Laboratory ARA MASA のLab Note

植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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論文)エチレン生産と雑種強勢との関係

2018-07-27 05:33:18 | 読んだ論文備忘録

Diurnal down-regulation of ethylene biosynthesis mediates biomass heterosis
Song et al. PNAS(2018) 115:5606-5611.

doi:10.1073/pnas.1722068115

雑種強勢は農業分野において広く利用されている技術であるが、その分子機構はよく理解されていない。米国 テキサス大学オースティン校Chen らは、シロイヌナズナの種間雑種や異質四倍体ではエチレンの生合成やシグナル伝達に関与する遺伝子の発現量が減少していることに着目し、雑種強勢におけるエチレンの役割について調査した。雑種強勢を示すF1ハイブリッドシロイヌナズナにエチレン前駆体のACCを添加すると、成長促進効果がACC濃度に応じて低下していった。よって、エチレンは雑種強勢に対して負の効果があることが示唆される。F1ハイブリッドではACC合成酵素遺伝子(ACS )やエチレン応答遺伝子(ERF )の発現量が両親の平均値よりも低くなっていた。また、acs 変異体やerf 変異体は野生型よりもバイオマスが増加していた。したがって、ハイブリッドでのACS 遺伝子やERF 遺伝子の発現抑制が、バイオマス増加の雑種強勢をもたらしていることが示唆される。エチレン生産は日周性があることからACS 遺伝子の発現の日変化を見たところ、F1ハイブリッドではACS4 以外の全てのACS 遺伝子の発現量が日中も夜も減少していた。また、概日時計遺伝子のCIRCADIAN CLOCK ASSOCIATED1CCA1 )およびLATE ELONGATED HYPOCOTYLLHY )が機能喪失しているcca1 lhy 二重変異体では、日中に見られるACS 遺伝子発現のピークが野生型よりも低くなっていた。しかしながら、連続光条件下で育成した野生型では全てのACS 遺伝子の発現量が減少して日変化を示さず、野生型とcca1 lhy 二重変異体の差異が見られなくなった。したがって、ACS 遺伝子の発現は日変化するが概日リズムによる制御ではないことが示唆される。F1ハイブリッドでは日中のCCA1 の発現量が減少しているので、日中のACS 遺伝子の発現低下はCCA1 が関与していると考えられるが、夜間のACS 遺伝子の発現低下は他の遺伝子が関与しているものと思われる。夜間にACS 遺伝子の発現を制御する因子としてPHYTOCHROME-INTERACTING FACTOR 4(PIF4)とPIF5が知られており、F1ハイブリッドでは夜間のPIF4PIF5 の発現量が減少していた。また、PIF5がACS 遺伝子プロモーター領域のG-boxに結合することが確認された。これらの結果から、ハイブリッドでのPIF4PIF5 の発現量の減少が夜間のACS 遺伝子の発現低下を引き起こしていると考えられる。ACS6 を過剰発現させたF1ハイブリッドではバイオマスの増加が野生型親のF1ハイブリッドよりも少なくなっていた。よって、恒常的なエチレン生産は雑種強勢に対して負の効果を示すことが示唆される。以上の結果から、F1ハイブリッドでは、日中はCCA1、夜間はPIFを介したACS 遺伝子の発現誘導が抑制されるためにエチレン生産が減少しており、このことがバイオマスが増加する雑種強制に関与していると考えられる。

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論文)フィトクロムAのシグナル伝達を正に制御する核タンパク質

2018-07-20 05:06:00 | 読んだ論文備忘録

TANDEM ZINC-FINGER/PLUS3 Is a Key Component of Phytochrome A Signaling
Zhang et al. The Plant Cell (2018) 30:835-852.

doi:10.1105/tpc.17.00677

中国農業大学Li らは、フィトクロムA(phyA)のシグナル伝達に関与する新規因子を見出すことを目的に、シロイヌナズナ変異体集団から遠赤色(FR)光に対する応答性が変化した変異体の選抜を行なった。そして、連続FR光照射下で野生型よりも胚軸が長い変異体を得た。この変異体は、以前にTANDEM ZINC-FINGER/PLUS3(TZP)と命名された831アミノ酸からなる核タンパク質をコードしているAt5g43630 が機能喪失していた。既報では、TZP 過剰発現系統は青色光下で胚軸が伸長することが報告されており、tzp 変異体は青色光照射下で胚軸が野生型よりも短くなった。よって、TZPは青色光シグナル伝達を負に制御し、FR光応答に対しては正の制御を行っていることが示唆される。tzp 変異体は、FR光照射下でのアントシアニン蓄積量が野生型よりも少なく、アントシアニン生合成に関与する遺伝子の発現量が減少していたが、FR光照射による緑化抑制については野生型と同等であった。よって、TZPはFR光応答の一部分を制御していることが示唆される。TZP は光照射によって発現量が増加し、芽生え全体で発現していた。また、TZPタンパク質は光条件によって異なる修飾を受けることが判った。tzp 変異とphyA もしくはphyB 変異との二重変異体の表現型の観察から、phyA 変異およびphyB 変異はtzp 変異よりも上位に位置することが判った。TZPはphyBと相互作用をすることが以前に報告されていたが、phyAとも相互作用をすることが確認された。TZPはphyA、phyBがPfr型、Pr型のどちらであっても同じ親和性で相互作用をした。さらに、TZPはphyAの核局在に関与しているFAR-RED ELONGATED HYPOCOTYL1(FHY1)とも相互作用をすることが確認された。tzp 変異体の解析から、TZPはFR光照射下でのphyAタンパク質量を負に制御していることが示された、また、TZPはFR光照射下でのFHY1タンパク質量も負に制御していた。さらに、tzp 変異体では、FR光照射下において、光形態形成を促進する転写因子のELONGATED HYPOCOTYL5(HY5)タンパク質量が野生型よりも少なくなっていた。よって、TZPはFR光照射下でのphyA、FHY1、HY5の各タンパク質の量を制御していることが示唆される。TZPは光照射によるphyAの核への移行には関与していないが、FR光照射下での核におけるphyAのリン酸化に関与していることが判った。以上の結果から、TZPは核内でのphyAのリン酸化を促進することでFR光に応答したphyAのシグナル伝達を正に制御する因子として機能していることが示唆される。

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論文)2Cタンパク質フォスファターゼを活性化することでアブシジン酸シグナル伝達を負に制御する因子

2018-07-16 09:19:54 | 読んだ論文備忘録

EAR1 Negatively Regulates ABA Signaling by Enhancing 2C Protein Phosphatase Activity
Wang et al. The Plant Cell (2018) 30:815-834.

doi:10.1105/tpc.17.00875

中国農業大学Gong らは、シロイヌナズナEMS処理集団からアブシジン酸(ABA)応答性に対する変異体を単離することを目的に、ABAによる主根成長阻害を指標として選抜を行なった。その結果、ABAによる主根成長阻害の程度が野生型よりも強いenhancer of ABA co-receptor1-1ear1-1 )変異体を得た。この変異体はABAによる種子発芽阻害に対しても感受性が高く、野生型よりも乾燥耐性が強くなっていた。これらの結果から、EAR1は、種子発芽、主根成長、乾燥耐性においてABAシグナル伝達の負の制御因子として機能していることが示唆される。マップベースクローニングの結果、ear1-1 変異体はAT5G22090 に1塩基置換があり、未成熟終始コドンが生じていた。EAR1 は463アミノ酸の機能未知タンパク質をコードしており、シロイヌナズナには1コピー存在し、陸上植物に広く保存されていた。EAR1 は多くの組織で恒常的に発現していた。EAR1 と他のABAシグナル伝達因子との関係を見るために、PP2CおよびSnRK1の各種変異体とear1-1 変異体を交雑して解析を行なった。abi1-2/abi2-1/hab1-1 三重変異体(3m )は種子発芽や根の成長においてABA感受性が高く、乾燥ストレス耐性や葉温度が高いが、ear1-1/abi1-2/abi2-1/hab1-1 四重変異体(4m )は3mear1-1 よりもさらにABA感受性や乾燥耐性、葉温度が高くなっていた。snrk2.2/snrk2.3 二重変異体は種子発芽において強いABA非感受性を示すが、ear1-1/snrk2.2/snrk2.3 三重変異体はsnrk2.2/snrk2.3 二重変異体よりもABA感受性が高く、ear1-1 変異体よりもABA感受性が低くなっていた。また、EAR1 を過剰発現させた系統は、ABAによる種子発芽阻害、主根成長阻害、気孔開口の抑制に対して耐性を示し、葉温度が低く、葉の蒸散量が多く、乾燥耐性が低下していた。これらの結果から、EAR1はABAシグナル伝達経路全般の負の調節因子であることが示唆される。ベンサミアナタバコを用いたBiFCアッセイ、co-IPアッセイ、タンパク質プルダウンアッセイの結果、EAR1はABAシグナル伝達を負に制御しているクレイドAタイプ2Cタンパク質フォスファターゼ(PP2C)のABI1、ABI2、HAB1、HAB2、AHG1、AHG3と相互作用をすることが判った。この相互作用は、EAR1の中央部領域とPP2CのN末端側領域の間で起こっていた。EAR1はPP2Cのフォスファターゼ活性を活性化した。また、EAR1はアブシジン酸受容体PYR1とABI1との相互作用やPYR1によるABI1活性の阻害には影響しなかった。PP2CのN末端領域はフォスファターゼ活性を自己抑制するドメインとして機能しており、EAR1はN末端領域によるPP2Cの自己抑制を解除する作用があると考えられる。ABA存在下/非存在下ともにEAR1 過剰発現系統はPP2C活性が野生型よりも高く、ear1-1 変異体のPP2C活性は低くなっていた。EAR1は、ABA非存在下では細胞質と核の両方に局在しているが、ABA処理をすることで核の局在量が増加した。以上の結果から、ABAシグナル伝達経路におけるEAR1の役割として以下のモデルが考えられる。EAR1非存在下ではPP2CのN末端自己抑制ドメインが自らの活性を阻害しているが、EAR1がPP2CのN末端と相互作用をすると自己抑制が解除されPP2C活性が増加、このことによってSnRK2活性、ABAシグナル伝達が阻害される。

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論文)活性酸素種シグナルを伝達するMYB転写因子

2018-07-10 05:11:50 | 読んだ論文備忘録

MYB30 links ROS signaling, root cell elongation, and plant immune responses
Mabuchi et al. PNAS (2018) 115:E4710-E4719.

doi:10.1073/pnas.1804233115

活性酸素種(ROS)は根の成長を制御するシグナル分子として重要であることが示されており、特に細胞増殖と細胞分化のバランスを制御していることが知られている。しかも、ROSは細胞壁合成から防御応答まで様々な過程にも関与している。しかしながら、ROSの複数の機能がどのように相互関連しているかは明らかではない。名城大学塚越らは、シロイヌナズナの根を過酸化水素処理して経時的にマイクロアレイ解析を行なった(ROS-map)。その結果、分裂組織領域で201遺伝子、伸長領域で265遺伝子の発現量が増加し、83遺伝子は両方の領域で発現量が増加していることを見出した。また、190遺伝子は分裂組織領域のみで発現量が減少し、192遺伝子は伸長領域のみで、25遺伝子は両方の領域で発現量が減少した。これらの遺伝子のGOを解析すると、分裂組織領域ではストレス応答関連の遺伝子の発現量が増加し、細胞壁修飾関連遺伝子の発現量が減少していた。伸長領域ではサリチル酸(SA)応答やジャスモン酸(JA)応答に関連した遺伝子が過酸化水素処理1~3時間以内に、脂質輸送や脂質結合に関連した遺伝子の発現量が処理6時間後に増加し、発現量が減少した遺伝子は5つのGOに分類された。これらの結果から、過酸化水素に対する応答パターンは空間的にも時間的にも異なっていることが示唆される。転写因子遺伝子の発現パターンに注目したところ、50遺伝子の発現量が増加しており、その中でもMYB30 (At3g28910)は分裂組織領域と伸長領域の両方で過酸化水素処理によって発現誘導された。myb30 T-DNA挿入変異体は、過酸化水素処理条件での根の伸長が野生型よりも促進され、これは伸長領域の長さと伸長領域の皮層細胞の長さの増加に由来していた。したがって、MYB30はROSに応答した根の細胞伸長を制御していると考えられる。MYB30 は過酸化水素処理60分以内に根の分裂組織領域と伸長領域で発現が誘導され、主に根端の表皮細胞と皮層細胞で発現が見られた。過酸化水素処理によってmyb30 変異体で発現量が減少してMYB30 過剰発現個体(MYB30-OX )で発現量が増加している遺伝子を探索した結果、脂質輸送タンパク質5(LTP5、At3g51600)、GPIアンカー型脂質輸送タンパク質1および2(LTPG1、At1g27950およびLTPG2、At3g43720)、タンパク質メチルトランスフェラーゼ44(PME44、At4g33220)、グリシンリッチタンパク質5(GRP5、At3g20470)、アルコールデヒドロゲナーゼ3F1(At4g36250)をコードする6遺伝子が見出された。MYB30 は過酸化水素処理1時間後に発現が誘導されるが、LTP5LTPG1LTPG2PME44 は3時間後にMYB30 と同じ組織において発現誘導された。よって、これらの遺伝子はROS応答においてMYB30の下流に位置すると推測される。これらの遺伝子は脂質の代謝やシグナル伝達に関連しており、MYB30-OX で発現量が増加する遺伝子のGOカテゴリーには超長鎖脂肪酸(VLCFA)代謝過程、脂質輸送、脂質結合が、過酸化水素処理したMYB30-OX で発現量が増加する遺伝子のGOカテゴリーでは上記に加えてスベリン合成過程が含まれていた。よって、脂質輸送や脂質結合は過酸化水素処理6時間後の根の伸長領域で盛んとなり、これらの過程はROSによる根の伸長制御において重要であると考えられる。MYB30はLTP5LTPG1LTPG2 のプロモーター領域に結合し、根端部においてこれらの遺伝子の発現を直接制御していることが確認された。ltpg2 T-DNA挿入変異体は、myb30 変異体と同様に、過酸化水素処理後の根の伸長領域の成長が野生型よりも促進された。よって、LTPG2は過酸化水素に応答した細胞伸長の制御に関与していることが示唆される。ltpg2 変異体でMYB30 を過剰発現させた系統は、myb30 変異体でMYB30 を過剰発現させた系統よりも根の伸長抑制の程度が緩和された。このことから、LTPG2はMYB30による根の成長制御に関与しており、MYB30がLTPG2 の発現を直接制御しているモデルと一致していることが示唆される。MYB30は過敏感反応(HR)活性化因子の1つであることが知られている。また、ltpg1 変異体は病原真菌の罹病性が高く、LTPG1とLTPG2はクチクラワックスの蓄積に関して機能重複している。myb30 変異体、ltpg1/2 二重変異体の根は、植物病原菌の生産するエリシターのFlg22を処理することによって対照よりも伸長した。しかしながら、Flg22処理によるROS量の増加は対照もmyb30 変異体も同程度であった。したがって、MYB30はFlg22に応答した根の伸長制御にとって十分であり、変異体での表現型の変化はROS生合成の変化によるものではなくROS生産の下流のシグナル伝達の欠失によるものと考えられる。MYB30 の発現はFlg22によって誘導され、処理2時間後に最大となり、その後は減少した。MYB30のターゲット遺伝子の発現もFlg22処理によって誘導された。よって、MYB30およびMYB30の下流遺伝子は生物ストレスに応答した根の成長制御に関与しており、MYB30による遺伝子制御機構は根の成長と植物免疫の両方の関与していることが示唆される。

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植物観察)箱根

2018-07-08 22:20:30 | 植物観察記録

箱根へバイケイソウの観察に行ってきました。バイケイソウの花は満開から枯れ始めへと移行しつつあり、花が発する臭気はするものの、訪花昆虫は見られませんでした。箱根での今年の花成個体数を総括すると、調査している3箇所の群生地の合計で昨年よりも減少(170個体→89個体)していました。しかし、調査地によっては花成個体数が昨年よりも増加(14個体→25個体)していました。北海道でのバイケイソウ、コバイケイソウの定点観察においても、いずれの調査地でも今年は昨年よりも花成個体数が減少していましたので、2017年はやや花成個体数が多い年であったのだろうと考えられます。

 

バイケイソウの花は臭気を発してはいるが訪花昆虫は見られず葯が褐変していた

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