goo blog サービス終了のお知らせ 

Laboratory ARA MASA のLab Note

植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
ホームページの更新情報

重要)ホームページ終了のお知らせ

2025-07-04 09:43:19 | ホームページ更新情報

私のホームページ「Laboratory ARA MASA」は2025年6月30日をもって契約解除となりました。長年のご愛顧有難うございました。なお、HP上で公開したバイケイソウに関する考察のうち重要と思われるもの、箱根と北海道をフィールドとしたバイケイソウ観察記録につきましては「note」へ転記・追記、新規投稿していきます。バイケイソウに関心のある方はこちらをご覧ください。

 

Ara Masa note

https://note.com/aramasa_lab_note

 

 

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重要)ブログ引越のお知らせ

2025-06-15 14:48:38 | Weblog

gooブログが2025年11月にサービス終了となることから、「論文紹介」、「植物観察」、「学会参加」のデータをアメーバブログに移しました。今後の新規投稿はアメーバブログにて行いますので、これからも宜しくお願い致します。

ブログ名:Ara Masa Lab Note 2nd Ed.

URL:https://ameblo.jp/masao-arai/

 

 

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論文)シロイヌナズナ根端分裂組織娘細胞におけるブラシノステロイドシグナルの不均等分布

2025-06-04 10:41:24 | 読んだ論文備忘録

Polarity-guided uneven mitotic divisions control brassinosteroid activity in proliferating plant root cells
Vukašinović et al.  Cell (2025) 188:2063-2080.

doi:10.1016/j.cell.2025.02.011

ブラシノステロイド(BR)は、植物器官の生長を制御するホルモンとして機能している。シロイヌナズナの根では、BR量は根の軸に沿って勾配を示し、伸長領域でピークに達し、細胞分裂を抑制して細胞伸長を促進している。しかしながら、最適なBRシグナル伝達を維持する機構や、細胞周期中の変動については不明な点が多い。ベルギー VIB-ゲント大学 植物システムバイオロジーセンターRussinovaらは、根表皮の非根毛形成細胞のシングルセルRNA-seq(scRNA-seq)解析を行ない、BRシグナルと細胞分裂活性との関係を解析した。その結果、細胞周期の初期、G1期に発現が増加し、G2期からM期への移行期に発現が減少する遺伝子の中に、CSI1CESA6MYB30 などのBRによって発現誘導されるBES1およびBZR1の標的遺伝子が濃縮されていることが判った。このことから、BRシグナル伝達はG1期の開始時に増加するが、有糸分裂前には低下していることが示唆される。BR処理をした根では、BES1/BZR1標的遺伝子の発現が細胞周期全体で拡大していた。さらに、G1期からS期への移行を制御するCYCD3;1 や、G2期からM期への移行を制御するCYCP3;1 といった、BRによって制御されているコア細胞周期遺伝子の発現が変化しており、CDC48APLT1 といった細胞周期制御因子の発現も増加していた。しかし、BRの長期投与は、核内倍加を阻害することで有糸分裂を促進するCDKB1;1 の発現を減少させ、有糸分裂からエンドサイクルへの移行を促進するCCS52A1 の発現をを増加させた。核内倍加を起こしている細胞を除いて発現解析を行なった結果、増殖領域内の有糸分裂細胞ではBRシグナル伝達が変動していることがわかった。対照的に、エンドサイクル中の細胞ではBR誘導BES1/BZR1標的遺伝子の発現は高いままであり、G2期でも低下しなかった。これらの結果から、BR活性は細胞周期を通して変動しており、BR誘導遺伝子の発現は、G1初期にピークに達し、G2期-M期に進むにつれて減少すると考えられる。BES1/BZR1標的遺伝子の発現変動がBRシグナルの動態によって説明できるかを調べるために、蛍光標識したBES1/BZR1の核内蓄積をBRシグナル活性化の指標として用い、ライブセルイメージングによる観察を行なった。その結果、BZR1の核内蓄積は、分裂期には減少しているが、分裂後から徐々に増加し、G1期にピークとなることが判った。よって、BRシグナル伝達は細胞周期を通して変動し、有糸分裂期には減少し、G1期に増加すると考えられる。BZR1/BES1は、BRシグナル伝達の負の制御因子であるシロイヌナズナSHAGGY関連タンパク質キナーゼ(ATSK)ファミリー(ATSK21/BIN2、ATSK11、ATSK32)によって核内でリン酸化され、不活性化して細胞質へ移動することが知られている。蛍光標識したATSK32とBZR1を用いた解析から、有糸分裂前期にBZR1が核外に排出されてATSK32が核内に侵入し、分裂後期にATSK32が核内から消失した後にBZR1が新しい核に入ることが判った。同様の局在パターンは、有糸分裂中の他のATSKファミリーメンバーについても観察された。これらの結果から、BZR1/BES1の核内蓄積は、ATSKが核内移行する分裂前、分裂中、分裂直後に低下し、細胞質分裂後にG1期の娘細胞核で急速に再集積して標的遺伝子の転写を促進すると考えられる。BRシグナルの活性化は、転写レベルでの負のフィードバックループによってBR生合成を阻害する。しかしながら、BR生合成遺伝子DWARF4DWF4)の発現は分裂後のG1期に増加していた。ライブセルイメージング解析から、DWF4は増殖中の根の表皮細胞でパッチ状に分布し、分裂後に下部の娘細胞で一過的に蓄積量が増加することが判った。この娘細胞間のDWF4の不均等な蓄積は、転写によって制御されており、他のBR生合成酵素(CPD、BR6OX2)においても観察された。これらの結果かから、BR生合成酵素は根の分裂組織において動的な時空間的転写制御を受けていると考えられる。そこで、細胞分裂後の上下の娘細胞のBZR1蛍光シグナルを定量したところ、上側の娘細胞の核に蛍光シグナルがより多く蓄積しており、BES1も類似した局在パターンを示すことが判った。この上下の娘細胞間でのBZR1核局在の差異は、DWF4酵素蓄積の差異に先行していた。BZR1/BES1 を35Sプロモーター制御下で発現させても、細胞分裂後の娘細胞核間での不均等分布は観察された。さらに、BZR1を安定化させるプロテアソーム阻害剤MG132で処理しても不均等分布は解消されなかった。したがって、BZR1/BES1のリン酸化状態が、娘細胞核への不均等な蓄積を引き起こす主要な機構として機能している可能性が高い。そこで、ATSKが不均等分布をしているかを調査したところ、ATSK32は、細胞分裂後の下部の娘細胞の核と細胞質の両方で上部の娘細胞よりも多く蓄積していることが判った。よって、ATSKがBZR1/BES1の不均等分布に関与しており、最終的に細胞分裂後の下部娘細胞でBR生合成酵素を優先的に発現させていると考えられる。シロイヌナズナの根の垂層分裂は対称的であり、同じ運命の細胞を生み出す。それにもかかわらず、BRシグナル伝達因子や生合成酵素の分布が不均等になることから、この分裂は生理学的に異なる細胞を生み出していると考えられる。この現象の説明として、母細胞に内在する頂端と基部の極性によって娘細胞がある種の分子成分を不均等に受け継いでいることが考えられる。この可能性を調べるために、様々な植物細胞において極性領域を明らかにすることができるBREAKING OF ASYMMETRY IN THE STOMATAL LINEAGE(BASL)タンパク質を根の分裂組織で発現させて局在を観察した。その結果、BASLはDWF4とともに下部娘細胞にほぼ独占的に集積しており、細胞極性が存在することが示された。表皮細胞が並層分裂した際にはDWF4蓄積の差は観察されなかったことから、頂端-基部間の細胞極性が娘細胞における対照的なBR活性を制御していると考えられる。これらの観察から、極性局在するタンパク質が分裂期とその直後のBRシグナル伝達を制御していることが予想される。OPS-LIKE(OPL)ファミリーは、細胞頂端部に局在する膜結合タンパク質で、主に根端分裂組織で発現しており、ATSK21/BIN2と直接相互作用することでこれらを細胞膜に拘束し、BES1/BZR1の核内蓄積を引起してBRシグナル伝達を活性化する。解析の結果、OPL2は細胞質分裂前と細胞質分裂中に母細胞で現れ始め、細胞分裂直後の娘細胞で蓄積はピークに達することが判った。OPL2は、細胞膜頂端部に極性局在しており、細胞分裂後には上部娘細胞の細胞質にも蓄積した。これは、細胞板から上部娘細胞頂端部へのタンパク質の再局在化によるものと考えられる。OPL2の蓄積増加は、BZR1の核内蓄積に先行していることから、OPL2とそのホモログは、細胞分裂後の2つの娘細胞における不均等なBRシグナル伝達と関連していることが示唆される。OPL2 を過剰発現させた系統では、DWF4の急激な減少を引き起こし、BRシグナル伝達が高まった。これは、ATSKがOPSやOPL2と直接的に相互作用することで核内蓄積量が減少し、両方の娘細胞で細胞膜に再局在化したことによると考えられる。また、OPS またはOPL2 を過剰発現させた系統ではATSK32量の全体的な減少が観察され、新たなATSK制御機構の存在が示唆される。これらの結果から、OPLタンパク質は、ATSKと相互作用して、核からの排除と分解を通じてATSK活性を負に制御し、BRシグナル伝達を増大させていると考えられる。表皮細胞と同様に、原生師部増殖領域内においてもOPS/OPL2は上部の娘細胞に多く蓄積していた。scRNA-seqデータを見ると、師部細胞においても細胞周期に関連したBR制御遺伝子の発現変動がみられた。上部娘細胞は、BZR1核内蓄積量が多く、高いBRシグナルと一致して、発現遺伝子はGO用語「細胞壁の組織化または生合成」に富んでおり、CESA6CSI1 の発現が増加していた。一方、下部娘細胞ではBRが抑制するCPDDWF4 の発現が高く、GO用語「翻訳」と「生合成過程」に富んでいた。薬剤誘導CRISPR-Cas9系でops/opl2 変異を誘導すると、原生師部増殖領域の上下娘細胞でBZR1の殆どが細胞質に局在し、核からは排除された状態となった。このことは、OPS/OPL2が原生師部分裂後の不均等なBRシグナル伝達を仲介していることを示している。また、ops/opl2 変異体では原生師部増殖領域の細胞が長くなり分裂しなくなった。一方、OPS 過剰発現系統では、細胞分裂の間隔が短縮され、対照と比較して有意に小さな細胞が分裂した。これらの結果は、OPSとOPL2を介したBRシグナルの活性化が、シロイヌナズナの根端分裂組織における細胞周期の進行を促進していることを示している。分裂後の上下の娘細胞間での不均等なBRシグナル伝達が器官の最適な生長にどのように寄与しているのかの説明として、BRシグナル伝達が不均等に回復することで、シグナル伝達と生合成を協調させ、最適な根の生長をもたらすということが考えられる。この仮説に基づいて根分裂組織の生長をシミュレーションしたところ、娘細胞間のBRシグナル伝達が不均等であるほうが根の生長が安定化することが示された。実際に、ドミナント型BES1-Dを分裂期特異的に発現させた系統は、対照に比べて根の生長と分裂組織の細胞生産が減少した。以上の結果から、シロイヌナズナ根端分裂組織でのブラシノステロイドシグナル伝達(BZR1/BES1の核内蓄積)は細胞周期を通して変動しており、G1期にピークとなること、有糸分裂後の娘細胞間のBZR1/BES1核内蓄積量は不均等であり、上部の娘細胞の蓄積量が多いことが判った。このような極性のある不均等な分裂は、ブラシノステロイドのシグナル伝達と生合成のバランスをとり、最適な根の生長を実現していると考えられる。

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植物観察)箱根

2025-05-29 15:08:02 | 植物観察記録

箱根にバイケイソウ花成個体数調査に行った。箱根三国山の定点観察地では、2023年に花成個体数が非常に多く、2024年はその反動で花成個体が非常に少なかった。今年もまだ少ない状況が維持されるであろうと思っていたが、予想以上に多くの個体が花芽形成していた。まだ花序茎が伸長して花序が出現した段階で、開花するのは6月中旬以降になると思われる。

 

 

ヤマツツジ(山躑躅) 
Rhododendron kaempferi var. kaempferi
ツツジ目ツツジ科ツツジ属

 

オオバウマノスズクサ(大葉馬の鈴草)
Aristolochia kaempferi
コショウ目ウマノスズクサ科ウマノスズクサ属

 

ヤブデマリ(薮手毬)
Viburnum plicatum var. tomentosum
マツムシソウ目ガマズミ科ガマズミ属

 

ホソバテンナンショウ(細葉天南星)
Arisaema angustatum
オモダカ目サトイモ科テンナンショウ属

 

ミズキ(水木)
Cornus controversa var. controversa
ミズキ目ミズキ科ミズキ属

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論文)オーキシン受容体が生成するcAMPのオーキシンシグナル伝達における役割

2025-05-24 16:17:37 | 読んだ論文備忘録

TIR1-produced cAMP as a second messenger in transcriptional auxin signalling
Chen et al.  Nature (2025) 640:1011-1016.

doi:10.1038/s41586-025-08669-w

オーストリア科学技術研究所(ISTA)Frimlらは、以前の研究で、オーキシン受容体TRANSPORT INHIBITOR RESPONSE 1 (TIR1)/AUXIN-SIGNALING F-BOX (AFB) にはアデニレートシクラーゼ(AC)活性があり、オーキシン結合後にcAMPが生成されること、このAC活性は幾つかのオーキシンに作用にとって重要であることを報告している [Nature (2022) 611:133-138.]。しかしながら、オーキシンシグナル伝達におけるcAMPの役割は不明であった。そこで、AC活性を消失させたTIR1 AC変異体タンパク質(TIR1ACm1、TIR1ACm3)をシロイヌナズナtir1 afb2 二重変異体に導入して各種解析を行なった。その結果、TIR1/AFBのAC活性は、オーキシンが誘導するAux/IAAとの相互作用、SCFTIR1複合体形成、Aux/IAAの分解に必要ではなく、TIR1/AFB AC活性とSCFTIR1 E3リガーゼ活性は独立したものであることが判った。オーキシンシグナル伝達の抑制因子AXR3(IAA17)のドメインⅡの点変異によってTIR1/AFBとの相互作用や分解が起こらないaxr3 を発現させた形質転換体では、オーキシン添加によって誘導されるcAMPの蓄積が見られなかった。これは、安定化したaxr3が蓄積することで内性のAux/IAAタンパク質とmRNAが減少して、オーキシンによるcAMPの蓄積が阻害されていることにより生じたと考えられる。このことから、オーキシンによるTIR1/AFB AC活性の強化には、TIR1/AFB-Aux/IAA相互作用が必要であると考えられる。TIR1ACm3 発現系統では、オーキシンによるDR5:Luc レポーターの発現誘導が失われていることから、TIR1 AC活性はオーキシンが誘導する転写活性化に不可欠であることが示唆される。RNA-seq解析データを見ると、TIR1ACm3 発現系統では多くのオーキシン初期応答遺伝子の発現が抑制されていた。よって、TIR1を介したcAMP生産は、オーキシンによるAux/IAAの分解が正常に行われる場合を含め、おそらくすべての下流の転写制御に不可欠であると考えられる。tir1 afb2 二重変異体では、オーキシンによって誘導される側根形成、根毛生長、胚軸伸長が抑制されており、TIR1ACm3 を発現させることではそれらの表現型の回復は見られなかった。したがって、TIR1 AC活性はおそらくTIR1/AFBによるすべての転写や発生の制御に必須であると考えられる。このようなTIR1ACm3  発現系統における発生表現型と転写制御の異常は、従来のオーキシンシグナル伝達モデルとは一致せず、cAMPがTIR1/AFBの下流で転写を制御する重要なセカンドメッセンジャーとして働いていることが推測される。この仮説を検証するために、オーキシンシグナル伝達経路とは無関係なタンパク質(KUP5、LRRAC1)のACドメインとaxr3を融合さたタンパク質を誘導発現する形質転換体を作出し、表現型を観察した。その結果、axr3-KUP5またはaxr3-LRRAC1の発現を誘導させると、DR5::Luc レポーターが特異的に活性化され、オーキシンによって誘導される転写応答効果を模倣できることが判った。さらに、axr3-KUP5はaxr3の蓄積によって引き起こされる根、側根、根毛の生長阻害を回復させ、axr3-LRRAC1も根の生長や側根形成の抑制を回復させた。これらの結果は、活性型AC酵素を転写オーキシンシグナル伝達成分の近傍で発現させることで転写オーキシン応答が活性化され、発生に対するオーキシンの効果を模倣できることを示しており、オーキシンシグナル伝達の過程での局所的なcAMP生成は、オーキシンの受容とAux/IAAの分解を回避してオーキシンシグナル伝達の転写出力を媒介するのに十分であると考えられる。以上の結果から、TIR1/AFB受容体のAC活性によって生成されるcAMPは、オーキシンシグナル伝達の中心的メディエーターであり、従来のモデルでの単純なAux/IAAタンパク質の分解だけでは、下流の転写応答を十分に活性化することはできないと考えられる。

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論文)ソルガムのストリゴラクトン排出トランスポーター

2025-05-21 10:04:10 | 読んだ論文備忘録

Resistance to Striga parasitism through reduction of strigolactone exudation
Shi et al.  Cell (2025) 188:1955-1966.

doi:10.1016/j.cell.2025.01.022

半寄生植物ストライガの発芽と生長は、宿主植物がリン酸(Pi)欠乏条件に置かれた際に根から分泌されるストリゴラクトン(SL)に依存している。中国農業大学のYuらは、ストライガの宿主となるソルガムの芽生えのRNA-seq解析を行ない、Piの有無での代謝経路や発現遺伝子の変化を調査した。その結果、Pi欠乏条件ではフェニルプロパノイドやフラボノイドの生合成に関与する遺伝子やABCトランスポーター遺伝子の発現が増加していることが確認された。ペチュニアのG-クラスABCトランスポーター(ABCG)のpleiotropic drug-resistant 1(PDR1)は、SLトランスポーターとして最初に報告され、PDR1 欠損変異体は、根からのSL分泌が減少して全寄生植物オロバンキ(Phelipanche ramosa)の発芽に悪影響を与えることが知られている。しかしながら、単子葉植物ではSL特異的トランスポータータンパク質は同定されていない。そこで、Pi欠乏条件とGR245DS処理の両方に応答して発現が変化するソルガムABCG遺伝子を探索したところ、ABCG36ABCG48 の発現が上昇することが判った。両遺伝子は主に根で発現しており、表皮細胞で強い発現を示した。また、両タンパク質は細胞膜に局在していた。ABCG36、ABCG48がSLトランスポーターとして機能するかを確認するために、酵母での発現実験系による調査を行なった。SLは濃度依存的に酵母の成長を阻害するが、ABCG36 もしくはABCG48 を発現させた酵母は、高濃度GR245DS処理に対して耐性を示した。この耐性が輸送活性によるものであることを確認するために、ABCトランスポーター阻害剤であるNa3VO4で処理したところ、発現酵母で観察されたGR245DS毒性耐性が阻害された。また、ABCトランスポーターのATPase活性に関与しているWalker-Bモチーフが欠損したABCG36 またはABCG48 を発現させた酵母は、Na3VO4処理と同様に、SLによる酵母増殖阻害を緩和する機能を失った。さらに、短期取込みアッセイから、ABCG36 またはABCG48 を発現している酵母は、対照に比べて2倍量のGR245DSを排出し、この能力はNa3VO4処理によってほぼ消失した。これらの知見に基づき、ABCG36 およびABCG48 をそれぞれsorghum SL transporter 1SbSLT1)およびSbSLT2 と命名した。SL存在下では、SL受容体のDWARF14(D14)とSLリプレッサーのDWARF53(D53)が相互作用をするが、SbSTL1 もしくはSbSTL2 を発現させた酵母ではD14とD53の相互作用が低下していた。SbSTL1、SbSTL2によるSLの細胞外排出は、アフリカツメガエル卵母細胞実験系においても確認された。植物体におけるSbSTL1SbSTL2 の機能を確認するために、SbSTL1SbSTL2 を過剰発現するシロイヌナズナ形質転換体を作出して表現型を観察したところ、両系統とも高濃度GR245DS処理による根の伸長阻害が見られず、対照よりも根のGR245DS含量が低く、根からのGR245DS排出量が多くなっていた。これらの結果から、SbSTL1、SbSTL2は植物体においてSL排出タンパク質として機能していることが示唆される。ソルガムには75のABCGサブファミリートランスポーター遺伝子があり、そのすべてがヌクレオチド結合ドメインと膜貫通ドメインを有している。系統樹解析から、SbSLT1 およびSbSLT2 にそれぞれ近縁な2つの遺伝子、Sobic.003G215800 およびSobic.010G165500 が同定されたが、これらのタンパク質にはSL排出能は見られなかった。また、ペチュニアSLトランスポーターPhPDR1 のホモログ遺伝子としてSbPDR1 が同定されたが、こちらもSL排出能を有していなかった。よって、ソルガムABCGサブファミリーのうち、SbSTL1とSbSTL2がSLトランスポーターとして作用していることが示唆される。SbSTL1、SbSTL2の三次元構造予測から、基質輸送チャネル形成に関与していると推測される幾つかのヘリックスが見出された。そして、ヘリックス内の特定のフェニルアラニン残基がSL排出活性に不可欠であることがアミノ酸置換実験から確認された。また、同様のフェニルアラニン残基を有するホモログがトウモロコシ、イネ、アワ(Setaria italica)、エノコログサ(Setaria viridis)から見出され、トウモロコシホモログ(ZmSTL1ZmSTL2)にSL排出活性があることが確認された。CRISPR/Cas9ゲノム編集で作出したソルガムのSbSTL1SbSTL2 の変異体の根の内生SL(5DS)含量を見たところ、SbSLT1ko 変異体、SbSLT2ko 変異体の5DSレベルは野生型植物と同程度であったが、SbSLT1koSbSLT2ko 二重変異体では顕著に高い5DS量を示した。さらに、全ての変異体において、水耕培地滲出液中の5DS量が野生型植物と比較して有意に減少し、中でも二重変異体が最も顕著な減少を示した。これらの結果から、SbSLT1とSbSLT2はソルガム根のSL滲出に寄与していることが示唆される。また、全ての変異体において、根に添加したGR245DSの地上部での含量が野生型植物同等であったことから、SbSTL1、SbSTL2は根から地上部へのSL輸送には関与していないと考えられる。各変異体を育成した水耕培地に曝露したストライガ種子の発芽率は、野生型植物育成培地暴露と比較して有意に低く、二重変異体培地では発芽がほぼ完全に阻害された。このことから、SbSLT1SbSLT2 の二重変異は、ソルガム根から根圏へのSL分泌を著しく阻害し、その結果、ストライガ種子の発芽率を低下させていると考えられる。SLトランスポーターの機能喪失がソルガムの生長においてストライガの寄生による影響を軽減できるかどうかを評価するために、中国広東省で変異体の圃場試験を行った。その結果、ストライガが蔓延していない圃場条件下で、各変異体はすべて正常な生育を示し、野生型植物との明らかな差は見られなかった。ストライガ種子を接種した各変異体の圃場では、2年続けて野生型植物圃場に比べてストライガ株が有意に減少した。さらに、変異体の地上部バイオマス(新鮮重、藁重)は野生型植物よりも有意に高かった。野生型植物ではバイオマスのかなりの割合を占める下葉の大部分が乾燥して落下したが、二重変異体系統では下葉が緑色のままであった。さらに、二重変異体系統は生長後期の分けつ数が多く、このことも新鮮重の差の一因となった。これらの結果から、SbSLT1SbSLT2 の機能喪失は圃場におけるストライガの蔓延を効果的に抑制することができ、ストライガの蔓延によるソルガム生産の損失を軽減できる可能性があることが示唆される。以上の結果から、ソルガムABCGトランスポーターのABCG36(SbSTL1)とABCG48(SbSTL2)は、根から土壌へストリゴラクトンを排出するトランスポーターとして機能していると考えられる。SbSLT1/2 を機能喪失させたソルガムは、根滲出液のストリゴラクトンが減少することによってストライガの発芽が減少し、圃場におけるストライガ蔓延が減少して収量の向上が期待される。

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論文)WRKY転写因子によるイネの生物ストレスと収量の制御

2025-05-16 10:53:42 | 読んだ論文備忘録

A WRKY transcription factor confers broad-spectrum resistance to biotic stresses and yield stability in rice
Liu et al.  PNAS (2025) 122:e2411164122.

doi:10.1073/pnas.2411164122

中国 南京農業大学のWanらは、イネの転写因子遺伝子T-DNA挿入変異体ライブラリーをスクリーニングしてイネ害虫トビイロウンカ(BPH、Nilaparvata lugens)感受性が増加する変異体を同定し、BPH susceptible 1-DominantBphs1-D)と命名した。解析の結果、T-DNAはWRKY転写因子遺伝子OsWRKY36 の5′-UTRに挿入されており、Bphs1-D 変異体ではOsWRKY36 発現量が高くなっていることが判った。OsWRKY36 とBPH抵抗性との関係を確認するために、OsWAKY36 の過剰発現系統(OsWRKY36-OE)とノックアウト系統(OsWRKY36-KO)を作出して表現型を観察した。その結果、OsWRKY36-OE 系統はBHP感受性が高く、OsWRKY36-KO 系統はBPH抵抗性が高いことが判った。このことから、OsWAKY36 はイネのBHP抵抗性を負に制御していると考えられる。OsWRKY36 は根、茎、葉身、葉鞘、穂で恒常的に発現しており、維管束鞘細胞および厚壁細胞で高発現していた。BPHが集るとOsWAKY36 の発現が一時低下するが、徐々に回復していった。OsWRKY36タンパク質は核に局在していた。また、各種解析から、OsWAKY36は転写抑制因子として作用することが示唆された。BPHが集ったOsWRKY36-KO 系統と野生型植物のトランスクリプトーム解析を行なったところ、OsWRKY36-KO 系統では3809遺伝子の発現が野生型植物よりも高くなっており、KEGG解析から、炭素代謝とフェニルプロパノイド生合成に関与する遺伝子の発現に変化が見られた。フェニルプロパノイド経路によって合成されるリグニンは、厚壁組織の二次細胞壁の重要な構成要素であり、病原菌や害虫から植物を守る重要な役割がある。フェニルアラニンアンモニアリアーゼ(PAL)はフェニルプロパノイド経路の鍵酵素であり、リグニン生合成にとって重要である。OsWRKY36-KO 系統では、OsPAL1OsPAL6 を含む48のフェニルプロパノイドおよびリグニン生合成関連遺伝子の発現が高くなっており、Bphs1-D 変異体およびOsWRKY36-OE 系統では発現量が減少していることが判った。また、葉鞘のリグニン含量、葉鞘厚壁組織の細胞層の数と厚さは、OsWRKY36-KO 系統で増加し、Bphs1-D 変異体、OsWRKY36-OE 系統で減少していた。これらの結果から、OsWAKY36 は葉鞘でのリグニン蓄積と厚壁組織の厚さを負に制御していると考えられる。WRKYファミリー転写因子は、標的遺伝子プロモーターのW-box[TGAC(C/T)]モチーフを認識することが知られている。OsPAL1 遺伝子、OsPAL6 遺伝子のプロモーター領域にはW-boxが存在し、解析の結果、OsWRKY36は、OsPAL6 遺伝子、OsPAL1 遺伝子プロモーター領域のW-boxモチーフに直接結合することで発現を負に制御していることが判った。この結果と一致して、OsPAL6OsPAL1 転写産物量はOsWRKY36-OE 系統で減少し、OsWRKY36-KO 系統では増加していた。OsPAL1OsPAL6 とBPH抵抗性との関係を解析するために、OsPAL 過剰発現系統を作出して表現型を観察したところ、BHP抵抗性が高まり、リグニン蓄積が増加し、厚壁組織の厚さも増していることが判った。また、Bphs1-D 変異体でOsPAL6 を過剰発現させたところ、BPH抵抗性が回復し、葉鞘でのリグニン蓄積、厚壁組織の細胞層や厚さが増加していることが確認された。これらの結果から、OsWAKY36はOsPAL6OsPAL1 の転写を抑制することでBPH抵抗性を負に制御していると考えられる。BPHの他にも、セジロウンカ(WBPH、Sogatella furcifera)やヒメトビウンカ(SBPH、Laodelphax striatellus)も稲作における主要害虫であり、BPHとWBPHがイネを特異的に食害するのに対し、SBPHはコムギ、トウモロコシ、オオムギなど幾つかの主要作物を含む広い宿主域を持つ。変異体を用いた解析の結果、OsWRKY36はWBPH、SBPHに対する抵抗性も負に制御しており、広範な害虫に対する抵抗性を調節する上で重要な役割を果たしていることが判った。OsPAL は、イネ白葉枯病菌(Xanthomonas oryzae pv. oryzae)やイネいもち病菌(Magnaporthe oryzae)を含む様々な病原菌に対する広域抵抗性に寄与することが知られている。解析の結果、OsWRKY36 のノックアウトにより、これらの病原菌に対する抵抗性が増強されることが確認された。OsWRKY36 の欠損によってもたらされる広範な抵抗性が農業形質に影響するかを調べるために、圃場栽培試験を行なった。その結果、OsWRKY36-KO 系統は、登熟期に低温を受けると籾千粒重が減少するが、害虫や病原菌に対する幅広い抵抗性が付与されるとともに、一穂籾数と分けつ数が増加し、作物収量が維持されることが判った。OsWAKY36 と一穂籾数、分けつ数との関係を調査したところ、OsWRKY36-KO 系統幼苗では、それぞれ、イネの籾数および分けつ数を正に制御していることが報告されている転写因子遺伝子IDEAL PLANT ARCHITECTURE 1IPA1)およびMONOCULM 2MOC2)の発現が有意に上昇していることが判った。IPA1MOC2 のプロモーター領域にはW-boxモチーフが含まれており、解析の結果、OsWAKY36はIPA2 遺伝子プロモーター領域のW-boxモチーフに結合して転写を抑制することが確認された。これらの結果から、OsWRKY36は、IPA1 およびMOC2 の発現を負に制御することにより、分けつ形成や一穂籾数に影響を及ぼしていると考えられる。以上の結果から、OsWRKY36は、昆虫と病原菌の両方に対して広範な抵抗性を付与するだけでなく、イネの抵抗性と収量のトレードオフのバランスをとる調節遺伝子であると考えられる。OsWRKY36 の過剰発現は、害虫や病気に対する抵抗性が負に制御されるだけでなく、収量も低下させ、逆に、OsWRKY36 をノックアウトすると、昆虫や病原菌に対する幅広い抵抗性を示すだけでなく、一穂籾数と分けつ数も増加する。したがって、OsWRKY36 はイネの収量と広範な生物抵抗性を同時に改善するための貴重な標的遺伝子であると言える。

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論文)ヒストン脱メチル化酵素による光形態形成の制御

2025-05-12 09:13:37 | 読んだ論文備忘録

The Arabidopsis demethylase REF6 physically interacts with phyB to promote hypocotyl elongation under red light
Yan et al.  PNAS (2025) 122:e2417253122.

doi:10.1073/pnas.2417253122

ヒストンH3のLys27のトリメチル化(H3K27me3)は、遺伝子発現を調節し、植物の発生と環境変化への応答を支配している。しかし、光形態形成がヒストン修飾による制御を受けているかは殆ど明らかにされていない。中国科学院 遺伝与発育生物学研究所のDengらは、H3K27me3脱メチル化が光形態形成に関与しているかを調べるために、シロイヌナズナH3K27me3デメチラーゼ遺伝子REF6/JMJ12ELF6/JMJ11JMJ13JMJ30JMJ32 の各種変異体芽生えを暗所もしくは明異所で育成し、表現型を解析した。その結果、暗所で育成した変異体芽生えの胚軸長は野生型植物Col-0と同等であったが、明所で育成したref6 変異体芽生えはCol-0よりも胚軸が短くなり、elf6 ref6 二重変異体、ref6 elf6 jmj13 三重変異体の胚軸はref6 変異体よりも短かくなることが判った。このことから、REF6は光照射下での胚軸伸長を正に制御しており、ELF6とJMJ13はREF6と部分的に冗長していることが示唆される。芽生えのREF6 転写産物量は、暗黒下と光照射で差異は見られないが、REF6タンパク質蓄積量は暗黒下よりも光照射下で多くなっており、特に赤色光照射下で多いことが判った。REF6タンパク質は、主に子葉、茎頂、根端に局在しており、赤色光下で育成した芽生えでは、茎頂、葉柄、子葉、胚軸での蓄積量増加が観察された。光照射下でのREF6の機能を解析するために、REF6と相互作用をする因子を探索したところ、REF6は光照射に依存してPfr型のフィトクロムB(phyB)と相互作用をすることが判った。phyB 変異体芽生えの赤色光下でのREF6タンパク質量は、Col-0よりも少なくなっていた。赤色光下において、ref6 変異体芽生えの胚軸はCol-0よりも短く、phyB 変異体芽生え胚軸は長くなるが、ref6 phyB 二重変異体芽生えの胚軸長はCol-0と同等になった。REF6はN末端にJmjC酵素ドメイン、C末端にC2H2-ZnFドメインを持ち、C2H2-ZnFドメインを介して特定のCTCTGYTYモチーフを認識することでH3K27me3を特異的に脱メチル化し、植物の様々な発生過程や環境刺激に対する応答において遺伝子を活性化することが知られている。アミノ酸置換(H264A)により酵素活性を失ったREF6(REF6H264A)もしくはC2H2-ZnFドメインをを欠いたREF6(REF6ΔZnF)をref6 変異体で発現させたところ、胚軸伸長はREF6H264A の発現によって部分的に回復したが、REF6ΔZnF の発現では回復しなかった。したがって、REF6のDNA結合能力と酵素活性は赤色光下での胚軸伸長とって必要であることが示唆される。ChIP-seq解析から、REF6の標的として688遺伝子が見出され、GO解析から、これらの標的遺伝子には細胞増殖や形態形成過程に関与するものが含まれていることが判った。よって、REF6は生長関連遺伝子のH3K27me3を脱メチル化することで光形態形成を制御していることが示唆される。Col-0とref6 変異体のATAC-seqから、ref6 変異体では赤色光下においてH3K27me3が全体的に増加し、クロマチンアクセシビリティが低下することが判った。赤色光下においてCol-0と比較してref6 変異体で発現量が減少している958遺伝子のうち、171遺伝子はREF6が結合し、H3K27me3過剰メチル化された遺伝子であった。そしてこの中には、細胞壁修飾酵素遺伝子XYLOGLUCAN ENDOTRANSGLUCOSYLASE/HYDROLASE 22XTH22)、ブラシノステロイド生合成関連遺伝子DWARF 4DWF4)、生長制御因子遺伝子DUF668 といった幾つかの成長関連遺伝子が含まれていた。これらの結果から、REF6はゲノム全体のH3K27me3の脱メチル化に関与し、クロマチンを開いて光応答性の下流標的遺伝子を活性化していると考えられる。光に応答したREF6のDNA結合能の変化とphyBとの関係を解析したところ、phyBはREF6の標的遺伝子へのターゲティングを促進し、いくつかのREF6標的遺伝子の発現を部分的に協働制御していることが判った。REF6はPIF4と協働して高温条件での温度応答遺伝子の活性化を行なっている。REF6とPIF4が光に応答した胚軸伸長も制御しているかを変異体を用いて解析したところ、赤色光下において、ref6 pif4 二重変異体芽生えは、それぞれの単独変異体やCol-0よりも胚軸が非常に短く、DUF668 発現においてREF6とPIF4が共役していることが確認された。このことは、REF6がをPIF4と共役し、赤色光条件下でPIFを介した遺伝子活性化に必須であることを示唆している。このことから、REF6は、phyB-PIF4モジュールとともに、光環境変化に応答した植物生長を制御していると考えられる。以上の結果から、H3K27me3デメチラーゼREF6は、phyBやPIF4と共役してシロイヌナズナの赤色光下での胚軸伸長を制御していると考えられる。

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論文)メディエーターによるジベレリンシグナルを介した生長の制御

2025-05-08 10:01:23 | 読んだ論文備忘録

MEDIATOR15 destabilizes DELLA protein to promote gibberellin-mediated plant development
New Phytologist (2025) 245:2665-2680.

doi: 10.1111/nph.20397

転写コアクチベーターであるメディエーターは、様々な転写制御因子と相互作用することにより、植物の生長と発生を制御している。シロイヌナズナMEDIATOR15(MED15)は、メディエーター複合体のサブユニットの1つで、T-DNA挿入変異体が多面的な生長表現型を示すことから、MED15は発生制御に関与していることが示唆されている。最近、Hernández-Garcíaら [PNAS (2024) 121:e2319163121.] が、MED15とDELLAの相互作用を報告したが、この相互作用がジベレリン(GA)シグナル伝達とGAを介した発生過程にどのように影響するかは完全には解明されていない。シンガポール テマセク生命科学研究所Chuaらは、MED15とDELLAファミリータンパク質RGAとの相互作用を解析し、一般的に哺乳類や酵母の転写コアクチベーターが転写因子との相互作用に利用しているKIXドメインはMED15-RGA相互作用に関与していないこと、DELLAタンパク質のC末端側にあるGRASドメインはMED15-RGA相互作用に関与していないことが判明した。よって、MED15-RGA相互作用は通常とは異なるものであることが示唆される。MED15のGA応答への関与について、MED15 T-DNA挿入ノックダウン変異体(nrb4)と過剰発現系統(MED15OE)を用いて解析した。MED15OE 芽生えは長日条件下で野生型植物(WT)よりも有意に胚軸の長い表現型を示し、短日条件下ではWTとの差は縮小した。MED15OE にGA処理をすることにより、影響は限定的であったが胚軸伸長が促進された。よって、MED15OE においてGAシグナル伝達は制限されないことが示唆される。nrb4 変異体の長日条件下での胚軸長とGA応答性はWTと同程度であったが、短日条件下ではnrb4 変異体の胚軸はWTより有意に短く、GA処理によりWTと同等にまで伸長した。GA生合成阻害剤パクロブトラゾール(PAC)処理は、すべての系統の胚軸伸長を抑制したが、MED15OE に対する抑制効果は長日条件下でWTよりも大きかった。一方、nrb4 変異体は長日条件下ではWTと同程度のPAC応答性を示したが、短日条件下ではWTに比べて抑制効果は小さかった。MED15OE およびnrb4 変異体の胚軸表現型は、それぞれdella 多重変異体およびga1 GA生合成変異体の表現型に類似しており、MED15はDELLAの機能を負に制御することでGA応答を促進していることが示唆される。nrb4 rga-29 二重変異体は、短日条件下で nrb4 変異体の短い胚軸の表現型を部分的に回復させた。また、MED15OE に熱ストレス処理によりGA耐性GAI(gai-1D)の発現を誘導するコンストラクトを導入したところ、MED15OE の長い胚軸の表現型は gai-1D 誘導量に依存して抑制された。これらの結果から、MED15は遺伝的にDELLAの上流で作用しており、GA応答を正に制御していることが示唆される。以前に報告されたように、nrb4 変異体成熟個体は遅咲きの表現型を示し、この表現型はGA処理によって回復した。さらに、MED15OE 成熟個体は花成促進表現型を示し、GA処理の効果はWTと比較して顕著ではなかった。これらの結果からも、MED15がGA応答の正の制御因子として機能していることが示唆される。DELLAは暗形態形成の負の制御因子として機能していることが知られていることから、nrb4 変異体、MED15OE の黄化芽生えの表現型を観察したところ、nrb4 変異体黄化芽生えは、GA欠損変異体のように恒常的光形態形成を示して子葉が展開した。しかし、MED15OE 黄化芽生えでも子葉が弱く開く傾向が見られた。このことから、MED15はGA非依存的に黄化芽生えの発生制御に関与しているように思われる。GA応答はDELLAタンパク質の分解を介して制御されているので、各系統のRGA量を見たところ、nrb4 変異体ではRGAが蓄積し、MED15OE のRGA量はWTより低くなっていた。RGA 転写産物量は両系統で同程度であったことから、MED15は転写後にRGAの安定性を負に制御していることが示唆される。GAのMED15に対する効果を見たが、GAはMED15タンパク質量や細胞内局在に影響しないことが確認された。DELLAは、GAとの間の負のフィードバック制御によって、GA生合成遺伝子発現のコアクチベーターとして機能している。よって、MED15はDELLAを介してGA生合成遺伝子転写制御に関与している可能性がある。そこで、DELLAの標的として知られているGA生合成遺伝子(GA20ox2GA3ox1)とGAシグナル遺伝子(SCL3)の発現量を調査した。その結果、nrb4 変異体ではRGAが過剰蓄積しているにもかかわらず、これらの遺伝子の発現量はWTよりも有意に低く、GA4含量も低くなっていることが判った。GA非感受性RGA(rga-Δ17)を発現させた系統はGA生合成遺伝子発現が高くなるが、nrb4 変異を導入することで発現上昇が抑制された。また、nrb4 rga-29 二重変異体でのGA生合成遺伝子発現量は、それぞれの単独変異体よりも低くなっていた。一方、MED15OE ではGA生合成遺伝子発現量がWTよりも高くなっていた。これらの結果から、MED15は、DELLAによるGA生合成遺伝子の発現誘導の正の制御因子であり、未知の機構を介してこれらの遺伝子の転写制御に関与していると考えられる。GAはDELLAの26Sプロテアソーム系による分解を促進している。26Sプロテアソーム阻害剤MG132処理をすることでWTとnrb4 変異体のRGA蓄積量が同等となること、MED15によるRGA蓄積量の減少がMG132処理によって抑制されること、rga-Δ17はMED15による蓄積量減少に対して抵抗性であることから、MED15はGAに依存したプロテアソーム系による分解を介してRGAを不安定化していることが示唆される。オートファジーは特定のタンパク質の安定性に関与しており、オートファジー阻害剤E-64d処理はRGAを安定化し、この効果はMG132処理と相加的に作用した。しかし、この相加効果はMED15OE では限定されていた。よって、MED15は26Sプロテアソーム系とオートファジー以外の未知の機構によってもRGAを不安定化しているものと思われる。GA濃度はDELLAの安定性の主要な決定因子であるが、多くの他の因子もGA依存的/非依存的にDELLAの安定性を調節している。PACとGAを同時処理して各系統のGA量を一定にした条件でRGAの安定性を比較したところ、nrb4 変異体はWTと比較してRGAの分解が遅く、MED15OE ではWTよりも僅かに早いことが判った。よって、MED15はGA生合成以外の機構でRGA分解に影響してRGA量を調節していることが示唆される。しかしながら、GA自身はMED15-RGA相互作用に関与しておらず、MED15はDELLA分解を引起すDELLA–GID1–SCFSLY1複合体形成に影響してはいなかった。DELLAタンパク質量は環境の変化に応じて素早く変化して植物の生長を最適化しており、暗処理や温度上昇は胚軸でのRGAの急速な分解を引起し、胚軸伸長を促進する。しかし、nrb4 変異体では環境変化によるRGAの減少は比較的緩やかであり、胚軸伸長促進も抑制された。MED15OE の環境に応答した胚軸伸長は正常であったが、WTとMED15OE の胚軸長の相対的な差は小さかった。WTやMED15OE では、GA処理をしても環境変化に応答した胚軸伸長の促進に変化はなかったが、nrb4 変異体では胚軸や葉柄においてGA処理によって部分的に促進された。よって、MED15はGA経路の活性化を部分的に介して環境変化に応答した生長を正に制御していることが示唆される。以上の結果から、MED15は、DELLAタンパク質との相互作用と不安定化およびGAシグナル伝達の活性化を介して、植物の生長を正に制御していると考えられる。

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植物観察)オトメスミレ

2025-05-04 10:20:57 | 植物観察記録

オトメスミレ(乙女菫)
Viola grypoceras A.Gray f. purpurellocalcarata (Makino) Hiyama ex F.Maek. 
キントラノオ目スミレ科スミレ属

タチツボスミレ(V. grypoceras)の白色種で、花弁が白色または微かに紫色のかげりがあり、距だけが紫色を帯びる。距まで完全に白いものはシロバナタチツボスミレ(V. grypoceras f. albiflora)として区別される。牧野富太郎博士が箱根乙女峠で記載したもので、箱根に多いが、他にも広く生育地が知られている。

乙女峠は、静岡県御殿場市と神奈川県足柄下郡箱根町の境に位置する箱根外輪山にある峠の名称。箱根仙石原に住んでいた親思いの「とめ」という名前の娘が、病に苦しむ父を助けるため、毎夜御殿場竹之下の地蔵尊に祈願の参拝にこの峠を越し、満願となった日に娘は父の身代りとなってこの峠で倒れたという悲話によって乙女峠と呼ばれるようになったという伝承が残ってる。牧野先生がこの伝承を知っていたかわからないが、白い花と薄紫の距が乙女を連想させる和名だ。

 

2025年5月1日 神奈川県箱根三国山

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