオーキシンシグナル伝達につていも阻害していると考えられる。以上の結果から、細胞質のAFB1は非ゲノム的なオーキシンの迅速な応答を誘導しており、一方で典型的なオーキシンシグナル伝達については細胞内局在に関係なく阻害的に作用すると考えられる。細胞質AFB1がどのようにして典型的オーキシンシグナル伝達を抑制しているのかは明らかではない。

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