Diurnal down-regulation of ethylene biosynthesis mediates biomass heterosis
Song et al. PNAS(2018) 115:5606-5611.
doi:10.1073/pnas.1722068115
雑種強勢は農業分野において広く利用されている技術であるが、その分子機構はよく理解されていない。米国 テキサス大学オースティン校のChen らは、シロイヌナズナの種間雑種や異質四倍体ではエチレンの生合成やシグナル伝達に関与する遺伝子の発現量が減少していることに着目し、雑種強勢におけるエチレンの役割について調査した。雑種強勢を示すF1ハイブリッドシロイヌナズナにエチレン前駆体のACCを添加すると、成長促進効果がACC濃度に応じて低下していった。よって、エチレンは雑種強勢に対して負の効果があることが示唆される。F1ハイブリッドではACC合成酵素遺伝子(ACS )やエチレン応答遺伝子(ERF )の発現量が両親の平均値よりも低くなっていた。また、acs 変異体やerf 変異体は野生型よりもバイオマスが増加していた。したがって、ハイブリッドでのACS 遺伝子やERF 遺伝子の発現抑制が、バイオマス増加の雑種強勢をもたらしていることが示唆される。エチレン生産は日周性があることからACS 遺伝子の発現の日変化を見たところ、F1ハイブリッドではACS4 以外の全てのACS 遺伝子の発現量が日中も夜も減少していた。また、概日時計遺伝子のCIRCADIAN CLOCK ASSOCIATED1 (CCA1 )およびLATE ELONGATED HYPOCOTYL (LHY )が機能喪失しているcca1 lhy 二重変異体では、日中に見られるACS 遺伝子発現のピークが野生型よりも低くなっていた。しかしながら、連続光条件下で育成した野生型では全てのACS 遺伝子の発現量が減少して日変化を示さず、野生型とcca1 lhy 二重変異体の差異が見られなくなった。したがって、ACS 遺伝子の発現は日変化するが概日リズムによる制御ではないことが示唆される。F1ハイブリッドでは日中のCCA1 の発現量が減少しているので、日中のACS 遺伝子の発現低下はCCA1 が関与していると考えられるが、夜間のACS 遺伝子の発現低下は他の遺伝子が関与しているものと思われる。夜間にACS 遺伝子の発現を制御する因子としてPHYTOCHROME-INTERACTING FACTOR 4(PIF4)とPIF5が知られており、F1ハイブリッドでは夜間のPIF4 、PIF5 の発現量が減少していた。また、PIF5がACS 遺伝子プロモーター領域のG-boxに結合することが確認された。これらの結果から、ハイブリッドでのPIF4 、PIF5 の発現量の減少が夜間のACS 遺伝子の発現低下を引き起こしていると考えられる。ACS6 を過剰発現させたF1ハイブリッドではバイオマスの増加が野生型親のF1ハイブリッドよりも少なくなっていた。よって、恒常的なエチレン生産は雑種強勢に対して負の効果を示すことが示唆される。以上の結果から、F1ハイブリッドでは、日中はCCA1、夜間はPIFを介したACS 遺伝子の発現誘導が抑制されるためにエチレン生産が減少しており、このことがバイオマスが増加する雑種強制に関与していると考えられる。