Immature leaves are the dominant volatile-sensing organs of maize
Wang et al. Current Biology (2023) 33:3679-3689.
doi:10.1016/j.cub.2023.07.045
緑葉揮発性物質(GLV)は、炭素数6のアルデヒド、アルコール、またはエステルである。これらの膜脂質由来の揮発性物質は、機械的な傷害や昆虫の食害によって葉が損傷を受けると急速に生成・放出され、植物の防御応答を誘導する。トウモロコシのGLVとしては、(Z)-3-ヘキセニルアセテート(HAC)、(Z)-3-ヘキセナール、(Z)-3-ヘキセン-1-オールが知られており、HACに暴露されると、インドール、モノテルペン、セスキテルペン、ホモテルペンといった揮発性物質の放出、ジャスモン酸(JA)生合成、ベンゾキサジノイド化合物の生産が誘導される。スイス ベルン大学のErbらは、トウモロコシV4ステージの芽生え[第6(L6)葉が出現する段階]をHAC暴露し、放出される揮発性物質を陽子移動反応質量分析法(PTR-MS)で解析した。その結果、芽生えはHAC暴露の1時間後に、インドール、モノテルペン、セスキテルペン、ホモテルペンであるDMNTとTMTTを大量に放出し始めることが判った。誘導放出は夜間に移行すると減少したが、翌朝になると、より低いレベルではあるがすぐに放出を再開した。HAC応答性が単葉においても見られるかを調査するために、成熟過程にあるL4葉の切り葉をHAC暴露したところ、驚くべきことに、テルペンの誘導は見られず、インドールの誘導はわずかであった。そこで、トウモロコシのJA防御シグナル伝達と揮発性物質の放出を誘導することで知られている非揮発性のペプチドZmPep3で葉を処理したところ、測定された全ての揮発性物質の強力かつ持続的な放出が誘導された。これらの結果から、成熟したL4葉は防御シグナル伝達経路と揮発性物質生合成経路の反応性は非常に高いが、HACにほとんど反応しないことが示唆される。そこで、V4芽生えのL4、L5、L6の切り葉をHAC暴露もしくはZmPep3処理したところ、L4葉は高いZmPep3応答性を示し、L6葉は高いHAC応答性を示す顕著な移行が観察され、L5葉は両方の物質に等しく反応することが判った。次に、成長段階の異なる芽生えのL4葉を用いて実験を行なったところ、展開中のL4葉(L4-V3)はHAC曝露に強く応答し、新しく成熟したL4葉(L4-V4)と成熟したL4葉(L4-V5)はHAC応答性を失ったが、ZmPep3に対する応答性は増強されていることが判った。このことから、トウモロコシのHAC応答性は若い葉に限定され、葉が成熟するにつれて反応しなくなると考えられる。植物は通常、複雑な植食者誘導性植物揮発性物質(HIPV)の混合物に曝露される。HACに対する揮発性応答性が揮発性混合物全体に対する応答性にも反映されるかどうかを調べるため、V4芽生えのL4葉とL6葉をシロイチモジヨトウ(Spodoptera exigua)幼虫の食害を受けたトウモロコシの揮発性物質に曝露した。その結果、L6葉では食害を受けた植物の揮発性物質曝露によってインドール、モノテルペン、セスキテルペン、TMTTの放出が促進されたが、L4葉では揮発性物質の放出に有意な変化は見られなかった。したがって、HIPV混合物に対する反応性についても若い葉に限定されている。トウモロコシの葉の成熟過程における大きな変化の一つは、ワックスの種類と鎖長の変化である。クチクラの組成は揮発性物質の取り込みと放出を変化させるため、葉の成熟過程での揮発性物質応答性の変化を引き起こす可能性がある。そこで、表皮ワックスが減少しているトウモロコシglossy6 変異体を用いて実験を行なったが、HACとZmPep3に対する応答性は野生型植物と同等であった。このことから、葉のクチクラワックス組成、そして葉のクチクラの発達は、葉の発生段階にわたってHAC応答性を変化させる要因ではないことが示唆される。外環境と葉のアポプラストの間での揮発性物質の主な交換場所として気孔が考えられるが、若い葉よりも成熟した葉のほうが気孔コンダクタンスが高い。よって、気孔を介したガス交換は、トウモロコシ未熟葉のHACに対する反応性を説明する主要因とはなっていない。HAC暴露したL4、L5、L6葉のトランスクリプトーム解析を行なったところ、葉の齢が若いほど発現量が変化する遺伝子数が増加することが判った。これとは対照的に、ZmPep3処理で発現量変化する遺伝子数は全ての葉で類似していた。よって、HAC応答性と葉の齢の間には強い相関がある。また、トランスクリプトームデータをJAの生合成やシグナル伝達に関与する遺伝子、揮発性物質やベンゾキサジノイドの生合成遺伝子といった防御応答関連遺伝子に限定して着目してみると、HACに対する応答性の差は、直接的な防御代謝経路の転写発現の変化にもつながっていることが判った。トウモロコシの揮発性/非揮発性二次代謝産物の生合成はJAによって制御されているので、L4、L5、L6葉のJA、JA-Ile含量を見たところ、ZmPep3処理では全ての葉でJA、JA-Ile含量を増加させたが、HAC暴露では若い葉のほうがJA、JA-Ile誘導量が高く、誘導も持続することが判った。以上の結果から、トウモロコシの未成熟葉はストレス時の揮発性物質の感知器官として重要であると考えられる。