Laboratory ARA MASA のLab Note

植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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論文)葉の老化・細胞死に関与する因子

2009-02-28 17:19:31 | 読んだ論文備忘録

Trifurcate Feed-Forward Regulation of Age-Dependent Cell Death Involving miR164 in Arabidopsis
Kim et al.  Science (2009) 323:1053-1057.

シロイヌナズナoresara1-2 ("oresara"は韓国語で「長寿」を意味する)突然変異体は葉の老化に遅れが見られ、野生型に比べてクロロフィル含量および光化学系の効率(Fm/Fv)の低下、クロロフィルa/b結合タンパク質2(CAB2 )の転写産物量の減少、システインプロテアーゼをコードしている老化関連遺伝子12(SAB12 )の発現誘導、細胞膜からのイオンの流出等が遅くなる。このことから、ORE1は葉の加齢による細胞死と老化の正の制御因子であると考えられる。マップベースクローニングにより、ore1-2 遺伝子座はNAC転写因子のAtNAC2 (At5g39610)の5塩基の欠失によることがわかった。ORE1/AtNAC1 mRNAはmiR164 の結合する配列を含んでおり、miR164NAC ファミリー遺伝子の転写産物を分解することで発現抑制することが知られている。そこで、3つあるmiR164アイソフォームの三重突然変異体mir164abc でのORE1 転写産物量の変化を野生型のものと比較したところ、突然変異体では葉の齢が若い時期からORE1 転写産物量が野生型よりも多くなっており、加齢による葉の細胞死も早まった。この結果から、miR164ORE1 を抑制することで初期のステージでの葉の細胞死と老化を抑制していると考えられる。次に、加齢によるmiR164 の発現量の変化を老化に関する突然変異体を用いて調査したところ、エチレン情報伝達因子であるEIN2がmiR164 の加齢による発現減少に関与していることが示された。また、ORE1 の発現増加は、加齢によるEIN2 を介したmiR164 の発現減少によるORE1 mRNAの安定化に加えて、EIN2 そのものによっても引き起こされることを示す結果が得られた。さらに、ore1ein2 二重突然変異体の解析から、EIN2 は遺伝子発現制御においてORE1 の上位にあるだけでなく、加齢による細胞死に関してORE1 とは別の経路の制御もしていることを示唆する結果が得られた。以上の結果から、シロイヌナズナの葉の加齢による細胞死と老化は、三つまたのフィードフォワードな経路によって制御されていると考えられる。このような三つまたの経路は、葉が加齢する際の老化と細胞死を確実なものとする機能があると考えられる。

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植物観察)春の八重山 2日目 西表島

2009-02-23 22:40:11 | 植物観察記録

今日は高速船で西表島へ渡りました。そして、念願だった「イリオモテソウ」を見ることができました。ちょっと時期的には遅かったのかもしれませんが、よくよく見渡してみると小さな白い花があちこちで咲いていました。かつて「セイシカ」を見たポイントへは時間の関係で行けませんでしたが、もうそろそろ咲いていたかもしれません。それとは別に、「サキシマツツジ」の花を見ました。セイシカよりも花の赤が濃く、美しい花でした。これで「沖縄病」もしばらくは発症しないことでしょう。

ついに出会えたイリオモテソウ

 

森の中ではサキシマツツジの赤い花が目立つ

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植物観察)春の八重山 1日目 石垣島

2009-02-22 22:36:19 | 植物観察記録

また「沖縄病」を発症してしまったので、治療のため八重山諸島へ行きました。今日は石垣島をあちこち植物観察して回りました。花の時期としてはあまり宜しくなかったようで、ナガバイナモリの花は多く見かけたのですが、それ以外は殆ど確認できませんでした。ツワブキも時期は過ぎていました。カラッとした青空にはなりませんでしたが、気温が26度もあり、湿度も高く、歩くだけで汗が吹き出ます。ですが、寒く、スギ花粉の飛び交う本州に比べればはるかにマシです。いい汗かいてオリオンビール飲んで、「沖縄病」もだいぶ快方に向かってきました。

今回はナガバイナモリの花を多く見かけました

 

ハクサンボクの花

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論文)タバコの根と葉で発現するニコチントランスポーター

2009-02-20 08:06:41 | 読んだ論文備忘録

Vacuolar transport of nicotine is mediated by a multidrug and toxic compound extrusion (MATE) transporter in Nicotiana tabacum
Morita et al.  PNAS (2009)106:2447-2452.

ニコチンの蓄積に関与するタンパク質を選抜するために、BY-2細胞をメチルジャスモン酸(MeJA)処理してcDNA-AFLP解析を行ない、multidrug and toxin extrusion(MATE)タイプのトランスポーター遺伝子Nt-JAT1 を得た。この遺伝子は他のニコチン合成に関連する酵素遺伝子と同様にMeJA処理して1、2時間後に誘導される。タバコ芽生え地上部でもMeJA処理によって発現誘導され、葉、茎、根において転写産物が検出される。また、Nt-JAT1タンパク質は細胞内では液胞膜に局在する。Nt-JAT1のニコチントランスポーターとしての機能を調べるために、酵母でNt-JAT1 を発現させニコチンの細胞内への取り込みを見たところ、Nt-JAT1は酵母細胞膜においてニコチン排出トランスポーターとして機能していることを確認した。また、Nt-JAT1とバクテリアのF0F1-ATPaseをリポソームを組み込み、テトラエチルアンモニウム(TEA)を基質に用いて取り込み実験を行なったところ、TEAの取り込みはATP添加により促進され、これにニコチン、アナバシン、ヒヨスアミンといった植物アルカロイドを添加すると取り込みが阻害された。このことから、Nt-JAT1は植物アルカロイドをプロトン交換により輸送するトランスポーターであると考えられる。

先にPlant Physiology誌 [Shoji et al. (2009)149:708-7018]に掲載されたニコチントランスポーターは根においてのみ発現するものであったが、今回のトランスポーターは根、茎、葉において発現が確認されている。おそらく細胞膜上にもニコチントランスポーターが存在するであろうから、タバコには細胞内局在、発現している組織の異なる複数のニコチントランスポーターが存在するものと思われる。

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論文)ヒストンのユビキチン化/トリメチル化と遺伝子発現制御

2009-02-18 08:02:37 | 読んだ論文備忘録

Histone H2B deubiquitination is required for transcriptional activation of FLOWERING LOCUS C and for proper control of flowering in Arabidopsis
Schmitz et al.  Plant Physiology (2009) 149:1196-1204.

シロイヌナズナゲノムには27のユビキチンプロテアーゼ(UBP )ファミリーが存在する。そのうちの1つUBP26 はヒストンH2Bの脱ユビキチン化を触媒する酵素をコードしており、UBP26は特定の遺伝子領域のDNAのメチル化とヘテロクロマチン形成を引き起こすことが知られている。T-DNA挿入によって得られたubp26-1 突然変異体は日長に関係なく野生型よりも開花が早くなり、FLOWERING LOCUS C FLC )、MADS AFFECTING FLOWERING2、3MAF2MAF3 )といった花芽形成を抑制するMADS-box転写因子ファミリー遺伝子のmRNA量が低下していた。さらに、この突然変異体ではモノユビキチン化したH2B量が増加しており、FLC 遺伝子領域でのヒストンH3の36番目のリジントリメチル化(H3K36me3)のレベルが低下し、27番目のリジンのトリメチル化(H3K27me3)レベルが増加していた。よって、UBP26はH2Bを脱ユビキチンすることでH3K36me3形成の促進とH3K27me3形成の抑制に作用し、FLC 遺伝子の転写を活性化して花成を制御していると考えられる。

私の読み間違いでなければ、前に出た論文[The Plant Journal (2009) 57:279–288]では、ヒストンH2Bのユビキチン化がFLC の発現を活性化するとしていたように思う。重要なのは、ヒストンのユビキチン化よりもそれによって付随して発生するメチル化等のヒストンの他の修飾ということなのだろうか?詳しい方、教えてください。

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論文)雄ずいの成熟を制御する転写因子

2009-02-17 08:06:17 | 読んだ論文備忘録

MYB108 acts together with MYB24 to regulate jasmonate-mediated stamen maturation in Arabidopsis
Mandaokar & Browse  Plant Physiol (2009) 149:851-862.

ジャスモン酸(JA)は雄ずいや花粉の成熟に関与していることが知られており、著者らはこれまでに雄ずいにおいてJAにより発現が誘導/増強される転写因子として特に重要な13の遺伝子を見出している。本論文では、そのうちのMYB108 に注目してこの遺伝子のT-DNA挿入突然変異体の解析を行なった。この変異体は栄養成長期の表現型は野生型と変わりないが、花の老化が遅く、長角果が小さく、稔実率が低下していた。MYB108 は葯が花糸と結合している維管束の部分で特に強く発現しており、おそらく雄ずいの発達後期にJAシグナルを受けて雄ずいの成熟に関与しているものと思われる。しかしながらmyb108 突然変異体での稔実率の低下は、これまでに見出されたmyb 突然変異体(myb21 )やJA関連変異体に比べて弱いことから、MYB108と機能重複する転写因子が存在すると思われる。そこでMYB108と同じサブグループ20に属するMYBについてT-DNA挿入突然変異体をmyb108 変異体とかけ合わせて表現型を観察したが、機能重複していると思われるMYBは見出されなかった。そこで、JA処理によって雄ずいでの発現量が増加するがヌル変異体で稔実に変化の見られなかったサブグループ19に属するMYB24 の変異体とのかけ合わせを行なったところ、二重突然変異体myb108myb24 は稔実率が大きく低下した。myb108myb24 変異体は雌性稔性だが雄性不稔であり、雄ずいの発達が不十分なために花粉を柱頭につけることが出来ないことと、花粉自体の生存能力の低下が影響している。各変異体での転写産物量の比較から、MYB108 遺伝子の発現にはMYB21とMYB24が関連しており、MYB24 遺伝子の発現はMYB21とはあまり関連がないと考えられる。転写産物のプロファイリングから、JAによりまずMYB21 が最初に誘導され、その後にMYB24MYB108 が誘導されるものと思われる。

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世界らん展2009日本大賞

2009-02-14 22:30:16 | 植物観察記録

世界らん展日本大賞2009(東京ドーム)へ行ってきました。今年の大賞はリカステ ショールヘブン ’ヨウコズ デライト’(Lyc. Shoalhaven ‘Yoko's Delight’)で、純白の重厚なリカステでした。優秀賞はレリア スーパービエンス ’カワノ’(L. superbiens ‘Kawano’)、優良賞はパフィオペディラム ロスチャイルディアナム ’T.K.エンペラー’(Paph. rothschildianum ‘T.K. Emperor’)でした。私もランの鉢を持っていますが、あれほど立派な花は咲かせることができません。まだまだ修行の身です。

世界らん展2009日本大賞の会場

 

今年の日本大賞 リカステ ショールヘブン ’ヨウコズ デライト’

 

優秀賞 レリア スーパービエンス ’カワノ’

 

優良賞 パフィオペディラム ロスチャイルディアナム ’T.K.エンペラー’

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論文)根の水屈性と小胞輸送との関係

2009-02-13 21:47:29 | 読んだ論文備忘録

GNOM-Mediated Vesicular Trafficking Plays an Essential Role in Hydrotropism of Arabidopsis Roots
Miyazawa et al.  Plant Physiology (2009)149:835-840.

シロイヌナズナより選抜した水屈性突然変異体miz2mizu-kussei2 )は、通常の湿潤条件での根の成長は野生型と変わりはないが、根の水屈性に対する応答が完全に欠失してる。マップベースクローニングにより原因遺伝子座を同定し、miz2 突然変異は細胞内小胞輸送に関与しているADPリボシル化因子型GTP結合タンパク質(ARF)のグアニンヌクレオチド交換因子(GEF)であるGNOMをコードする遺伝子に1塩基置換が起こり、GNOMタンパク質のSec7触媒ドメインの下流に1アミノ酸の置換(Gly951Glu)が生じたものであった。これまでに知られているgnom 遺伝子座の欠失した突然変異体では胚形成やオーキシン輸送に異常が見られ、このことから、GNOMはオーキシン排出キャリアの適切な配置に関与していると考えられている。miz2 変異体ではオーキシン輸送やPIN1の配置は正常であることから、この突然変異体ではオーキシンの極性輸送は正常であると考えられるが、小胞輸送に関する何らかの機構が変化して水屈性の異常を引き起こしていると思われる。

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論文)タバコ根で発現するニコチントランスポーター

2009-02-12 06:35:59 | 読んだ論文備忘録

Multidrug and Toxic Compound Extrusion-Type Transporters Implicated in Vacuolar Sequestration of Nicotine in Tobacco Roots
Shoji et al.  Plant Physiology (2009) 149:708-718.

ニコチンはタバコの主要アルカロイドの1つで、根で合成されて木部を介して地上部へ輸送され、葉の液胞に蓄積する。低ニコチン突然変異体nic1nic2 品種と通常品種の根における転写産物量の違いを蛍光ディファレンシャルディスプレイの手法により解析したところ、ニコチン合成に関与する酵素類の遺伝子の他に2つのよく似たトランスポーターの遺伝子の転写産物量がnic1nic2 突然変異体において減少していた。NtMATE1、NtMATE2と命名した2つのトランスポーターは、MATE(multidrug and toxin extrusion)ファミリーに属するプロトン交換型トランスポーターで、互いにアミノ酸レベルで96.4%の相同性があった。NtMATE1/2 は根の皮層細胞で発現しており、地上部では花で低レベルの転写産物が検出されるが葉や茎では検出されなかった。NtMATEタンパク質は、細胞内では液胞膜上に局在していた。葉に傷害を与えたり、植物体にメチルジャスモン酸を与えるといったニコチン合成量が増加する条件下において、NtMATE1/2 転写産物量の増加が見られた。NtMATE1 を酵母で発現させニコチン輸送について解析したところ、NtMATE1はニコチンを酵母細胞外へ排出する能力を有していることが示された。また、NtMATE1はニコチン以外にもヒヨスアミン、スコポラミンといったアルカロイドを輸送した。以上の結果から、NtMATE1/2はタバコ根の細胞においてニコチン等タバコアルカロイドの液胞内への取込みを行っていると考えられる。タバコ根におけるNtMATE1/2の生理学的な機能は、細胞毒性のあるニコチンを液胞内に隔離し、根でのニコチン合成を維持することにあると思われる。

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論文)変異に対する緩衝作用

2009-02-10 22:45:33 | 読んだ論文備忘録

System-wide molecular evidence for phenotypic buffering in Arabidopsis
Fu et al.  Nature Genetics (2009) 41:166-167.

News and Views
Integrative genetical genomics in Arabidopsis
Wout Boerjan & Marnik Vuylsteke  Nature Genetics (2009) 41:144-145.

シロイヌナズナの Ler (Lansberg erecta) 系統とCvi (Cape Verde Islands)系統を交雑して作成した162の組換え自殖系統 (RILs ; Recombinant inbred lines)集団の芽生えを用いて、マイクロアレイによる24,065の転写産物、2次元電気泳動による2,843のタンパク質、機器分析による13,672の代謝産物、バイオマス/形態に関する139の表現型についてQTLマッピングを行った。その結果、これらの形質についてQTLが多く出現するホットスポットが6箇所見出され、転写産物量に関する形質の16%(4,832)、タンパク質量に関する形質の25%(253)、代謝産物量に関する形質の55%(7,158)、表現型に関する形質の77%(116)は、ホットスポットにあるQTLを含んでいた。この結果は、シロヌナズナの2系統間に存在する無数の変異は遺伝的緩衝作用に支配されていて表現型としては現れず、僅かな数のホットスポットが表現型として現れる変異の原因となっていることを示唆している。

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