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論文)PIF4とABI4によるシロイヌナズナ一次種子休眠の制御

2024-08-01 10:07:00 | 読んだ論文備忘録

PIF4 interacts with ABI4 to serve as a transcriptional activator complex to promote seed dormancy by enhancing ABA biosynthesis and signaling
Luo et al.  J. Integr. Plant Biol. (2024) 66:909–927.

doi:10.1111/jipb.13615

シロイヌナズナの転写因子ABSCISIC ACID INSENSITIVE4(ABI4)は、一次種子休眠に関与していることが知られているが、その制御機構の詳細については明らかとなっていない。ABI4は、様々なターゲット遺伝子の発現に対して促進因子もしくは抑制因子として作用することから、コファクターと相互作用をして遺伝子発現を制御していることが推測される。中国 西北工業大学のShuらは、ABI4と相互作用をする因子の探索を行ない、Y2Hアッセイ、BiFC法、Co-IP法から、ABI4はbHLH型転写因子のPHYTOCHROME‐INTERACTING FACTOR4(PIF4)と相互作用をして生体内においてヘテロ二量体を形成していることを明らかにした。ABI4とPIF4の関係についてタンパク質の安定性の観点から解析したところ、ABI4はPIF4の安定性を促進することが判った。また、abi4 変異体では明条件下でのPIF4タンパク質の安定性が野生型植物よりも低く、ABI4はABI4-PIF4複合体の安定性にとって重要であることが確認された。PIF4が種子休眠に関与しているかを調査したところ、採種したばかりのpif4 変異体種子の発芽率は野生型植物種子よりも有意に高くなっていた。また、pif4 変異体は子葉の緑化も早くなっていた。しかし、新鮮種子を4℃3日間の冷湿処理(stratification)すると、pif4 変異体と野生型植物の種子発芽率と子葉緑化率の差は完全に消失した。また、pif4 変異体種子を8週間後熟させることでも早期発芽と子葉緑化促進の表現型は消失した。これらの結果から、pif4 変異体種子は野生型種子よりも一次種子休眠の程度が弱いと考えられる。PIF4 を35Sプロモーター制御下で過剰発現させた形質転換体(OE-PIF4-HA)の新鮮種子や短期貯蔵種子は強い一次種子休眠を示したが、後熟種子では一次種子休眠表現型が弱くなっていた。種子休眠はアブシジン酸(ABA)の量やシグナル伝達と関連があり、pif4 変異体種子は種子発芽に関してABA非感受性の表現型を示した。pif4 変異体種子の浸漬後のABA生合成遺伝子(ABA1ABA3)転写産物量は、野生型植物よりも低く、一方で、ABA異化酵素遺伝子CYP707A3 の発現は増加していた。また、pif4 変異体種子では、ジベレリン(GA)生合成遺伝子(GA3ox1GA20ox1)の転写産物量が増加し、GA不活性化遺伝子GA2ox4 の発現は低下していた。冷湿処理をしていないpif4 変異体種子のABA含量は野生型植物種子よりも低く、活性型GA(GA1、GA4)含量は高くなっていた。このような植物ホルモン含量の差異は、pif4 変異体の一次種子休眠の低下に関与していると思われる。pif4 変異体種子のRNA-seq解析を行なったところ、野生型植物種子と発現量が異なる遺伝子が287個見出され、165遺伝子はpif4 変異体において発現量が増加、122遺伝子は減少していた。これらの遺伝子にはABAおよびGAの生合成やシグナル伝達に関与するものが多く含まれていた。そこで、野生型植物、pif4 変異体、OE-PIF4-HA 系統での遺伝子発現をRT-qPCR解析したところ、OE-PIF4-HA 系統ではABA生合成遺伝子NCED6、ABAシグナル遺伝子ABI3ABI4ABI5 の発現量が増加し、ABA不活性化遺伝子CYP707A1CYP707A2 の発現量は減少していた。また、pif4 変異体とOE-PIF4-HA 系統におけるGA関連遺伝子発現パターンの変動は、表現型解析およびRNA-seq解析の結果と一致していた。PIF4とABI4のターゲット遺伝子に共通性が見られるかを、abi4 変異体のRNA-seqデータベースを用いて調査したところ、ABI4とPIF4によって同時に制御される遺伝子の数は多く、その中にはNCED6ABI4 など、種子の休眠制御に関与することが知られている遺伝子も含まれていることが判った。これらの結果から、ABI4とPIF4は、ABAの生合成とシグナル伝達に関与する一連の下流遺伝子を共有していると考えられ、ABI4-PIF4複合体の種子休眠制御における役割が強く支持される。PIF4は、NCED6 遺伝子プロモーター領域のE-box(CACATG)に結合して発現を促進することが確認された。また、PIF4はABI4 遺伝子プロモーター領域のG-box(CACGTG)にも直接結合して発現を促進した。そこで、種子休眠におけるPIF4NCED6ABI4 の関係を解明するために、OE-PIF4-HA 系統にnced6 変異もしくはabi4 変異を導入したところ、nced6 変異はOE-PIF4-HA 系統の強い種子休眠を完全に回復させ、abi4 変異は部分的に回復させた。したがって、ABI4NCED6 は遺伝的にPIF4 の下流で作用していると考えられる。ルシフェラーゼレポーター実験系を用いた解析から、ABI4とPIF4は単独でNCED6 発現の活性化効果を示すが、同時に共発現させるとNCED6 発現量は有意に上昇することが判った。同様に、ABI4-PIF4複合体はABI4 の発現に対しても促進効果を示した。これらの結果から、PIF4とABI4が直接のターゲット遺伝子としてNCED6ABI4 を共有しており、ABI4-PIF4複合体はそれらの発現を相乗的に活性化していることが示唆される。abi4/pif4 二重変異体は、一次種子休眠の表現型がそれぞれの単独変異体よりも大きく低下しており、この表現型の差異は冷湿処理によって消失した。同様に、abi4/pif4 二重変異体種子におけるABI4 およびNCED6 の発現量は、野生型植物、abi4 変異体、pif4 変異体での発現量と比較して有意に低下していた。また、abi4/pif4 二重変異体は、野生型植物と比較して、ABA含量が低く、GA含量が高くなっていた。以上の結果から、PIF4はABI4を転写活性化因子複合体に組み入れ、NCED6ABI4 の発現を直接的かつ相乗的に促進して一次種子休眠を増強していると考えられる。PIF4はフィトクロムやオーキシンシグナル伝達に関与する転写因子であることから、種子休眠制御における光に対する応答とABA応答との間の新たなクロストーク・ネットワークの存在が示唆される。

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