Laboratory ARA MASA のLab Note

植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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論文)HY5の安定化による光形態形成の促進

2024-10-01 09:13:06 | 読んだ論文備忘録

Ubiquitin-specific protease UBP14 stabilizes HY5 by deubiquitination to promote photomorphogenesis in Arabidopsis thaliana
Fang et al.  PNAS (2024) 121:e2404883121

doi:10.1073/pnas.2404883121

bZIP型転写因子のELONGATED HYPOCOTYL5(HY5)は、芽生えの光形態形成において中心的な役割を担っている。シロイヌナズナでは、暗所から明所への移行後にHY5が蓄積し、光形態形成を促進することがよく知られている。しかしながら、光照射下でHY5の蓄積を促進する因子が何であるかは不明である。中国 四川大学Linらは、HY5タンパク質の安定性を向上させる因子を探索することを目的に、HY5をベイトとして酵母two-hybridスクリーニングを行ない、HY5は脱ユビキチン化酵素(DUB)のUb-SPECIFIC PROTEASE 14(UBP14)と相互作用することを見出した。各種解析の結果、HY5はUBP14と生体内において物理的相互作用を示し、他のUBPとは相互作用をしないことが確認された。in vitro 実験系において、UBP14はポリユビキチン化されたHY5からユビキチンを除去しうることが判った。UBP14の機能が欠損したda3-1 変異体では野生型植物よりもHY5のユビキチン化の程度が高く、UBP14 を35Sプロモーター制御下で過剰発現させた系統(UBP14-OE)では低くなっていた。また、UBP14-OE 系統ではHY5の安定性が高く、da3-1 変異体ではHY5の分解が促進され、この分解促進はプロテアソーム阻害剤のMG132処理によって阻害された。これらの結果から、UBP14はプロテアソーム分解経路を通してHY5の安定性を制御していると考えられる。長日条件下で育成したda3-1 変異体およびHY5 を過剰発現させたda3-1 変異体(da3-1 HY5-OE)の芽生えの胚軸は野生型植物よりも長かったが、da3-1 HY5-OE 系統の胚軸はda3-1 変異体よりも短かった。また、HY5-OE 系統、UBP14-OE 系統芽生えの胚軸の長さは野生型植物と同程度であり、da3-1 hy5 二重変異体、hy5 変異体、hy5 UBP14-OE 系統の胚軸長に有意差はなかった。短日条件下では、da3-1 変異体の胚軸長は野生型植物の約2倍であったが、暗条件下では両者の胚軸長に有意な差は見られなかった。このことから、UBP14は暗形態形成にはほとんど関与していないと思われる。これらの結果から、HY5 はUBP14の下流で作用する遺伝子であり、UBP14が光条件下でHY5を制御することによって胚軸伸長の抑制を促進していると考えられる。興味深いことに、da3-1 hy5 二重変異体は白色、青色、赤色光照射下でhy5 変異体よりも胚軸が長くなり、hy5 UBP14-OE 系統の胚軸は赤色光照射下でhy5 変異体よりも短かくなった。よって、UBP14は光照射下でHY5以外の光形態形成因子も制御している可能性がある。da3-1 変異体では暗所から明所へ移行した際のHY5の急速な蓄積が見られず、ユビキチン化されたHY5の減少が緩やかだった。逆に、UBP14-OE 系統では暗所から明所へ移行した際のユビキチン化されたHY5の減少が促進された。したがって、光照射はUBP14によるHY5の脱ユビキチン化を促進していることが示唆される。非リン酸化型HY5は、リン酸化型HY5に比べ、ターゲット遺伝子の発現制御活性が高い。解析の結果、UBP14は非リン酸化型HY5に対する親和性がリン酸化型HY5よりも高いことが判った。非リン酸化HY5は光照射下で通常の速度で蓄積したが、リン酸化HY5の蓄積はゆっくりとしていた。さらに、da3-1 変異体では非リン酸化HY5もリン酸化HY5も光照射による蓄積がさらに緩やかになった。また、光照射後のHY5のユビキチン化の程度は、非リン酸化型HY5よりもリン酸化型HY5で高くなっていた。したがって、UBP14は光照射下で非リン酸化型HY5を安定化させ、光形態形成を促進していると考えられる。HY5とUBP14は光照射後に徐々に蓄積量が増加し、暗処理によって減少した。HY5UBP14 の発現量は光照射によって増加し、HY5 発現量は暗処理によって減少したが、UPB14 転写産物量は変化が見られなかった。野生型植物と比較して、UBP14 の転写産物量はHY5-OE 系統で高かったが、hy5 変異体では低かった。HY5-OE 系統では、光照射によってUBP14 の発現が野生型植物よりもより急激に上昇したが、hy5 変異体では光照射はUBP14 の発現にほとんど影響していなかった。UPB14 遺伝子プロモーター領域にはG-boxモチーフが2つあり、HY5が結合することが確認された。よって、HY5は、正のフィードバック制御によって光照射下でのUBP14 の発現と安定的な蓄積を促進していると考えられる。以上の結果から、暗所から明所への移行すると、UBP14タンパク質がポリユビキチン化したHY5からユビキチンを切断することでHY5の安定性を高め、光形態形成を促進していると考えられる。同時に、HY5はUBP14 の発現を活性化し、正のフィードバックによりUBP14タンパク質蓄積を促進している。

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論文)環境温度に応答したイネの生長制御

2024-09-27 10:37:38 | 読んだ論文備忘録

N-terminal acetylation orchestrates glycolate-mediated ROS homeostasis to promote rice thermoresponsive growth
Li et al.  New Phytologist (2024) 243:1742-1757.

doi: 10.1111/nph.19928

中国科学院 遺伝与発育生物学研究所Xueらは、イネの温度に応答した生長を制御する因子を同定することを目的に、イネ品種Zhonghua 11(ZH11)のエチルメチルスルホネート突然変異集団を、冬の海南(環境温度が中程度)と夏の北京(環境温度が高い)の2つの環境で栽培試験を行なった。そして、草丈を温度応答の指標として選抜を行ない、冬の海南では半矮性を示すが、夏の北京では著しく発育不良となる劣性の突然変異体thermotolerant growth required2togr2)を得た。野生型植物は、一般に環境温度が上昇するにつれて伸長し、至適温度範囲を超えると伸長抑制を起こす。一方、togr2 変異体は低い環境温度で軽度の矮化を示し、この表現型は温度が上昇するにつれて深刻になった。togr2 変異体では2つの生育環境ですべての節間が一様に短くなり、細胞の大きさと細胞数が減少していた。さらに、togr2 変異体の籾は、長さの減少と幅の増加によって変形しており、籾百粒重が減少していた。これらの結果から、togr2 変異体は、生長期と生殖期の両方で起こる温度応答性生長に欠損があることが示唆される。togr2 変異の原因遺伝子をマップベースクローニングで探索したところ、LOC_Os01g43030(ヒトとシロイヌナズナのN-Alpha-Acetyltransferase 15/NAA15 のオルソログ)の第1エクソンにTからCへの置換があり、その結果、アミノ酸がLeu29からPro29に変化していることが判った。OsNAA15 ゲノム遺伝子をtogr2 変異体に導入すると環境温度に依存した矮化が回復した。また、人工マイクロRNAによりOsNAA15 を発現抑制した系統は、環境温度に応じた矮化を示した。これらの結果から、OsNAA15 はイネの温度に応答した生長促進に関与していると考えられる。OsNAA15 がどのようにして温度を感受して応答するのかを調査するために様々な解析を行なったところ、OsNAA15 は正常なスプライシングがなされたOsNAA15.1 の他に、第21イントロンと第20エキソンに9個の異なるアミノ酸を含む新しい停止コドンと3'UTRが付加された短いスプライスバリアントOsNAA15.2 を形成することが判った。そして、25 ℃ではOsNAA15.1OsNAA15.2 よりも多く、35 ℃ではOsNAA15.1 がさらに増加してOsNAA15.2 が減少していた。この発現プロファイルの変化はタンパク質アイソフォームにおいても観察された。したがって、OsNAA15 は温度依存的に選択的スプライシングを起こす。togr2 変異体におけるOsNAA15 の塩基置換は、温度依存性選択的スプライシングに有意ではないがわずかな影響を与えていた。各スプライスバリアントを過剰発現させた系統の表現型を見たところ、OsNAA15.1 過剰発現系統では明らかな表現型の変化が検出されなかったが、togr2 変異体の矮性を著しく回復させた。このことはOsNAA15.1 がイネ草丈を促進する可能性があることを示唆している。逆に、OsNAA15.2 過剰発現系統は、対照よりも草丈が低くなり、このバリアントが草丈を抑制する役割を担っていることが示唆される。以上の結果から、OsNAA15 の2つの温度依存性スプライスバリアントは、草丈の調節において拮抗的に作用すると考えられる。OsNAA15はN末端アセチルトランスフェラーゼ(Nat)A複合体の補助サブユニットであり、触媒サブユニットOsNAA10とOsNAA15アイソフォームの相互作用を見たところ、OsNAA10とOsNAA15.1との間には強い相互作用が見られたが、OsNAA10とOsNAA15.2との間の相互作用は非常に弱いことが判った。また、togr2 変異体のアミノ酸置換は、これらの相互作用に明らかな影響を与えなかった。これらの結果から、イネではOsNAA15.2ではなくOsNAA15.1がOsNAA10と機能的なNatA複合体の形成に寄与している可能性が示唆される。RNAiでOsNAA10 を発現抑制した系統は、togr2 変異体と同様の環境感受性表現型を示し、OsNAA10 発現抑制とtogr2 変異の組み合わせは海南で相加的な矮化をもたらし、北京では生存できなかった。以上の結果から、OsNAA15とOsNAA10はイネの温度応答性生長を促進するNatA複合体を形成していると考えられる。NatA複合体には他にOsNAA50とOsHYPKの2つのサブユニットがあるが、これらのサブユニットは2つのOsNAA15アイソフォームと強固な相互作用を示した。これまでに見出されているNatの中で、NatAは真核生物で最も幅広い基質を持ち(全アセチル化プロテオームの約50%をカバー)、イニシエーターMet(iMet)を欠きA/S/G/T残基で始まるタンパク質のN末端をアセチル化することが知られている。そこで、温度応答におけるNatAを介したNt-アセチル化の役割を明らかにするため、野生型植物とtogr2 変異体の幼苗を用いて、25 ℃と35 ℃における可溶性タンパク質のN末端アセチローム(Nt-acetylome)を定量して比較した。その結果、野生型植物では温度が25 ℃から35 ℃に上昇すると、87個のタンパク質のアセチル化が促進され、63個はアセチル化が低下することが判った。しかし、togr2 変異体ではこの温度応答性Nt-アセチル化パターンが破壊され、アセチル化が促進されたタンパク質はわずか33個で、低下したものは80個あった。野生型植物において温度差によってアセチル化の程度が異なる150個のタンパク質のうち76個は35 ℃において野生型植物とtogr2 変異体との間でアセチル化の程度が異なっていた。このうち、60個はtogr2 変異体においてNt-アセチル化レベルが低下しており、温度応答性生長に寄与するNatAの基質としての潜在的役割が示唆される。これらの潜在的な基質は、代謝経路、二次代謝産物の生合成、ペルオキシソーム、小胞輸送におけるSNARE相互作用、ホスファチジルイノシトールシグナル伝達系に関与しており、これらの過程が温度応答性生長にとって重要であることが示唆される。NatAの潜在的基質のうち、2つのグリコール酸酸化酵素GLO1とGLO5のアセチル化は、野生型植物では25 ℃よりも35 ℃で有意に高くなっていたが、togr2 変異体では有意差はなかった。解析の結果、OsNAA10はGLO1とGLO5をアセチル化すること、OsNAA15.1はOsNAA10の触媒特異性を増強すること、Leu29をPro29に置換したOsnaa15.1ではGLOのアセチル化を高めることが出来ないことが判った。NatAによるNt-アセチル化はタンパク質の安定性に関与していることが報告されているので、GLOの二番目のアミノ酸をGlyからProに置換してアセチル化されない変異GLO(GLOG2P)を作出して解析を行なった。GLOG2Pは、野生型GLOと比較して有意に低いNt-アセチル化レベルを示し、野生型GLOは26Sプロテアソーム系による分解を受けやすいが、GLOG2Pは分解が阻害されることが判った。したがって、GLOのNt-アセチル化は26Sプロテアソーム系による分解を促進すると考えられる。このことと一致して、GLO1、GLO5タンパク質はtogr2 変異体やOsNAA15 発現抑制系統で蓄積しており、GLO活性も高くなっていた。これらの結果から、NatAはGLO1、GLO5をNt-アセチル化することで26Sプロテアソーム系による分解を促進していると考えられる。GLO1/5 を過剰発現させた形質転換イネは矮化し、特に35 ℃で矮化の程度が強くなり、温度に依存した生長抑制を示した。togr2 変異体とGLO1/5 過剰発現系統は共に高いGLO活性を示すので、NatAによるGLO活性の制御はイネの温度応答性生長に貢献していると考えられる。GLOは植物において内因性のH2O2を生成する主要な酵素であることが知られている。野生型植物幼苗のH2O2量は、低い環境温度下では高いままであり、温度が上昇するにつれて徐々に減少した。このことから、高温下ではH2O2産生が減少し、イネの温度応答性生長が促進されることが示唆される。逆に、togr2 変異体のH2O2量は、低温では野生型植物と同程度であったが、高温では一貫して高いままであった。これは、togr2 変異体におけるGLO活性の上昇と一致し、温度依存的なH2O2バランスにOsNAA15とNatAが関与していることを示唆している。野生型植物、togr2 変異体、GLO1/5 過剰発現系統の幼苗を用いた解析から、内生H2O2量と草丈との間には負の相関があり、H2O2は環境温度条件で草丈を負に制御しているものと思われる。そこで、野生型植物とtogr2 変異体の幼苗にH2O2処理をしたところ、どちらも生長が抑制された。逆に、活性酸素種阻害剤のN-アセチルシステインで処理したところ、生長が促進された。以上の結果から、N末端アセチルトランスフェラーゼNatAは、補助サブユニットOsNAA15 の温度に依存した選択的スプライシングにより形成されるアイソフォームに依存して活性が変化し、このことがグリコール酸酸化酵素GLO1とGLO5のN末端アセチル化と安定性を制御して生成される活性酸素種のバランスを調整することで、イネの温度応答性生長を制御していると考えられる。

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論文)シロイヌナズナ花序分裂組織の分裂停止を誘導するロイシンジッパー型転写因子

2024-09-23 17:35:02 | 読んだ論文備忘録

Transcription factors HB21/40/53 trigger inflorescence arrest through abscisic acid accumulation at the end of flowering
Sánchez-Gerschon et al.  Plant Physiology (2024) 195:2743-2765.

doi:10.1093/plphys/kiae234

シロイヌナズナのロイシンジッパー型転写因子HOMEOBOX PROTEIN21(HB21)は、HB40、HB53とともに腋芽休眠の維持に関与していることが報告されている。興味深いことに、HB21は花成終期の花序分裂組織の分裂停止にも関与している可能性が示唆されており、これは分裂組織の休眠の一種であると提唱されている。しかし、HB21のこの過程への関与については明らかとなっていない。スペイン バレンシア工科大学のBalanzàらは、花序でのHB21 の発現をproHB21:GUS レポーターを導入した形質転換体を用いて解析した。GUSシグナルは、抽薹から1週後(1 wab)と2 wabの花序では検出されなかったが、花序分裂組織の分裂能が低下する3 wabでは、花序先端の花芽の基部で検出され始め、分裂が停止する4 wabで明瞭なシグナルが見られた。興味深いことに、GUSシグナルは花芽に限定され、茎頂分裂組織(SAM)そのものからは検出されなかった。次に、花序分裂組織活性が持続している変異体でのGUSレポーターの発現を見た。遺伝子レベルでの花序分裂組織の分裂停止は、FRUITFULL-APETALA2(FUL-AP2)経路によって制御されていることが知られている。AP2は、幹細胞の正の制御因子であるWUSCHELWUS)の発現を維持させることで分裂組織活性を促進している。また、 AP2はHB21 の直接的な負の制御因子であることが知られている。MADS-box型転写因子FULは、miR172によっても負に制御されているAP2 遺伝子やAP2 クレードの他の遺伝子を直接抑制することによって花序分裂停止を促進している。miR172抵抗性のためAP2が蓄積して分裂停止が遅延するap2-170 変異体では、3 wabまでGUSシグナルが検出されず、4 wabで弱いシグナルが検出された。ap2-170 変異体の花序分裂は5 wabで停止し、この時のGUSシグナルは4 wabの野生型植物と同様のパターンで検出された。これらの結果から、ap2-170 変異体で観察された分裂停止の遅延は、茎頂におけるHB21の活性化の遅延と関連している可能性が示唆される。ful-2 機能喪失変異体は、花序分裂組織が完全に分裂停止することはなく、GUSシグナルは開花期間中に検出されず、11 wabに弱いシグナルが観察されるだけであった。花序分裂組織の分裂停止はSAMでのWUS 発現の低下と関連しているので、proWUS:GFP:WUS レポーターを導入して花序でのWUSの蓄積を見たところ、3 wabでのWUS蓄積の減少はHB21 発現の開始と一致し、HB21 プロモーター活性が高まった4 wabにはWUSは消失していた。よって、WUSとHB21 発現には負の相関がみられる。また、果実の除去によって分裂組織が再活性化した後の花序先端部におけるGUSシグナルを見ると、分裂組織が新しい花を作り始めるとGUSシグナルは検出されなくなることが判った。このことからも、HB21 発現が花序分裂停止と関連していると考えられる。HB21 発現誘導系統(pro35S:Lh-GR»HB21HB21ind と命名)を用いた解析から、HB21 を花序先端部で局所的に発現させることで花序の発達を阻害することができ、発現量依存的ではあるが茎頂での器官発達の停止を誘導するのに十分であることが示された。HB21 と同様に、HB40HB53 は花成終期に発現量が増加し、AP2FUL との相互作用も示した。したがって、3つのHB 遺伝子は花成終期の分裂停止の制御において冗長的に作用している可能性がある。そこで、HB 遺伝子機能喪失変異体を作出して表現型を観察した。それぞれの単独変異体の最終的な果実数は、野生型植物と比較して有意差は見られなかったが、hb21 hb53 二重変異体では有意に増加し、hb21 hb53 hb40 三重変異体ではさらに強い効果が表れた。花序の花成期間(最初に開いた花から最後に開いた花までの日数)を計算したところ、野生型植物とすべての単独変異体との間では差は見られなかったが、二重変異体、三重変異体では明らかに延長していた。この結果から、hb 変異体は花成期間を延長することにより果実数を増加させたと考えられる。興味深いことに、花成終期に形成された花房の大きさを調べたところ、野生型植物と単独変異体は同じような大きさを示したが、二重変異体と三重変異体では花房が小さく、蕾の数も少ないことが判った。そこで、花序分裂組織で作られる原基の総数(花/果実の最大潜在能力)を計算してみると、野生型植物と各変異体の間で違いは見られないことが判った。これらの結果から、HB21、HB53、HB40 遺伝子は花序で形成される果実の最終数を冗長的に調節し、分裂組織の活性に影響を与えることなく、花成終期の花芽の発達停止を促進していることが示唆される。そして、hb21 hb53 hb40 三重変異体で観察された果実数の増加は、花序先端部での花成停止の遅延によって説明できるものと思われる。HB21ind 系統を用いてHB21 発現誘導の有無でトランスクリプトーム解析を行なったところ、HB21 は複数の内因性・外因性両方の刺激応答遺伝子の発現を調節していることが判った。発現量変化の見られる遺伝子のうち116遺伝子はAP2による制御も受けており、81遺伝子はHB21によって発現が上昇、AP2によって発現が低下しており、この中にはアブシジン酸(ABA)応答遺伝子が8遺伝子含まれていた。花成終期の分裂停止はABA応答性の上昇と関連していることが知られており、HB21によって発現上昇する遺伝子にはABA生合成経路遺伝子のNCED3NCED4 が含まれていた。そこで、花序先端部のABA含量をHB21ind 系統を用いて調査したところ、HB21はABA蓄積を促進することが判った。野生型植物のABA含量は、1 wabよりも4 wabで有意に増加しており、hb21 hb40 hb53 三重変異体と野生型植物のABA含量を比較したところ、1 wabでは差は見られなかったが、4 wabでは野生型植物よりも低下していた。これらの結果から、花成終期の花序先端部におけるABA含量の増加はHB21/40/53 遺伝子に依存しており、このABA蓄積が花成終期の花芽発達停止を媒介する可能性が示唆される。そこで、2 wabの花序先端部にABA処理をしたところ、野生型と三重変異体の両方で茎伸長の低下と花芽の発達阻害という、花成終期の形態に似た効果をもたらした。また、ABA処理は三重変異体よりも野生型植物に対してより強い効果を示した。逆に、花序をABA受容体アンタゴニスト(ABA-Az)処理をしてABAシグナル伝達を阻害すると、花成停止が遅延した。興味深いことに、ABA-Az処理は花/果実の最大潜在能力に影響しておらず。ABAは花序分裂組織の活性を制御してはいないことが示唆される。nced3 nced5 二重変異体は、hb21 hb53 hb40 三重変異体と同様に、花/果実の最大潜在能力は野生型植物と同等だが、最終的な果実数を増加させた。したがって、高濃度のABAを蓄積できないnced3 nced5 変異体は、hb 二重、三重変異体と同様の表現型を示し、高濃度のABAが花成終期における花芽分裂停止の引き金になっていることが示唆される。以上の結果から、HB21 は、HB40HB53 とともに、花成終期の花序先端部で発現が上昇し、花芽分裂停止を促進していると考えられる。また、アブシジン酸はHB 依存的に花序先端部で蓄積しており、ABAがHB21/40/53 遺伝子の下流で花芽分裂停止を制御していることが示唆される。

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植物観察)ツルボ

2024-09-19 06:44:46 | 植物観察記録

ツルボ (蔓穂、綿棗児)
Barnardia japonica (Thunb.) Schult. & Schult.f. (syns Ornithogalum japonicum Thunb.; B. scilloides Lindl., B. sinensis (Lour.) Speta; Scilla chinensis Benth., nom. illeg., S. japonica Baker, nom. illeg., S. sinensis (Lour.) Merr, S. scilloides (Lindl.) Druce)
キジカクシ目キジカクシ科ツルボ属
別名:スルボ、サンダイガサ(参内傘)

北海道南西部から九州までと琉球列島に広く分布し、林縁や草地に生える多年生草本。卵球形の鱗茎の下部に短い根茎があり、細かい根を束出している。葉が春と秋に出て、春に出る5-10枚の葉は夏に枯れる。その後初秋に2-3枚の葉が出る。葉は厚く軟らかい葉質で、線形で先端は鋭尖、基部に向かって細くなり、表面は浅くくぼむ。初秋に葉の間から細長い花茎を伸ばし、先端に総状花序をそにつける。花茎に葉はない。花被片は6個あり、長楕円状倒披針形で、先端は尖り、淡紫色で、平らに開く。和名の「ツルボ」、「スルボ」は共に意味が不明、「サンダイガサ」は花穂の形状が公家が参内する時に供人が差し掛ける長柄傘を畳んだ形に似ていることによる。ツルボの海岸型変種にハマツルボ(浜蔓穂)Barnardia japonica var. litoralis かある。

本種は、かつての分類体系ではユリ目ユリ科ツルボ亜科Scilla 属に分類され、学名はScilla scilloides となっていたが、分子系統学に基づいたユリ科の大改編により、現在では、ツルボ亜科はキジカクシ目キジカクシ科となり、属もScilla 属から分離してBarnardia 属となった。Barnardia 属は、 日本、朝鮮半島、中国本土、台湾、ウスリーに分布する本種と、バレアレス諸島とアフリカ北西部に分布するB. numidica の世界に2種のみ。現在では、Scilla 属を「オオツルボ属」、「シラー属」と呼び、Barnardia 属を「ツルボ属」としている。属名Barnardia は英国の動物学者で植物学者のエドワード・バーナード(Edward Barnard 1786-1861)にちなみ、属名Scilla はギリシャ語のσκίλλα(害になる)が起源で、同属植物には有毒成分を含んでいるものがあるらしい。

 

2024年9月16日 神奈川県横須賀市走水

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論文)イネ収量を向上させるbHLH型転写因子

2024-09-18 13:29:56 | 読んだ論文備忘録

Natural variation in MORE GRAINS 1 regulates grain number and grain weight in rice
Han et al.  JIPB (2024) 66:1440-1458.

doi:10.1111/jipb.13674

陸稲長毛品種の「IRAT109(IR109)」は、一穂籾数が多く、籾が長くて重い。中国 河南農業大学のLiらは、「IR109」の大粒形質をもたらす原因遺伝子の同定を目的に、「IR109」を供与親、小粒品種「Yuefu(YF)」を反回親とする染色体置換系統群(IL)作出した。得られたILのうち、「IL388」は植物体全体の形態が「YF」と顕著な差はないが籾数が多くなっていた。そこで、「IL388」と「YF」と交雑してBC6F2集団を作出し、籾数に関連するQTLを第9染色体上に見出した。この遺伝子座に注目してファインマッピングを行なったところ、QTLはマーカーvg0917115291とvg0917133004の間の17.71kbのゲノム領域に絞られ、候補遺伝子はLOC_Os09g28210の1つだけとなった。この遺伝子はイントロンを含まず、バイオインフォマティクスの解析からbHLHドメインを含む転写因子をコードしていることが判った。「YF」と「IR109」のLOC_Os09g28210の塩基配列解析から、プロモーター領域に6つのSNP、コード領域内に3つの多型が見出され、このうち2つは非同義アミノ酸置換、SNP17132469(A-to-G、Thr-to-Ala)と挿入17133004(GCCGCCGCCACCGG、Ala-Ala-Thr-Gly)をもたらしていた。LOC_Os09g28210を「IR109」由来のプロモーター制御下で発現させた「YF」は、穂が大きく長くなり、一次枝梗数、二次枝梗数、一穂籾数が増加し、籾が長く重くなった。この系統は草丈が「YF」よりも高くなったが、穂数は「YF」と同等であった。これらの結果から、LOC_Os09g28210がイネの籾数と籾重を制御していることが示唆され、以降、本遺伝子をMORE GRAINS 1MOG1)と呼ぶことにした。トウモロコシユビキチンプロモーター制御下で「IR109」のMOG1 を発現するコンストラクト(Ubipro:MOG1IR109)を導入した「YF」および「日本晴」は、籾数、籾千粒重、穂長、一次枝梗数、二次枝梗数が増加し、草丈も高くなった。また、「IR109」のMOG1 をCRISPR-Cas9でノックアウトしたmog1 変異体およびRNAiでノックダウンしたMOG1-RNAi系統は、籾数、籾重、籾長、穂長、草丈、一次枝梗数、二次枝梗数が減少した。したがって、MOG1 はイネの籾数と籾重を同時に正に制御していると考えられる。「IL388」のMOG1 発現量は、「YF」よりも有意に高くなっていた。「IR109」でのMOG1 発現は、出穂期および登熟期の葉、根、頴、若い穂、籾で見られ、葉、根、頴、若い穂は、籾よりもMOG1 発現量が高かった。解析の結果、MOG1は核に局在し、転写活性化因子として機能すること、転写活性化活性はMOG1YFよりもMOG1IR109のほうが高く、この差にはSNP17132469が関係していることが判った。イネ384品種(ジャポニカ種:128品種、インディカ種:256品種)についてMOG1 遺伝子のハプロタイプ解析を行なった結果、8つのハプロタイプ(Hap1~Hap8)に分類された。「YF」と「日本晴」はHap2に属し、「IR109」はHap3に属していた。Hap1、Hap3、Hap4はジャポニカ種にのみ存在し、Hap5~Hap8はインディカ種にのみ存在、Hap2はジャポニカ種とインディカ種の両方に見られた。ジャポニカ種集団において、Hap3とHap4は、Hap1とHap2に比べて有意に籾数、籾長、籾重が高く、インディカ種のHap6、Hap7、Hap8の籾形質は類似した値を示した。Hap1とHap2の間、あるいはHap3とHap4の間では、籾数、籾長、籾重に有意な差は見られなかった。このことから、Hap1とHap2をHap-LNW(low grain number and weight)、Hap3とHap4をHap-HNW(high grain number and weight)とした。Hap-LNWとHap-HNWのMOG1 プロモーター領域には幾つかのSNPが存在し、MOG1IR109 プロモーター(Hap-HNW由来)は、MOG1YF プロモーター(Hap-LNW由来)よりも有意に高いプロモーター活性を示した。よって、MOG1 プロモーター領域の6つのSNPとMOG1に非同義変異を引き起こすSNP 17132469が、Hap-LNWとHap-HNWとの間の籾数と籾重の違いの原因である可能性がある。Hap-LNWは野生イネ(Oryza rufipogon)に由来しており、Hap-HNWはHap-LNWから進化したと考えられる。イネ品種におけるHap-HNWおよびHap-LNWハプロタイプの分布を見ると、近代育種ではHap-HNWを持つ品種の割合を減少させたが、熱帯ジャポニカではHap-HNWを持つ品種の割合を増加させ、温帯ジャポニカではその割合を減少させていた。さらに、MOG1 は乾燥耐性を制御するROOT THICKNESS 9qRT9)遺伝子座の原因遺伝子であるため、乾燥による淘汰と進化を受けており、Hap-HNWは陸稲品種の96%に存在し、対照的に水稲品種では45%にしか存在しなかった。MOG1と相互作用をする因子を探索したところ、以前に籾長の制御に関与していることが報告されたbHLH型転写因子OsbHLH107が見出された。OsbHLH107 過剰発現系統は、籾長、籾重、籾数が増加しており、MOG1とOsbHLH107は相互作用をして籾重と籾数を制御していることが示唆される。mog1 変異体やMOG1 過剰発現系統の成熟籾を走査型電子顕微鏡で観察した結果、MOG1 は頴の長軸方向への細胞膨張と分裂を促進することにより、籾長を増加させることが判った。さらに、乾燥籾重の経時変化を解析したところ、mog1 変異体は野生型植物よりも有意に登熟速度が遅く、MOG1 過剰発現系統は高いことが判った。よって、MOG1は登熟に影響することで籾重を制御していることが示唆される。MOG1 過剰発現系統の若い穂は、野生型植物と比較してトランスゼアチン含量が高く、mog1 変異体では低くなっていた。そこで、根の伸長を指標にサイトカイニン応答性を見たところ、MOG1 過剰発現系統はサイトカイニン応答性が高く、mog1 変異体は低いことが判った。これらの結果から、MOG1 は、1) サイトカイニン量を調整することにより頴の細胞伸長と分裂を促進することで籾長を調節し、2) 登熟活性を高めることで籾重を増加させていることが示唆される。酵母one-hybridアッセイの結果、MOG1は、細胞拡張関連遺伝子のEXPANSIN‐LIKE1EXPLA1)、細胞周期関連遺伝子のCYCLIN T1;3CYCT1;3)やHISTONE H1、サイトカイニン生合成関連遺伝子のLONELY GUYLOG)、粒長制御遺伝子のGRAIN LENGTH 6GL6)など、いくつかの遺伝子のプロモーター領域に直接結合することが判った。そして、MOG1IR109はMOG1YFよりもEXPLA1 プロモーター、LOG プロモーターからの転写をより強く活性化すること、Ubipro:MOG1IR109 系統でのEXPLA1LOG の発現量は「日本晴」と比較して有意に高いが、mog1 変異体では「IR109」に比べて有意に低いことが確認された。さらに、OsbHLH107はEXPLA1LOG のプロモーターに直接結合し、これらのプロモーターからの転写を活性化すること、MOG1OsbHLH107 の共発現は両プロモーターの転写活性化を有意に増加させることが判った。これらのことから、MOG1とOsbHLH107はEXPLA1LOG の発現を誘導して籾重と籾数を調節しており、MOG1とOsbHLH107の相互作用は標的遺伝子のプロモーターへの結合を増強することが示唆される。MOG1 が収量におよぼす影響を調べるため、圃場においてUbipro:MOG1IR109 系統とmog1 変異体の収量を測定したところ、一株当りの収量、単位面積当りの収量ともに、Ubipro:MOG1IR109 系統は「日本晴」よりも高く、mog1 変異体は「IR109」よりも低くなっていた。また、Ubipro:MOG1IR109 系統の米は、乳白度と白未熟粒率が「日本晴」よりも有意に低く、mog1 変異体では「IR109」よりも大幅に高かった。これらの結果は、MOG1 は収量と外観品質の両方を向上させることを示している。以上の結果から、bHLH型転写因子のMOG1-OsbHLH107複合体は、LOGEXPLA1 の発現を活性化し、サイトカイニン経路を通じて若い穂での細胞拡大と分裂を促進し、それによって籾数と籾重を増加させていると考えられる。これらの知見は、温帯ジャポニカ水稲の多収育種戦略に利用できる可能性がある。

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論文)ブラシノステロイドシグナル伝達を制御するマイクロRNA

2024-09-15 13:08:13 | 読んだ論文備忘録

miR394 modulates brassinosteroid signaling to regulate hypocotyl elongation in Arabidopsis
Li et al.  Plant Journal (2024) 119:645-657.

doi:10.1111/tpj.16806

マイクロRNA(miRNA)は、植物ホルモンのシグナル伝達因子や生合成酵素をコードする遺伝子の発現を抑制することで、植物ホルモン経路の制御に関与している。現在までに、ジベレリン、オーキシン、アブシジン酸のシグナル伝達や、ジャスモン酸、ブラシノステロイド(BR)の生合成における主要な構成要素を標的としているmiRNAがシロイヌナズナやイネにおいて示されているが、BRシグナル伝達に関与する遺伝子を標的としたmiRNAについてはほとんど知られていない。中国 山東大学Xiangらは、シロイヌナズナからmiRNAの一次転写産物をクローニングして過剰発現系統を作成し、表現型を観察した。その結果、MIR394A 過剰発現系統(MIR394A-OE)は、子葉の下方湾曲、葉の湾曲、胚軸の短縮、葉柄の短縮、矮化などのBR欠損変異体に類似した表現型を示すことを見出した。miR394は、F-boxタンパク質をコードするLEAF CURLING RESPONSIVENESSLCR)をターゲットとしており、LCRは葉の形態や分裂組織の発達に関与していることが知られている。そこで、miR394とLCRについて、各種機能喪失系統や過剰発現系統を作出し、BR(ブラシノライド、BL)やBR生合成阻害剤(ブラシナゾール、Brz)に対する応答性を観察した。明所で育成したmiR394a-OE 系統とLCR 機能喪失系統(LCR-RNAi lcr-1)の芽生えは、BL処理による胚軸伸長促進が大きく低下していた。また、暗所で育成した両系統の芽生えは、Brz処理による胚軸伸長抑制が野生型植物よりも強くなっていた。これらの結果から、miR394はBRを介した胚軸伸長の負の制御因子として機能しており、miR394のターゲットであるLCR はこの過程の正の制御因子であることが示唆される。miR394によるBRシグナルへの影響を見るためにMIR394A-OE 系統にBRシグナル伝達に関与している各種因子の変異を導入して表現型を観察した。BR受容体であるBRASSINOSTEROID INSENSITIVE1(BRI1)が機能喪失したbri1-5 変異体の暗所育成芽生えは、野生型植物と比較して胚軸伸長が低下しているが、bri1-5 MIR394A-OE 系統は bri1-5 変異体よりもさらに胚軸が短くなった。したがって、miR394とBRI1は胚軸伸長に対して拮抗作用を持つことが示唆される。BRシグナル伝達においてBRI1の下流で作用しているSer/ThrフォスファターゼのBRI1 SUPRESSOR PROTEIN(BSU1)を過剰発現させたBSU1-MYC 系統とMIR394A-OE 系統を交配して得られた系統の暗所育成芽生えは、MIR394A-OE 系統よりも胚軸が長く、Brz処理下ではMIR394A-OE 系統で見られる強い胚軸伸長抑制が緩和された。したがって、miR394とBSU1は拮抗的に作用してBRに応答した胚軸伸長を制御していることが示唆される。GSK3様キナーゼのBRASSINOSTEROID INSENSITIVE2(BIN2)は、BSU1によって脱リン酸化され不活性化されるBRシグナルの負の制御因子である。BIN2 とそのホモログのBIN2-LIKE1BIL1)、BIL2 が機能喪失したbin2-3 bil1 bil2 三重変異体はBrz非感受性だが、bin2-3 bil1 bil2 MIR394A-OE 系統もBrz非感受性となった。また、MIR394A-OE 系統をGSK3様キナーゼ阻害剤で処理するとBrzに対する強い感受性が緩和された。これらの結果から、miR394はBIN2よりも上流で機能していることが示唆される。BRASSINAZOLEs RESISTANT1(BZR1)とBRI1-EMS-SUPPRESSOR1(BES1)は、BRシグナルを正に制御する転写因子で、それぞれの優性変異体bzr1-1Dbes1-DMIR394A-OE を導入した系統は、bzr1-1D 変異体、bes1-D 変異体と同様にBrz感受性が低下していた。したがって、BZR1BES1 はmiR394に対して上位であることが示唆される。芽生えを用いたRNA-seq解析の結果、MIR394A-OE 系統と野生型植物の間で381遺伝子の発現量が異なり、Brz処理をした野生型植物と対照との間で4373遺伝子の発現量が異なることが判った。MIR394A-OE 系統で発現量が変化している遺伝子のうちの約半数(180遺伝子)は、野生型植物のBrz処理の有無で発現量が変化する遺伝子と共通しており、その多くが同じ発現パターンを示していた。したがって、miR394とBrz処理は共通の遺伝子セットに対して同様の影響をおよぼしていると考えられる。また、別のRNA-seq解析において、MIR394A-OE 系統で発現量が変化している遺伝子のうちの約半数(211遺伝子)は、bin2-1 優性変異体と野生型植物との間で発現量が変化している遺伝子(1495遺伝子)と共通しており、その多くが同じ発現パターンを示していた。したがって、miR394とBIN2は共通の遺伝子セットに対して同様の影響をおよぼしており、Brz処理による転写変化の一部は、BIN2経路を介してmiR394によって引き起こされていることが示唆される。miRNAの一次転写産物は、対応する成熟miRNAの蓄積を促進する制御ペプチドをコードしている。miR394aの一次転写産物がコードしているペプチドmiPEP394a(MSLFYEQRVSFKNTVK)で処理をした芽生えは、BIN2タンパク質が蓄積、脱リン酸化型BZR1量が減少した。また、MIR394A-OE 系統やLCR-RNAi lcr-1 系統では脱リン酸化型BES1量が減少していた。これらの結果から、miR394/LCRは、BIN2と脱リン酸化型(活性型)BZR1/BES1の蓄積に影響していることが示唆される。LCRはBIN2/BIL1/BIL2およびBZR1/BES1と相互作用をしないことから、miR394/LCRは間接的にBIN2やBZR1/BES1タンパク質量の制御に影響していると思われる。HLH型転写因子をコードするPACLOBUTRAZOL RESISTANCE1PRE1)、PRE5PRE6 とエクスパンシンをコードするEXP8 は、胚軸伸長に対して促進的に作用し、いずれもBZR1の直接のターゲットとなっている。暗所で育成したMIR394A-OE 系統、LCR-RNAi lcr-1 系統芽生えでのPRE1/5/6EXP8 の発現量は野生型植物と同等であったが、Brz処理による発現減少量は野生型植物よりも大きくなった。したがって、mi394はBZR1/BES1を介したPRE1/5/6 およびEXP8 の転写制御を介して胚軸伸長に影響していることが示唆される。miR394a、miR394bの一次転写産物の発現は、Brz処理によって誘導され、BL処理によって抑制された。LCR 転写産物量は、逆のパターンを示し、BL処理によって誘導され、Brz処理によって抑制された。LCR 転写産物量は、BR生合成が欠損したdet2-1 変異体やbin2-1 優性変異体で減少しており、bzr1-1D 優性得変異体で増加していた。これらの結果から、miR394-LCR の転写はBZR1 を介したBRシグナルによって制御されていることが示唆される。以上の結果から、マイクロRNA miR394はBRシグナル伝達の負の制御因子として機能していると考えられる。遺伝学的解析から、miR394はBIN2 およびBZR1/BES1 の上流で、また、BRI1 およびBSU1 とは独立して、あるいは部分的に下流で機能することが示されたが、miR394の標的遺伝子は、BRシグナル伝達に関与する既知因子をコードしていなかった。その代わりに、miR394はBRシグナル伝達の主要な負の調節因子であるBIN2の蓄積を増加させ、蓄積したBIN2がBZR1とBES1をリン酸化して分解を増加させることにより、BRシグナルを負に制御していると考えられる。また、フィードフォワード効果として、BRシグナルはBZR1/BES1経路を介してmiR394の生成を抑制しており、miR394はBRシグナル伝達の調節点として機能していると考えられる。

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論文)エチレンによるイネの根の伸長角度の制御

2024-09-10 18:28:29 | 読んだ論文備忘録

Ethylene regulates auxin-mediated root gravitropic machinery and controls root angle in cereal crops
Kong et al.  Plant  Physiology (2024) 195:1969–1980.

doi:10.1093/plphys/kiae134

オーキシンはシロイヌナズナやイネの根の伸長角度を決定する重要な因子であり、オーキシンシグナル伝達の変異体では根の重力応答性が変化して根の角度が減少する。エチレンはオーキシンの上流で働くが、シロイヌナズナのエチレン変異体では重力屈性に異常がないことが示されており、根の角度の決定にエチレンが関与しているかは不明である。中国 上海交通大学Huangらは、イネの根の角度に対するエチレンの役割を解明するために、エチレン非感受性変異体ethylene insensitive2osein2/mhz7)ethylene insensitive like1oseil1/mhz6)を用いて解析を行なった。その結果、osein2 変異体、oseil1 変異体の幼苗および成熟個体は冠根の伸長角度が野生型植物よりも小さくなる(横に広がる)ことが判った。したがって、シロイヌナズナとイネでは、根系構造の制御におけるエチレンの役割が異なることが示唆される。osein2 変異体、oseil1 変異体の主根と冠根は、正常に伸長したが、重力屈性応答が低下していた。また、野生型植物をエチレン前駆体である1-アミノシクロプロパン-1-カルボン酸(ACC)もしくはエチレン作用阻害剤の1-メチルシクロプロペン(1-MCP)で処理すると、冠根の重力屈性が促進もしくは抑制され、それぞれの根系がより深くもしくはより浅く発達した。これらの結果から、エチレンは根の重力屈性に影響を与え、冠根の角度を変化させることが示唆される。エチレンは他の植物ホルモンとのクロストークを介して生長制御を行なっており、イネの根ではオーキシンとアブシジン酸がエチレンの下流で作用していることが報告されている。ホルモンプロファイリング解析の結果、osein2 変異体の根はオーキシン含量が低下していることが判った。また、エチレン非感受性変異体にオーキシン(NAA)処理をすると根の重力屈性の欠損が完全に回復した。これらの結果から、エチレンはオーキシン量を制御することで根の重力屈性を調節していることが示唆される。エチレンシグナル伝達因子であるOsEIL1は、エチレンを介した根の伸長阻害の際に、オーキシン生合成に関与する遺伝子のOsYUCCA8OsYUC8)MAO HU ZI10MHZ10)/TRYPTOPHAN AMINOTRANSFERASE2(OsTAR2)を直接活性化することが示されている。エチレン非感受性変異体の根ではMHZ10 の発現量が減少しており、mhz10 変異体は、エチレン非感受性変異体と同様に、根の重力屈性が低下していた。mhz10 変異体にオーキシン処理をすることで重力性欠損が回復したが、ACC処理に対しては応答しなかった。したがって、エチレンはMHZ10に依存して根の重力屈性を制御していることが示唆される。水田栽培したmhz10 変異体成熟個体の根系は浅くなっており、エチレンを介したオーキシン生合成による根の重力屈性の調節は根系構造にとって重要であると考えられる。エチレン-オーキシンによる根の伸長角度制御がトウモロコシにおいても見られるかを、CRISPR-Cas9技術で作出したZmEIN2 の機能喪失変異体を用いて解析したところ、zmein2 変異体の根は重力屈性が低下しており、この欠損はNAA処理によって回復することが確認された。また、zmein2 変異体は、ACC処理に対する応答性が低く、浅い根系を形成したが、オーキシン処理後は深い根系を形成した。以上の結果から、エチレンはオーキシンに依存した根の重力屈性機構を制御することでイネとトウモロコシの根の伸長角度を制御していると考えられる。

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論文)組織片からの植物体再生効率を向上させるペプチド

2024-09-08 11:04:28 | 読んだ論文備忘録

Peptide REF1 is a local wound signal promoting plant regeneration
Yang et al.  Cell (2024) 187:3024-3038.

doi:10.1016/j.cell.2024.04.040

植物では、局所的に受けた傷害部位から特異的な移動性シグナルが全体に伝わり、全身で防御遺伝子の発現が活性化することが知られている。全身性の防御応答を促進する細胞間シグナルとしては、生理活性ペプチドであるシステミンがよく知られている。しかしながら、システミンの生合成やシグナル伝達が欠損したトマト変異体では、全身での防御応答が欠如しているにもかかわらず、局所的な防御応答は維持されており、システミンに依存しない局所防御応答を制御する傷害シグナルの存在が示唆されている。中国科学院 遺伝・発育生物学研究所Liらは、プロシステミン(システミン前駆体、PRS)を介した防御応答が抑制されるトマトspr9suppressed in 35S::prosystemin-mediated responses-9)変異体について解析を行なった。マップベースクローニングにより、原因遺伝子Solyc04g072310 が同定され、本遺伝子はペプチド(SlPep)の前駆体PROPEP(PRP)をコードしており、系統学的にシロイヌナズナAtPROPEP6 に最も近縁であることが判った。spr9PRP 遺伝子のC146が欠損し、未成熟終始コドンが生じていた。PRPPRS の遺伝学的関係を解析するためにprp prs 二重変異体を作出して表現型を観察したところ、prp prs 二重変異体は、いずれの単独変異体と比較しても、全身性の防御応答を欠き、局所的な防御応答はさらに低下していることが判った。このことから、PRPPRS と相加的に作用して、傷害に応答する防御遺伝子の局所的および全身的な発現を制御していることが示唆される。システミンと同様に、SlPepペプチドを投与した野生型植物では防御遺伝子(PI-II)の発現が誘導されたことから、SlPepはシステミンに依存しない傷害シグナルであり、局所的な防御応答を優先的に制御していると考えられる。次に、傷害が誘導する植物体再生の制御にSlPepやシステミンが関与しているのかを胚軸切片の組織培養実験系で調査した。野生型植物とprs 変異体の胚軸切片は、カルス誘導培地上で大きなカルス塊を形成し、シュート誘導培地上でシュートを再生した。しかし、prp 変異体、spr9 変異体の胚軸切片はカルス形成能とシュート再生能をほとんど失っており、PRP-OE 系統は野生型植物に比べてシュート再生能が有意に増大していた。これらの結果から、SlPep前駆体遺伝子が組織培養系におけるシュート再生能力の獲得に極めて重要な役割を果たしていることが示唆される。prp 変異体、spr9 変異体の植物体再生不全は、SlPepを添加することで容易に回復した。また、SlPepは野生型植物のカルス形成能を添加量依存的に増加させた。これらの結果から、SlPepは再生促進因子であり、以下、SlPepをREGENERATION FACTOR1(REF1)と呼ぶことにした。シロイヌナズナにおいてペプチドサイトカインの受容体として機能しているロイシンリッチリピート(LRR)-レセプター様キナーゼ(LRR-RLK)PEP1 RECEPTOR1(PEPR1)/PEPR2のトマトオルソログPEPR1/2-ORTHOLOGRECEPTOR-LIKE KINASE1(PORK1)が機能喪失したpork1 変異体は、PI-II の発現誘導と根の成長阻害においてシステミンには応答するが、REF1に対しては非感受性であった。よって、PORK1はREF1シグナルを媒介していると考えられる。また、pork1 変異体ではカルス形成能とシュート再生能が消失し、PORK1-OE 系統はカルス形成能とシュート再生能が増強された。さらに、pork1 変異体のシュート再生能力欠損はREF1添加では回復しなかった。これらの結果から、REF1はPORK1を介して植物体再生を制御していることが示唆さる。PORK1は、細胞外LRRドメイン、膜貫通ドメイン、細胞質キナーゼドメインから構成されており、REF1はPORK1のLRRドメインと相互作用をすること、PORK1の自己リン酸化活性はREF1によって誘導されることが確認された。よって、PORK1はREF1の受容体であると考えられる。シュート再生において、AP2/ERF転写因子のWOUND-INDUCED DEDIFFERENTIATION 1(WIND1)がカルス形成とシュート再生を促進することが知られている。解析の結果、胚軸を切除することでSlWIND1 の発現が誘導され、この誘導がREF1添加によって促進されることが判った。また、傷害が誘導するSlWIND1 の発現は、prp 変異体やpork1 変異体では見られなかった。したがって、REF1-PORK1モジュールはSlWIND1 の傷害による発現誘導の活性化に関与していると考えられる。slwind1 変異体はカルス形成能とシュート再生能が消失し、SlWIND1-OE 系統はカルス形成能とシュート再生能が増強しており、slwind1 変異体のシュート再生能力欠損はREF1を添加しても回復しなかった。したがって、REF1-PORK1シグナル伝達経路は、SlWIND1 の発現を活性化することで、傷害が誘導する植物体再生を促進していると考えられる。PRP 遺伝子の発現は傷害やREF1添加によって誘導されるが、slwind1 変異体では誘導が低下していた。PRP 遺伝子プロモーター領域には維管束系特異的傷害応答シスエレメント(VWRE)様モチーフが存在し、このモチーフはSlWIND1PORK1PRS、およびシステミン受容体遺伝子(SYR1SYR2)のプロモーター領域にも存在する。解析の結果、SlWIND1はPRP 遺伝子プロモーター領域に結合して発現を活性化することが確認された。したがって、REF1によるSlWIND1 の活性化は、PRP 遺伝子に正にフィードバックし、植物体再生中にREF1シグナル伝達を増幅していると考えられる。植物体再生能は、形質転換やゲノム編集においてボトルネックとなっているので、形質転換効率の低い野生種トマト(S. peruvianum accession PI126944、S. habrochaites accession LA1777)、ダイズ(Dongnong-50)、コムギ(JM22)、トウモロコシ(B104)に対して、それぞれ植物種のREF1を添加したところ、植物体再性能、形質転換効率の向上が見られた。以上の結果から、REF1は、損傷からの組織修復と植物体再生を制御する局所傷害シグナルであると考えられる。REF1はその受容体PORK1に結合して活性化し、WIND1が制御している植物体再生応答を開始する。また、活性化されたWIND1はREF1前駆体遺伝子の発現を活性化し、REF1シグナル伝達を増幅する正のフィードバックループを形成している。REF1は、双子葉植物と単子葉植物において植物体再生と形質転換の効率の向上に貢献しており、ゲノム編集と遺伝子形質転換技術の実用化を促進するツールとして有効であると考えられる。

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論文)C末端ドメインフォスファターゼ様タンパク質によるDELLAタンパク質の安定化

2024-09-04 18:22:55 | 読んだ論文備忘録

C-TERMINAL DOMAIN PHOSPHATASE-LIKE 3 contributes to GA-mediated growth and flowering by interaction with DELLA proteins
Li et al.  New Phytologist (2024) 242:2555-2569.

doi: 10.1111/nph.19742

C-terminal domain phosphatase-like(CPL)ファミリータンパク質は、C末端側にフォスファターゼドメインを有しており、シロイヌナズナで5つのタンパク質(CPL1~CPL5)がある。ベルギー ゲント大学Duboisらは、以前に、CPLファミリーのCPL3 が機能喪失したシロイヌナズナcpl3 変異体は花成が促進され、下偏生長を示すことを見出した。早期花成と下偏生長は、ジベレリン(GA)活性が高い植物で観察される表現型であることから、cpl3 変異体の他のGA関連の表現型について調査したところ、cpl3 変異体芽生えは、アントシアニン含量の減少、根や胚軸の伸長促進といった他のGA関連表現型も影響を受けていることが判った。CPL3は翻訳後タンパク質修飾に関与していることから、CPL3とGAシグナル伝達経路に関与するタンパク質が物理的相互作用をしているのではないか考え、タンパク質構造を通じてタンパク質-タンパク質相互作用(PPI)を予測するウェブツール「Arabidopsis PPI Network(AraPPINet)」を用いたin silico PPI解析を行なった。その結果、相互作用が予測されるタンパク質の中に、2つのDELLA(RGA、RGL2)が含まれていることが判明した。早期花成や下偏生長はdellap 五重変異体でも観察されることから、DELLAファミリータンパク質についてさらにPPIの検証を進めた。そして、CPL3はN末端側領域を介してRGA、GAIと相互作用をすることが判った。CPL3がDELLAの活性制御に関与しているかを調べるために、cpl3 変異体とdellap 変異体のトランスクリプトームを比較した。その結果、野生型植物と比較して、cpl3 変異体とdellap 変異体で共通して発現量が変化しているが34遺伝子(28遺伝子は発現上昇、6遺伝子は発現低下)が見出された。したがって、CPL3とDELLAは部分的に重複した生物学的プロセスで作用していることが示唆される。cpl3 変異体のRGAとGAIのタンパク質含量は、野生型植物と比較して25 %程度低くなっており、この減少は26Sプロテアソーム阻害のMG132処理により回復した。これらの結果から、CPL3は26Sプロテアソーム経路による分解を阻害することでDELLAタンパク質の安定性に関与していることが示唆される。したがって、cpl3 変異体で観察される表現型は、DELLAタンパク質量が減少したことが原因となっているのではないと考え、cpl3 変異体にGA生合成阻害剤パクロブトラゾール処理をしてDELLAタンパク質量を増加させる、もしくはcpl3 変異体でRGAGAI を過剰発現させたところ、cpl3 変異体の表現型が部分的に抑制された。よって、CPL3はDELLAタンパク質量を増加させることで生長に影響していることが示唆される。cpl3 変異体は、野生型植物と比較して、胚軸伸長、アントシアニン蓄積、花成におけるGA感受性が低下しており、GAシグナル伝達経路が影響を受けている可能性が示唆される。以上の結果から、CPL3はDELLAタンパク質と直接相互作用をすることでDELLAタンパク質の安定性を高め、ジベレリンが関与している様々な過程を負に制御していると考えられる。現在までのところ、シロイヌナズナにおいてDELLAタンパク質のリン酸化を制御するホスファターゼとしてはTYPE-ONE PROTEIN PHOSPHATASE 4(TOPP4)のみが報告されている。TOPP4はRGAとGAIタンパク質を脱リン酸化し、GA依存的な分解に導くことが知られており、topp4 変異体は矮化して花成遅延を起こす。一方で、CPL3は、26Sプロテアソーム系による分解を阻害することでRGAとGAIタンパク質を安定化させる。このことは、CPL3が標的とするDELLAタンパク質のリン酸化部位がTOPP4が脱リン酸化する部位とは異なる可能性が高いことを示唆している。

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論文)圧縮土壌によるイネ冠根発達の促進

2024-09-02 11:31:56 | 読んだ論文備忘録

The OsEIL1–OsWOX11 transcription factor module controls rice crown root development in response to soil compaction
Li et al.  Plant Cell (2024) 36:2393-2409.

doi:10.1093/plcell/koae083

圧縮土壌は、物理的抵抗や土壌通気性の低下をもたらし、根の生長を抑制する。中国農業科学院 バイオテクノロジー研究所のQinらは、圧縮土壌がイネの冠根の発達に及ぼす影響を調べるため、圧縮土壌を模して、濃度の異なる寒天上でイネ幼苗を栽培して根を観察した。その結果、寒天濃度が高くなるにつれて茎の下位節での冠根原基の発生が刺激され、冠根数が増加していくことが判った。圧縮土壌は、エチレン生産を刺激し、エチレンの土壌への拡散を抑制することが知られており、寒天濃度が高くなるにつれて根でのエチレン応答遺伝子の発現量とエチレン生産量が増加した。また、エチレン処理によってエチレンシグナル伝達に関与しているEIN3-LIKE 1(OsEIL1)タンパク質の蓄積量が増加した。OsEIL1タンパク質の蓄積量は、寒天濃度が高くなることによっても増加した。エチレンシグナル伝達が機能喪失したein2 変異体、eil1 変異体は、エチレン非存在下において、野生型植物(品種:日本晴、Nip)に比べて冠根数が少なかったが、OsEIN2OsEIL1 を過剰発現させた系統(EIN2-OXEIL1-OX)は、Nipに比べて冠根数が増加した。エチレン処理によってNipの冠根数は有意に増加したが、ein2 変異体、eil1 変異体でのこの効果は低下していた。ein2 変異体、eil1 変異体では、茎基部での冠根形成がNipに比べて大幅に遅れており、EIN2-OX 系統、EIL1-OX 系統の冠根原基は、Nipに比べてかなり早く形成され、急速に生長した。エチレン処理をすることで、Nipでは冠根原基の発達がかなり促進されたが、この効果はein2 変異体、eil1 変異体では低下していた。硬い寒天(1.0 %)は、Nipの冠根数を有意に増加させたが、この効果はein2 変異体、eil1 変異体では弱かった。これらの結果から、エチレンは圧縮土壌に応答した冠根の発達に必須であり、圧縮土壌はエチレンシグナル伝達経路に依存して冠根の発達を刺激していると考えられる。エチレンによる冠根発達促進の分子機構を理解するために、トランスクリプトーム解析を行なったところ、エチレン処理の有無で発現量が変化する遺伝子が、Nipで1345遺伝子、ein2 変異体で783遺伝子見出された。そしてNipで発現量が変化する遺伝子の95 %(1281遺伝子)はEIN2による制御を受けていた。その中には様々な生物過程に関与する遺伝子が見られ、根の発達に関与する遺伝子としてはOsCTR2OsRR1OsWOX11 の3遺伝子が含まれていた。このうち、OsWOX11 は、サイトカイニンのシグナル伝達やホメオスタシスを直接制御することで冠根の発達を調節していることが報告されている。OsWOX11 はエチレン処理をしたNipで発現が上昇するが、ein2 変異体ではそのような変化は見られなかった。OsWOX11 の過剰発現系統(OsWOX11-OX)は冠根数が増加し、機能喪失変異体(oswox11)では減少していた。OsWOX11-OX 系統をエチレン処理することで冠根数が増加したが、この効果は野生型植物とOsWOX11-OX 系統の間で同程度であったことから、冠根の発達におけるエチレンの刺激は、単にOsWOX11 の転写増加によるものではなく、他の調節因子あるいは他の下流遺伝子も関与していることが示唆される。一方、oswox11 変異体の冠根数はエチレン処理によって変化しなかったことから、エチレン刺激による冠根の発達にはOsWOX11が必要であると考えられる。OsWOX11-OX 系統の冠根原基は野生型植物よりも急速に成長したが、oswox11 変異体では冠根原基の形成が遅れた。エチレン処理をすると、OsWOX11-OX 系統では冠根原基の発生と発達が大幅に誘導されたが、oswox11 変異体の冠根原基はエチレン処理に反応しなかった。これらの結果から、OsWOX11は冠根の発達に重要な役割を果たしており、冠根の発達に対するエチレンの影響は、OsWOX11を介する経路を含む複数の経路を通じて起こると考えられる。圧縮土壌による根冠原基の発達や根冠数の増加は、oswox11 変異体では弱くなっており、OsWOX11 を介した経路は圧縮土壌による根冠発達促進に関与していることが示唆される。エチレン処理は、NipでのOsWOX11 転写物量を増加させるが、この効果はein2 変異体、eil1 変異体では大きく減少した。エチレン非存在下でのOsWOX11 の発現は、Nipと比較して、ein2 変異体、eil1 変異体で有意に低く、EIN2-OX 系統、EIL1-OX 系統では高かった。これらの結果から、エチレンはエチレンシグナル伝達経路を介してOsWOX11 の発現を活性化していると考えられる。OsWOX11は、根冠発達の際にOsRR2OsCKX4 に直接結合して発現を制御していることが知られている。エチレン処理により、NipではOsRR2 の発現が抑制され、OsCKX4 の発現が誘導されたが、この効果はein2 変異体、eil1 変異体では弱まった。また、OsRR2 の発現は、Nipと比較してein2 変異体、eil1 変異体で有意に高かったが、EIN2-OX 系統、EIL1-OX 系統では低かった。一方、OsCKX4 の発現は、ein2 変異体、eil1 変異体では有意に減少したが、EIN2-OX 系統、EIL1-OX 系統では増加した。oswox11 変異体では、エチレン処理によるOsRR2 の発現抑制とOsCKX4 の発現誘導が弱まっていた。これらの結果から、エチレンを介したOsWOX11 の発現上昇がOsCKX4 の発現上昇とOsRR2 発現抑制に関与しており、OsWOX11を介した経路がエチレン制御による冠根の発達に関与していることが示唆される。OsWOX11 遺伝子プロモーター領域にはOsEIL1結合部位(ATGTA/TACAT)と推定される配列が13個あり、解析の結果、OsEIL1はOsWOX11 遺伝子プロモーター領域に直接結合して発現を活性化することが確認された。eil1 oswox11 二重変異体の冠根数はoswox11 変異体と同程度であり、Nipおよびeil1 変異体よりも有意に少なかった。さらに、エチレン刺激による冠根数の増加は、eil1 oswox11 二重変異体では完全に消失した。eil1 oswox11 二重変異体では、冠根原基の発達が著しく遅れており、エチレン処理によって冠根原基の発生と発達が促進されることはなかった。oswox11 EIL1-OX 系統の冠根数と冠根原基は、エチレン処理の有無にかかわらず、oswox11 変異体と類似していた。これらの結果から、OsWOX11 はエチレンシグナル伝達経路の下流で働き、OsEIL1シグナル伝達を介したエチレン刺激による冠根の発達と粒径の制御に必要であることが示唆される。圧縮土壌は、NipのOsWOX11 転写産物量を増加させたが、この効果はein2 変異体、eil1 変異体では弱かった。また、ein2 変異体、eil1 変異体、eil1 oswox11 二重変異体、oswox11 EIL1-OX 系統では圧縮土壌による冠根数の増加が弱くなっていた。これらの結果から、圧縮土壌はOsEIL1-OsWOX11モジュールを介して冠根の発達を刺激していることが示唆される。以上の結果から、エチレンは圧縮土壌に応答した冠根発達の重要な制御因子であり、OsEIL1がOsWOX11 の発現を活性化することによって冠根原基の開始と発達を促進していると考えられる。

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