Laboratory ARA MASA のLab Note

植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
ホームページの更新情報

論文)PUBタンパク質によるジャスモン酸シグナル伝達の制御

2024-06-29 09:56:21 | 読んだ論文備忘録

The MYC2–PUB22–JAZ4 module plays a crucial role in jasmonate signaling in tomato
Wu et al.  Molecular Plant (2024) 17:598-613.

doi:10.1016/j.molp.2024.02.006

E3ユビキチンリガーゼファミリーのplant U-box(PUB)タンパク質は、特徴的な機能ドメインの有無によって複数のグループに分けられており、標的タンパク質の安定性を制御することで生物ストレス耐性やホルモンシグナル伝達の調節に関与していることが知られている。中国 浙江大学Yuらは、トマトが植食者による食害を受けた際のPUB 遺伝子の転写応答を調べるため、葉に機械的傷害(W)を与えてオオタバコガ(Helicoverpa armigera)幼虫の経口分泌物(OS)を添加することで模擬食害を行ない、トランスクリプトーム解析を行なった。その結果、C末端側にARMリピートを有する30のPUB 遺伝子のうち、19遺伝子がW+OS処理の15分後に発現誘導されることが判った。このうち17遺伝子については、模擬食害による転写産物の増加がRT-qPCR解析からも確認され、特にPUB12PUB14PUB22PUB34PUB53 の転写産物は顕著に増加した。これらの遺伝子をウイルス誘導遺伝子サイレンシング(VIGS)で発現抑制したトマトのうち、PUB22 をサイレンシングさせたトマトは、対照植物と比較してオオタバコガ幼虫の摂食量が有意に多くなった。CRISPR-Cas9ゲノム編集により作出したpub22 機能喪失変異体は、野生型植物よりも強い食害を受け、pub22 変異体の葉を摂食した幼虫は、野生型植物を与えた幼虫よりも体重が増加した。また、pub22 変異体では、ジャスモン酸(JA)応答遺伝子MYC2PI-IARG2TD2 の模擬食害による発現誘導が野生型植物よりも弱くなっていた。同様に、pub22 変異体では傷害や模擬食害に応答したJAおよびJA-Ile含量の増加が野生型植物よりも低かった。これらの結果から、PUB22はトマトのオオタバコガに対する防御およびJA経路において正の役割を果たしていることが示唆される。PUB22がユビキチン化する標的タンパク質を探索するために、酵母two-hybrid(Y2H)スクリーニングを行なったところ、PUB22のARMリピート(PUB22ARM)と相互作用をする115の候補タンパク質が見出された。この中にはJAシグナル伝達の抑制因子であるJAZ4が含まれており、Y2Hアッセイの結果、12のトマトJAZタンパク質のうち、JAZ1/2/3/4/6/9/10がPUB22ARMと相互作用をすることが確認された。PUB22とJAZ1/2/3/4/6/9/10との相互作用が生体内でも見られるかを、BiFCアッセイ、共免疫沈降アッセイで確認したところ、PUB22とJAZ1/3/4/6が生体内で相互作用をすることが確認された。また、JAZ1/3/4/6はPUB22によってポリユビキチン化されることが確認された。JAZ1/3/4/6 のうち、JAZ4 は模擬食害による発現誘導が最も高いことから、JAZ4について詳細に解析を行なった。PUB22は、JAZ4をポリユビキチン化することで26Sプロテアソーム系による分解へ誘導していた。オオタバコガの食害によりJAZ4タンパク質量は徐々に減少していったが、pub22 変異体でのJAZ4タンパク質の減少は緩やかであった。また、傷害後にMeJAを添加することでJAZ4の分解が促進されたが、pub22 変異体では分解促進が観察されなかった。JA-Ile受容体をコードするCOI1 をサイレンシングさせたトマトではJAZ4の分解が見られたことから、COI1はJAZ4の分解に関与していないと考えられる。CRISPR-Cas9により作出したjaz4 変異体およびjaz1 jaz3 jaz4 jaz6 四重変異体(jazQ)のオオタバコガによる食害を調査したところ、jaz4 変異体は野生型植物よりも幼虫による摂食が少なくオオタバコガ抵抗性を示し、jazQ 変異体はjaz4 変異体よりも強い抵抗性を示すことが判った。また、これらの変異体は模擬食害によるARG2TD2 の発現誘導が強くなっていた。したがって、JAZ1/3/4/6は、防御関連遺伝子の発現を負に制御することにより植食者抵抗性に影響を与えていると考えられる。オオタバコガ抵抗性とARG2TD2 の発現量は、pub22 変異体で低下し、jaz4 変異体で増加するが、pub22 jaz4 二重変異体ではpub22 変異体での低下が部分的に回復した。JA応答マーカー遺伝子のJASMONIC ACID2-LIKE (JA2L)、LEUCINE AMINOPEPTIDASE A (LAPA)、PRSTH2 の転写産物量は、W処理後にpub22 変異体では減少し、jaz4 変異体では増加するが、jaz4 変異はpub22 変異体の応答性を部分的に回復させた。これらの結果から、PUB22は、植食者による摂食や傷害に対する植物の反応において、JAZ4の上流で作用して植食者抵抗性とJAシグナル伝達を正に調節していると考えられる。PUB22 の発現はW処理単独でも増加するが、W+OS処理で更に増加することから、PUB22 発現制御にJAシグナル伝達が関与していることが示唆される。解析の結果、MYC2がPUB22 遺伝子プロモーター領域に直接結合してPUB22 の発現を直接活性化することが判った。PUB22によるJAZタンパク質の分解が他のJA応答にも影響しているのかを調査したところ、pub22 変異体では、MeJAによるPI-IARG2TD2 の発現誘導が低下している、灰色かび病菌(Botrytis cinerea)に対する感受性が高い、JAによる根の伸長阻害とアントシアニン蓄積促進が減少していることが確認された。これらの結果から、PUB22は多様なJA応答を制御していることが示唆される。pub22 変異体のJA応答性の低下の多くは、jaz4 変異によって回復することから、PUB22-JAZ4モジュールは様々なJA応答を制御していると考えられる。以上の結果から、E3ユビキチンリガーゼのPUB22は、COI1とは異なるJAZタンパク質を標的として、トマトのJAシグナル伝達を調節していると考えられる。また、JAによって活性化されたMYC2は、PUB22 の転写を活性化してJAシグナル伝達の正のフィードバックループを形成している。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 植物観察)箱根 | トップ | 植物観察)ハマカンゾウ »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

読んだ論文備忘録」カテゴリの最新記事